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第二話――⑦



            3



 結局、毎日必死になって行った勧誘活動が実を結ぶことはなく、入部をしたのはたったの一人だけ。気がつくと五月に入っていた。

 三人と四人では全然変わってはくるが、出来ればあと一人、二人はほしいところだった。

 しかし、いまさら何を言ったって遅い。SCWまであと二日しかないのだから、今のメンバーで確実に勝てる、そんな作戦を考えなければいけない。

 授業、ホームルームと終わり、倉、銀次郎、流華の三人は和弥の待つ寮内のキッチンへと急いで帰った。

 キッチンには使用時間がある。

本当は倉と銀次郎の部屋を使い会議をするのが一番なのだが、なんていったって流華は女子生徒だ。男子は女子寮に入ってはいけないし、女子もまた男子寮には入ってはいけない。

 隠れてこそこそ集まることも考えたが、こんなところで問題を起こして、見つかったりでもしたら創部そのものの権利を剥奪されかねない。

いや、きっとそうなってしまうであろう。それは何としても避けなければいけない事態だ。

 そうなると、必然的に四人が集まることのできる場所は一か所しかなくなってしまうわけだ。そう、キッチン。

 早歩きの結果、五分とかからずに到着することができた。

 道中、

「いいよいいよっくららん!どーんどんあがっていくね~、加速してくね~、マ~ックス早歩きで行くよ!これでボルトの野郎にも負けないぜ!」

 と、よくわけのわからないことを叫びながら早歩きではなくほぼダッシュに近い状態で歩かされた(走らされたともいう否、そうとしか言わない)時はかなり焦ったがなんとかついていくことに成功した。

 倉はかなり疲れてしまっていた。膝に手をついてゼーハーゼーハーと呼吸はかなり荒い。しかし、バスケットをしていただけあってまだ少し余裕がある。

 ちなみに銀次郎完全に伸びきっている。

顔真っ白。

今にも吐きそうな状態だ。

「はぁ………お前……はぁ、少しは……運動したほうが、い、いいんじゃねーの?」

倉は銀次郎に運動不足を指摘した。

「………さて、和弥が待っている。急いで中に入るぞ」

 銀次郎はなぜか、もう息が整っている。

「おっ、……おう」

 ――なんでこいつもう息上がってないんだよ。

 しかし、驚きにくれる倉の横で数秒後、

「………げ、げふっ、げふっ、ごふっごほごほごほっ」

 はじかれるようにせき込み始めた。

 ――ただのやせ我慢だったのかよ!

 と、倉は心の中で呟き、銀次郎が言ったように時間もあまりないのでキッチンの中に入っていった。


 キッチンの中に人影はまったく見当たらなかった。

 それもそのはず、学校が終わり次第すぐ、この場所に向かってきたのだからそれは当り前だ。

まだ、誰も帰ってきてはいない。

 そして、コミュ障の和弥はと言うと、誰も気づかないような、そんな端っこのほうに一人ポツンと座っていた。

 後ろ姿がなんだかとてもさびしそうに見える。

 こういうところをみると、倉はやっぱり学校に行ったほうがいいんじゃないかという考えてしまうが、当の本人が何度誘っても行かないと言っているからそれは口に出さないようにしている。

 ――でも、やっぱりあんまりよくないような気がするなぁ…………。これじゃ二学期から顔出すって言っても来にくいような気がするし。………よしっ、和弥にはかなりお節介かもしれないけど、もう一回説得してみよう。

 と、そんなことを倉が考えていると銀次郎が和弥を見つけすたすたと歩いて行った。

 流華はいつものようにはしゃいでおらず、首をかしげていた。あれだーれ?と頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。

きっと、地球外生命体とかを人間が見ると、こうい顔になってしまうのであろう。

「ねーねーくららーん、アレってだーれ?」

 案の定、流華が倉に質問を投げかけた。

「あれは……」

 倉は答えかけた口を言葉の途中で閉めた。

よくよく考えると、流華が今まで欠席だった引きこもりの生徒を見て、知って、静かに黙っておくわけがない。きっとコミュ障和弥には耐えられない特殊能力が発動してしまう。

そうなった場合、事態の収拾がつかなくなり、『今日はこれで解散』なんてことが起こってしまう。

それだけは何としても避けなければいけなかった。

 倉は珍しく頭を使い、そういった場面に陥らないような和弥の紹介を必死になって考えた。

 ――これはちょっとでも流華の興味を引きよせたら負けなゲームだ。………そうだ、これは心理ゲームだ!それならきっと、ゲームならきっと俺にもやれるはず――、

「阿野和弥だ」

「ノォォォォーーーーーーーーー!!」

 倉の叫び声はキッチン全体に見事に反響した。


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