第二話――⑥
「ううん、何も言ってないよ~、女の子に妙な探りを入れるなんてデリカシーがないぞ!」
「まさか桐浦にデリカシーを教えられてしまうとは……」
と、倉は一生の不覚を嘆いた。常識が最も欠如している流華にそれを指摘されるとすごく悲しくなる。こう、人として。
「まぁ、そんなことはいいや」
――いや、全然よくないけども。
「ゲー研に入ってくれるのはものすごく嬉しいんだけどさ、男バスのマネージャーはいいのかよ?理由は知らないけど女バスやめて男バスのマネージャーするの楽しみにしてたじゃん。」
「くららんはもうバスケしないんでしょ」
口調はいつもと同じだがその言葉にはどこか重いものをまとっているように倉は感じだ。
だから、ここは茶化さず真面目に答えた。
「あぁ、俺はもうバスケはしない。俺に才能はない。努力が足りないんじゃないか、逃げてるだけじゃないかって言われてもそれは仕方のないことだと思う。でも、俺は自分の本当にしたいことを見つけることが出来たんだ。今はそれに全力で向かっていこうと思う。」
今、自分で伝えられるだけの気持ちを倉は必死に紡いだ。
「くぅぅぅ~惚れるねぇくららん。かっこいいこと言ってくれるじゃないか!流華もそんなことが言えるようになりたいね」
ド直球の流華の褒め言葉は倉にとってあまりにも不意打ち過ぎた。
そういう、流華と目を合わせているのが恥ずかしくなり倉はさっと目をそらしてしまった。
倉は照れ隠しに話を流華に戻す。
「そ、そういう……お前はどうなんだよ。やめるに値するそれなりの理由があるんだろ?」
「そんなの、バスケよりゲームのほうが好きだからさっ、それ以上の理由がいるかい!?くららんよ!」
「桐浦、お前そんなにゲームが好きだったのか……?」
「おぅ、あたぼうよ!それとくららん!そ、その……桐浦っていうの………やめて!」
いつもは元気な流華がしりすぼみになって倉に呼び方の訂正を唱えた。
急な出来事に倉は
「へっ?」
と、ポカンとした様子で聞き返した。
「そ……、だ、だから!る、るる流華って呼んで!」
今度は流華が顔を朱に染めて倉から目をそらす。
けれど、倉はそんなことを気にした様子もなく、
「うん。全然いいけど、どうして?」
「やっ、その……桐浦って名前があんまり好きじゃないから……だよ!」
流華は恥ずかしさを紛らわせるためかいちいち語尾を強めて話す。
「あぁ、そういうことね、わかったよ流華。……これでいい?」
倉に下の名前で呼ばれたのがうれしかったのか流華は伏せていた目を上げ先日見せたときの笑顔以上の笑顔で
「うん。ありがとう!」
と、大きく答えた。
その時、昼休みの終了を告げるチャイムが校舎内に鳴り響いた。
廊下に出ていた多くの生徒が教室へと戻っていく。
「もう時間だね。あとで入部届けあげるから書いてね。ゲー研部に来てくれてありがとう。これからよろしく!」
「………ごにょごにょ……」
「んっ?どうした?」
「………よろしくって言ったんだよ!さぁ急ぐぞくららん、授業開始はすぐ目の前だ!」
と、いつもの流華に戻って行ってしまった。
そのあとを倉も急いで追いかけた。
最後に流華が「倉君がいないバスケ部なんて意味ないもん」といったように聞こえたのはきっと気のせいだろう。