第二話――⑤
「ん?」
「トイレに行きたいそうだ」
「んなこと一言も言ってねぇよ!」
「なんだ、残念だな」
――いちいち話を切るな、ったく。
「それで、本当は?」
「本当は、その人数についてなんだけど、一年生が十人でするの?それとも部の単位だから部で学年関係なく?」
「おっ、珍しくいい質問だね。そこはもちろん学年関係なくだよ」
「……ってことはつまり、俺等が創部の際にやばいと思っていた他の部との人数差ともう一つ、経験値の差っていうのが追加されるのか……。いよいよつらくなってきたね」
「オレはやっとお前らの言っていたことが分かった」
「なかなかに難しい条件だと思わないかい?銀次郎君」
「はっきりいってムリゲーだな………。難易度で言うとベリーハードだ」
いつもは強気な銀次郎もどことなく弱気な雰囲気を漂わせた。それだけ、この条件が倉たち三人、ゲーム研究部にとって大きな壁だということが分かる。
「―で、箱は一つの部に一つしか支給されない、つまり強い部に独占されちゃうことはないってことだね」
「このルールがなかったら可能性がまったくなくなってしまうとこだったな」
「平等なのか不平等なのかよくわかんない学校だね、ここ」
「えっと、それじゃぁ一応大まかな説明はこれで終了!あとは学校のHPとかでSCWの様子とか写真であるみたいだから確認して雰囲気つかんでてね二人とも」
「お、おぅ!まかせとけ!」
「了解した」
「最後に、来週までには創部届出さないといけないみたいだから倉君よろしくねそこんとこ」
「頼んだぞ、お前がゲー研の部長なんだからな」
「……わ、忘れないようにしとく……」
倉は何とも頼りのない返事をしてぎこちなく親指を上にあげた。
「よし、今日はこれで解散!」
そんな事には気にもしない和弥の一言で今日は解散となった。そして和弥は何事もなかったように倉の部屋の壁から隣に戻り、あらかじめつけてあったのかカーテンをシャット閉めた…………。
「って、おい!おまっちょっ、……準備よすぎだろ!」
2
「あっ、そこの君!ゲームは好き?あ、あのさ……よかったらゲー研部に入らない?」
「……あ~、えっと、ごめん。おれサッカー部に入るんだ」
「う~ん、そっかならしかたないね、ひき止めたりしてごめんね」
SCWの説明および第一回ゲー研部会議ののち早くも一週間が経過した。無事、担任の松下祭に創部届を提出をした倉たちは、5月の初めに行われるSCWに向けて部員の確保に毎日のように努めている。
しかし、いまだ誰一人として入部希望者はいない。
せめてあと一人入ってくれれば今の状態はものすごく改善される。三人と四人では全然違う。とりあえず部が作れる人数には達するのだから。
やはり、だいたいの生徒が入部希望届を出し終わったような状況で部員を集めようとするのはやはり骨が折れる作業だ。
「サッカーかぁ、はぁ……」
倉はいつものようによく晴れた春空の下、一瞬で澄んだ空気が汚れてしまうようなため息をついた。
そんな奴の隣にいないといけない銀次郎にはいい迷惑である。
そんな中、目の前を通った誰かに、何十回と繰り返した言葉をごくごく自然に、機械的に声をかけた。
「ねえねえ、君。ゲームは好き?よかったらゲー研部に入らない?」
「うん、いいよー」
「ああぁ、やっぱりね、みんなサッカーとかバスケとか野球が楽しいのかぁ、………って、えぇぇぇぇ!!?今、今!いいって言ったの!?」
まさかの言葉に、がばっと驚いて顔を上げた倉の前には見知った顔があった。
「何度も言わせるなよー、くららん!いいって言ったのだよ!」
流華がいた。
鼻と鼻が触れ合いそうな近距離に。
倉の顔は一気に真っ赤に染まりあがった。当然だ、学校で一、二を争う美少女が今にもキスができそうな距離にいるのだから。
十五年間彼女などまったくできたことのない倉に美少女に対する耐性などがあるわけがない。動揺するのには十分な材料だ。
「だ、だだだだだだ、っだからッ、……ち、ちちちち、近いって。お、お前はっ!」
心臓は脈拍をMAXにしそれと同じくらいの速度で倉は流華から離れた。
「な~にをそんなに驚いているんだくららん!流華がゲームに興味を持ってたらそんなにおかしいか!」
「俺のときめきポイントはそんなことじゃ上昇しねえ!」
――本人に自覚がないからこれまた怖いんだよな………。
「くららんは流華にときめくためにゲー研に誘ったというのか!?」
「そういうわけじゃないって!」
――確かに可愛いけどもさ。
「………なぁんだ…………」
「んっ?なんか言った?」