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第一話――最終



 さらに思いがけなかったであろう倉の言葉は、今の今まで雄弁だった和弥と横にいた銀次郎に最大級の驚きを与え黙らせた。

「…………」

『…………』

 沈黙の中、先に倉の耳に届いたのはピコンッという電子音ではなく、肉声だった。

「倉。聞くがお前は、何部を創る気なんだ?」

「銀次郎、昨日言ってたよな、お前がやりたいことは身近にあるって。全くその通りだったよ。俺が好きなのはゲームだ。パソコンだ。だから俺は、」

 そこまで言って、ひと呼吸つき、さらに言葉を発した。

「ゲーム研究部を創ろうと思う」

 心の中で思っていたことを言葉にするとなぜかと実感が湧いてくる。現実味が増した気がした。

「へぇ~ゲーム研究部かぁ、楽しそうだね。いいんじゃない?そういうの」

 二人しかいないはずの部屋に、聞いたことがない第三者の声がした。反射的に二人はその声のする方へと体を向けた。

 そこには見たことがない男子が立っていた。

 髪はおかっぱのようなそれで、前髪が目に少しかかり、そこできれいに揃えられている。背は倉よりも低め。かと言って、そんなに小さいわけでもないのだが、どことなく優しげな瞳と、だぼっと袖の長いカーディガンのせいか、必要以上に小さく見える。

 ――もしかして、コイツが、

「阿野和弥、か………」

 そう呟いたのは銀次郎だ。

「ピンポンピンポーン♪正解だよ。さっすが銀次郎君」

 和弥の軽いセリフに皮肉やら嫌味はこもっていない。純粋にそう思っているのだろう。

「なぁ、阿野くん」

「あっ和弥でいいよ。阿野って嫌いなんだよね~」

「あっ、そう。わかった。それで和弥、この部屋まで何しに来たんだ?」

「珍しく意見が合うな。オレもそう思っていたところだ。引きこもりのお前が何をしに来たのか知りたかったところだ。で、どうなんだ?」

 倉に続き銀次郎も突然の来訪者、和弥に向けて疑問をぶつける。

「ん~簡単なことだよ。倉くんが『部活を創る』って言ったのに待てども待てどもその部活を教えてくれなかったからしびれを切らして直接ききに来たってわけ。いやぁ~ドアを開けたところでちょうど何部を創るのか言っていたから運が良かったなぁ」

 腕を組んで一人でうんうんと頷いている。

そんな和弥の姿とは対照的に目の前で、銀次郎が訝しげな顔をして言う。

「いいや、オレにはよくわからない。いままで引きこもって一度も学校に来たことがない奴が、部のことで姿を現してまでくるメリットはない。そもそも、お前が俺たちに接触してきていることすらおかしい。隠さず早く言え、何が目的だ?」

 ――こいつそんなことまで考えてたのかよ……。一人でテンパって変なこと言い始めた俺がバカみたいじゃないか。まったく。

 そんな倉を一人とりのこしたまま銀次郎と和弥の会話は進んでいく。

「目的?やだなぁ、目的って言ったら僕が君たちを利用するみたいになるじゃないか。利用しようなんて全然思ってないんだからそんなことは言わないでよ。僕がしにきたのはね、お願いだよ。僕は君たちにお願いがあってきたんだ」

「えっ、お願い?」

 聞き返したのは倉だ。

「そうだよ。君たちももうわかってると思うけど僕はパソコンをいじったりゲームをしたりするのが得意でね、楽しいんだよ。だからゲーム作ったり、友達とゲームをしたりしようと思ってここの学校のパソコン部に入ろうとしたんだ。でもね、担任の祭先生にパソコン部は廃部になったってきいたんだよ。いやぁあのときはびっくりしたなぁ」

 そうだ、その話は倉も今日聞かされたばかりだ。それでは、和弥もあの話をされたのだろうか、と当然考えてしまう。

 すると、和弥は倉の考えを読んだのか、

「僕もあの話には驚かされたなぁ。なんたって簡単には部活続けれないんだから。創部なんて果てしなく無理だろうね。しかも一人だとなおさら無理だよね」

「俺もその話は聞いた。だけどさっき気づいたんだよ。やっぱり俺にとってゲームをするのは楽しい。和弥のように作ってみたいとも思ったりする。だから創ろうって考えたんだよ」

「それにはオレも同意見だ」

 銀次郎も倉の考えに賛同する。

「あはは。やっぱり僕の見立てに間違いはなかったわけだ。僕はね引きこもりと言われてもしょうがないけど、部活ができないと聞いてから一人でゲームを作ろうとしてみたんだよ。でも、予想以上にきつかった。設備は足りないし、それ相応の費用もない。まして一人だと作業が全然進まないんだ。と、ここで最初の話に戻るよ。作れないとわかった僕はやっぱり設備、費用、人が揃った場所、身近だとやっぱり学校から費用が出る部活しかないと思ったんだ。ところがさっきも言ったように、この学校のルールゆえに一人での創部は無謀。僕は同じような人を探すためにダメもとでこの寮生全員のパソコンを見てみたんだ。そしたらいるじゃないか。毎日のようにゲームをしてる二人組が。しかも同じクラスの。だから僕は君たちにこうして接触したんだよ」

「お前と同じ、ゲーム好きのオレたちに、か」

「そのとーーーーり!だよ。やっぱり理解がはやいなぁ銀次郎くんは」

 そうだろう、といった感じで銀次郎が静かにメガネを中指で上げる。

「それじゃぁ和弥。和弥は俺たちの部活に協力してくれるってことか?」

「協力じゃないね。仲間にして欲しいんだ」

 くったくのない笑顔で、和弥は頭を下げた。よろしくお願いします。と。

 ――断る理由が見つからないな。むしろ大歓迎だ!よかった………これでなんとかなりそうだ。いいやつそうだし、文句はないな!

 銀次郎もようやく納得したようで、その顔はどこか嬉しそうに見る。

「それで、僕も入っていいですか?」

 あらためて聞いてきた和弥に、二人は

「「喜んで!!」」

 いいタイミングなのか、悪いタイミングなのか、ぐぅぅぅ~~~と鳴った倉のお腹に三人は声を上げて笑った。


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