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第一話――⑩



 確かにだ。確かに今、銀次郎は神楽高校一年D組と言った。そしてそのクラスの一番目の席は、


 倉と銀次郎が入学してから一度も埋まったことのない場所だ。


「阿野和弥ってうちのクラスのあの、阿野和弥なのか?」

「いやいや、このタイミングでシャレとか言っても面白くないぞ」

「狙って言ったわけじゃねぇよ!」

 ――こいつこそこんなタイミングでぼけないでほしい。

「それでさっきの質問の答えだが……オレに分かるわけがないだろう」

「まぁそれもそうか。でもよ、もし本当に本人なら俺たちがファーストコンタクトになるわけだよな?噂の引きこもりくんと」

 そう、一度も席が埋まったことがないというのは一度も学校に来たことがないということ。しかも、大きな病気に悩まされてるとか、怪我をしてるとかそんなのじゃなく、ただただ和弥は引きこもっているだけなのだ。

「そうだな。とりあえず、考えるよりも接触してみるほうが手っ取り早い。倉直接ささやいてみてくれ」

「わかった」

 一言返事でプライベートチャンネルを開き、文の書き出しにメッセージを送りたい相手の名前を入れる。

 ――文は、これでいいだろう。

『どうもー強いですね。名前もかっこいいですし、あのーどこ住みですか?自分は東京です!』

「こんなんで食いついてくるでしょ」

「これで釣られた奴は相当な馬鹿だけどな。倉レベルとまではいかないが」

「チャットの相手を馬鹿にしつつさりげなく俺を馬鹿にするのやめてくんない?」

「いや、こいつはまだ反応していないから馬鹿にしたのはお前だけだ」

「お前はこれ以上罪を重ねて一体どうするつもりだ!!?」

 その時、ピコンッと返信を音が知らせた。

『ありがとうございまっっっっっっっす!!同じく東京都ですよー。神楽高校なるところに通ってる高校生です』

「「釣れたああああああああああああああああああ!!!!!」」

 住んでる場所以外のこともしっかりと教えてくれた。

「もうこれって決定だよな……」

「そりゃそうだろう。うちのクラスの阿野和弥で間違いないだろう。しかしこんなんで釣れてしまうとはな、引きこもりって全員馬鹿なんだろうか」

「それは偏見だと思うが」

「ともあれ、これでうちのクラスの引きこもりの生態を知ることができたわけだが、」

「俺が正論を言った時だけ無視するな」

「今から彼にどこの部屋かを聞くことにしよう」

「おいっ……」

「さぁ、倉。馬鹿同士共鳴しろ。それでコイツのことがわかる。つまり、お前、俺の、役、立つ、OK?」

「あーあー、わかった、わかったからさ。もうやりゃーいいんだろ、やりゃー」

 無視されたことに納得できたわけではなかったが、これ以上話をしているとまた馬鹿にされるだろうと倉は思い渋々和弥とコンタクトを取る。

『すごいですね。確か進学校ですよね?しかも全寮制の』

ピコンッ

『そうですよーよく知ってますね!学校は楽しいですねーやっぱり』

 ――おい、嘘をつくな嘘を。一回も来たことないだろうお前。

『学校楽しいんですか。いいですね高校ライフ!全寮制って部屋割りとかどうなってるんですか?』

 ピコンッ



『えっ部屋割りですか?一○五号室ですよ。ちょうどですねー、君たちの隣の部屋にあたります』



 ――………………………………………はっ?………………………………今なんて言った?君たちのとなり?なんでこいつはこっちのことを知ってるんだ?

 相手がこちらのことを知っている。そのことは相手の言葉から簡単に推測することができた。しかし、それと頭の中の考えられることは全然違う。いきなりそんなことを言われて普通の神経で追いつく方がどうかしてるというものだ。

 恐怖。

 最初に感じた感覚はこれが一番近いだろう。なぜなら向こうがこっちのことを知るためには大きく三つの方法しかないからだ。

 まず一つ目は、学校であったことがある。同じクラスだということを知っていること。だが、この男は一回も学校に来ていないわけだからそれはありえない。

 二つ目は、この寮内であったことがあるやつになる。しかしこれも、今思えばとなりの住人が誰かを未だこちらは知らない。だからありえない。

 三つ目、これが本来ならば最もありえないパターンになる。それは、パソコンを通って直接こちらのデータを覗く、いわゆるハッキングというやつだ。だがしかし、そんなことができる高校生が本当にいるのだろうか。

「ぎ、ぎぎ、銀次郎…こ、こいつ」

「あぁ、おそらくはハッキングをしているのだろう。じゃないとこっちのリアル情報がバレるわけがない」

「で、でも、たかが普通の高校生にそんなハッキングとかできるのか?」

「それこそ偏見だ。あいつのどこがただの、普通の高校生なんだ?一日中きっとパソコンをいじっているのだろう。それくらい出来てもおかしくない。でもまあ、確かに普通に考えるとありえない線なのは確かだけどな」

「………」

 何も言えず、倉はうつむいた。だが、その表情は決して個人情報を非合法な方法で見られたことに対する怒りだとか、ハッキングができる人間の存在に驚いた、とか――けっこう驚きはしたけども――の感情は現れていなかった。それとは逆に、何かが掴めたような、希望が見えたとかのような方に近かい。どこか、なにか楽しそうなそんな雰囲気が滲み出ている。

 ピコンッ

『あれ、黙っちゃってどうしました?あっもしかして驚いてるんでしょ、倉くん、銀次郎君そうなんでしょ?』

 ピコンッ

『僕を釣ろうと思ったんだろうけど無駄でしたね。もともと僕がさっきの部屋に入ってきたのも君たちがいたからであって、リアルネームを使ったのも君たちを食いつかせるためなんだ。残念だったね』

「はぁ、やられたな。なぁ、倉。……倉?」

 銀次郎が覗いた倉の顔は何故か笑っていた。

 本来なら勝手にデータを覗かれたと隣の部屋に殴り込みに行くところだろうが、ついにやけてしまう。それだけ和弥にワクワクさせられていた。

 ――すごい、すごいすごいすごいすごいすごい!こんなことができる奴が身近にいるなんて!

 コイツと勝負をしてみたい――。

 自然に湧き出てきた感情だった。そして、一度そう思ってしまうともう抑えられない。すぐさま倉はキーボードで指を躍らせた。

『俺と勝負しない?もちろん一対一で』

 返信はすぐにかえって来た。

 ピコンッ

『いいけど、勝てると思ってるの?僕は倉くんじゃ無理だと思うなぁ』

『無理でもお前と戦ってみたいんだよ』

 ピコンッ

『僕は別にいいんだけど、倉くんが僕に勝ってメリットなんてないと思うけど』

『じゃぁ俺が勝ったら学校に来い。そして俺たちの部に入れ』

 思わず、思わず、だ。部活に入れと言ってしまった。まだ決まってもいないのに。それでも、なぜか倉はなんの焦りも見せない。

 ピコンッ

『部活?何を言ってるの倉くん。君たちふたりはまだ部活に入ってないし、決めてもいないじゃないか。そんなところにどうやっては入れって言うんだい?』

 なぜそこまで知ってるのかと、不思議に思う言葉だが今の倉はそんなことを気にもとめず言葉を続けた。



『部活には入らない、俺が、創るんだ』


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