その3
複数いた先輩方の中でも、一段と可愛い子が鈴の音のような声で石蕗に話しかける。
風でふわっと広がる栗色のセミロング。顔も可愛らしい感じの女の子だ。
うーこれはかわいい。つか抱きしめたい。おっとっと、あぶないあぶない開けてはいけない扉を開けるところだった。ふう
というか、可愛い子の取り巻き(?)がさっきから、私を串刺しにする気かって叫びたくなるほど、こっちを睨んでるんだけど。
痛い、刺さる、刺さるからっ!
視線が。
でも、怖くはない。再び、私の精神的HPが削れるだけで。
中学にいた時も、生徒会・ファンクラブで私が石蕗と一緒にいる事をおもしろく思ってない子も、もちろん少なくなかった。
ファンクラブ会長だったので呼び出しにはかからなかったが。
というか、ファンクラブの方がしていた。私が先頭で。
それでも、地味ないやがらせはあったがな。
もちろん後で、十倍ぐらいにしてやり返したが。
まあ要するに、慣れてるんだ、こういう女の嫉妬的なものには。
というか、石蕗には何も言われなかったなあ。こう、女のドロドロ的なことを。
おっとそんな過去の回想より、現状を把握しなくちゃ。
まずこれ、この可愛いの誰だろ・・・?
登場する時期が早い気もするけど、主人公とか?
一昔前のライトな乙女ゲームあるある案件で、主人公の顔は白い光で隠されていたので、主人公の顔を私は知らないのである。
・・・。
と、とりあえず、無難にお口にチャックで、傍観、ですな。(わくわく)
「石蕗くんは、かのんと帰るんでしょ?
な・ん・で、他の、女の子と帰るの?
かのん、怒っちゃうよ?ぷんぷんっ」
で、でで、出たあああああああっ!
マジでいるんだ、現実に、こんな人。
ああ、でも容姿はマジ天使。
しかぁし
その、性格が・・・みなまで言うまい。
ま、見てる分には不自由しないよね、うん。
眼福、眼福。
「石蕗くんは照れ屋さんなんだねっ」
「だから、俺は、最初から、お前と帰る約束なんてしていないと何度言えばわかるんだ。」
う、うわあ
石蕗くーん、不機嫌オーラがだだ漏れですよー
つか、会話が噛み合ってない。
・・・。
主人公・・・なのかな・・・?
なんというか・・・転生モノでよくありがちな主人公だけど・・・
うーん・・・
・・・。こればっかりは考えててもわからないよねえ・・・
そうだっ!まだわからない状態なので、彼女の事は主人公(仮)と呼ぶ事にしよう。
うん、主人公(仮)。わかりやすい。
気が付くと石蕗と待ち合わせていた時間から、わりと経っている。足裏がジンジンしてきた。
それでも、二人の会話は、さっきと同じようなものが延々と続いている。わお
逆にすごいんだけど。主に主人公(仮)の忍耐力が。
つ、石蕗くーん。もう、私、帰って良い?
・・・良いって?
うんじゃ、帰るよー
二人の会話に割り込むのは、めんどくさいので、二人が会話に夢中になっている間に、私は頭の中で(勝手に)許可を取り、帰ることに、もとい逃げる事にしました。
置いていくが、私の事は恨むなよ、石蕗。
恨むなら、そこの主人公(仮)ちゃんを恨むのだっ
てことで、お先でーすっ
石蕗に少し罪悪感を感じながらも、一歩後退しようとした瞬間、がしっと腰に手をまわされた。
見下ろすと、石蕗の手。
「こいつが俺の彼女だ。
だから、今後一切、お前とは帰りもしないし、休日に出かけることもない。
メルアドも彼女の許可があったとしても交換しない。
わかったら、とっとと俺の前から消え失せろ。」
な に す ん だ
瞬時に、腰にある手に文句を――――もちろん、脳内で――――言ったものの、隣から発せられる殺気に、背筋がすっと寒くなる。
私に向かって言われたわけでもないのに。
というか、明らかにこの辺りの気温が下がった。
おお、あの主人公(仮)でさえも固まってる。
あれ、勇者じゃなくて、むしろ魔王だった。
結局、横でテロ並みの殺気を発した、魔王が主人公(仮)をフリーズさせ、一足早く回復した取り巻き達が、主人公(仮)を引きずって行ったのであった。
「さあ、帰ろうか、雪織。」
「は、はい。」
遠くに見える主人公(仮)から視線をはがすと、私の腰にあった石蕗の手といつの間にか繋いでいることに気付く。わーお、出たよ、恋人繋ぎ。
さっきとは別の意味で周りからの視線が痛い。
なにこの生温かい視線。
だ れ か た す け て
※ ※ ※ ※
結局、当然の事ながら誰にも助けてもらえず、石蕗にご丁寧に家の前まで送られたのであった。
今日の私のHP消費量は、かつてない数字を叩き出すであろう。
ピカ〇ュウもびっくりだ。
新キャラ(?)、登場です。
主人公(仮)。本名を忘れてしまいそうで怖い。
ちなみに「石蕗」の花言葉は、「困難に傷つけられない」です。
・・・がんばれ、雪織。