就活(1)
就職活動、略して就活。
私の専攻では大学三年、もしくは大学院一年の秋頃始めるもの。
「何だってこんなに人がいるのよ」
どこから湧き出てきたのか、物凄い人の量に思わずため息がこぼれる。関東の片田舎に住む私にとって東京は別世界だ。でも、就活をするためには仕方ない。深呼吸を一つして歩き出した。
今日は二社はしごした後、夜は玲の家へ上がりこむ予定だった。連絡もしていた。
「洋、本当にごめん」
「仕方ないよ」
電話口で何度も謝る玲に、こっちが申し訳なくなって早々に電話を切った。
「どうしようかな」
急な仕事が入ってしまった玲。明日も早くから会社の説明会がある私。関東にある実家に戻るという手もあるけれど、それでは明日の説明会に間に合わない。もちろん、自分のアパートに帰れば確実に間に合わない。そうかと言って、玲の家の鍵は持っていないし、本人がいないのに泊めてもらうのも気が引ける。
東京に知り合いはいても、泊めてもらえるような関係の友人はいない。
ビジネスホテルかファミレスかインターネットカフェか漫画喫茶か?
頭を悩ませていたら着信音が響いた。
「もしもし」
「洋、とりあえず今からメールを送るから、その場所においで」
それだけ言うと切れた通話。玲が慌てていたのはわかったけれど、なぜ??
ほどなくして送られてきたメールの内容と、持っていた地下鉄と東京近郊の路線図を駆使して最寄り駅までついた。
『to:玲
from:洋
subject:駅についたよ。
これからどうすればいいの?』
メールを送信して改札に佇む。一体どうするつもりだろう。空を見上げると四角い空。東京はやっぱり苦手だ、そう思って苦笑する。
「寒いんだけどな」
そう呟くと同時に震えだすケータイ。慌てて開くと予想通り玲から返信だった。
『to:洋
from:玲
subject:了解
5分待って。すぐ行く』
「どういうことよ?」
返事をくれる者は誰もいない。その寒空の下、既に冷え切ってしまった体はどうしようもなく、手をこすり合わせても意味をなさない。
「早くしろー」
まだ一分もたたないだろうことはわかっていても言わずにはいられなくて白い息を空に向かって吐き出しながら呟く。
「ご、ごめん。おま、たせ」
数分前に機械越しに聞いた声が目の前から聞こえて、慌てて目線を動かせば白い息を忙しなく吐き出す玲の姿があった。
「玲!」
「しっ!」
「ごめん」
思わずあげた声に玲が慌てるのを見て、自分の失態に慌てて謝る。それなりに有名になってしまった玲の名をこんなところで呼んで良いわけがない。
二人顔を見合わせると、玲が手を差し出した。迷わず手を差し出す。後方から玲に気付いたようなざわめきが聞こえたけれど、二人で走り出した。