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#00 折り鶴はふわりと夢の中に紡ぐ

ねぇ



あなたにとって想い出のある宝物は何?




きっと――


子供の頃のお気に入りのおもちゃとか


見ただけでその当時に飛べる写真や記念品。


あるいは家族や友達との形のない想い出。



そんなように


その人にとって大切なものが、あると思うの。


もちろんそれは私にとっても。








小さくて、手のひらに乗るほどの大きさで


幼い頃、彼からもらった1羽の折り鶴。


綺麗な水色の紙で、器用に折られているのをプレゼントされた私の宝物。





最近私はよく同じ夢を見る。


またあの日の……私は2人の子供がいる向かい側の歩道にいた。




5月5日は子どもの日。



その次の日、家のそばの坂道には桜が舞っていた。



散り乱れる桜の花びらに目を爛々とさせて


坂をゆっくりと下っていく赤いランドセルの子ども。



その女の子の歩いている進路上、坂の終点には男の子が1人いた。


彼は立ち止まったままで……その子を見ていた。



ううん、女の子の"瞳"の奥を覗くようにして。


舞い散る桜の花を見惚れていた彼女に話しかけていた。




 「ねぇ、君の名前は何ていうの?」


 「…… 八重 理桜(はちのえ りお)


 「りおちゃんか、かわいい名前だね」


 「はい、良ければ僕と友達になってください!」



そう言ったあと、私の宝物は優しく手渡された。




もうあれから9年が経つ。


"友達"になるきっかけは、彼から手渡された折り鶴だ。


もちろん宝物は今でも大切に飾っている。



私たちの絆の象徴。


でも、大切にしているのは

本当はそんな理由じゃない。


私は怖くて仕方なかった。


彼がくれた"折り鶴"を無くしてしまうと……


幼稚な私はその瞬間をいつまでも永久(とわ)に続かないと思っていたから。



1度そう考えたら


抱えていた不安に耐え切れなくて

泣きそうになってしまう。



気付いたらさっきの歩道じゃなく、

何かとても冷たい暗闇の中に……地上の光が全く届かない、深海のような場所にいた。


そこは苦しくて、今にも押しつぶされてしまいそう。



でも……きっと大丈夫。


いつもと同じなら、そろそろ夢から醒めるからね――




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^






窓から朝日が差し込むのが眩しかった。


春の陽光に起きることを催促されたみたいだ。



あれ、またあの日の夢を見たからかな。


少し目が痛くて枕も濡れてる。


そして身体もだるくて動けそうにない……




そう思ってゆっくりと枕元にあるイルカを模した時計を覗くと6時30分。


普段よりもちょっとだけ余裕がある。


もう1眠りしようかと顔を枕に埋めようと寝返りをしていたら机に目に入った。



私の宝物の"折り鶴"が飾ってある。


でも、もう9年も経っているから色褪せてきているんだよね。



薄れゆく折り鶴を見ていて


不安に再び心が苦しくなってしまう。



でも、私は信じているよ。


ずっと彼と一緒にいられる未来を描けることを。




よし。


陰気な自分を脱ぎ捨てて、

今日も私、八重理桜は元気に可憐に咲き誇っていきましょう!


って


空元気ではあるんだけれど……


隣の家に住んでいる彼を起こしに行くイベントを

こなさなければね。


今日も早めに行って、

彼の寝顔を少し眺めよう!



いくらか軋む身体を奮わせて、ベッドから立ち上がった。


降り立った足元のフローリングは冷たくて、飛び上がりそうになる。


春といっても、まだ私の住む地域は寒いからね。



その冷たさに耐えて、クローゼットまで移動。


パジャマから

紺のブレザーの制服に着替えて、

1階にある洗面所で身だしなみを整える。

出発準備は完了!



時計を見ると6時45分。


まだ彼の家に行くにしても、少し早いと思う。


といってもする事は……



「あっ!」


思わず声に出して叫んでしまった。


そうだ、私も。



机の引き出しの奥に仕舞ってあったそれを出して


丁寧に、繊細に、

そして願いを込めるように優しく――赤い折り鶴を折って、向かい合わせに並べた。



見つめ合う、つがいの折り鶴。




私も折り鶴のようになりたいな……



そう思いながら、

白息に寒さを感じて玄関の向こうへ大きく1歩を踏み出した。


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