第五章:進展
SIDE:LAY
それから後は大騒ぎだった。ヴァンがたたき込んだ最後の攻撃は、誰が見ても絶対に届かないとわかるものだった。距離が遠すぎて、叩き落とされるかと思ったらディザスターが動かない。顔面を捉えた手のひらはクラッシュのかけ声とともにディザスターを吹き飛ばした。倒れたディザスターはもう動く様子もなく、機能を停止した。あっけにとられていた私たちだけど、ハッとしてヴァンに通信した。大丈夫? なんてズレた事を聞いて、痛くはないがフラフラする、と言うヴァンを連れ戻すためにサムズアップ社を飛び出した。痛覚神経はほとんど残っていないから痛くはないだろうが、疲弊しているならその方がよほど危うい。応急処置ができる準備だけ抱えて管制局を目指し、ついたときには政府部隊が現場を囲んでいた。私とミソラは、閉め出されてそれ以上近づけない。その先で、ヴァンが政府部隊に囲まれていた。
銃を突きつけられたヴァンは、特に抵抗もしない。実弾は効かなくても電磁弾ならダメージを受けるというのに、すでに余力がなくて判断できないのだろう。表情を見れば明らかに疲れていて、立っているのがやっとという様子。通して!と叫んだけど政府部隊に止められて、その後ろからクレイグ氏が現れた。
「どうやらこれは我々の管轄下だ」
ディザスターもヴァンも自分たちの手元に戻そうと、回収が続けられる。何度繰り返したって変わることがないらしい。こちらの言い分はすべて聞き流して追い払おうとクレイグ氏が部下に命令を出した、そのとき。小型車が到着した。中から現れたのはさっきいたマックスという別の部署の責任者。クレイグ氏と合流して、連携を取り始めた。
上機嫌のクレイグ氏は、戦果を自分のもののように言って自慢げに胸を張った。表情一つ変えないマックス氏は、それを黙って聞いて相手の話が終わった頃に自分の報告をした。事態は収拾したが、標的を取り逃がしたという。大問題だな、と笑うクレイグ氏を、マックス氏は相手にもしない。マックス氏はクレイグ氏に構わず、空から降りてきた大型車に目を向けた。民間の、額面だけの委託業者。監査組織だ。
クレイグ氏は急に慌て始めて、マックス氏に説明を求めた。マックス氏は、自分は現場にいたので戦略室の指揮を執っていない、部下たちがガイドラインに従って報告まで済ませたはずだ、とこともなげに告げた。それを聞いたクレイグ氏の顔が、真っ青になった。大型車から降りてきた監査員たちはクレイグ氏とマックス氏を取り囲んだ。
「何をするか! 私が捕まれば、上のどこにまで影響するか……!」
政府部隊の管制下にない監査組織はこれが仕事だから聞く耳を持たないが、クレイグ氏は無茶を通そうと言い分を叫んでいた。しばらくそれを見ていたマックス氏は、歩み寄ってクレイグ氏の胸ぐらを掴むと、顔に頭突きを入れた。痛がってうずくまるクレイグ氏を放したマックス氏は、行くぞ、と監査組織の大型車に向かった。その途中、マックス氏は一度だけ立ち止まった。
「ヴァニッシュ・ダンピール」
ヴァンが力なく目を向けた。マックス氏は、悪人面を醜悪に歪めてヴァンを見下していた。
「こうなればいいと思っていた。礼を言う」
マックス氏は、大変だな、と言い残して大型車に消えた。クレイグ氏も一緒に連れて行かれて、しばらくは法廷で争っていたという話も聞いたが、すぐに実刑が決まり報道もなくなった。
SIDE:LAY in Nikaidou Advanced Technology Consultant
電話をかけてきたミソラが、一度ヴァンを呼び出してもう一度こちらに代わるお決まりのパターンを踏んだ後嘆いていた。回収されたディザスターを押しつけられて、私にどうしろっていうのよ! と怒っている。直そうと思えば直せるけど会社のイメージが悪い。でもディザスターは法定の権利を持っているので直すのは直す。直したところでどうするのか。マスコットにしたって逆効果だし、慈善事業をさせようとしても行った先で断られるだろう。私も会社辞めるからそっちに入れてよ! ねえヴァンさん! と叫んでいたけど、生活できないだろうから来ない方がいいと言っておいた。そうよね? とヴァンに聞いたら、そうだ、そうだ、そうだ、と三回も言った。何が何でもこの結論にしたいらしい。
あのときディザスターに何があったのかは、よくわかっていない。戻ってきたイズミ屋に、何かしたのかと聞いたら何もしていないという。ディザスターが決めたんだ、と訳知り顔で言っていて、何か知っているのかもしれないけど何も言わなかった。たぶん聞き出したって言わないだろうから、もう聞かない。それに今、それどころじゃないのだ。
政府部隊が大目玉を食らって現行の体制が見直され、政府部隊が請け負っていた範囲は代替組織がないとなればもう民間に任せるしかない。その分の仕事が流れ込んでくる、かと思いきや、政府が方針として推奨するとなると我も我もと似たような企業が開業し、世はまさに大サイバー時代! なんて昔の漫画みたいな状態、顧客の取り合いになって競争が激化している。全部新興企業なのでどの会社の対応力もたいしたことないけど、私たちの天敵である「要領のいい会社」がたくさんできた。こういう企業が一番手強いというのは経験上知っているので、こっちはもう大わらわだ。早く営業に行くわよ! とヴァンを急かす。まだ修理終わってないよな? と文句を言っているが、大方動くには問題ないし死にはしない。第一もう予算がないので修理が進まない。体を直したければ、働くのよ! なんて根本的にダメな事を叫ぶけど、まあ会社ってそうだし。どこもそんなに変わんねえなあ、とヴァンとイズミ屋が文句のありそうな顔をする。嫌なの? と怒ったら、イズミ屋が言った。
「文句はあるけど、全部じゃねえよ」
起動タイマーを思いっきりかけて黙らせて、社用車を走らせる。私たちはどこで勤めても、だいたい変わらないらしい。




