地球を守る一般市民
「社長!開拓部から、中央区で怪獣出現との連絡が!」
慌ただしい所内を駆け、作業着を煤まみれにした若手が俺の元に飛び込んでくる。
「なんだってぇ!?帳、場所どこだ!」
「百貨店の跡地です!」
奴の言う百貨店とは、通信網の拡大のための偵察に人を向かわせていた場所。…………そして、かつては新幹線の停車駅に近接し賑わっていた地。
いかんな。未だ見知った施設が跡地と化している事実にいちいち感傷的になっては…………
「わーった!今動けるパイロット班つったら望月だったな?大至急輸送班と望月に伝達!十分後にグランセイヴァー出撃、開拓班の保護と怪獣の撃退を行うぞ!」
「了解!」
連中がいかに巨大であろうと、この地に生き残った人間は誰一人失わせるわけにはいかない。
「グランセイヴァー、積み込み終わりました!」
「神原3佐、今回弾何発積みました?」
「四発ってとこです。これ以上はまた基地から材料になりそうなモンかっぱらってこないと駄目ですね。あともう3佐も敬語も余計だっていつも言ってるでしょう?」
「悪い悪い。おーい望月!準備できてるか!?」
既に輸送車に乗り込んでいるはずの望月に問いかける。彼女は輸送車の荷台にある巨大ロボット、グランセイヴァーに乗るパイロットの紅一点。”競馬の騎手とレイバー乗りはちっこい奴に限る”と誰かが言ってたが、適材適所といっても若い女の子を危険地帯に送り込むのはいつも心臓に悪い。
「あっ、社長またなんか妙なこと考えてるでしょ!?言っときますけど、もうそういう時代じゃないんで!」
「おっと、こっちも悪い悪い。トルーパーの用意は?」
「今回は三峯、相生、宮城の3名が出ます。既にこちらも準備完了!」
「よーし、そろそろ出撃だ。開拓部共々、絶対に生きて帰ってこい!」
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「社長、映像来ました!」
証券会社に残されていたデジタルサイネージを流用した、お手製の巨大モニターに目を向ける。グランセイヴァーのメインカメラの映像はこれに共有され、製作所からでも指揮が執れる。
もっとも、基本は現場の判断だし、指揮を執るのも社長の俺ではなく神原3佐……3佐は余計と言われたばかりだったか。
「あーあー、本日は晴天なりぃ!」
「神原さ……君、今日日マイクテストにその文言使うのかね?しかも空は曇天」
「気にしたら駄目です。気持ちで負けたら何にもならないですし……望月、聞こえてるか!?」
通信関係のインフラも、我々の手で復旧させた不完全なもの。通信ができるかどうかすら賭けだ。
『はーい!こちら望月、目標地点に現着しました!』
『トルーパー部隊三峯、相生、宮城、同じくです!』
「よし、トルーパーは開拓部員と回線を繋いで急ぎ彼らを回収して帰還!グランセイヴァーは怪獣をトルーパーの救助活動から引き離せ!」
『『『『了解!!!!』』』』
神原君の指示の元トルーパー部隊は散り、グランセイヴァーは怪獣と向き合う。
二足の足に巨大な尻尾で身体を支え、肉塊から骨が浮き出たかのような胴体に、触手の付いた細い腕でその丸い眼からは生気が感じられない。相も変わらず、怪獣というのは気持ちが悪い造形だ。
「今日のは特に気味が悪いな。ゾンビみたいだが、鹿島2号に似ている気もするな」
「私も同意見ですね笹瀬川社長。仮に同系統の存在だと尻尾を攻めるのが有効ということになりそうですが」
「よし、じゃあそこの杜若君、資料室の記録とこいつ……砂山5号を照会してくれ」
「わっかりましたぁ!」
そういったやり取りをしているうちに、画面の向こうではグランセイヴァーと怪獣、砂山5号の取っ組み合いが勃発していた。
馬力では勝っているように見えるが、触手がグランセイヴァーの関節部分を攻めていて思うように弱らせることができていないようだ。
重火器の在庫は少ない。注ぎ込むタイミングを的確に突きたいところだが……
「望月、トルーパーは8時の方向。砂山5号に向かわせないように!」
『了解!いやらしい攻撃しやがってこのゾンビ肉!』
グランセイヴァーは指先に仕込まれたスタンガンで触手からの解放を試みる……が、急に触手を引っ込めた。
『!?』
突然の解放に一瞬動きが止まったグランセイヴァーに、砂山5号は体当たりをかます。だがグランセイヴァーは避けきれないまでも、望月が操縦を行う胸部はなんとか守ることができていた。
望月は若いながらもパイロット班のエース。流石の腕前だ。彼女もこんな形での活躍を望んでいたわけではなかっただろうが……。
「神原さん!社長!これまで撃破した怪獣の記録と照らし合わせたら、鹿島2号と見た目完全一致でした!」
「よしわかった、三峯!救助は他2人に任せてお前は作戦Mに入りなさい!」
『了解!』
『作戦Mってことは、私は準備終わるまで時間稼げばいいんですね!』
そうしてトルーパー部隊は二手に別れ、グランセイヴァーは砂山5号から一度距離をとって構えた。
腰を落として構えていたところに攻めてくる5号に対し輸送車に積まれた剣を抜き白兵戦に持ち込む。機体が押され地面のアスファルトが削れ宙を舞う中、三峯が駆るトルーパーαが最後の仕上げを進めていく。
『こちら相生と宮城!開拓部員を回収に成功!一名がおそらく肋骨を折っていますが、全員無事です!これより帰還します!』
『こちら三峯!私も準備完了しましたので帰還します!”地雷”は駅前の横転したハイエースです!』
「よーし聞いたな望月!ラストスパート、そこを砂山5号の墓場にしてやりなさい!」
『了解!はぁっ!!』
返答した瞬間グランセイヴァーは戦闘スタイルを変え、果敢に砂山5号を攻める!大剣を振るい触手を両断し、懐へ飛び込んで肉弾戦で”地雷”へと誘導する。
「望月、大剣の方の電気切ってないか?」
「そう見えますね」
本来、グランセイヴァーの扱う大剣にはグランセイヴァーの手足と同様に電気ショックを放つ機能が付いている。それなしでもかなりの破壊力を誇る武器ではあるのだが……
「限られた資源を大事にしてくれるのはありがたいが、こういう時に出し惜しみしなくていいといつも言っているのに」
「全くです。グランセイヴァーも現状一点モノですし」
そうボヤく我々はお構いなしに、グランセイヴァーは仕上げに入る。地雷はもう砂山5号のすぐそば。グランセイヴァーは間合いを一気に詰め、砂山5号は一歩引き下がろうとしたところでそばの地雷、細工したハイエースを踏み潰し…………!
「「「『かかったぁぁぁあ!!!』」」」
爆発音の中、望月と会社に残る社員の歓喜の叫びが響く。足に大打撃を与え隙を作った後にやることは一つ。我が笹瀬川製作所の黄金パターンだ。
「望月、狙うは尻尾の付け根だ!」
『了解!対怪獣特殊装甲弾、撃ちます!!』
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「よし、杜若、風呂沸かしておいてやってくれ。望月と三峯と相生と宮城と四人分な。あと高遠は損傷部位のデータを整備班に共有。神原君はゆっくり休んで。後は俺らの仕事だ」
こんな時世じゃあ、社長であっても社員と共にスパナを振るうしかない。
20XX年、宇宙から降り注いだ謎の脅威、怪獣によって世界は一変した。
インフラは機能しなくなり、政府は壊滅状態。生活は破綻し多くの犠牲者が生まれ、日本国憲法だってもはやあってないようなもの。
それでも不条理に抗い、自らに残された良心と技術によって生き残る者達がいる。
それが笹瀬川製作所。自社製品、『グランセイヴァー』と共に残された人類を守る最後の砦である。




