第4話 月下の再会 ― 聖女セレスティアの影
本来のシナリオでは、リオネルとアンリエットは早々に退場し、終盤を迎えたマリエルが
聖女に合った時に天恵を受け、攻略対象達と近隣諸国のキナ臭い政治に巻き込まれながらも、王国を守っていく守護神的な位置になり
ハッピーエンドを目指すのだが、リオネルとアンリエットがまだ居るこの状況を考えると、
どうストーリーが進んでいくか不安で眠れずにいたリオネルは、散歩がてら、教会に行ってみることにした。
満月が、王都の教会を照らしていた。
白い花々が静かに揺れ、祭壇に佇む少女の姿を照らす。
その少女を見た瞬間、リオネルの胸がざわついた。
(……セレス……ティア?)
月光に照らされた彼女は、まるで前世の“第五王女セレスティア”の生き写しだった。
柔らかい銀髪、穏やかな瞳、そして誰かを赦すような微笑。
「あなたは……リオネル殿下、ですね」
「……ああ。君は、“聖女”と呼ばれているんだって?」
「ええ。ですが、私はただ……人を癒す力を授かっただけです」
声まで似ていた。
まるで、時を越えて再会したかのように。
リオネルは一歩近づいた瞬間――
脳の奥で、懐かしい声が響いた。
『あらぁ〜、リオ坊じゃなぁい?』
『久しぶりじゃないの、弟くん♡』
『ちょっと〜、また女の子困らせてないでしょうねぇ?』
『筋肉で抱きしめられたいって顔してる子がいたら、すぐ報告しなさい!』
『まったく、あんたって子は~~~ッ♡元気にしてたかしらぁん』
リオネル(ルシアン)は、思わず頭を抱えた。
声の主は、間違いなく前世のお姉さまたち(×4)。
そう、王国最強の“筋肉オネェ”姉軍団だった。
「……やめてくれ、今は公の場だ……」
セレスティアが首を傾げる。
「どうかされましたか?」
「い、いや……ちょっと脳内に、筋肉の幻影が……」
『ちょっと!リオ坊、聖女様の前で変な顔しないの!』
『背筋伸ばして!笑顔よ!笑顔!』
『ほら、目線は優しく、声は低くね♡』
『女の子の心はね、肩幅で包み込むのよッ!』
(肩幅で包み込むって何……?)
内心ツッコミながらも、リオネルは気づけば自然に笑っていた。
その笑みを見て、セレスティアの頬が淡く染まる。
「……あなた、笑うと、少し寂しそうですね」
「そう見える? たぶん、姉たちに鍛えられすぎて、表情筋が……」
「ふふっ、鍛えられた表情筋、ですか。変わったご家族ですね」
「変わってる、どころじゃないよ……」
(だって、聖女を見たら脳内で筋肉が会話してるんだぞ……)
だが、セレスティアの目には、
彼が“どこか懐かしい存在”のように映っていた。
「リオネル殿下。あなたには……とても優しい気配があります。
それは、罪を赦した人が持つ光です」
その言葉に、リオネルは少し息を詰めた。
そして――頭の奥で再び姉ズの幻聴が響く。
『キター! セレスちゃんからの褒めタイム!』
『リオ坊、ここは“ありがとう”の微笑みよ!ちょっと切なげにね!』
『手は取って!そう!目線下げて!』
『女の子は褒められたら褒め返す!これが礼儀ッ!』
「……ありがとう、聖女様。君の声を聞いてると、
前に俺を叱ってくれた“家族”を思い出すんだ」
「家族……素敵ですね」
「ああ、個性的すぎて、時々幻聴まで聞こえるけどね」
セレスティアは、楽しそうに笑った。
まるで“前世の姉”そのものの笑顔で。
(……やっぱり、君はセレスティアに似てる。
そして――姉上たち、今も見てるんだろう?)
すると幻聴が優しく囁いた。
『リオ坊、よくできました♡』
『ちゃんと女の子の手、優しく取れたじゃないの〜』
『泣かせるより笑わせる方が、ずっと王子らしいわよ』
『よくやったわ、弟。……世界一の王子ね♡』
その瞬間、
胸の奥で何かがあたたかく溶けた。
リオネルはそっと聖女の手を離し、微笑む。
「君がいてくれるなら、この世界も悪くないな」
「……? どういう意味ですか?」
「ああ、ただの“お姉ちゃん”たちへの報告だよ」
セレスティアは、意味が分からず首をかしげたが、
その頬はほんのり赤く染まっていた。
そして、
この“再会”が、マリエルとアンリエットの心をさらに揺さぶることになる――
“聖女ルート崩壊”の幕開けだった。
ふー。
お昼ごはん食べて、まだまだ投稿するぞ!




