第10話 天恵の聖堂
朝の光がステンドグラスを通して大聖堂を彩る。
床に七色の模様が揺れる中、マリエルは少し緊張しながら一歩一歩進む。
その隣にはキアンが控えめに歩いていた。
いつもの陽気な笑顔はなく、
真剣な眼差しでマリエルを守るようにそばに立っている。
「マリエル、無理はするなよ。俺がついてるから」
キアンの声に、心が少し安堵する。
けれど、その安堵も束の間、前方に座す聖女セレスティアの存在感に圧倒される。
「マリエル嬢」
セレスティアの瞳は透き通る水のようで、全てを見透かすかのようだ。
手を差し伸べられると、温かい光がマリエルの掌に流れ込む。
──天恵イベント。
自己肯定感爆下がりのマリエルだったが
知恵と慈悲、そして人々を導く力。
その光は、近隣諸国の混乱や、攻略対象たちとの調整にも必要な力だと感じられた。
「これはあなたに授けられたもの。
人々の心を読み、混乱を収める助けとなるでしょう」
マリエルは光を感じながら深く息を吸う。
隣のキアンも、守るように微かに手を差し伸べ、見守っている。
(……これなら、きっと乗り越えられる)
扉の向こうに待つのは、近隣諸国のトラブルと、仲間たちとの調整。
だが、天恵を受けた今の彼女なら、恐れずに進める気がした。
聖堂を後に、朝の光の中を二人は歩く。
リオネルは少し離れた影の位置から、彼女たちを静かに見守っていた。
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隣国の城門をくぐると、迎えた領主たちの表情は硬く、警戒の色に満ちていた。
マリエルは天恵の光を胸に感じ、深く息を吸う。
その背後には、騎士ユージン、未来の宰相サイラス、幼馴染みの陽キャラ・キアンが並び、全員が緊張を押さえながら待機している。
「皆、準備はいいか?」
マリエルは小さく声をかける。
「任せろ!」ユージンが答える。
「私の知識で補佐する」サイラス。
「もちろん、守るよ!」キアン。
城内の会議室に案内され、マリエルは資料を広げ、領主たちに向かって話し始める。
「この地域の民は、税率や貿易制限に不満を抱えています。
戦を避けるためには、双方が納得できる形で調整する必要があります」
天恵が導く知識で、マリエルは領主たちの利害を瞬時に読み取り、各人の主張と弱点を見抜く。
サイラスは書類と数字で補足し、ユージンは守りの姿勢で会議を整える。
キアンはマリエルの言葉に沿って必要な情報や物品を差し出し、アンリエットは微妙な心理の揺れをフォローする。
「この提案であれば、貴族たちも体面を保ちつつ民を安心させられます。
そして、交易の利権も公平に分配されます」
ペペラペラペラペ~ラ
天恵の加護の力か、舌が滑らかに動いて納得させていく。
領主たちの眉間のしわが、少しずつ緩む。
誰もが納得する形を作り出すマリエルの智略は、まるで聖女そのものだ。
「……なるほど。君の言う通りにすれば、争いは避けられるかもしれない」
副官の一人が呟く。
議論は長引いたが、マリエルの天恵を使った判断力、そして攻略対象たちのサポートで、交渉は順調に進む。
ユージンの騎士としての威圧も、サイラスの理知的な言葉も、キアンの柔軟なフォローも、アンリエットの感情への共感も、全てが完璧に機能していた。
「これで一歩前進ね」
マリエルが微笑むと、周囲の仲間たちも安堵の笑みを浮かべる。
背後で、リオネルの影がいた。
リオネルは決して前に出ず、影から見守るだけだが、正規ルートを破壊した手前サポートせねばという責任感もあったが
その存在は確実にマリエルの智略を支えている。
「皆、よく頑張ったね♥️」
マリエルが小さく呟くと、攻略対象たちは頷き、連帯感が生まれた。
城門を出た時、朝の光に照らされた仲間たちの影は長く伸び、
まるで一つの秩序の象徴のように揺れていた。




