襲撃者
ワーカーオフィスの職員に遺物をネコババされたシド。
いつか仕返し話をかければな~と考えております。
翌朝目を覚まし、拡張視界に映された時間に目を向ける。
「6時40分・・・ね」
時間を認識し、起きるか二度寝を決め込むか少し考えた。
<おはようございます。気分は落ち着きましたか?>
しかし、イデアの挨拶で二度寝の選択肢は無くなった。
<おはよ イデア、まあまあ落ち着いたよ>
<それは良かったです。では食料を買って遺跡に行きましょうか>
<そうだな・・・・今日も一日頑張るか・・・・>
昨日の成果がふいになり、頑張ると口にしてもやる気が湧いてこない。イライラは収まっても、気落ちした分の気合までは上がってこなかった。
<今日は辞めておきますか?>
シドの精神状態を察したイデアがそう問いかけてくる。
<・・・いや!今日はモンスター狩りできっちり稼ぐ!バックパックを買わないと遺物持って帰れないし、銃も欲しいからな!>
そういい、無理やりに気合を入れてシドはベットから起き上がる。
<バックパックならワーカーオフィスで購入すれば良かったのでは?まだ前回の報酬が残っていますし、常時討伐依頼の報酬も25万コールほど振り込まれていますが>
<もうあそこで買い物したくない。どうしても必要なものであそこにしか売ってないっていうなら・・・・しぶしぶ我慢する>
<買わないのですね・・・>
<ワーカー相手の商人がいるなら装備も売ってるだろ?そいつらから買えばいいんだよ>
<信用できる相手ならいいのですけどね>
<そこは何とかなるだろ。こっちを騙そうとしてくるヤツを見分けるのは得意だ>
シドはスラム街で生きてきた経験上、自分に不利益を与えてくる様な相手には敏感だった。
あのスクラップ屋も、取引と言う点ではシドを騙したりしなかった。
昨日の失態は、シドが無意識にワーカーオフィスという組織を信用しており、オフィスの中で遺物をかすめ取られるなど考えもしなかったからだ。
<昨日の様な事にならない様に注意するさ>
<そうですか。私も出来るだけサポートします>
<おう、よろしくな>
宿で売られていた、防護服に備え付けのポーチに入るサイズの携帯食を購入し、遺跡に向かって出発する。
荒野を移動する際、体力向上の為走って移動する。
コーディネイトで向上した身体能力は凄まじい速さでの移動を可能にし、全力で走れば車ですら置き去りにするだろう。
短時間で荒野を走破し、遺跡にたどり着いた。少し弾んだ息を整え、遺跡の中を進んでいく。
<で、どうしよう。あんまり適当にうろつくのも良くないよな>
<そうですね。エリアを限定して活動しましょう。>
シドの視界に遺跡のマップが映し出される。自分の位置であろうマーカーから、少し離れた場所に黄色で表示されているエリアがあった。
<この辺りでモンスターを狩ればそこそこの収入になると思われます>
<なるほど。んで?今日の訓練内容はどうするんだ?また数匹相手に回避の練習か?>
<いいえ、今日はステルスキルに挑戦してもらいます>
<ステルスキル?>
<はい、相手に気づかれることなく仕留める事です。シドの場合、武器が双剣ですので通常より難易度は上がり、どちらかと言えばサイレントキリングでしょうか?まあ 訓練なので何事も挑戦です>
<了解>
シドは移動を開始し、イデアに質問し、インストールされた知識を引っ張り出しながら、足音や気配の消し方を練習しながら狩場に向かった。
<・・・・・・なあ、これって意味あるのか?>
シドはステルスキルの技術を高めるべく戦闘を繰り返していた。しかし、この辺りに居るラクーン種では、ただ全力で近づき一閃 これで戦闘が終了してしまう。
これで12体目。なかなかの戦果ではあるのだが、訓練としてはコレじゃない感が半端ない。
シドはこの行動には意味がないように感じていた。
<はい、シドが踏み込みや体勢を意識した結果、発生する音量が12%減少しています。次は空間把握で空気の流れを掴んでください。その流れに逆らわず動くことでさらなる静音効果が期待できます>
<・・・・わかった>
昨日の訓練でだいたいの感覚を掴んだ空間把握だが、まだ空気の流れを掴むほどの精度はなかった。
だが、これも訓練。やっていかなければ何時までたっても習得できない。シドは自分が認識できる範囲に意識を集中させ、次の獲物を求めて移動していく。
<・・・・今回は気づかれたな・・・なんでなんだ?>
シドは今しがた仕留めたラクーン種を見ながらそう思う。
<風上から向かったせいですね。ラクーン種は嗅覚が優れた種族ですので>
<いや、風に逆らわずに動こうとしたら、普通風上からしか無理だろう>
<空気は一方向のみに流れている訳ではありません。大まかな流れはありますが、その中にはバラバラの方向に流れている物も存在します。そしてそれらがぶつかり合い渦を巻いている箇所もあります。それらの流れに逆らわず、流される様に移動するのです>
<・・・・・・・・・・いや、意味がわからん>
<次は私がサポートします。指示通りに動いてみてください>
暫く歩き、次の獲物を見つけた。
それは他のラクーン種に比べると大きく、背中には4本の機銃が生えていた。
そして、その足元にはバラバラの肉片が散らばっていた。
他のワーカーがやられたらしい。食い散らかされて体のパーツや装備が散らばっている。
<うげっ>
シドはスラムで人の死体はいやほど見てきたが、ここまでバラバラにされたものを見るのは初めてだった。
<足元の状態が悪いですね>
<いやそうじゃなくて>
イデアのAIらしい感想に思わずツッコむ。
<しかし、やることは変わりません。時間圧縮と空間把握を強く意識してください>
そういわれ、シドは意識して空間を把握していく。瓦礫の位置・地面の状態・モンスターの体勢・地面に散らばった人た・・・いや小さい障害物。それらを把握しきった時視界に進むべきルートが表示される。
そのルートに逆らわず、シドはモンスターに向かって飛び出した。
圧縮された時間の中で、イデアの指示するルートを辿っていく。すると今までは空気の壁を突き破って進んでいく感じだったのだが、その圧迫感が無かった。空気自体が自分を避けていくような感覚を覚えこういう事かと納得する。
実際の時間では1秒程度の時間の中でシドは多くの事を学んだ気がした。
相手に気づく余地すら与えずに接近し首を刎ね飛ばす。モンスターの体はいきなり脳からの信号が途絶え、一瞬硬直したあとゆっくりと崩れ落ちる。
<如何だったでしょうか?>
<いや、うん・・・凄いな。俺がいままでどれだけ力任せだったかが分かった>
<はい、今の感覚を覚えていてください。意識して行動すれば、いずれあれ以上の精度で行動できるでしょう>
<そうか・・・うん、頑張るわ>
<衝撃波での攻撃の防御にも使えます。意外と応用が利く技術でのすので、しっかり体得してください>
衝撃波で攻撃してくる敵ってなんだよ、と思ったが何も言わず、頷くだけに留めた。
日が高く上り、時刻は正午を指す。
訓練で得たほどほどの疲労感が体に巻き付き、体が重たく感じる。
<シド、時間もちょうど昼時です。昼食にしましょう>
<そうだな、どっかで適当に食うか>
シドは、適当な廃ビルに入り腰を落とす。そしてポーチに入った携帯食に齧り付いた。
モグモグと咀嚼し飲み込む。つい最近まで食べていた廃棄物レーションとはレベルの違う食事に頬がゆるむ。
<やっぱコレ美味いな>
<安易な携帯食ですが、よく考えられた栄養配合です>
見た目や持った触感は硬く、噛み砕けば口の中の水分を根こそぎ持っていきそうな印象をうける携帯食だが、実際口にいれると柔らかく嚙みちぎる事が出来、中から水分を含みしっとりとした食感が伝わってくる。
これ一つで栄養と水分を一緒に取ることが出来、極度の脱水症状などで無ければ問題なく喉の渇きも癒してくれる優れものだった。
<あの宿はすばらしいな、お礼したいくらいだ>
<お礼の代わりに対価を支払っています。このまま礼節を保って滞在すればそれで良いかと>
念話でそんな会話をしながらも口は止まらない。続けて2つの携帯食を平らげて一息つく。
「ふぃ~」
<んで、どうしようかあいつら>
<気づいていましたか。2人組ですね>
昼食を取る場所を決める為、遺跡の中を徘徊している時から、何者かがシドの跡をつけてきたのだ。
何気なく食事を始めたが、何かしらのアクションがあるのでは?とシドは彼らを空間把握で監視していた。
この程度の事なら問題なく行えるようになっていたのだ。
<特に近寄ってくるような事はしないんだよな~。何が目的なんだか・・・>
<恐らく、昨日の騒ぎを見ていたのではないかと。シドが遺跡から遺物を発見し、さらにその場所にはまだ遺物が残っていると判断したのでしょう>
<あ~、結構大きい声で騒いだからな・・・>
昨日の事を思い出し、シドは顔をしかめる。確かに焦りと怒りから周りに気を配る余裕がなかった。
大声で、自分は遺跡から遺物も運んできた・場所は秘密=その場所にはまだ遺物が残っている・
と言う事を宣伝した様なものであった。
今日はあの場所に行くつもりはない。が、このまま帰っても相手が諦めるかどうかは分からなかった。
<しょうがない。ちょっと釣るか>
<釣る ですか>
<そ、それらしい動きをしてさ、相手がどういう行動を取るか確認するんだよ。その行動次第で釘を刺すのか止めを刺すのか考える>
<なるほど、どの様に釣るのですか>
<それはな・・・・>
二人組のワーカー視点
昨日ワーカーオフィスで騒いでいたガキを見つけた二人組のワーカー達は、ガキが入っていったビルを監視していた。
「おいビル。こんなまどろっこしい事してねーでよ、さくっと痛めつけて遺物の場所吐かせればいいじゃねーか」
「あいつがただのガキならそうするよ。でもよ、なんかドッサリ遺物運んだみたいじゃねーか。どっかのチームに所属してたって事なら、俺たちの方が危ねーよ」
「まーそりゃそうなんだが・・・そんな感じじゃねーぞ?」
「ちょっと前に見つけたんだ。もうしばらく様子を見ようぜ?完全にソロだと分かった時点で話を聞きに行けばいいさ」
「なるほどな・・・っと、出てきたぞ」
二人はビルから出てきたガキに注目する。
ガキは二人に気づいた様子も無く遺跡の中を一人で進んでいく。
しばらく監視していたが、誰とも合流する様子は無く、誰かと連絡を取っているような素振りもない。
二人はガキが完全に単独で遺跡に来ていると確信する。
しばらく尾行していると、ガキは辺りを窺いながらビルの中に入っていった。
「おい!あそこなんじゃねーか?!しきりに周りを確認してたしよ!」
「そうっぽいな・・・しかし、後から他のワーカーと合流するかもしれねぇ・・・」
「んなわけねーよ!完全に一人だ!早く行こうぜ?遺物の場所を吐かせてガッツリ儲けようじゃねえか」
「・・・・・・んじゃこうしよう。お前がガキを追いな。俺は他のワーカーが来ないか入口を監視する」
「なんだそりゃ?俺一人で行かせようってのか??」
「役割分担って奴だよ。二人で追ってもしヤツに仲間が複数いたらヤバい。俺が外に居れば、誰かが来ても直ぐにお前に連絡できる。それともなにか?あのガキ一人 お前の手に余るってのか?怖いんなら手伝ってやらんでもないがな」
「ふざけんじゃね~!俺一人で行ってくらー!」
そういい、男の片割れはビルの中に入っていった。
(・・・悪いなワッカ・・・お前にはカナリアになってもらうぜ・・・・)
ワッカはビルの中に入りシドを探す。
ガキ一人が出入りする場所だ。そう危険な場所では無いはず。そう判断し、ほぼ無警戒で奥に進んでいく。
情報収集機でビル内を検索する。すると上の階の一室で、何やら作業をするガキの影を発見した。
ワッカはニィっと笑い。二階への階段を上っていく。
薄暗く、埃が舞うビルの中を進んでいき、索敵装置で表示されているガキのいる部屋までたどり着く。
中を覗くとこちらに背を向け、なにやらゴソゴソとしているガキが目に入る。
ガキを銃で狙い声を掛けた。
「おい ガキ」
ガキが声に反応して振り返る。
暗くて表情は良く分からない。だが、装備は防護服のみで銃は持っていない。腰に剣をぶら下げているが、銃と剣とでは射程が違いすぎ警戒に値しない。
「おめーこんな所でなにしてんだ?」
ガキは無言で返す。
・・・・・・・・・
「まあいい。お前、遺物のある場所知ってるよな?そこまで案内しろ」
「あそこにはもう遺物はないよ、全部持って帰ったからな」
「嘘だな。全部持って帰ったんなら場所を秘密にする必要はねぇ。あの時のお前の反応はまだ遺物が残ってて、その在処を人に知られたくねーって反応だった」
「・・・・・・」
「正直に言えよ。死にたくねーだろ?」
「言わなきゃ殺すのか?」
「おう、お前が素直になるまで痛めつけるだけだがな。そんな状態で遺跡から帰れると思うなよ?」
「そうか・・・」
「どうすんだ?案内すんのか、痛めつけられて案内すんのか。どっちがいい?」
「殺されるのは嫌だ」
「そうかそうか。んじゃ何処にあるのか・・」
「だから…抵抗させてもらう」
ガキは手に持っていた瓦礫の破片を投げつけてくる。
「!!!」
飛んで来る破片を避け、ガキに向かって発砲した。
しかし、ガキは器用に弾丸を避けこちらに向かってくる。急いで照準を合わせ、引き金を引くが当たる気配がない。
(クソが!)
思わず悪態をつくが、ガキが素早くこちらの懐に入り込み足を蹴り上げられた。
床に転がり、身を起こした時にはガキは廊下の奥に走り去った後だった。
「クソが!」
今度は声に出し悪態をつく、おそらくスラムのガキであろう相手に転がされ逃げられたのだ。頭に血が上り、急いで追いかけようとした所、ビルから連絡が入った。
『おいワッカ!何があった!』
「ガキに逃げられた!あの野郎!ぶっ殺してやる!」
『何やってんだよガキ一人に・・・俺もいってやろうか?』
「いらねーよ!そこで待ってろ!」
通信を切りガキを追いかけ走り出した。
シド視点
シドはワッカを転がした後、さらに階段を上り3階に到着していた。
<よしよし、だいぶ頭に血が上ったみたいだな>
<シド、先程の部屋の入り口で、すれ違った時に仕留められたのではないですか?>
<出来たよ。でも、できればもう一人も釣りたかったんだ>
<なるほど、しかしそちらは失敗しましたね>
<そうだな~、あいつに止められちゃったよ。もう一人の方は後から考えようか>
シドは空間把握によって相手の動きを正確に把握していた。
当然、ワッカ達の通信内容も聞こえており、こちらに一人で向かってきているのも分かっている。
相手は情報収集機というものでシドの位置を把握しているようで、一直線に向かって来ていた。
<随分便利なものをお持ちの様で・・・・俺にも買えるかな?>
<シドには空間把握能力があります。必要ありますか?>
<いや、今後他の人と一緒に探索する可能性もあると思うんだよ。その時に便利かなって思ったんだ>
<なるほど、ワーカーは基本2人以上で行動している様ですからね。シドの能力を隠すカモフラージュにもなりそうです>
<そうそう・・・っと来たな>
ワッカが3階に上がって来た。
相手はシドに碌な攻撃手段が無いと思っている。
こちらの戦力を全く警戒せずに近づいてきた。
ワッカが曲がり角にたどり着くタイミングに合わせて、シドは時間を圧縮し駆けだす。
午前中に体感した、風を避ける動きも拙いながらも再現し角まで移動すると、こちらに向かっていたワッカが現れる。
角を曲がるときに銃を構え、通路の奥にいるであろうシドを撃とうとする。が、シドは既にワッカの懐に潜り込んでおり、右手に持つ剣を一閃した。
旧文明製の剣が異常な切れ味を発揮し、ワッカの両腕と首を切断する。
ワッカの意識は自分が切られた事すら認識できずに途切れたのだった
ブックマークと評価を頂ければ幸いです