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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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双剣で戦闘 そしてトラブル

シドは遺跡外周部まで来ていた。昨日購入した装備を身に着け背中にはバックパックを背負っている。

両腰に旧文明製の双剣を取り付けワーカーらしい恰好である。


すぐに遺跡に入らないのは、防護服の稼働確認と双剣の振り心地を確認する為だ。

双剣を両手に構え、基本的な動き方の確認をしている。インストールされた知識のおかげで、本来難しい正確な刃筋を立て、剣を振るうことが出来ていた。


<ふぅ、大体こんな感じか?>

<そうですね。防護服の可動範囲はいかがでしょう?突っ張ったり引っかかったりしませんか?>

<問題ないな。蒸れて暑いって事もないし、動きの邪魔にもならないよ。バックパックもほとんど気にならないしな>

<バックパックには昼食しか入っていませんからね。遺物を入れて重量が増せば、その分負荷は大きくなるでしょう。急激な動作が必須の戦闘が予想される場合は、降ろして戦うのが良いと思います>


ある程度の確認を行った後に、シドは遺跡の中に向かう。


遺跡の防壁を超え、前回遺物を収集した地下室を目指す。その道すがらモンスターを発見すれば戦う。という予定を立てていた。


そして、シドはモンスターを発見する。


ラクーン種の背中に2門 砲身を持つ個体だ。シドが遺跡外周部で戦ったのと同じタイプの様である。

<んじゃ、やるか・・・・危なかったらサポートよろしくな>

<承知しました。落ち着いて行動すれば問題ありません>


シドは気配を殺し、慎重に近づいていく。そして一息で詰められる距離まで近づいたら、時間圧縮を行い一気に距離を詰め切りかかった。


強化ラバーのソールは正確に地面をグリップし、前に進む力を十全にシドに与えた。


シドは一瞬でラクーン近づき、双剣を上下から首に目掛けて振るう。旧文明製の双剣は僅かな抵抗も感じさせずその首をね飛ばすことに成功する。

噴き出す血を被らない様、後方に下がり残心する。追加のモンスターが現れない事を確認して残心を解く。


「ふーーー。なんかあっけなかったな・・・」

<この剣すごいな。ほとんど切った感触がなかった・・・空振ったかと思ったぞ>

<現代製の刃物に比べれば、切れ味と頑丈さは段違いです。同じ程度の物を買おうとすると1000万は必要になるかと>

<おっふ・・・その金で銃を買えば・・・>

シドはまだ銃を諦めきれなかったようだ。

<シドのランクでは購入できません。高レベルの剣を売って、低レベルの銃を持つ、では意味がないでしょう。本末転倒です>

<そうだな・・・・でもいつか!>

頑張れシド。その日は遠くない。


<これってこのまま放置でいいのか?>

<はい、情報端末からシドがこの場所でラクーンを討伐したデータがワーカーオフィスに送られています。その為に常時討伐依頼を受けたのです。あとでスカベンジャーチームが回収しに来るでしょう>


常時討伐依頼とは、ワーカーオフィスから常時発行されている依頼の一つである。

遺跡や荒野などで遭遇するモンスターを討伐し、その種類や量によって報酬が支払われる。


この依頼が出されている理由としては、遺物の収集のみを目的とされ、緊急時やどうしても排除しなければならないモンスター以外は無視されてしまうからだ。銃弾を使用し、討伐してもタダではワーカー達は戦わない。そうなれば、生物系だろうと機械系だろうと無制限に増えてしまい、最終的には遺跡から溢れ出てくる。


俗にいうスタンピードである。


その場合、モンスター達が目指すのは人が大勢住むダゴラ都市になる。防衛観点から間引きの意味も込め、防衛予算からその費用を捻出していた。そして倒されたモンスターはスカベンジャー達に回収され、研究機関に持ち込まれる。

この様にして常時討伐依頼は回っているのだった。


<そうか、じゃ気にせず狩れるだけ狩ってみようか>

<はい、油断せずに行きましょう>


こうしてシドは、目的地へ向かって進んでいく。


目的地のビルの近く、シドは5匹のラクーンと戦っていた。

種族特有の多彩な武装でシドを攻撃していた。機銃・グレネード・ライフル・中には小型ミサイルを撃つ個体もいる。

その攻撃をシドはイデアのサポートを受け悉く躱していた。時間圧縮を使い、ある程度使えるようになった空間把握で射線を予測する。イデアは攻撃の予兆や爆発による余波の影響範囲などをシドに送り、効率的な回避ルートをシドの視界に映してサポートしていた。


一体も倒さず逃げ回っているのは、これは訓練だからである。シドの空間把握能力はまだまだ低く、なんとなくでしか把握できていない。実際の戦闘での緊迫感は、能力の必要性をまざまざと実感させシドの集中力を高めさせていた。


<そろそろでしょう。これ以上時間をかければ、不必要な危険を招く恐れがあります>

<!・・・・わかった!>


イデアから許可が出たため、ラクーンを殲滅せんとシドは攻勢にでる。

まずは、鬱陶しく機銃で弾丸をばら撒く個体に狙いをつける。前傾で加速し、身を低くする事によって被弾面積を小さくする。当たりそうな弾丸を躱し、避けきれない物は双剣で弾きながら一気に距離を詰め首に一閃、ラクーンの首を刎ねた。

自由落下するその首を蹴り飛ばし、もう一体にぶつける。衝撃で体勢を崩すその個体に近づき、同じように首を落とした。

(後3体!)

横並びでこちらを狙う、大型の砲身とライフルを持つ2体のラクーンの方を向く。このタイプは銃身が大きいためこちらを狙うのが遅い。左側に一瞬で移動し、2体の首下を通り抜ける。首の下を通る際に体を縦に回しながら双剣を一度ずつ振るい、ラクーンの頸椎を切断した。脳からの指令が途切れ、2体は崩れ落ちる。


最後は小型ミサイルを搭載した個体だ。訓練中コイツの攻撃が一番やっかいだった。

爆発の規模が大きく、まき散らされる破片が防護服にガンガン当たる。

そして誘導弾の名の通り、こちらを追尾してくるのだ。

近接信管ではなく接触型の信管だったらしく、近づいただけでは爆発しなかった為、イデアに<誘導用の羽根を切り落とせば無力化できます>とアドバイスを受けたが、<ふざけんなチクショー!>と返したシドを否定できる人間が何人いるだろうか。

しかし相手は旧文明製の為高性能だ。やらなければいつまでも追ってくる。時間が経てば再装填され数が増えるオマケつき。ヤケクソ気味で、飛んで来るミサイルの誘導羽を切り落とすという離れ業をやってのけたのだった。


その個体の背中に新しい誘導弾が装填されようとしている。

それを見たシドは一気にカタをつけるべく、額に剣を突き立てた。

脳を破壊され司令塔を失った体が痙攣し、音を立てて倒れる。


5体のラクーンを倒し切り、双剣についた血を血振りで振り落とす。


<よし!勝った!>

<お疲れ様です。良い訓練でした。最後の方では動きも洗練されてきていたと思います>

<ああ疲れたよ。ミサイルの羽根切り落とせって言われた時はどうしようかと思ったけどな!>

<出来たではありませんか。今の時間圧縮の精度を考えればさほど難しくはありません>


ゆっくりに見えていても直撃すれば吹き飛ぶミサイルの羽根を切るのは怖い。怖いったら怖い、異論は認めない。


<こっからは遺物収集だ!今回はバックパックもあるし多めに持って帰ってもいいんだろ?

<はい、入るだけ持って帰りましょう>

<よっしゃ!>

シドは気合を入れてビルの中に入っていった。

夕方、遺物の収集を終わらせ、その荷物を担いだ状態での戦闘訓練(イデア監修)を行いシドは都市まで帰ってきた。


そして買い取りカウンターまで来たのだが・・・・今日は数人のワーカー達がカウンターに群がっている。


その光景を見て、バックパックに詰め込んだ遺物を彼らに見られるのはどうなんだ?と二の足を踏んでしまう。


<どうする?>

<大丈夫でしょう。バックパック毎渡せば何が入っているかは他者からはわかりません。買い取り金額も口頭ではありませんし。端末を見られない限り問題ないかと>

<・・・・そうか、わかった>


シドは出来るだけ他のハンター達から離れた受け付けに向かう。

「買い取りをお願いします」

「・・・・ライセンスをお願いします」

昨日とは違う職員が立っており、彼にライセンスを渡す。

「・・・・・では、買い取る物をお願いします」

シドはバックパックを外し、カウンターの上に置いた。

「中身全部お願いします」

「・・・コレは全てあなたが収集した遺物ですか?」

彼は中身を見てそう聞いてきた。

「はい、そうですけど?」

「これをあなた単身で見つけてきたと・・・何処で見つけたのですか?」

訝し気に目を眇め、そう問いただしてくる。

「遺跡です。・・・・場所は言えません」

職員はフンと軽く鼻で笑うと「やはり」と零す。

「不正の疑いがあるので、こちらは買い取ることはできません」

「は?」

「あなたの様な第三区画の子供が、単身で遺跡に行き、大量の遺物を発見する。そのような事を信じる者がいるとでも?大方、スラムの犯罪組織が後ろ暗い品を片付ける為に持ってこさせたのでしょう。居るんですよね~、たいした実力もない癖に変な所にだけ知恵が回る連中が」

「ちが!!これはちゃんと俺が遺跡から持って帰ってきたんだ!!」

「ですから、どこで見つけたのですか?・・・と聞いているのです。遺跡で発見したのなら場所のデータがあるはずです」

「それは俺の飯のタネだろう?!そんな事言うヤツいないだろ!」

「こちらで調査し整合性が取れていると判断されれば対価をお支払いします」

「!!!!!」

あそこは未発見区画だ。まだまだ遺物が残っている。そこに調査等入れば中の物は全てワーカーオフィスに回収されてしまう。整合性が取れれば金を払うと言っているが、相手の目を見ればわかる。難癖をつけて結局金は支払われないだろう。

「クソ!もういい。返せ!」

シドはバックパックに手を伸ばす。

「だめです。これ等は不正の可能性がありますので、こちらで預からせていただきます。バックパックも同様です。どの組織から支給されたものか、調べなければなりませんので」

「ふざけんな!それは俺が買ったんだよ!!」

「御冗談を・・・これ一つでも15万コールは下りません。スラムの子供が買える品では無いのですよ」

「ここの2階で買ったんだよ!俺の購入履歴くらい残ってるだろ!」

「それも含めて調査させていただきます。最近は不正の巧妙化も進んでいて、手が掛かかって仕方ありません。今後はこのような事の無いように。・・・あ~流石に防護服まで脱げとは言いませんよ。私はあなた達の様な追剥ではありませんので。裸でウロつかれても迷惑ですし」


このままだと遺物もバックパックも持っていかれてしまう。あれは命がけで手に入れた物なのだ。頭に血が上り、目の前が真っ赤に染まった。

無意識に腰の双剣に手が伸びる。

<シド!!やめて下さい!!>

イデアの声が聞こえ、体が動かなくなる。イデアが運動神経を制御し、剣に手を掛けるのを止めさせたのだった。

その様子に気づいた職員は


「これ以上騒ぐようなら、警備の者を呼びます。早く出て行ってください。あぁ、これは返しておきますよ、あなたには、大事なモノでしょうし」

そういうとワーカーライセンスを投げ渡してくる。そしてバックパックを抱え、建物の奥に消えていった。

追いかけて一寸刻みにしてやりたい。腹の奥から湧き上がる黒い感情が体に染みわたっていく。

あれは己の命を懸けて探索してきた成果だ。それを言い掛かりで持っていき、対価も支払わない。それは自分の命に価値などないと言われているのと同義だった。

我慢ならない。全身を震わせイデアの制止を解こうとする。

<シド。落ち着いてください。これ以上は無理です>

<落ち着けるか!!!!アイツは遺物だけじゃ無く俺の物まで持っていきやがった!!>

シドはイデアの拘束を振り切ろうと、全力で力を籠める。

<ここで騒ぎを起こせば、またスラムに逆戻りです。大丈夫です。遺物の売り先は他にもあります>

<・・・・・・>

そう言われ、怒りは全身を駆け巡っているが取り合えず体の力を抜く。

<ワーカーランクは上がりませんが、流れの商人がワーカー達から直接遺物を購入している場合があります。そこに持ち込みましょう>

<・・・・・わかった。・・・・イデア、あいつの名前を調べおいてくれ・・・>

<承知しました。ワーカーオフィス所属のイザワ と言う名前の様です>

<・・・・イザワ・・・わかった。今日はこのまま帰るだけか?常時討伐依頼の報酬まで払われないって事はないよな?>

<それは大丈夫です。データは提出していますので、翌日に自動で振り込まれます>


シドは息を吐き、腹に溜まった感情も吐き出す。

一旦ここは引いて、いつか目にもの見せてくれる。そう意気を籠め壁の向こう側にいるイザワをにらみつけていた。




宿に戻り、消えないイライラを食事と入浴で誤魔化し、イデアを明日の相談をする。

<明日はどうする?モンスター狩りで稼ぐ方がいいか?>

<そうですね。この都市を拠点に動いている流れの商人を見つけるまでは、その方向で問題ないでしょう>

<クソ!あの遺物が金になっていれば装備も追加できたのに!!!>

シドの中で怒りが再燃する。

<シド、悔しいのも分かります。忘れろとは言いません。ですが、切り替えてください。そのままの精神状態で遺跡に向かうのは危険です>

<分かってるよ。それでも今日は無理だな・・・・>

<それなら、早めに就寝してください。訓練で疲労が溜まっているはずです>

<・・・・そうするか>


そう言い、シドはベットに倒れ込む。イデアと出会い、何だかんだと有ったがここまでは順調だった。それが今日、思わぬ所でケチが付きシドの中ワーカーオフィスの評価が地に落ちる。

心の中で、あんな連中の利益になることなどするものかとも思う。

それでも金は稼がなければならない。常時討伐は受けつつ、遺物はその他の所で売りさばこうと考えながらシドは眠りについた


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― 新着の感想 ―
最初に買い取り担当してくれた職員はこんなコスいことしなかったしアタリだったんですね スラムの出張所だから質の低い奴の左遷先にもなってるんだろうなぁ
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