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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
72/214

戦闘を終えて

シドとライトが5番地点に戻って来ると、少年少女のワーカーが喧嘩をしており、レオナがそれを仲裁しているようだった。

ヤシロが項垂れ、ドンガがそれを慰めるという、ある意味カオスな空間にシド達は足を踏み入れる。

「ヤシロさん・・・・ん?なんだ?この空気?」

「ほんとだ、なんで喧嘩してるの?」


その声にヤシロとドンガが振り向き、一瞬硬直する。

シド達が通路の奥で戦っていたことは知っているはずなので、そこまで驚くことあるか?と考えてしまう。

「おい、シド・・・お前が引きずってるのはオートマタか?」

ヤシロの目は、シドが引きずって持ってきたオートマタの上半身に釘付けだった。

「ん?はい、そうですよ。かなり強かったです」

「ラ、ライトちゃんの方も?」

ドンガはまだ動揺が収まってない様で声が震えていた。

「はいそうですね。シドさんが持ってるヤツの下半身です」

ライトは、ほらっと言うように二人にオートマタの下半身を見せる。

「お!お!お前等!オートマタって!!!・・・・そいつ武器か何か持ってたか?」

「はい、レーザーガンみたいなのを持ってました。残骸は回収してあります」

「!!!!・・・わかった。お前らは俺と一緒に本部に帰還だ。ドンガはレオナと一緒にここの防衛を補佐してくれ。本部にはアイツらの交代要員を要求する」

「わかったわ。交代要員は彼らから出してもらった方が良いんじゃない?」

ドンガはそういいながら、天覇所属以外のワーカー達を指す。

「・・・・そうだな。すまないが、こいつら5人の交代要員を本部に要求してもらえないか?理由は使い物にならなかったと言ってくれていい。交代が到着するまでは、この2人がアイツらの代わりに残る」

「わかった。それでいい」

ワーカー達も異存はないのかヤシロの提案を受け入れる。

「ヤシロさん!なんであんたが勝手に決めるんだ!!」

こちらの話が聞こえていた様で、カズマは激高しながらヤシロに詰め寄った。しかし、ヤシロはカズマに返答するのではなく、左拳でカズマの顎を殴り昏倒させる。

「・・・すまなかった。コイツはこのまま回収する」

ヤシロは他のワーカー達に頭を下げ、シド達を促す。

「レオナ、そう言う訳だから後は頼む」

「了解。交代要員が来たら私たちも直ぐに帰還するから」

「ああ」

ヤシロはそれだけを言い、カズマを担ぎ本部へ帰還していく。シドとライトもヤシロの後に続き、オートマタの残骸を引きずりながら5番地点から出ていく。


その場に残されたワーカー達は呆然とその背中を見送り、誰もが無言だった。


暫くしてワーカー達が小声で話し出す。

「・・・・なあ、あのガキ共・・・・オートマタ持ってなかったか?」

「偶然だな・・・俺にもそう見えたぞ?」

「・・・この遺跡ってオートマタが出るのか???」

「・・・・いや・・・討伐は無理だろ?東方の高ランクハンターでも苦戦するって聞くぞ?」


見知らぬワーカー達がシド達が持っていたオートマタの残骸をみてざわつき始める。

「・・・はあ~・・・これから大変な事になりそうね・・・」

「そうだね、まあヤシロがうまい事やってくれる・・・かな?」

「上手くやっても大事には変わりないわ」

レオナとドンガも今後の展開は読めなかった。


シドとライトはヤシロと共に帰還し、本部の一室に通されていた。

ちなみにカズマは最後まで目覚めず、ヤシロによって医務室に放り込まれていた。

「いいか?俺はギルドの事でちょっと連絡を取って来るから、職員が来ても俺が戻って来るのを待てよ?いいな?」

と、ヤシロは随分と念押しして会議室から出ていった。


「・・・なんか大事になりそうだな」

「オートマタだもんね。一般用をワーカーオフィスに持ち込んだ時も統括が出てきたくらいだし」


シドとライトは担当者が来るのを大人しく待つ。

案内された時に渡された飲料ケースから突き出たストローを咥え、中身を吸いながらボ~っと待っていた。

1時間は経っただろうか?扉が吹き飛ぶような勢いで開き、そこには物凄い形相のキクチが立っていた。

(担当者ってお前かよ・・・)

(ダゴラ都市からこの短時間でどうやって来たんだろ?)

形相から見て怒り狂ったキクチが登場しても、お代わりしたケースから伸びたストローを咥えたまま迎えるシドとライト。

「呑気にドリンク啜ってんじゃねーよ!!!」

入って来るなり大声で怒鳴るキクチ。彼はシドとライトがまたオートマタを討伐したとの報を受け、[シド達の担当者]として高速艇でキョウグチ地下街遺跡調査拠点に呼び出されたのだった。

「そう言われてもな~・・・」「やることないですし・・・」

シドとライトは[今日の任務は終了モード]に入っており、先程の激戦もあって完全に気が抜けていた。

「軽いんだよ!!!いつもいつも!!!大事なんだよ!!南部では目撃例が無かったオートマタがこの短期間で2体も出たんだぞ!」

「そんなこと言われてもな~・・・・」「襲われたら仕方ないよね?」

「・・・・・・・スーーーー・・・ハーーーーーー・・・・・そうだな・・・お前らは悪くない・・・済まなかったな」

キクチは深呼吸を行い気を落ち着け、シド達に非は無いと謝罪する。

「で?どんな状況であのオートマタと戦ったんだ?」

「ええっと、天覇のヤシロさんって人に、俺が帰って来るまで待てって言われてるんだけど」

シドはヤシロに自分が戻るまで待てと言われたことを説明する。

「・・・・ヤシロか・・・あいつも絡んでるってのか?」

「戦ったのは俺達だけど、あの時はヤシロさんの調査チームに配属されてたから」

「なるほどな・・・一応、アイツも待つか」

キクチは椅子に座り、懐から回復薬を取り出し飲み込む。

「調子悪いんですか?」

ライトはキクチの様子に心配そうに声を掛ける。

「・・・・・ちょっと忙しくてな。しばらく寝てない」

「それは・・・お大事に・・・」

ライトがそういうと、再度扉が開きヤシロとレオナが入って来た。

「おうシド、待たせたな・・・ってキクチ。なんでお前がここにいるんだ?」

ヤシロは部屋にキクチが居ることを不思議そうにする。

「コイツ等の担当が俺だからだよ。都市から派遣されたんだ」

ヤシロから見て、以前会った時と比べてやつれているキクチに、シド達が他でもヤラカしていると判断した。

「・・・・大変だな」

「本当にな・・・」

何やら分かり合っている雰囲気を出すヤシロとキクチ。そこにレオナが「そろそろ話さない?」と声を掛ける。

「そうだな、まず2人も座ってくれ。シド、オートマタと戦った経緯を教えてくれ」

ヤシロとレオナが席に着き、キクチはシドに視線を向け、今日の戦闘に経緯を聞いてくる。

「えっと、5番地点に帰る途中、俺達の後方からモンスターの群れが襲い掛かってきて、俺とライトがその迎撃をする為にその場に残ったんだ。そいつらを粗方全滅させたら、その後ろからあのオートマタが出てきて戦闘になったって感じだな」

シドはその時の状況を簡潔に説明した。

「どこから現れたか分からなかったか?」

キクチは出現状況の確認を取ろうとする。

「ん~、ライトはどうだ?情報収集機のデータに残ってないか?」

シドは自分の体感でしかモンスターの把握が出来ない為、データに残せるライトに聞いてみる。

「一応あるけど、索敵範囲外の通路から歩いてきたって感じだったよ?」

ライトはそういい、情報収集機からその時のデータを記憶媒体に移し、キクチに渡す。

「助かる・・・それで?オートマタの脅威度はどのくらいだった?」

「脅威度って言われても分からないけど・・物凄く強かった。俺とライトが2人がかりでやっと倒したって感じだな。俺は頭を割られたし」

キクチはシドとライトの戦闘能力がどれくらいあるのかは大体把握している。その2人が苦戦すると言う事は、ここに来ているワーカー達の殆どが太刀打ちできないと言う事になる。

「どうやって倒したんだ?いや、ワーカーの飯のタネだって事は分かってるぞ?ただの興味本位だ」

ヤシロがそうシド達に聞いてくる。

「ええっと、シドさんがAS弾頭でシールドに穴を開けて、ボクがその穴にハンター5専用弾を撃ちこんだんです。あのオートマタのエネルギーシールドは全周を囲うタイプだったんで、シールドの中で爆発されたら撃破できると思ったんですけど・・・」

「アイツ、それにすら耐えたんだよ。銃は破壊出来て、全身のカバーはボロボロに出来たんだけど、稼働に問題無くて。そのまま接近戦になって、俺が動きを止めた所をライトが特殊弾を撃ちこんで胴体を真っ二つにしたって訳」

「ほぉ~・・・」「それはまた・・・」

ヤシロとレオナは表面上冷静にしているが、内心驚愕していた。AS弾で開けたシールドの穴に専用弾を撃ちこむなど、止まっている標的でも難しい。オートマタとは例外なく高速で動くはずなので、本来なら不可能なはずだ。しかし、この二人はそれを行った。恐らくは博打要素が強かっただろうが、それしか勝つ方法は無いと考え賭けに出た。そして勝ちをつかみ取ったのだろう。

「あ、そういえばこれの提出忘れてた」

ライトがそういい、バックパックから取り出したのは、オートマタが使っていた銃だった。

それは、現代製では見ない形状をしていて、丸みを帯びた銃身があり、その反対側に手を差し込む形で使用する様だ。

へしゃげていて、分かりにくいが、エネルギーパックの様なモノも取り付けられていて、現代製のどの種類にも該当しない形状になっている。

これは紛れもなく旧文明製の兵器であることは見て分かった。

「コレをあのオートマタが使ってたのか?」

キクチがそう聞き、ヤシロとレオナも興味深そうに見つめる。

「そうだな、エネルギーガンって言うのか?実弾じゃなくて細長のエネルギー弾を撃って来た。DMDのシールドも貫通して装甲も削られた」

シドはエネルギーガンで撃たれた箇所をキクチに見せ、この銃の性能を簡単に説明する。それでキクチはこの銃の貴重性を十分に把握した。

南方面の遺跡で、旧文明の兵器が発見されたことは今まで無い。しかも、東方で使用される防護服の性能を軽く上回る威力を持つ兵器など、東方でもなかなかお目に掛かれない。しかし、この銃が発見され、それを装備していたあのオートマタは戦闘用の機体であることは間違いなかった。

この事実は、この地域一帯の遺跡の価値が格段に跳ね上がる事を意味する。そしてその危険性も。

東方をメインに活動しているワーカー達の誘致も考えなければならない事態に発展しそうで、本来ならランク50を超えると東方や北方に拠点を移すワーカー達をダゴラ都市周辺に留める事も出来るようになるかもしれなかった。

キクチの頭の中に様々な可能性が生じ、そしてそれを処理するのは自分の仕事になりそうな予感を覚え、キクチは大きなため息をつく。

その様子を見たヤシロとレオナは、これからキクチの業務が大幅に増えることを見抜き、励ましの言葉を掛ける。

「まあなんだ・・・頑張れよ」

「うん、体に気を付けてね」

「・・・・・手伝ってくれるか?」

キクチは縋るような目でヤシロとレオナを見る。しかし、2人はスっと目をそらし、あらぬ方向を見る。

ガックリと項垂れたキクチはこれからの処理を考えるとまた当分家に帰れないと考えた。

シドとライトは3人の様子を不思議そうに眺め首をかしげる。

<この銃でなにを頑張るんだ?>

<新技術なら喜ぶところじゃ?>

<恐らくこの遺跡の重要性が上昇し、その手配にキクチが走り回ることになるのでは?と予想します>

イデアの言葉に、(ああ、なるほど)と納得する2人。

しかし、自分達がキクチを励ましても嫌味にしかならないと考えた2人は口を噤む。


「それで、これは両方共買い取りで良いのか?」

キクチがシド達に確認を取って来る。

「あ、それの片方は確保しておきたい。ちょっと宛があるんだ」

シドはそういい、エネルギーガンの一つを自分の方に引き寄せる。

<宛って何?>

<まあ、ちょっとな>

「・・・・スラムに流すんじゃねーぞ?」

キクチはシドに忠告をする。

「そんなことしねーよ。あいつ等に渡してもただのスクラップ扱いにされるだろうしな」

「・・・そうか、信じるぞ」

「おう」

そうやり取りを行い。今回の報告は終了する。シドとライトは部屋を出ていき、今後の調査や探索の相談をするとの事で、ヤシロとレオナはその場に残った。


キクチ達 3人視点


キクチ達は会議室でオートマタの事について話し合いを行う。

先に提出されていたオートマタの簡易鑑定は、昔に北方の街1つを壊滅させたオートマタと同等の戦闘能力を持っていたと考えられる報告が上がってきていた。

「・・・・お前達どう思う?」

キクチはダゴラ都市で有数のワーカーであるヤシロとレオナに意見を求める。

「このスペックなら今の俺達の装備じゃ敵わねーな」

ヤシロはオートマタのスペックを睨みつけそういう。

「有効打を与えられる武器がない。逃走一択だろうな」

「そうだね、それもこの遺跡みたいな遮蔽物の少ない場所だと逃げ切れないよ。見つかったら終わりだね」

2人の意見にキクチは眉を顰め、今後の方針を都市とオフィスに伝えなければならないと考える。

それにレオナが持ち帰った遺跡のマップの事もある。そのマップを信じるならば、今探索が終わっている部分は遺跡全体の3%程度しかないと言う事実。このままダゴラ都市のみで調査をしていても延々と広がる遺跡の調査を終えるのは10年以上の年月が掛かるだろう。

その間、ここにワーカー達を押し込めておくわけにもいかない。

これは本格的に東方のワーカー達に声を掛ける必要が出てくるようだ。

「しかし、シドはどうなってんだ?ちょっと前に会った時から強くなりすぎだろ。S200なんてバカみたいな銃を片手で撃てる時点で普通の身体拡張者を超えてるぞ?」

「それを言うならライト君もだよ。ついこの間、養成所に所属してたシーカーの実力じゃない。戦闘能力だけじゃなくて情報処理能力がものすごく高いよ。このマップだってライト君がいなかったら絶対手に入ってない」

ヤシロとレオナはハンター・シーカーそれぞれの目線で2人の評価を口にする。

「やっぱり異常だよな?」

キクチは本職からの評価を聞き、自分の感性が間違っていなかった事を確認する。

「お前もそう思ってるから、あいつらの担当を引き受けてるんだろ?」

「・・・まあな。最初はやんちゃな連中だって程度だったんだよ。ある程度落ち着いたら事務担当に投げる積もりだったんだが・・・あの2人を中心に次々問題が発生するから、目を離すと、とんでもない事になりそうでな」

キクチは天を仰ぎ、片手で目を抑えながらそういう。

「目を離さなくてもこの有様だからな。ブルーキャッスルあたりとカチ合ったら目も当てられねーことになるぞ?今日カズマが銃を向けそうになったんだが、シドは撃たれたらカズマを殺すつもりだった」

「・・・・・」

キクチは、ヤシロから今日のカズマとの件を聞き、やっぱりなと考える。

「・・はあ~・・・おうち帰りたい・・・」

幼児退行するキクチ。

「あきらめろ。今日の事は俺達もギルドに報告せにゃならんしな」

「明日はどうするの?あのオートマタが出てくる遺跡の調査を続けるなら、本格的に装備を考えないと。ただ死にに行くみたいなものだよ?」

キクチがそれも考えないと、と思っていると。

会議室の扉が開き、一人の職員が入って来る。

3人がその職員に目を向けると、その職員はキクチに資料が表示された端末を渡し用件を話し始める。

「会議中に申し訳ありません。緊急連絡が必要な情報と判断しました」

キクチは渡された資料に目を向け「これは?」と聞く。

「本日、23番地点付近に突入した攻撃チーム38名が全滅しました」

その報告に3人が目を剝く。

攻撃チームは戦闘能力に特化したワーカーで構成される。その中に混ぜられるシーカーも戦闘能力が高い者が選出されていたのだ。その強者達38名が全滅するなど、本来なら考えられない。

「経緯は?」

キクチは資料に目を通し始め、職員に口頭でも報告を続けされる。

「調査チームからモンスターの巣の報告があり、大型攻撃チームの要請が入りました。そしてレイブンワークスを中心とした攻撃チームを編成し送ったのですが、1時間45分後に救援信号が発信され、後発部隊を送ったのですが、彼ら38名の死体が発見されました」

キクチは無言で資料を読み込み、発見されたワーカー達の死体画像までたどり着く。

その者たちの体には、つい先ほど見た物と似たような痕跡が残っていたのだった。

「ヤシロ、これをどう思う?」

キクチはその画像をヤシロとレオナに見せる。

「・・・・・これは、シドの防護服にあった傷とよく似てるな」

「そうね、似てると言うより同じだよね・・・」

ヤシロとレオナが見た画像には、先程シドが被弾したと見せてきた損傷痕と同じものが映し出されていた。

「・・・これをやったヤツをシドが倒したってんなら、めでたしめでたしなんだがな・・・」

「そこまで楽観的にはなれないよ」

2人は顔をしかめ、最悪な予想を立てる。このキョウグチ地下街遺跡には、複数の戦闘用オートマタが存在していると。

そして、今日シドとライトをチームに入れてなかったら、自分達も彼らと同じ運命だったのではないか?と。

「ヤシロ・・・ナイス判断」

「だろう?」

ヤシロは紙一重で命が助かった事にドヤ顔を浮かべながら冷や汗をかく。

「一旦この遺跡は封鎖だ。ワーカー達を全員今すぐに撤退させろ」

キクチは職員にそう指示を出す。

「・・・・わかりました。正式な指令は?」

「直ぐにオフィスに連絡を取って正式に命令を出してもらう。今は一刻も早く封鎖処理に入るべきだ」

キクチはそういい、自分の情報端末でワーカーオフィスに連絡を取り始める。

職員も一度3人に礼をした後、全体に指令を出す為に部屋を出ていった。

「キクチ、俺達も戻るぞ」

ヤシロはキクチにそう声をかけ、キクチは無言で頷いて退出を促す。

ヤシロはレオナを伴って会議室を出ていき、キクチはその場でワーカーオフィスの者達と緊急会議を行うのだった。


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