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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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遺跡探索の成果と旧文明の武器

ワーカーオフィスにたどり着き、遺物の査定をしてくれるカウンターの前に立った。

カウンターの向こう側には男性職員が立っており、買い取った遺物の整理を行っている。


「すみません」


シドが声をかけると職員がこちらに振り返る。シドを見て驚いたように目を開いた。


「あぁ、ようこそワーカーオフィスへ。ここは遺物買い取り専用のカウンターだが・・・買い取りか?」

職員は気を取り直し、シドに用件を聴いてくる。


「はい。これをお願いします」


シドは背中に括り付けていた遺物の中から30cmほどのケースと円柱状のケースを職員に渡す。


「わかった。あ~、ワーカー登録してるか?もし、してたらライセンスを出してくれ」


そう言われ、シドはワーカーライセンスを職員に渡す。


「名前はシド、ね・・・ペーパーか。ま、そりゃそうだよな」


ワーカーライセンスはそのランクに応じてライセンスの材質が変わっていく。これは一目でそのワーカーのおおよそのランクが分かるようにする為だ。1~9までは紙 10~19は鉄 20以上は強化銀となりそれぞれの専門分野によって色分けされていく。

ちなみにハンターは黄色 シーカーは青である。それ以上はライセンスに記録されているランクを読み取るかワーカーサイトに登録されている情報を閲覧しワーカーの質を確認することになる。


「ペーパーだと問題があるんですか?」

「いや、買い取りに支障はないな。詳しく知りたいなら総合受付の職員に聞け」

彼は中央の円形カウンターの方を指差しそう言う。シドが最初に受付してもらったカウンターだ。

「わかりました。後で行ってみます」

「そうか、遺物の鑑定に時間がかかるからその間に聞いてきたらどうだ?出来たら呼ぶ。この番号で呼び出すからな」


シドは男性職員から番号が印字されたカードを受け取り、総合受付に向かった。


受付には前回対応してくれた女性職員が立っていた。


「ようこそワーカーオフィスへ。今日はどの様なご用件でしょうか?」

「ワーカーライセンスについてと、ランクについて教えてください」

「承知しました」


女性は笑顔で頷き、ライセンスをランクについて説明してくれた。


ライセンスはランクによって材質が変わる。20以上になれば、自分がハンターなのかシーカーなのかを選択できそれに合わせて色が変わる。ライセンスは個人の口座と直結されていてオフィスと提携している店で引き落としでの支払いが可能。紛失や破損の際の再発行は有料である。ワーカーの口座は1年間資金の移動が確認されなかった場合、口座は消滅し預金はワーカーオフィスが徴収する。

ランクはワーカーの能力で決まる訳ではなく、ワーカーオフィスへの貢献度から算出され決定される。ワーカーの装備品はランクによって購入制限がある。ランクが10以上になれば第三区画の住人でも防壁内へ入ることが出来、居住区に拠点を借りることが出来る。20以上になれば、拠点の購入・企業案件や行商人の護衛依頼などの高額依頼を紹介してもらえるようになる。


等の説明を受けた。


「ワーカーオフィスへの貢献って?」

「それはオフィスからの依頼を受け完了させるか、遺物を納品していただく等ですね」

「なるほど」

(要するにオフィスの利益になる事をやれって事だな)

「他にはなにかございますか?」

「口座の開設ってどうやるんですか?」

「オフィスから報酬が出された場合、自動的に口座が開設され使用可能です。現金を引き出されたい場合は、オフィスにある端末か提携している金融機関の端末をご利用ください」

「わかりました」

<イデア 他に何か聞いとく事ある?>

<第三区画で装備を販売している店舗を紹介していただいては?>

「防壁外で装備を売ってる店って紹介してもらえますか?」

「現在、オフィスと提携している店舗は第三区画にはありません。装備のご購入であればこの建物の2階にある販売所をご利用いただくのがよろしいかと」

「2階にあるんだ。わかりました。ありがとうございました」

「はい。ご利用ありがとうございます」


シドは職員にお礼を言いその場を離れる。遺物の査定が終わるまでやることが無くなった為、オフィスに置いてある椅子に座りイデアと装備の相談を始める。


<金が入ったら次は装備だな。やっぱり買うなら銃だろうな。あるのと無いのとでは大違いだし>

<いえ、先ずは防護服を買うべきでしょう。武器は今シドが持っているケースの中身で事足りるはずです>

<ん?これって武器が入ってるのか?>


イデアは遺跡から持ち帰った遺物を全て売却せずに、一つだけシドの手元に残すように言っていた。

この中には武器が入っているらしい。


<はい。双剣です。護身用の域はでませんが旧文明の武器ですので、切れ味も良く、丈夫で鞘に納めれば自動でメンテナンスを行ってくれます。現在の遺跡の危険度と敵の脅威度を考えればコレで十分対応可能と判断します>

<・・・・双剣って接近武器だよな?モンスターと接近戦しなきゃならないのか?>

<今のシドの身体能力と時間操作の精度を考えれば問題ありません。それに銃の場合は銃弾を消費しますので、費用対効果を考えれば維持費の掛からない剣を使用するべきかと>

<なるほど・・・・なら、いい防護服を買わないとな・・・>

<はい、予算を大きく取りましょう>


シドは銃が買えないことに少し落胆した。ワーカーと言えば銃。そんなイメージがあり、年相応の憧れがあったのだ。

しかし、銃本体も高額でありモンスターに対抗できる弾丸も買うとなると費用が嵩む。

それに、防御力の向上が必要なこともわかった。遺跡探索に出て毎回血だらけで帰ってくるわけにはいかない。

そう思い、なるべく良い防護服を買おうと考えていると、シドの持つカードの番号が呼び出された。

査定が終わったらしい。


シドは買い取りカウンターに向かい金額を教えてもらう。

「ほら、これが今回の買い取り金額だ」

男性職員が端末を向けてきて、そこには遺物の買い取り金額が表示されていた。

他のワーカーに聞かれない様、口頭で金額を言う事はしない。

「!!!5・・・・!」

そこには500万コールの金額が表示されていた。

「これで問題ないか?ないなら口座に振り込むか現金かを選んでくれ」

シドはブンブンと頭を縦に振り、問題が無い事を職員に伝える。

<イデア!!すご・・・すごいことだぞ!金額が500・・・!!!!>

今まで見た事の無い金額にパニックを起こすシド。

<シド。落ち着いてください。これくらいの金額で驚かれても困ります>

<いやでも!500万って!!!>

<これが遺物の価値です。ワーカー達が命を懸ける理由が実感できましたか?>

<そうだな・・・すげーな・・・>

「おい、振り込みか現金か。どうするんだ?」

<10万コールを現金で受け取って、残りを振り込みにして貰えばいいでしょう>

「10万コール現金で、後は振り込みでお願いします」

「わかった。・・・ほれ、10万コールだ、残りの振り込みも終わったぞ。このライセンスカードを使えば引き出せるからな」

「ありがとうございます・・・・」

シドはワーカーライセンスを受け取る。その重みは、渡した時の数倍になって帰ってきたような気がした。



シドは遺物の対価を受け取った後、オフィスの2階に移動し装備の販売店にやってきていた。


店舗の中は、それぞれのジャンルに分かれて展示されている。高価な品々を扱うため、商品は全て防弾ガラス製のケースに入れられていた。


「ほっほ~~」

数多くの装備品に囲まれ、シドのテンションが上がっていく。

カウンター奥の壁に掛けられている銃器に目を向けるが、息を吐いて未練を断ち切り、予定通りに防護服が展示されているコーナーに向かった。


「いろいろあるな~。うん、どれが良いのか分からん」

<カタログを見せてもらえば良いと思います。商品説明も書かれているでしょうし>

<そうするか>


シドは店員に声をかけライセンスを提示し、防護服のカタログを見せてもらった。


<・・・・・・そういや、俺、字読めないんだよな・・・・>


シドは簡単な数字くらいは理解できるが、普通の文字については分からなかった。


<代わりに私が選定します。まず予算を80万として、防護服とその他の装備を購入しましょう>

物によっては100万を超える物も存在するが、メンテナンス用の保管ケース等もセットになっており、特定の拠点を持たないシドでは置き場がない。

動作アシスト機能が付いた物もあるが、身体強化を施されたシドには不要であり、逆に動きを阻害する可能性がある為、普通に頑丈なだけの防護服を選び購入することにした。

防護服に合わせてバックパックも購入し、運搬能力も向上させ、ワーカー御用達の情報端末も合わせて購入する。


装備を身に着けたシドは、ぱっと見ではスラムの浮浪児には見えず、駆け出しのワーカーに相応しい装いとなる。

鏡で自分の姿を見ていたシドは、自分がワーカーになったのだと初めて意識した。


<なんか・・・カッコいいな!>

<ええ、良く似合っています>


防護服の表面は外部からの衝撃で硬質化し、防刃・防貫に優れ、内側はクッション性があり衝撃を拡散してくれる構造になっている。内部を一定の温度に調節でき、ある程度の通気性を確保した一品であった。

当然防水である。

セットの靴は脛まで守れるブーツ型となっており、素材は防護服と同じ仕様になっていて、ソールはグリップ力の高い強化ラバーが張り付けられ、動く・止まる・曲がるを高レベルで行える仕様になっている。


バックパックは装備者の動きに合わせて稼働し、移動時の反動を軽減できる仕様になっていた。


今までの古びたTシャツ・色あせ破けたズボン・ボロボロのレンタルバックパック・裸足 から比べたら凄まじい程の性能を持った装備達だった。


これで銃があったら完璧なのに・・・とシドが考えているかは定かではない。


(明日からも稼ぐぞ!!)


今日より良い明日を目指してシドは心の中で気炎を上げる。


ランセンスで支払いを済ませ店をでる。持っていたケースはバックパックに入らない為、手で持ったままワーカーオフィスを後にした。





シドは今、宿の一室で伸びきっていた。

ワーカー達が利用する宿であり、一泊の値段もそこそこするのだが、個々の部屋には高いセキリュティが引かれていて安心して休むことが出来る様になっていた。

シドは寝る場所と言うものに金を払った経験がなかった為、一泊の値段を聞き引く。

しかしイデアに諭され、この部屋を2週間の間借りられる契約を結んだのだった。


食事が準備されるまで時間がある為、今まで入った事の無い風呂に浸かっている。

風呂の湯には、微量の回復剤が添加されており、細かい怪我や肌から吸収した僅かな有害物質等を排出する効果を持っていた。

体が資本のワーカー達御用達の宿には、この様なリラクゼーション設備が設置されている事が多い。


「            」

湯船に浸かり、全身の疲労感が湯に溶け出ていく様な感覚を味わいながら、シドは幸福感を噛み締めていた。


「これは良き」

ついつい語呂が狂う。

「・・・・毎日入りたいぞ・・・・」

<それは良かったですね。ですが、寝てしまわないようにして下さい。身体強化も窒息には対応しきれません>

「・・・・へいへい・・・・」


のぼせる寸前まで風呂を堪能し、食事の用意が出来た通知が届いたのを確認して、シドは宿の食堂まで移動する。


食事の料金は宿泊代とは別料金となっており、それぞれの金額帯からメニューを選ぶシステムだった。

一番安いメニューでも2500コール。第三区画では高額商品だが、その分運動量の多いワーカーに合わせたメニューとなっていた。


「ん~~、このトンカツセットってのにしてみるか。おすすめって書いてあるし」


料金を支払い注文する。しばらく席で待っていると料理が運ばれてきた。


プレートの上には、衣が付きこんがり揚がった豚肉と山盛りの白米、サラダと茶色いスープが乗せられている。

シドは目を輝かせながら料理に見入った。

もはやここからは言葉はいらぬ。目の前にあるものを食らうべし!


トンカツを口に放り込み咀嚼する。ソースと豚肉が混ざり今まで感じた事の無い幸せが口に広がった。

トンカツを飲み込み、白米を頬張る。しっかりと炊かれた米は味こそ強くないがほんのりと甘く幾らでも食べられそうである。

スープで米を流し込み、サラダをつつく。酸味の利いたドレッシングがかけられたサラダは、口の中に残っていた豚の油を洗い流しさっぱりとさせる。

胃がもっと寄越せと囃し立て、シドはその要望に逆らわず次々と料理を胃に落としていった。


大盛の料理を2セット平らげ、シドは満足そうに背もたれに体を預ける。


「ふぅ~~~・・・・食った食った・・・満腹だ・・・」

<今日は一食しか食べられませんでしたからね。栄養補給としては及第点でしょう>

<いやいや・・・俺は大満足だぞ>

<食事に定評のある宿を検索した甲斐がありましたね>


購入した情報端末を使用し、食事の質が高い宿をイデアは検索していた。

その中でも特に質が高いと思われるこの宿を見つけ、定宿にしようとシドに提案していたのだった。


<うん、風呂もいい。飯も美味い。これで安全に寝られるんだから、あの金額を払う価値は十分に有ったな>

<そろそろ部屋に戻って明日の予定を話し合いませんか?>

<・・・・そうだな>


シドはコップの水を飲み干し席を立った。



部屋に戻り、しっかり施錠したことを確認してシドはイデアと明日の予定を話し始める。


<それで、明日はどうするんだ?>

<明日は、あの武具の使用感と完熟訓練を行おうかと思います>

<あの武具ってケースに入れたままのアレか?>


シドは遺跡から持ち帰り、売却せずに手元に残したケースを見る。


<はい。まずは中身を確認してください>


ケースを開き中を見てみると、イデアが言っていたように2振りの剣が入っていた。

シドは手に取り鞘から引き抜く。

片刃で刃先にかけて緩やかに反っており、肉厚で頑丈そうな作りをしている。

材質は何で出来ているのか分からない。イデアが箱の状態だった時の様な色と質感だった。

だが、重量はしっかりと有り武器としては申し分なさそうだった。


<片刃のショートソードに分類されます。長さにしては重い物になりますが、シドなら問題なく扱えると思います>

<多分大丈夫だろう。部屋の中で振り回すのは止めとくけど・・・なんか手になじむな・・・>

<はい、明日 遺跡で使ってみましょう>

<了解。でも俺刃物なんか使ったことないぞ?これで戦うって言ってもちゃんと使えるかな・・・>

<問題無いと思われます。コーディネイトの際、基本的な近接格闘術やその他武器の扱い等の知識はインストールされています。後は実際に訓練を行い習熟するだけです>

<そうか・・・できる限りやってみる>

<はい、頑張ってください>


<それと今日のコーディネイトはどうするんだ>

<今日は脳の認識能力を向上させ視界拡張を強化します>

<視界拡張の強化?>

<はい、今日遺跡でシドの視界に追跡マークやルートを表示していましたが、あれの表示能力を強化します>

<あー、あれか。めちゃくちゃ助かったやつだ>

<脳の認識能力が上がれば情報器官が取得した情報も認識しやすくなり、私のサポートが無くても周辺の警戒を行えるようになるでしょう>

<そうか。また一つ強くなれるんだな。やっぱり強化ユニットってのはすごいな>

<強化ユニットは文字通り体の性能を上げ、知識を脳に刷り込むだけです。強くなる為にはしっかり訓練してください。装備も体も知識も使いこなさなければ意味がありません>

<了解。頑張って強くなるよ>

<はい、頑張ってください>


敵を討つ武器 身を守る装備 快適な寝床 美味い食事

今日はこれだけの物を手に入れた。


これらを失わない様、これからも続く様にと、シドは更なる力を付ける事を誓った。


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