防衛チーム その2
イデアの忠告もあり、モンスターが接近していることを感知したシドとライト。
意識を戦闘態勢に移行し、自分の銃を手に通路を睨みつける。
周りのワーカー達もシドとライトの変化を感じ取ったらしく警戒を強める。
「おいガキ。何か掴んだのか?」
先ほどアリアと口論したワーカーがシド達に訪ねてくる。自分たちはモンスターの気配を感じられなかったらしい。
「モンスターだ、距離300程度。この道から襲ってくるはずだ、他にもパラパラと向かってきてる。俺たちはこの道を守るからそっちはそっちで頼むぞ、あと4分ぐらいでそっちにもモンスターがくるだろうからな」
シドがそういい、彼らの注意を促す。
「なぜわかる?」
「コイツの情報収集機は唐澤重工製でな。非常に高性能なんだ」
シドはライトを指さしながらそういう。そのワーカーも唐澤重工の製品は知っていた様で、驚いた顔をしながら納得の表情を見せる。
「シドさん、来たよ」
「あいよ」
シドとライトは通路の奥に銃口を向ける。通路の奥は暗く、常人では全く分からないが、シドは強化された視力で、ライトは情報収集機で大量のモンスターが通路を曲がってこちらに向かってきているのがハッキリと見えていた。
シドとライトが同時に攻撃を開始し、モンスターを迎撃していく。
通路の奥から悍ましいモンスターの断末魔が響き渡り、7番地点にいる全ワーカーが緊張を強いられることになる。
奥から向かってくるモンスターは蜘蛛のような形状をしており、生体と機械のハイブリッドの様だった。
「スケルチュラだね。強力な溶解剤を打ち出してくるモンスターだよ。しっかり止めを刺さないと死んだふりをしながら襲ってくるから気を付けてね」
「おう、まあ大丈夫だ。この調子ならこれ以上近づかれる心配はない」
2人は会話をしながらもモンスターに向けて銃を撃ち続ける。2人が放つ弾幕は、スケルチュラの装甲を貫通し、致命傷を与えるには十分すぎる威力を発揮した。
昆虫系や機械系は自分の負傷を全く気にすることなく突進してくる、ワーカーからすると非常に恐ろしい存在なのだが、ファーレン遺跡の中層で機械系モンスターやハイブリッド系のモンスターと大乱闘を経験したシドとライトには、僅かなプラッシャーも与えなかった。
これくらいなら通常弾で蹴散らせるから経済的といった感想くらいしか感じていなかった。
だが、この場にいる他のワーカー達はスケルチュラと言われ浮足立つ。
「おい!スケルチュラってマジか?!数はどのくらいいる?!」
シドとライトの銃は消音機が取り付けられているとはいえ、これだけ連射すればかなりの音量になる。その音に負けない様に大声で話しかけてくるワーカーがいた。
「だいたい400くらいです!そちらからも向かって来てますので迎撃はお願いします!」
負けじと声を出すライト。
「クソが!」
その男はマガジンを入れ替え、通路の奥を睨みつける。この遺跡ではスケルチュラはかなり厄介なモンスターに分類されるらしい。
ライトは次々に向かってくるモンスターを意味する赤い点が、通路をすごい勢いでこちらに向かってきているのを、情報収集機を通して認識していた。シドも、その化け物じみた感覚器官で状況は正確に把握しているのだろう。しかし、焦らず落ち着いてスケルチュラの駆除に専念する。
(このIFG-EX80とハンター5のリンクは凄いな。これはこれでいい訓練になる)
ライトは新装備のハンター5とIFG-EX80の性能を遺憾無く発揮し、迫りくるスケルチュラを完全に抑え込んでいた。そこにシドのオーバーキルの精密射撃が加わる事によって、この通路が突破される心配はほぼ0となった。
暫くすると、隣に陣取っていたワーカー達も射撃を始める。
向こうも歴戦のワーカーで、幾度も死線をくぐって来たのだろう。若干の焦りは見えるが、落ち着いて迎撃していた。
相手のスケルチュラは近距離での溶解液は非常に危険だが、近づかせなければ何の脅威も無い。
複雑な回避運動を行うわけでもなく、愚直にこちらに向かってくるだけのモンスターだった。シドとライトにとっては唯の的当てと化していた。
<この調子なら守り切れるな>
<うん、隣のワーカー達も問題なく倒せてるみたいだからね>
<こちらは問題ありませんが、あのワーカー達の方に少々厄介なモンスターが迫っている様です。いよいよとなればフォローが必要になるかと>
イデアの言う通り、シドとライトは隣の通路に中型のモンスターが向かってきていることを察知していた。
スケルチュラよりも高速で移動してきており、後2.3分で射線が通る場所まで到達するだろう。
<シドさん、彼らが迎撃でき無さそうならフォローに行って>
<わかった。コッチはお前に任せるぞ>
<うん、大丈夫。これくらいなら十分持たせられるから>
シドとライトは大量に持ち込んだ弾丸を湯水のように消費しながらスケルチュラを迎撃する。それだけこの通路の敵影が濃いという事なのだが、彼らの攻撃は一発たりとも無駄弾を使うことなく、効率的にスケルチュラを殺傷する。
「オラーーーー!!!」
隣の通路を担当するワーカーが雄叫びを上げながら銃を乱射する。
その通路の奥には中型の機械モンスターが姿を見せており、彼らの弾丸を弾きながらこちらに突進してきていた。
<ダメだな。フォローに行ってくる>
<うん、行ってらっしゃい>
シドは彼らの攻撃が中型モンスターに効いていないと判断し、一旦戦線を離脱。彼らのフォローに回った。
中型モンスターは前面に取り付けられた、シュレッターの様な回転刃を唸らせながらこちらに向かってくる。
シドはその機構の根本目掛けてS200からPN弾を発射、固定点を破壊された回転刃は地面に落下した後、無軌道に跳ね回りモンスター自身を傷つける。
攻撃の手段を破壊され、動きも鈍ったモンスターにシドは容赦なく追撃を行う。
2つの銃口からSH弾が無数に発射され、モンスターの体を撃ち据える。増幅された衝撃がモンスターの全身を駆け巡り、耐久値を大幅に超過した体は粉々に吹き飛んだ。
モンスターの撃破を見届けたシドは、直ぐに自分の持ち場に移動しスケルチュラの迎撃に戻る。
<もっと時間かかっても大丈夫だったのに>
<時間かける意味もないだろ?弾薬の無駄だ>
2人は念話で会話しながら、まだまだ向かってくる大量のスケルチュラを殲滅していった。
ワーカー視点
(なんなんだ?あのガキ共は)
見た目はワーカーに成りたての子供なのだが、この入り組んだ遺跡でいち早くモンスターの襲撃を察知し、迎撃態勢を整えた。
こちらの通路にもモンスターが迫ってくると警告され、警戒はしているが自分たちが所有している情報収集機ではまだモンスターの影は見当たらない。
すると、二人は銃撃を開始し、通路の奥からモンスターの断末魔が響いて来る。アイツ等の言っていることは本当らしい。
すると茶色の髪のガキが、モンスターはスケルチュラだという。スケルチュラはこの遺跡では、もっと奥で目撃されているモンスターで、蜘蛛型のハイブリッドタイプのモンスターだった。全身を金属の甲殻で覆われ、非常に素早く狙いづらい。自分たちが持っているアサルトライフルの攻撃では命中しても弾かれて討伐するには特殊弾頭を使用するのが効果的なモンスターだった。
しかし、この場所に配属される様なワーカーが特殊弾頭を大量に準備できるワーカーはいない。
PN弾やSH弾は効果は高いがその分値段も高い。自分達にとっては取って置きの弾丸といってもいいくらいだ。
連中に確認を取ったがスケルチュラであることは間違いないらしく。急いで特殊弾頭が入ったマガジンに交換する。
特殊弾頭の入ったマガジンは4つまでしか用意していない。
これが切れれば俺たちはスケルチュラに対しての効果的な攻撃手段が無くなる事を意味する。
(クソ!なんでこんな時にスケルチュラなんかが出てくるんだ!)
俺は悪態をつきながらも、自分の情報収集機に移る敵影に向かって銃撃を開始した。
仲間の2人も同じように攻撃を開始し、スケルチュラを倒していく。
幸いこちらの数はそれほど多くなさそうだ。このままなら凌げる。そう考えていたのだが、通路の奥から中型の機械系モンスターが突進してきた。
ラッセル車の様に邪魔なモンスターの死骸を跳ね飛ばし、粉砕しながらこちらに向かって高速で突っ込んでくる。
「オラーーーー!!!」
俺は大声を上げながらPN弾の入ったマガジンを空にする勢いで連射する。しかし、相手の装甲を貫くことが出来ずに弾かれてしまう。
(まずい!このままだと此処が崩壊する!)
その時、隣のガキが一人俺たちの方に回って来た。
アイツは俺たちの攻撃が一切通用しなかったモンスターを数秒で木っ端みじんに破壊し、仲間の元に戻っていく。
俺は助かったという安堵と、ガキに助けられた屈辱、ガキの強さに対する驚愕の感情でいっぱいになりながらモンスターを銃撃した。
シド達視点
大量のスケルチュラの襲撃は数分で片づけることが出来た。防衛チームの被害は0、多少の弾薬消費はあったもののそこまで消耗したわけでは無い。
隣のチームも中型モンスター以外は順調に倒せたようで、今はこの防衛地点に静寂が戻ってくる。
「もう終わりか?こっちは雑魚しか来なかったな」
「そうだね、まあ安全に終わるならそれでいいよ。常時討伐依頼で報酬も出る事だし」
「そうだな、でもキクチに無理言って弾薬費は依頼元負担にしてもらったんだから、もうちょい張り合いがあってもいいんじゃないか?」
<そんなことを言っていると、また非常事態が発生しますよ>
<あれはたまたまだっての>
シド達は無難にモンスターを退け、ライトは休憩に入る。バックパックからレーションと水分を取り出し食べ始める。
「おい」
すると、隣のワーカーが声をかけてくる。3人組のワーカーチームの様で、彼がリーダーの様だ。
「俺はチーム レイダーズのメンバーで、ハヤシダだ。さっきはの中型は助かった、礼を言う」
意外に律儀な人物だったようで、先ほどシドがフォローに回ったことに対する礼を言いに来たようだ。
「ああ、大丈夫だ。俺はシド、コイツと二人でチームを組んでる」
「ボクはライトです。よろしくお願いします」
シドとライトはハヤシダに対して自己紹介を行う。
「ああ、よろしく。シドとライトだな、しかし、かなりの実力だな。スケルチュラだけじゃ無く、あの中型まであっさり倒すとは・・・」
「まあ、装備のお陰だな。幾ら狙いが正確でも威力が足らなかったら意味ないし」
「・・・・そうだな・・・俺たちは今の戦闘で特殊弾頭をほぼ使い切った。補給に戻りたいんだが、大丈夫か?」
「あれくらいなら問題ない。そっちの通路も警戒しておくから、補給してなるべく早く戻ってきてくれ」
「わかった。助かる」
彼はそういい、仲間を連れて補給拠点へと撤退した。
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