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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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シドVSオートマタ それと 新たな身体拡張ユニット

シドはガラスの向こう側のオートマタを認識し、ホルスターからS200を引き抜く。

<おい、なんだアイツ>

<完全に捕捉されています>

シドとライトは体感時間を操り、どう行動するかを思考する。こちらが決定を下す前に、オートマタがこちらに向かって猛スピードで突っ込んできた。

<<!!!>>

2人は銃を手に迎撃の構えを取る。

オートマタはガラスを突き破り処置室に突入してくる。シドはこのオートマタの性能にライトの身体能力では付いていけないと判断した。

<ライト!離れてろ!>

シドはオートマタを単身で相手取ることを選択、S200を手に銃撃を開始した。

前回破壊したオートマタと違い、こちらは機敏にシドの弾丸を避けてくる。身体機能はシドと互角といった所の様だ。

S200を持つシドの方が有利かと思われたが、実際にはそうでは無かった。オートマタは正確にシドの射線を見切り、絶対に射線上に体を入れてこない。

これではいくら強力で連射の効くS200でも弾丸を当てることが出来ない。

近づけまいとS200で牽制を行うが、スルスルと掻い潜られ、徒手空拳の間合いに入られてしまう。

(クソ!!!)

シドは蹴りで間合いを取ろうとしたが、躱されてしまい逆にオートマタの攻撃を受けることになった。

オートマタに腹を殴られ、壁まで吹き飛ばされる。壁に激突する前に体を捻り、両足で壁に着地し、オートマタに向かって飛び込んでいった。

S200を乱射し、オートマタの行動を抑制しようとするが、当たる気配がなくこちらを迎撃する為に構えを取るオートマタ。

(銃じゃ無理だ)

シドは直ぐにS200をホルスターにしまい、自分も素手で応戦することにした。

流石にS200のSH弾頭には劣るが、コンクリートも粉砕する右拳が唸りをあげてオートマタを襲う。

しかし、オートマタは手の平を使いシドの右拳を捌くと、右の正拳突きをシドに叩きこもうとする。

シドはそれを体を捻り紙一重で躱し、回し蹴りをオートマタの胴体に叩きこむ。

(決まった!)と思ったシドだったが、オートマタの頑強さは今まで戦った事のあるモンスターの中でも群を抜いて強靭だったようで、よろめきはしても破損どころか凹みすら出来なかった。

(マジか!)

渾身の蹴りが通用しなかったシドは動揺し動きを一瞬止めてしまう。その一瞬はこの速度の戦闘では致命的な隙となり、オートマタに連撃を叩きこまれることになった。

再度宙を舞いながらシドはこの状況の打開策を考える。

(俺自身の攻撃力じゃアイツには効果がない・・・・・それに、これは骨までイッてるな)

シドは自分の肋骨が数本折れている事に気付く。

<シド、双剣を使用してください。あのオートマタにも有効です>

イデアのアドバイスを聞き、シドは腰にずっと付けている双剣を抜き放った。

シドの双剣を警戒したのか、オートマタは追撃を中止し、こちらの様子を窺ってくる。シドは一度深く息を吸い込み、ゆっくり吐き出していく。

治療ナノマシンのお陰で肋骨の負傷は急速に治療されていく。痛みによる支障がなくなったことを確認したシドは、オートマタに向かって地面を蹴った。

オートマタも両腕を剣に見立てて構え、シドを迎え撃つ。シドは刺突を放つが、軽く受け流され体が泳いだところに横なぎの攻撃を受けそうになる。

左手の剣で受け止めようとしても、オートマタの出力が大きく体ごと弾き飛ばされた。

(クソ!こんなのどうしたら!!!)

シドは今までで、ここまで苦戦したことは無かった。自分の攻撃が悉く無力化され、相手の攻撃は防ぐので手いっぱいの状況。次第に焦りが生じ、それに合わせて隙が大きくなっていく。

<シド、落ち着いてください。相手の動きをよく見て、一撃で仕留めようとせずに己の攻撃が入る道筋をつけてください。その為の知識自体はインストールされているはずです>

イデアの助言にシドはさらに集中を深めオートマタの行動を観察する。

オートマタは体勢を崩しているシドを仕留めんとこちらに向かって突貫してくる。

シドは空中で体勢を立て直し、エネルギーシールドで足場を作りオートマタを迎え撃った。

オートマタが繰り出す高速の攻撃を双剣でいなし、防いでいく。観察を続けながらシドは生体電気を発生させ反撃の機会をうかがった。

こちらが堅実に守れば守るほど、オートマタの攻撃はコンパクトに纏められ捌きづらくなっていく。

(なら!)

シドはわざとオートマタの攻撃を大きめに弾き、頭部の防御を疎かにする。するとオートマタはその隙に食いつき、シドの頭部めがけて唐竹割の様な攻撃を放ってきた。

(いまだ!)

シドは溜めた生体電気を開放し、一瞬でオートマタの背後に移動しながら脇腹を双剣で切り裂き、体を回転させながら首を切り飛ばす。

空中を回転しながら飛んでいくオートマタの頭部。

胴体の方は頭部から送られてくる信号が途絶え動きを止めていたが、胴体に予備の思考装置でも搭載していたのか、シドを感知しさらに攻撃を行おうと行動し始める。

(おせーーよ!!!)

シドはオートマタの体を支える膝を切りつけ、重心がグラついた隙に背後から心臓部分に剣を突き立てる。

正確にエネルギー元である、小型ジェネレータを破壊されたオートマタの胴体は、動作不良を起こしたようにガクガクと痙攣した後、壊れた人形の様に力が抜けていく。

シドは胴体から剣を引き抜き2mほど距離を取ってその挙動を油断なく観察した。

支えを失ったオートマタの体は地面に倒れ伏し、動く様子を見せない。頭部の方も、モノアイを赤く点滅させていたが、やがて光が消え完全に沈黙する。


頭部も体も完全に動かない事を確認したシドは構えを解き大きく息を吐く。


<やっべーなんだコイツ。めっちゃ強かった・・・・>

<ほんとに・・・・ボクが戦ってたら確実に殺されてたよ・・・>

シドの指示通りに距離を開け、支援のチャンスを窺っていたライトだったが、終始手を出すタイミングが掴めずにいたのだった。

<これは専門のコーディネイトを行った者を対象にした訓練用オートマタの様ですね>

イデアがこのオートマタの推測を話す。

<この強さで訓練用なのか?!>

シドは先ほど追い詰められたオートマタが訓練用だったことに驚く。

<はい。戦闘用にしては性能が低く挙動が安易でした>

<・・・・・旧文明って何と戦ってたんだろう?>

ライトはシドも思っていた疑問をいう。

<あの時代では、これくらいの戦闘能力を持たなければ専門科目を持つ軍人とは認められなかったという事です>

旧文明の戦闘能力の高さに驚くシドとライト。

<それよりも、ライト。あの装置を確保してください。ライトのコーディネイトに使用します>

イデアはそういい、シドとライトの視界にマークを表示させる。

それは先程までシドが寝ころんでいた処置台の横の壁が開き、競り出た所に鎮座した手のひらサイズの四角い箱の様な物だった。

<あれって身体拡張ユニットか?>

シドが見覚えのある物体の事をイデアに質問する。

<はい、情報処理系の拡張ユニットです。軍用ではありませんので、シドと比べて身体強化は控えめですが、情報処理能力は飛躍的に向上するはずです>

<・・・ボクも改造人間になるの?>

ライトは少し戸惑いを見せる。

<そうですね。思念電波の受信体を生成出来ますので、情報収集機が無くても念話が可能になりますし、今よりも範囲が拡大します。時間操作や並列思考も容易になり、脳への負担を軽減できます>

<悪いようにはならねーから持って帰れよ。間違ってもここで起動するなよ?いきなりコーディネイトが始まるからな>

<・・・わかった>


ここでの用事を終わらせた2人は、施設から脱出する。

扉のロックは解除してあるが、廊下の赤いセンサーまでは停止させていない為、それらを掻い潜り1階まで戻って来た。

「ちょっと休憩しようぜ。暴れて腹へったよ」

シドは先程の戦闘でだいぶ消耗したようで、体からエネルギー補給を求められたようだ。

「そうだね、ここは安全みたいだしあそこのテーブルで食べようか」

ライトはガラス張りの様に見える壁付近に置かれているテーブルに着き、バックパックから食料を取り出す。

シドも同じように食事の準備をし、レーションに齧り付く。

「あのオートマタの攻撃、すごい威力だったみたいだね」

ライトはシドの着ている防護服を見て感想を言う。

「ああ、そうだな。エネルギーシールドも貫通してくるし、防護服も貫いて衝撃を通して来やがった・・・」

シドの防護服はスマートな鎧の様な外見をしており、見た目通りの防御性能を誇った。

しかし、今ではひび割れや凹みが複数あり、オートマタの攻撃力の高さをまざまざと証明していた。

<シドは同格との戦闘経験に乏しいですからね。DMDのエネルギーシールドとシド自身の生体シールドを効率的に使用すれば無傷で勝利できた相手です>

イデアに同格との戦闘経験不足を指摘され、今後の戦い方を考えるシド。

(もっと鍛えないと・・・でも同格の相手との訓練ってどうすれば・・・)

<安心してください。私のアップデートで訓練用の機能も追加しています。シドやライトの戦闘訓練に先程のレベルの実践性を持たせることが可能です>

<そうか、頼りにしてるよ>

<ボクにも出来るの?>

<はい、今回手に入れた強化ユニットを使用すればライトに追加される副脳に直接アクセスできるようになります。仮想現実でさまざまな訓練を実施可能です>

<それは便利だな。ライト頑張ろうぜ。イデアの訓練はかなり厳しいぞ>

<・・・・そうだね。頑張るよ>

食事休憩を終わらせ、シド達は遺跡から脱出していく。

今回戦ったオートマタは持って帰らずその場に放置することになった。また持って帰ればどこで戦ったと言う事になるし、いい加減キクチの胃に穴が開きそうだったからと、シドの戦闘能力をまだ秘匿した方が良いというイデアの判断だったからだ。

<常時討伐依頼の方は大丈夫なのか?>

<私の方であの戦闘のデータは消去しました。ワーカーオフィスに情報が流れることはありません>

万事抜かりなしというイデア。頼もしい限りである。



拠点に着き、ライトは防護服を脱ぎながらシドに声を掛ける。

「シドさんの防護服どうするの?」

オートマタとの戦闘で破損した防護服に目をやり、そのまま使い続けるのか?と聞く。

「保管ケースに入れておけばこれくらいなら修復してくれるらしい、今まで壊れた事が無かったからちょっと不安だけどな」

<大丈夫です。保管ケースの修復機能で十分に再生可能です>

イデアから太鼓判をおされ、それなら安心だとシドは保管ケースに防護服を収納する。

保管ケースが閉まり、ディスプレイに補修箇所のチェックと修復が始まることを知らせるマークが映し出される。

「これで良しっと」

シド達は今日の探索でかいた汗を風呂場で洗い流し、食事を取りながらこれからの事を話す。

「キクチからの依頼まで後一ケ月あるよな。その間はずっと訓練か?」

<ライトに強化ユニットを使用してもらい、そのコーディネイトも控えています。もちろんシドもですが。それが終わり次第訓練を開始しましょう>

「あ~、それもあったね。あのユニットにもイデアみたいなAIが付属されてるの?」

<いいえ、あれは一般用の強化ユニットですし、軍用でもNo,99以下のユニットにのみAIが搭載されているはずです>

「イデアって特別だったんだ」

<というよりも、私たちの様な自律AIが不評だった為、機能として省かれた様です。脳内で他者の声が聞こえることにストレスを感じる人が多かったようですね>

「ふ~ん、俺は気にしないけどな」

<シドの場合は単独で生きてきたからでしょう。一般的な人物であれば四六時中監視されていると感じる様です>

「あ~・・・なんかわからくもないかな?」

ライトは当時のAIを搭載した人たちの気持ちが分かったような気がした。

<食事が終わったらライトとユニットの接続を行い、コーディネイトを開始しましょう。栄養素は十分に蓄えられているはずなので、シドの時の様に段階を踏まず一度で終了するはずです>

シドは当時の劣悪な生活環境のせいで、コーディネイトに必要な栄養素が足りず、有害物質の蓄積も相まってコーディネイトを段階的に行う必要があった。

しかし、ライトの場合はこの半年以上の間、良質な食事とシドの訓練で健康的な体を手に入れている。

一度のコーディネイトで十分体が強化されるだけの素体をもっていた。

「ライトの強化内容ってどうなるんだ?」

シドは自分とは違うコーディネイト内容に興味を示す。

<ライトの場合は治療ナノマシンの貯蔵器官と生成プラントの追加。情報処理に特化した副脳を強化し思念電波受信体を作成。残りのリソースで身体能力の強化を行う内容になります>

「俺みたいに生体電気を発生させたり出来る様になるのか?」

<ライトのユニットは一般人向けですので、個人特性の発現には至らないでしょう。現代の身体拡張者より少し上くらいの身体能力と回復力に落ち着くはずです。しかし、情報処理に関してはシドを遥かに超える強化率となります>

「そうなんだ・・・やっぱりちょっと怖いな・・・」

「頭にマイクロチップ植え付けてるヤツが何言ってんだ?」

シドはライトに呆れたような視線を投げる。

「全身弄るよりマシだと思うけど・・・そういや、ボクの頭にあるマイクロチップってどうなるの?」

ライトはシドにお前に言われたくないといった視線を返しながら、イデアにマイクロチップの事を質問する。

<分解して排出されます。情報収集機とのリンクはやり直しになりますが、時間はかかりません>

「そっか・・・わかった」


予定も決まり、ライトは胃に詰め込めるだけの食事を詰め込んだ。

この後のコーディネイトが無事に終わりますようにと願いながら。


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― 新着の感想 ―
主人公は内、ライトは外付けパーツで強化してく方針だと思ってたから身体拡張しちゃうのかぁ… と少しガッカリ感はあるかな でも主人公と違って一般的なユニットでAIも無しなのは良い 相方も同じだと主人公の特…
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