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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
57/214

ワーカーオフィス 統括登場

遺跡から都市に帰っていく車の中、シドはキクチに連絡をいれようと情報端末を取り出した。


「?どこに連絡するの?」

「ああ、キクチに一報入れとこうと思ってさ。前に報連相はしっかりやれって言われたからな」

「ふーん、まあ今回はオートマタの残骸まであるからね」

ライトは助手席から後部の荷台を覗き、そこに放り込まれたオートマタのボディーに目を向ける。

「それに旧文明の再生機とか情報記憶媒体まであるだろ?いきなり持ち込んだらまたスッゲー怒りそうでさ」

ファーレン遺跡の中層部でオートマタと戦闘し、記録媒体まで入手しているのだから念のためにキクチに連絡しておこうと思ったのだ。


シドはキクチのコードに通信を送るが、今回は中々出ない。もう諦めるかと思ったとき、キクチは通信を繋げてきた。

『・・・・なんだ?』

情報端末に映るキクチの顔は、なにやらゲッソリしており目の下には隈まであった。

「お・・・おう、なんか疲れてるみたいだな・・・」

『まあな、今会議の最中なんだよ。悪いが急ぎじゃないならまた今度にしてくれ』

「そうか・・・ただの報告だよ。遺跡の中層に探索にいってさ、そしたら大量の記憶媒体が見つかって再生機っぽい機器と一緒に持って帰る最中なんだよ。このままワーカーオフィスに持っていこうと思ってな」

『!!・・・・それだけか?』

「まあ、そうだな。それとオートマタの残骸もあるけど、これってオフィスで買い取り可能か?」

『オート!!!・・・・それは壊れているのを見つけたってことか?』

「いや、動いてる所を見つけて不意打ちでぶっ壊した」

『~~~~!!!』

画面の中のキクチは目頭を押さえながら俯き震えていた。

「おい、大丈夫か?」

『・・・・・大丈夫じゃない・・・とりあえず、ワーカーオフィスの本部に来て待っていてくれ。あと2時間ほどで終わるだろうからな。間違っても他の職員には見せるな。わかったな?』

完全に座った目でキクチに睨まれ、シドは引きながら返答する。

「お・・・おう、わかった」

『本当に頼むぞ。頼んだからな』

キクチはさらに念を押し通信を切った。

「・・・・なんだったんだ?」

「さ~?オートマタが珍しいからじゃない?」

二人はさして気にせず車を走らせる。

ワーカーオフィスに到着したが、キクチに他の職員には見せるなと言われている手前、買取所に持っていく訳にも行かず、車に乗ったままキクチの会議が終わるのを待った。

しかし、まだ1時間以上あり、暇を持て余す。

「そうだ、ライト、お前あそこにあった記録媒体の中身、他のも見てみれば?」

シドはそういい、自分のバックパックから記憶媒体を一つ取り出す。

「ん~・・・まあ暇って言えば暇だしね」

ライトはその媒体を受け取り情報収集機にセットしようとする。

<シド、その媒体は何処から持ってきたモノですか?>

イデアがそう質問し、

<ん?ライトがすっころんだ辺りにあるヤツを適当に取って来た>

シドはそう答えた。

シドの答えを受け、ライトの動きが止まりシドに媒体を返してくる。

「なんだよ?見ないのか?」

「・・・いい」

ライトは赤らめた顔を背け、シドに媒体を突き返す。シドは不思議そうな表情で媒体を受け取りバックパックの中に戻した。

<なあ、イデア。あれの中身って何が記録されてるんだ?>

<シドが持ち帰った中身はわかりません。しかし、ライトが見た内容は男性に性的興奮を起こさせる内容のものでした>

イデアの話を聞き、シドはライトの方に視線を向ける。ライトはさらに顔を赤くさせ、その顔を見られない様に体ごとそっぽを向いた。

「それって所謂エロ動画ってやつ?」

「言わないでよ!!!」

ライトは羞恥に耐えられず大声を上げる。

「なんだ、お前ってそういうの未経験なのか?」

「・・・・シドさんはあるの?」

「いやない」

「ないんかい!」

ライトはついついミスカ達の様な言葉で突っ込んでしまう。

「いやさ、ドーマファミリーってそういう店も経営してたろ?だからてっきり組員は行ってるのかと・・・」

「あれは組織の資金集めに利用されてるだけで、組員の慰安所って訳じゃないから!」

シドとやり取りしながらも、一切シドに顔を向けないライト。

<イデア、俺もあの中身って見れたりしないか?>

<ライトが以前使用していた情報収集機なら接続できます。機器を通して私がシドに見せる事は可能です。もしくは今日持ち帰った再生機を使用できるようにするかですね>

<・・・シドさん、興味あるの?>

<あるな。ドーマファミリーのそういう店から出てくるヤツって大体なんか幸せそうな顔して出てくるからさ。どんな所なのか興味はあった>

なんて事の無いように言うシド。その様子を見てライトは(あ、この人全然わかってない)と思った。

それはそうだろう、シドは物心ついたころからスラム街で一人で生きてきて、周りの人間は危害を加えてくるヤツかそうじゃないかでしか判断してこなかったのだ。男女関係の云々など知らなくて当然である。

<シドさん、あの店の中でどんなことしてるか知ってる?>

<ん~、女が男を接待するんじゃないのか?それが興奮するとかって言ってるのを聞いたことがある>

(なんか、中途半端な知識だな・・・)

シドの知識は基本的にスラムでの盗み聞きか又聞きである。中途半端になっても仕方が無かった。

<一度経験してみればよいのでは?映像ですし、身体に何か影響があるモノではありません。一つ確保しておけばよいと思います>

<そうだな、んじゃさっきのヤツを確保しとくか>

シドはそういい、またバックパックをゴソゴソと弄り始めた。

(なんか・・ボクがバカみたいだ・・・)

ライトはシドが平然としているのを見て、自分がバカみたいに思えてきた。

<ライト、安心してください。ライトくらいの年齢であればあの反応はおかしくはありません>

<・・・イデア、心を読まないでよ>

<なにやら思い詰めていた様でしたので>

ライトはAIであるイデアに慰められ、さらに気落ちする。



それから時間が立ち、キクチから連絡が入った。

『お前ら今何処にいる?』

「ワーカーオフィスの駐車場にいるぞ」

『そうか・・・なら搬入口を開けるからそこから入って来い。案内に従えば俺が居る所まで来れる』

キクチはそういい、通信を切る。

すると、駐車場にあるオフィスへの搬入口が開き、地面に矢印が表示された。シドはその案内に従い車を走らせる。


しばらく車を走らせると、倉庫の様な場所にたどり着き、車が中に入ると自動で扉が閉まって行った。


その奥にはキクチともう一人、知らない人物がシド達を待ち受けていて、その近くに止めシド達は車から降りる。


「おうシド、待たせて悪かったな」

まずはキクチがシド達に謝ってくる。

「いや、構わない。それより、随分と警戒してるが何かあったのか?」

「・・・その話は後だ。まずは、この人を紹介させてくれ」

キクチはそういい、後ろにいた女性を紹介する。

「この方はダゴラ都市、ワーカーギルドの統括である。クリスティア・マガラだ」

そう紹介を受けた女性はキクチの横に立ち、シド達に挨拶を行う。

「クリスティア・マガラよ。ダゴラ都市ワーカーギルドの総責任者をしているわ」

「「よろしくお願いします」」

遺物を売りに来たと思っていたのにワーカーオフィスの統括を紹介され、恐縮するライト。シドは何となく空気的にしっかり挨拶くらいはと思っただけだった。

「ええ、よろしく。最短記録でハンターライセンスを取得したシドに、養成所退学後、1日でランク10のライセンスを発行されたライトね。あなた達の事はキクチから聞いています。なんでも面白い物を遺跡から持ってきたようね?」

<なんか、鉄の女って感じだな>

<一公的組織のトップに面会した感想がそれですか?>

<シドさん、絶対失礼な事いわないでよ!>

<んで?俺が受け答えすんの?>

<そりゃそうでしょ。このチームリーダーはシドさんなんだから!>

<一応フォローはします。しかし、言葉には気を付ける様にお願いします>

シド達は念話で一瞬のうちに軽い打ち合わせを行い、シドがとりあえず対応することになった。

「ええっと・・・学が無いので失礼があればご容赦ください・・・遺跡で再生可能な記憶媒体を発見し、おそらく再生機と思われる機械も持ち帰りました」

「他には?」

間髪入れずにそう聞く鉄の女。ライトは彼女がここに来た理由がオートマタの残骸にある事に気が付く。

「オートマタの残骸が一つ・・・あ、それと遺跡のシステムデータが一つ?あります」

シドは素直に持って帰ってきた遺物の内容を話した。キクチの方をチラッと見ると目を瞑って無表情を貫いている。

「では、見せてもらえる?」

彼女は表情一つ変えずにシドに要求してきた。

<いやどれを?全部出せばいいのか?>

<シドさん、たぶんオートマタだと思うよ>

<そうなのか?主語言えよ>

<偉い人って周りも優秀だからね。会話の中で察する事が出来る人が多いから、言葉を端折ることがあるんじゃない?>

<なるほど、オートマタだな>

「はい、わかりました」

シドはそういい、車の荷台に積んでいたオートマタの残骸を引っ張り出してくる。彼女はそれの状態を見て

「頭部はどうしたの?」

と聞いてくる。あれはイデアが調べたいと言っていた為、車のラックの中に保管していた。

<銃撃で粉々になったと伝えて下さい>

イデアから指示が入り、シドは言う通りに伝えた。

「ええっと・・・銃撃で粉々になりました・・・マズかったですか?」

シドの言葉を聞き、彼女は小さく溜息を付く。

「いいえ、オートマタが出現したという情報だけで十分です。証拠もありますしね。もし今度遭遇した場合は頭部も確保して頂ければ助かります」

彼女はそういい、踵を返し、キクチに声を掛ける。

「後はあなたに任せます」

それだけをいい、彼女はこの場を去って行った。キクチは頭を下げ、彼女を見送る。


クリスティア・マガラが倉庫から出ていき、キクチが安堵の息を吐く。

そしてシド達に引きつった笑顔を向け怒鳴った。

「テメーラ!もう少し大人しく探索できねーーのか!」

(表情と言葉が合ってない・・・)

(大人しく探索ってなに???)

シドとライトは行き成り怒鳴られ面くらう。

「いや、そんなこと言われてもさ・・・」

「見つけちゃったものはしょうがないよね?」

お互いに顔を見合わせそう言うシドとライト。

「頼むよホント・・・お前らはこの前 結構デッカイ爆弾放り込んでいったばっかりじゃねーか・・・・」

なんのことか?と二人はそろって首をかしげる。

「シンクロしてんじゃねーーよ!・・・・・まあいい、その話はお前らに非がある話じゃねーからな」

キクチはそういい、盛大に溜息を吐き出した。

「今日の探索も俺らに非はねーだろ?」

シドがケロっとそういい、キクチを追撃する。

「そうだよ!だから余計にタチが悪いんだよ!旧文明の再生可能な記憶媒体にオートマタだぞ!!ファーレン遺跡で発見されたのは初めての事なんだよ!」

<あ、やっぱりオートマタってファーレン遺跡では発見例なかったんだ>

<記憶媒体も初ってどういう事だ?>

<記憶媒体自体は発見されている様ですが、再生可能なモノは無かったようですね。記憶媒体自体は保存状態が悪いと中のデータが破損する可能性が高いですので>

<なるほど、あの場所はほぼ完全に外界と隔離されてたから保存状態が良かったんだね>

<空調管理も生きていましたからね。あの施設全体が保管ケースの役割を担っていたようです>

「でもまあ、見つけたんだから仕方ないな。で?買い取ってくれるのか?」

シドはなんだか面倒くさくなってきたようだ。

「軽いんだよオメーはいつもよ~・・・この後のレジュメ作成にどれだけ時間がかかると・・・」

「・・・・なんならまたスラムで換金してくるけど?」

シドはキクチが買い取りしたくないのかと思いそういう。

「マジでやめてくれ!!!俺の首が(物理的に)飛んじまう!!!!!」

「なら買い取ってくれるんだな。何処に置けばいい?」

「・・・・・」

キクチは無言で端末を操作すると、自動でカートがこちらに向かってきた。

<便利だな~あれ>

<拠点にも置けないかな>

<階段も移動できるタイプがいいですね>

死にそうな顔のキクチを他所に2人と1体はのんきなモノであった。

「これに乗せてくれ」

キクチに言われ、シド達は各々のバックパックから集めた遺物をカートに乗せていく。

「あ、俺の方の記憶媒体は注意しろよ、なんでもエロ動画系らしいから」

「・・・・・なんで知ってる?」

「ライトが中身を見たからだ」

シドの言葉にライトはまた赤面し、キクチはライトの表情でシドの言葉が本当だと言う事に気づく。

本来ならからかってやる所だが、今のキクチにはその体力も気力も惜しい。

「わかった。まあ問題ないだろう。んで?これが再生機か?」

キクチはカートの上に乗せられた四角柱の機器に目をやる。

「たぶんな。遺跡の中で動画鑑賞する訳にも行かなかったから動かしてないけど」

「なるほどな。まあ、こっちで調べるさ。・・・それにしても大量だな・・・」

「いや、まだまだあったぞ」

「・・・・・」

キクチはシドの言葉に絶句する。

「うん、ボク達二人じゃ10往復しても運びきれないくらい」

「この再生機もまだあるだろうな」

「そうだね、似たような扉がずらっと並んでたもんね」

「畳み掛けんじゃねーよ!・・・・・その場所の情報を売ってくれ。高値で買い取るから・・・・」

キクチは疲れ切った表情でそういい、死んだ目でカートに乗った遺物たちを見る。

シド達は都市に帰る途中で相談し、こういう提案があったら場所の情報等を渡そうと決めていた。

「OK。いい値を付けてくれよ」

「これ、場所の座標と扉の開放方法です。それと、この場所であのオートマタと接触したので気をつけて下さいね」

またまたライトから爆弾を放り込まれ、反応するのにも疲れ切ったキクチは雑な対応になる。

「そうか・・・気を付ける様に言っておく・・・後日値段の連絡を入れるからそれまで 【都市で】 大人しく待ってろ」


キクチにそういわれ、シド達は頷き車に乗り込む。

「あ、キクチさん。これあげます」

ライトはキクチに向かって小さいケースを投げ渡す。

「なんだこれ?」

「回復薬です。少しはマシになると思いますよ」

そういい、シド達の乗る車は走り去っていった。


キクチは渡されたケースを開けると、中には確かに回復薬が入っていた。

動けば何かと面倒事を持ち込む連中だが、この心遣いはありがたかった。

キクチはケースの中身を少し口に入れ、この遺物たちやオートマタの処理の手続きをする為倉庫から出ていく。


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