タカヤとユキの門出 そしてライトの情報収集機
翌日、タカヤとユキは自分の荷物をまとめ拠点を出ていく。
「短い間でしたけど、ありがとうございました」
「ありがとうございました。俺たちも二人に負けないように頑張ります」
シドとライトに挨拶をし、これからはアズミとミリーのチームに加わる為、拠点を移すことになる。
「おう、まあ、また何かあったら連絡くれ」
「うん、二人とも頑張ってね」
シド達も二人を見送り、自分達の今後を考える。ライトはランク10のライセンスを手に入れ、防壁内に入ることに支障は無くなった。今後はシドと二人で活動していくことになる。
「んで、お前情報収集機どうするんだ?新調するのか?」
シド達は一度拠点の中に戻り、ライトが新しい情報収集機を買おうとしていた事を聞いてみる。
「ん~・・・それがさ、この都市に売ってる情報収集機って、今使ってるヤツと大差ないんだよね」
ライトはあれから色々調べてみたのだが、スターレックインダストリー製の情報収集機以上に高性能な機器がダゴラ都市には売っていなかった。それは、ファーレン遺跡で活動するならこのレベルで十分とされているのと、これ以上の機能を追加しても使いこなせるワーカーが存在しないのが実情だった。
「シブサワに連絡してみれば?」
前にミスカ達のトラックに行った際、ライトは唐澤重工の営業マンであるシブサワから情報収集機の紹介を受けていた。
「う~ん・・・・でもな~、人が死んでるって聞いたらちょっと・・・」
ライトが紹介を受けた機器は使用した際に情報量が多すぎて脳が処理しきれず焼き切れてしまったという話だった。
<イデアはどう思うんだ?>
シドは、なにかと唐澤重工押しのイデアが今回は大人しい為、話を振ってみる。
<私としてはライトの持つ情報収集機は十分な性能を持っていると思うのですが、ライトは何処に不満があるのですか?>
そうイデアがライトに聞く。
<ん~、この前の扉を自力で開けられなかったのが悔しかったのと、シドさんと模擬戦してる時かな、たまに反応が遅れるんだ>
<反応が遅れる?>
<うん、シドさんの反応を追いながら自分の射線を表示して、ユキやタカヤに指示を出してると、たまに送ったハズの指示が遅れて送信されたり、自分の射線表示が遅れたり、シドさんを追いきれなかったりだね。その時その時で起こる症状はバラバラなんだけど。機器の排熱も追いついてないみたいですごく熱くなってるし>
<ふむ、その時は時間操作も使っていますね?>
<うん、シドさんと模擬戦してる時はずっと使ってるよ。でないと反応できないし>
<なるほど・・・・シド、ライトの情報収集機に触れてください。私が当時の状況を再現しますのでライトは機器の操作に集中してください>
<わかった><はいよ>
シドはイデアの言う通りにライトの情報収集機に手を当てる。
すると、ライトの動きが止まり、眼球だけが忙しなく動き始める。
2.3分程時間が経ち
<わかりました。もう手を放して大丈夫です>
イデアがそういい、シドは手を放す。
「ふー・・・」
ライトはこの数分で結構集中していたようだ。
<これはライトの思考スピードに機器が追いついていませんね>
<あ、やっぱりそうなんだ>
イデアがそう結論を出し、ライトは予想していたのか納得の表情を見せる。
<ん?どういう事だ?>
<ライトは時間操作を行いながら、索敵・射線表示や弾速計算・仲間への指示等を行っています。機器の操作は問題なく行えていますが機器の性能がその速度に追いついていません。よって、タスクの処理が間に合わずライトの望んだ結果が出力されないのです>
<なるほどな。ならもっと処理能力が高い情報収集機が必要って事か?>
<そうですね。処理能力だけでは無く、通信速度も必要です。今の機器ではマイクロチップとの通信速度が遅く0.04秒のタイムラグが発生しています。それはシドとの高速戦闘の際には致命的なタイムラグになります。それは生体電気を扱い始めたシドなら分かりますね?>
<あ~、なるほど。限界まで縮めると自分の体が動くまでが遅く感じるもんな>
<ライトの場合も同じです。シドは自身の体を動かそうとしますが、ライトは体だけでなく情報収集機の反応も遅く感じる為、かなり不自由に感じるのでしょう。せめて0.001以下の速度は欲しいところです>
<今の1/40・・・あるかな?そんなの>
<・・・・いや、あいつ等ならやりかねない>
<そうですね、唐澤重工なら可能性はあるかと>
シドもある意味で唐澤重工に対する信頼があるようだった。
と、言うわけで、ライトは貰った名刺のコードに連絡を入れてみる事にした。
『はい、シブサワです』
「あ、どうもおはようございます。ライトと言います」
『ああ、ライト様。この度は御連絡ありがとうございます』
「はい・・・ええっと、この前お話していた情報収集機の件なんですけど」
『はい、実機は取り寄せていますので、すぐにでもお試しいただけますよ』
あまりの用意の良さに気持ち悪さが出てくる。シドもこれには苦笑いを浮かべる。
「あ、ありがとうございます。ならこの後、ええっと・・・ミスカさんところで試させて頂けたらと・・・」
『はい、承知しました。今からミスカ様のトラックまで伺わせていただきます』
「はい、ボク達も向かいます」
短時間で話が付き、ライトは通信を切る。
「なんか、スッゲー用意が良かったな」
「うん・・・ボクが絶対連絡してくるって分かってたみたい・・・」
「ま、まあ、とりあえず行ってみようか」
シド達は車に乗り込み、ミスカ達のトラックに向かった。
東門の外の自由市、ミスカ達のトラックに到着したシド達はガンスとシブサワに迎えられた。
<めっちゃ早くないか?シブサワ>
<そうだね・・・どこから向かったんだろう>
<不思議な男性ですね>
自分達より速く到着しているシブサワに戦慄を禁じ得ないシド達だった。
「おー、いらっしゃい」
「この度は弊社の製品に興味を持ってくださり、誠にありがとうございます」
二人は各々ライトを歓迎している様だった。
「あれ?ミスカさんは?」
ライトはその場にいないミスカの事が気になった。
「あ~・・・アイツは奥でふてくされとるわ」
「え?」
「まあ、アイツはアイツでお前の事を心配しとると思ってくれ」
「御心配には及びません。安全は保障しますので」
シブサワは非常にいい笑顔でライトに言う。
「あ、はい、今日はよろしくお願いします」
シドとライトはガンスに促されトラックの中に入っていく。
「それでは、こちらがライト様にお勧めするIFG‐EX80でございます」
シブサワは台の上に情報収集機を置く。
「まずは、初期設定を行い、低負荷での使用から開始して頂ければと」
ライトは機器を手に取り、自身のマイクロチップとのリンクを始める。通信設定は数秒で終わり、現在使用している設定に内容を書き換えていく。
粗方の設定が終われば、あとは実際に使ってみて使用感を確かめるだけになった。
しかし、自由市で使用しても、実際の戦闘時の挙動は確認できない。
「う~ん、やっぱり実際に使って戦ってみないとわからないか・・・」
ライトがそうつぶやき、シドがシブサワに
「前みたいに荒野で使ってみてもいいですか?」
と、提案してみる。
「はい、もちろんです。その際のデータは私も閲覧しても構わないでしょうか?」
シドはライトの方を向き、ライトも特に問題は無いと頷く。
「んじゃ、荒野までは送ったるわ」
ガンスが荒野まで送ってくれるという。
「いいんですか?」
「おう、シドの時も送ったしな。ぶっちゃけ俺も興味あるわけよ」
ガンスはそういい、トラックの運転席に向かって
「おーい、荒野に行ってくれ」
と声をかける。
「はいよー!」
コックピットの方からミスカが不機嫌そうな声で返事をしてきた。
「前と同じ場所でええんか?」
ガンスが行き先を聞いて来たので、シドはライト達と訓練に使う場所をガンスに伝え、そこに向かってもらう。
トラックがいつもの訓練場に着き、全員でトラックを降りる。
この時はミスカもトラックを降りてきたようだった。
しかし、その顔は不機嫌そうで、そっぽを向いたままだった。
ライトはシブサワに機器の操作説明等を質問していて、ガンスもライトのそばについていた。
シドはミスカに近寄り話しかける。
「どうもミスカさん」
「・・・」
ミスカはチラっとシドの方を見るが、すぐに視線を外す。シドは苦笑いをしながら聞く。
「心配ですか?」
「・・・・そらな・・・」
ミスカはライトに、注意事項を守っていなかったとは言え、死人が出た装備品を使わせるのが不本意なのだろう。
「大丈夫ですよ。アイツは情報系の装備なら唐澤重工製でも使いこなします」
「・・・・・そうやろか」
「アイツは俺の相棒ですよ?」
シドはなんの根拠にもならない言葉をミスカに投げる。
「・・・はぁ~・・・ホンマに大丈夫なんやな?」
それでもミスカの気休めにはなったらしく、少し気持ちが軟化したらしい。
「はい、今使ってるヤツでも不満があるようですからね。もしかしたらあの情報収集機でも文句が出るかも・・・」
「それは聞き捨てなりませんね、シド様」
気づかぬうちにライトへの説明が終わったのか、シブサワがシドの背後に立っていた。ミスカに気をまわしすぎた為に、シブサワの接近に気が付かなかった。
「弊社の製品でも不満がでるかもしれないと?」
シブサワはそうシドに詰め寄る。
「あ・・いや、言葉のあやですよ」
空気読めよこの野郎と思いながら、ミスカに一礼し、ライトの方へ駆け寄っていく。
「シドさん、とりあえず設定は終わったよ」
<あとはイデアと相談したいかな>
<わかりました。シド、機器に触れてください>
<はいよ>
「ま、使ってみればどんな感じかわかるって」
そういいながら、シドはライトの背中に取り付けられた機器に手を当てる。
時間操作を行えるライトと、極超高速思考が可能なイデアなら設定に数秒あれば十分な時間だった。
<問題ありません。あとは実際に使用してみて微調整を行ってください>
イデアからのお墨付きも出たことだし始めるかと、シドとライトはマガジンの中身が非殺傷弾になっていることを確認し、岩場の中に入っていく。
ガンス・ミスカ・シブサワはその状況をライトの情報収集機から送られてくるデータで観戦することになった。
<それでは、戦闘開始です。戦闘時間は5分です>
今回はイデアが開始の合図を出し、検証戦闘が開始される。
お互いが相手の位置から動向を把握しており、それぞれの行動パターンを考えながら如何に撃破するかを考え行動を開始する。
シドはいつものようにライトに向けて真っすぐに距離を詰める。
この程度の岩山や瓦礫等はすでに障害物としても認識していない。しかし、駆けていく最中にライトの動きがいつもと違う事に気づく。
いつもは距離を取り、シドが動きにくく、ライトが迎撃しやすい場所まで誘い込む動きをするのだが、今回はライトも距離を詰めて来た。今までの結果から、これは無謀と思うところなのだが、ライトは無駄な動きをしない。これは何かあるとシドは警戒と好奇心を湧きあがらせ、自分はいつも通りに真っすぐ向かっていく。
ライトは先日までの訓練と違い、シドの動きにのみに集中できる状態と新しい情報収集機から送られてくる情報から、シドと真っ向勝負をする決断をした。
流石は唐澤製、今までの情報量とは桁が違う。今までは飛び飛びだったシドの動きを正確にライトへ伝えて来た。
(行ける!)
ライトはシドの動きを読み、巧みに銃撃を開始した。
「!」
ライトが射線が通っていない状態で発砲し、なんだ?と思っていると弾丸が瓦礫に反射しシドの方に向かって飛んできたのだ。
(いやリフレクトショットって!)
思わぬところから弾丸が襲い掛かり、急いで回避行動を行う。普通、遺跡の中での戦闘で弾丸が瓦礫に跳ね返されるということはない。だいたいが瓦礫に埋め込まれるか、貫通するかのどちらかだった。しかし、今使用しているのは非殺傷弾。強化ゴムであったため、瓦礫の強度が高いところに撃ち込めば反射させることは可能だった。
(あの野郎!こんなことが出来るとは!)
シドは今まで警戒した事の無い攻撃に面食らうことになった。しかし、視認してから回避できる反応速度を持つ体は、これくらいでは被弾しない。難なく避け、自分の射線にライトを捕えようと距離を詰める。
しかし、シドが射線が通るところに出ようとすると、必ずライトが放った弾丸が邪魔をする。
無理に突破しようとしても2発目の弾丸が襲い掛かり、回避か受け流しを行うと、ライトは直ぐに射線が通らない場所へと逃げ込んでしまう。
(あ、これは無理だな)
シドはこれまでの経験から、被弾覚悟で突っ込むか、使用禁止されている電光石火を使用しなければ5分以内にライトを仕留める事は出来ないと理解する。
(ん~、いや、ここは無理にでも突っ込まないと面白くない)
即座に行動を選択し、ライトを追いかける。
(よし!このままの調子なら逃げ切れる!)
ライトはシドの動きを観察し、今までの傾向から電光石火を使わなければ最悪でも相打ちには持ち込めると判断した。
相変わらずシドの動きは捕えづらい。しかし、この情報収集機があれば不規則に跳ね回るシドを正確に把握できる。
必死に駆け回り、シドの射線に入ってもシドの攻撃タイミングも把握できるためギリギリだが躱すことが出来る。
直射も跳弾も利用し、シドに接近されまいと攻撃の手を緩めず走り回る。
すると、シドの動きが急に変わった。
今まではライトの攻撃を避け、的を絞らせないように動いていたが、これは被弾覚悟で突撃してくると予想できた。
ライトは残り時間を確認し、このまま逃げ切るのは難しいと判断。
シドを迎え撃つ覚悟を決める。周りの情報を一気に収集し、もっとも迎撃に適しているであろうポイントに陣取る。
シドもライトが動き回るのを止めた事を感じ取り、真正面からの突撃を行う。
ライトの情報処理を武器にし、からめ手を含めた迎撃。
シドの身体能力ごり押し、小細工抜きの正面突破。
両者が激突し、5分を待たず模擬戦は終了する。
ライトの情報収集機から送られてくる情報で観戦していたシブサワたちは、模擬戦の短時間ではあるが、その激しさに言葉を失った。
「・・・・・・これがランク30にも満たない者たちの戦いですか?」
やっとのことでシブサワが声を出す。
「「・・・・・」」
ガンスもミスカもまだ呆然とし、声も無いようだった。
シブサワはこの情報を本社に持ち帰るかどうかを悩む。
本来であればこれだけの力を持つワーカーを見つければ、すぐに共有しさまざまなアプローチをかけるのが普通だ。しかも、二人は未だどこのメーカーにも目を付けられていない真っ新な状態である。
これほどのチャンスは無い。しかし、この情報を持ち帰れば、開発陣が暴走することもまた間違いない。
シブサワは、二人の情報を自分だけで止めるか、本社と共有するかのメリットとリスクを天秤にかけ思考する。
すると、ライトを抱えたシドが岩場から姿を現す。
それを見止めたミスカがシド達に声をかける。
「お疲れ!ライトは大丈夫なんか?!」
「ああ、大丈夫ですよ。意識はありますんで。いろいろ頭を使ったみたいでへばってるだけです」
シドはそういい、ライトを地面に降ろす。
「うう・・・・やっぱりS200は卑怯だよ・・・」
ライトは限界まで使用した時間圧縮と情報収集機の操作で脳を酷使したようで、青い顔をしたまま、シドに文句をいう。
「ははは、コイツを使えるようになるまで結構苦労したからな。A60だったら俺が吹き飛ばされてただろうな」
最終的にシドはS200の連射機能でライトの弾丸を弾き飛ばし、ライトに銃撃を加えることができた。
しかし、全てを払い落とせず四方から襲い掛かってくる弾丸を何発も食らいながら、身体拡張者の利点を生かし強引に突破したのだった。
「・・・うぇ~~・・・」
ライトは情けない声を出しながら地面に突っ伏し動かなくなる。
ミスカはライトの様子に心配そうな表情を浮かべ、ライトの傍によった。
「大丈夫か?水でも飲むか?」
「・・・・お願いします」
ライトを甲斐甲斐しく面倒を見るミスカを横目に、ガンスがシドに話しかけてくる。
「いや~、凄かったなお前等。あない強なってるとは思わなんだで」
「ええまあ、頑張って訓練しましたから」
「訓練だけでどうにかなるようなもんか?あれ」
「訓練しないと強くなれませんよ」
シドとガンスが話していると、観戦用の機器を片付けたシブサワも会話に入ってくる。
「いや~、私も驚きました。情報収集機の評価の方は後程ライト様に聞くとして、シド様はもうS200を使いこなしているのですね」
「苦労しましたよ。ここまでじゃじゃ馬な銃、良く作りましたね」
「こいつらの開発陣、頭おかしいねん」
ガンスもあきれ顔でそういう。んで、それ使うお前もな、と心の中で思っていることは秘密だった。
「私どももどうしたものかと思っていたのですが、早々に販売実績と使用実績が得られたのは幸いでした。このデータ、本社でのプレゼンに使用しても?」
シブサワは会社へ報告する為の資料として、この模擬戦のデータの使用許可を求めて来た。
<イデア、どう思う?>
<問題ないかと。このデータを元にさらなる装備を開発してくるかもしれませんしね>
イデアからもOKが出たため、シドに拒否する理由も無くなる。
「俺は構いませんよ。後でライトにも聞いてください」
「承知しました。ありがとうございます」
シブサワはシドに丁寧に頭を下げ、お礼を言ってくる。
「よし、もう用事は終わったんや、都市に帰るで」
ガンスがそういい、全員トラックに乗りこむ。
都市に着くころには回復薬のお陰か、ライトの調子も戻って来た。
シブサワはライトにもデータの使用の許可をもらい、上機嫌の様だった。
こうして、ライトの新しい情報収集機の購入も決まり、値段の方も1700万コールと高額だが、ライト曰く性能を考えたら格安だと太鼓判を押していた。
ガンスとミスカ、腰を深く曲げお辞儀するシブサワに見送られ、シド達は自分たちの拠点に帰っていく。
ミスカ達視点
「いや~、今回も素晴らしい商談になりましたね」
情報収集機も採用され、S200と合わせて実用データを手に入れホクホク顔のシブサワ。
「しかし、あいつらホンマにすごいやっちゃで。あそこまで唐澤重工製で固めとるワーカーなんか見たこと無いぞ」
ガンスはシドとライトの適応性に驚きを隠せない様だった。
「・・・・これでライトの隔世遺伝者説は確定か・・・」
ミスカはまだ浮かない顔をしていた。
「そうやな、でも、俺らは商人や。特定の客にあんま入れ込むんは良くないぞ」
ガンスは商売人観点からミスカに注意する。
「それはわかってるよ。でもな~、あの子ら、実力云々より見た目が子供過ぎんねん」
渋顔のまま返答するミスカ。特にライトは母性本能を刺激するようだった。
「確かにまだお若いですからね。あまり駆け足になりすぎるのも問題ですが、今進まなければ平凡で終わってしまいます。その辺りの加減を間違える様には見えませんでした。いいコンビでしょう」
企業の営業として色々なワーカー達を見て来たシブサワは二人をそう評価していた。
「普通、あの年であれほどの実力を持っていれば、もっと天狗になっても可笑しくありません。しかし、二人とも地に足が付いているように見受けられます」
「そうやな~。でもシドの方はちと危なっかしいで。昨日、他所から来たワーカーチームを一つ壊滅させとるらしいからな」
「なんて?」「どういうことです?」
ミスカとシブサワは初耳なのか、ガンスに聞き直してくる。
「昨日キクチから泣き言が入ってきてな。シドが遺跡で遺物の強請りを受けたみたいや。相手のチームと戦闘になってほとんど打ち取ったみたいやで」
「・・・・」「それはまた・・・」
ミスカとシブサワは驚きはするが、今日の模擬戦を見た後では、そんじょそこらのワーカーチームでは太刀打ちできない事は容易に想像できた。
「シドはまだ小柄な方やからな。見た目で舐められることはあるやろ。それに、第三区画出身ってのも、いらん火種になりかねんっつってキクチがぼやいてたわ」
「・・・身長が伸びる薬ってあったっけ?」
ミスカが的から微妙に外れた事を言い始める。
「ボケとる場合やないぞミスカ。下手こいたらブルーキャッスル辺りと全面戦争なんて事になる可能性もあるんやからな」
ブルーキャッスルとは、ダゴラ都市のワーカーギルドの一つで、規模としては中堅クラスのギルドである。
そのメンバーは防壁内出身のワーカーで固まっており、スラム排除を謳うメンバーが多く所属しているのだった。
当然第三区画出身のワーカー達との仲は最悪で、オフィスからの要請案件でも絶対協力しないと豪語しているギルドである。
もし、彼らとシドが遺跡内で遭遇し、戦闘になるようなことになれば、2人VSギルドの構図が出来上がってしまう。
そうなれば、普通なら少数の方が都市を出ていくことになるのだが、シドとライトなら善戦できてしまう可能性がある。そうならないようにキクチはアレコレと策を練っているのだった。
「・・・・あの子らもそんなことせんやろ」
「わからんで。ライトは養成所で絡んでった連中を病院送り。シドはもっと過激や、喧嘩売って来た相手に加減するとは思えん」
戦闘特化のワーカーチームを一人で壊滅させているのだ、遺跡で撃ち合えば確実に死人が出るだろう。
「そうなれば、私は二人を全面的にバックアップしますよ」
シブサワは笑顔でそういう。
「煽んなアホ。そうならんことを願うしかないな。とりあえずキクチの頑張りがどうなるかやな」
頑張れキクチ。ガンスとミスカは今も資料作成に奔走している知り合いに心の中で敬礼を送るのだった。
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