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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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コーディネイトの効果と遺跡探索

住処まで帰って来たシドはイデアからコーディネイトの内容と明日の行動予定の説明を受けている。


<前回中断していたコーディネイトを再開します。今回摂取した栄養素を推察すると約45%の進捗状況になります。>

「あれだけ食ったのにまだ45%なのか。結構必要なんだな」

<シドの体には栄養素がほとんど蓄積されておりませんでしたので仕方ありません。それに全ての栄養素をコーディネイトで費やしてしまうと、明日活動するエネルギーが残りません。今朝と同じ空腹状態で遺跡まで行くのは危険です>

「それはそうだな。で、明日はなにするんだ?」

<ファーレン遺跡と呼ばれる場所に行き遺物を探します>

「ファーレン遺跡?!外周部じゃなくて遺跡の中まで入っていくつもりか??」

<はい、外周部では必要な収入を得られることが出来ません。となれば遺跡の中に入って遺物を収集する必要があります。その情報を手に入れる為にワーカーオフィスまで行ったのではないですか>

「いやそうだけどさ・・・でも、大丈夫か?モンスターに見つかったらそのまま殺されるぞ?対モンスター用の装備なんて持ってないんだ」

<本日のコーディネイトを行えば問題ありません。私も全力でサポートします。安心してください、遺跡内部でのマップデータを参照した結果、私の持つマップデータに類似するものを発見しました。その二つを照らし合わせた結果、遺跡の浅い部分でも未発見区画が存在します。そこまで行けばまだ遺物が残っている可能性があります>

「?イデアも遺跡内のマップ持ってたのか?」

<そのことについてご説明します。ワーカーオフィスで取得した情報を精査した結果、私は旧文明と呼ばれている時代で製造されたユニットということになります>

「旧文明?!イデアは遺物だったのか!」

<はい、私は再生歴 後期548年に製造されています。現在は世界的に統一された年号は無く、この地域では企業が統治している年数と月日が制定されているようです>


現在は過去と違い国と言う概念が無く、6つの巨大企業による統治が行われている。

よって年号ではなく、そのエリアを企業が統治した年数が数えられ一般的に広まっていた。


<ちなみに今は喜多野マテリアル 108年 5月 10日です>

「それは喜多野マテリアルが統治して108年たった 5月10日ってことなのか?」

<そういう事です。6大企業の間でも月日がばらけると取引に支障が出るとのことで、その辺りは統一していますが年だけは統一されていません。原因としては6つの企業を束ねる存在がおらず、各々が勢力圏を拡大しようと闘争を続けているからです。喜多野マテリアルは現在どこのエリアとも争ってはいませんが、他のエリアを出し抜けるだけの技術や情報を手に入れれば積極的に動き出す可能性があります>


シドはふ~ん と興味無さそうに返答する。

実際今のシドには統治企業の都合も年月日も関係が薄い。知らなくても生きていける。それよりも明日の食い扶持に関する情報を求めてイデアに問いかける。


「そんなのはいいからさ。今日のコーディネイト内容と明日の予定だよ。どうするんだ???」

質問を受けイデアはまずコーディネイトの内容をシドに説明した。

<コーディネイトですが、周辺情報を取得し認識する為の情報器管を作成。これにより現在視覚と聴覚でのみ行われていた情報収集が飛躍的に高まり、拡張視界によって周辺情報を表示し奇襲による対応力の向上や収集物の発見の確率を上げます>


「情報収集の情報器官??拡張視界ってなんだ?」

<それは明日コーディネイトが終了し、体感すればわかります>

「そうか・・・」


<あとはシドの体内にある治療ナノマシンの搭載・保管量の上昇と精製能力を持たせる生体プラントを作成します。これにより多少の負傷なら直ぐに治療され、重症を受けた場合でも出血死やショック死さえ避ければ生き残れるだけの生命力を担保できます。ただし、体の修復やナノマシンの精製にはシド体内に蓄えられた栄養素を消費しますのでご注意ください>


「怪我したら飯を食って栄養を補給しないといけないってことか?」

<そうなります。過剰に摂取された栄養素を保管する機能を腸に持たせ、今までなら脂肪として蓄えられるか吸収しきれず排出されていた栄養素も取り込めるようにします>

「さらに食事が大事になって来たってことか・・・」

<人間の三大欲求の1つですからね。旧文明では、全身サイボーグ化するものも珍しくなかったのですが、エネルギーは充電かエネルギーパックで賄えるとしても、食事ができ、有機物をエネルギーに変換できるオプションを付ける者がほとんどでした。機械の体を手に入れても人の欲求は変化しないということです>

「なるほど・・・コーディネイトの内容はもう終わりか?」

<あとは骨格や関節の強度を上げるくらいでしょうか?今のシドの筋力で全力を出せば骨が耐え切れず折れてしまいます>

(右足がちょっと痛いのはそれでか・・・)

ゴロツキを戦った際の蹴りの反動でシドは右足を負傷していたのだ。

<明日はコーディネイト終了後、遺跡に行き遺物の捜索です>

「どうやって持って帰るんだ?俺荷物を運ぶようなものは何も持ってないぞ?」

<ワーカーオフィスで少量でも価値の高い遺物を調べてあります。手で持ち運べる量を持ち帰り換金すれば問題ありません。その資金を使い装備の充実を図ります>

「なるほど、わかった。それじゃ早速コーディネイトの続きをやってくれ」

<承知しました。それでは横になってください。安静が確認されしだいコーディネイトを再開いたします>


シドはマットレスに横になり目を閉じる。コーディネイトが始まったのだろう。すぐに意識が遠くなり眠りについた。



シドの意識が浮上してくる。目を開け辺りを確認するとまだ日は昇っていなかった。

暗いバラックのなかで身を起こそうとするが・・・

<おはようございます、シド。気分はいかがでしょうか?>

「おはよ、イデア。気分か・・・まあ・・・普通?特に変な感じはしないけど」

<現在治療ナノマシンの調整中です。負傷していた右足と炎症反応がある筋肉の修復中です。しばらくそのままでお待ちください>


そういわれ、少し体に力を入れてみると全身に鈍い痛みがある。昨日の戦闘時にかかった負荷がまだ体に残っていた。


「言われてみたらちょっと体が痛いかな・・・どれくらいじっとしてたらいい?」

<約10分で終了します>

「そうか・・・終わったら遺跡に行くんだよな?まだ暗いけど大丈夫かな?」

<現在の時刻は4時25分です。日の出まで約1時間18分あります>

「時間・・・あー、ワーカーオフィスで時間の情報も手に入れてたのか」

<はい、今のシドは視力も飛躍的に向上しています。多少の暗闇でも問題なく視認できますので安心してください>

「わかった。終わったら教えてくれ」

(なんか、イデアと出会ってからだんだんと人間離れしていくな。これが旧文明の強化ユニットの力なのか・・・)


・・・・・・・・・・・・・


<ナノマシンの調整と治療が完了しました。もう動いても大丈夫です>


シドはその言葉を聞き体を起こす。そして全身を動かし違和感がないか確認すると、以前に比べて体が軽くなった様な気がする。


「お~、なんか凄いな。なんていうかスムーズに動くっていうのか?体が軽い気がする」

<問題なく調整が終わったようですね。それでは遺跡に向けて出発しましょう>


イデアの言葉にフンっ!と気合を入れ、シドは外に向かって歩き出した。


2時間ほど歩き遺跡外周部に到着した。


前回死にかけた辺りまで歩いていき周りを見渡す。地面には爆発による焦げ跡は残っていたがモンスターの死体は無く、ハンターの死体も消えていた。

(スカベンジャーが持って行ったのかな)

ワーカー達の中には死体回収屋スカベンジャー達が存在する。戦闘によって倒されたモンスターの死体を回収し売り払ったり、死亡したワーカーの死体を焼却しランセンスを回収して金銭を得ている者たちである。

もし自分が死ねば、この様に跡形もなく処理されるのかと考えると胃に重しが付いたような気分になった。

だが、このまま立ち止まっている訳にはいかない。自分の目的地はもっと先、遺跡の内部にある。

シドは気を持ち直し、前へ進んでいった。


あと少しで遺跡を囲んでいる防壁に着くと言ったところでイデアが声をかけてくる。

<シド、そろそろ遺跡に到着します。ですので、新規に増設した情報器官を使って周辺の情報を取得しましょう。そうすれば索敵が容易になり、奇襲などの危険を大幅に減らせます>

<ああ、でもその感覚器官ってどうやって使うんだ?>

<周囲の空気の流れや微細な音波の跳ね返り、熱反応などを検知する器官になります。今回は私がサポートしますのでその感覚を覚えて下さい。ゆくゆくはシド自身が周辺の情報を感知し判断できるようになって下さい。それでは始めます>


イデアがそう言うと、シドは半径10m程の様子が頭に浮かんできた。目で見るのとは違い、気配の様なもので瓦礫がどのように積まれているのか、その内側にどの様な物があるのか、空気の流れすら手に取るように分かった。


<これは凄いな・・・>

<今は私がシドの感覚器官が取得した情報を変換し、シドの脳に直接送っています。訓練を重ねれば自力で行えるようになり、さらに情報取得範囲も拡大していきます。さらに、この様な事も可能です。シド足元の石を投げて下さい>


イデアの言う通りに石を拾い適当に投げてみる。

すると、放物線を描いて飛んでいた石が赤枠で囲われた。


<これは?>

<動体に対してマークを表示し追跡することが可能です。これにより視認性が上がり、感覚器官が成長すれば壁の向こう側や地面の下など視認できない存在も発見することが可能です>

<便利すぎるな~旧文明の人間ってみんなこんな事できたのか?>

<いいえ、シドを強化したのは軍用強化ユニットです。軍人として活動できるように調整が施されていますので、一般的な強化ユニットとは強化度に大きく差があります>


シドは改めてとんでもないものと契約したものだと思った。

ワーカーオフィスで取得した情報から、そろそろモンスターの出現範囲であるとイデアから忠告を受け、シドは細心の注意を払い遺跡の奥へと進んでいく。

防壁の隙間から内部に侵入し建物の影に身を隠しながら進んでいくとイデアから注意を受ける。


<シド、前方にモンスターです。注意してください>


シドは瓦礫から慎重に顔を出し、瓦礫の向こう側を見つめた。視界の中に赤枠で囲まれた存在を認識し顔をしかめる。

そこには、数日前に遭遇した熊のようなモンスターが居た。前回とは違い、小径の銃身を持つ銃器が2つとミサイル発射台が一つ背中に生えていたのだ。


<ラクーン種ですね。嗅覚が鋭く、武装に個体差が大きい種類です。膂力は強めですが移動速度が比較的遅く、主にワーカーになりたての新人が訓練として戦う事が多いようです>

<ラクーン???え?たぬき?初心者の訓練相手?>

<はい、その様です>

前回遭遇したとき熊だと思い盛大にビビリちらかした相手が、実は狸であり遺跡の中では初心者訓練用の雑魚だと知って回れ右したくなる。

<・・・・どうする?>

ここまで来て何の成果も無く逃げ帰るわけにはいかない、帰っても空きっ腹を抱えて餓死するだけなのだから。

<今のシドでは素手で倒すには時間が掛かりすぎます。戦闘音を聞きつけられ複数に囲まれる危険がある為やり過ごす方向でいきましょう。進行ルートを視界に表示します>

<わかった・・・素手で倒せるのか?>

<時間をかければ、ですが>

<・・・>

銃で撃っても掠り傷程度しか与えられなかった相手に時間は掛かるが素手で倒せると言われ、コーディネイトの効果の凄まじさを改めて実感する。が、今はまず遺物を探さなくてはならない。あんなのにワラワラ出てこられては遺物捜索どころでは無くなってしまう。シドはイデアの案内でモンスターをやり過ごし奥へ奥へと進んでいった。


しばらく遺跡の中を進み漸く目的地にたどり着いたらしい。

そこは上部が半壊しボロボロになったビルの残骸に見える。

<ここか?>

<はい、このまま内部を直進してください>

イデアの案内で内部を進む。そして扉が破壊されて蛻の殻となった部屋へとたどり着いた。

<何もないんだけど?>

<左奥の瓦礫をどけて下さい。そこに下に通じる通路があります>


言われるままに瓦礫をどける。常人をはるかに超えた膂力を手に入れたおかげで大した苦労もなくがれきの撤去が終わる。だが通路がある様には見えない。


<何もないぞ?>

<そこに手を当てて下さい>

視界に赤枠で表示されている床の一部、そこを手で払うと金属板の様なモノがあった。瓦礫が積もっていたというのに疵一つない。これが何なのかは分からないが、イデアに言われたように手を当てる。


ピピッ と小さく電子音がなり床が開いていく。その先には地下に通じる階段があった。


「おおぉ~~~!すげー!階段がでてきた!」

<瓦礫と埃のせいで見つからなかったようですね。進みましょう>


初めての遺跡探索で未調査区画を発見した。シドはこの奥に眠るであろう遺物に思いをはせる。

階段を降り切り通路を進んでいく。ここまでは順調に進んでいたがイデアがストップをかける。


<シド、止まってください>

「どうした?」

<今、視界に表示させます>


シドの視界には無数の赤い線が走っていた。


「イデア。これは?」

<この施設の警備機構です。触れると何らかの迎撃装置が作動すると思われます>

「こういうのもあるのか・・・これも自分で気づけないとダメなのか?」

<はい、いずれは自力で気づけるようになって頂きます。しかし、今回は訓練を行っている余裕がありませんので、私の方で表示させていただきました。シド、この赤い線に触れないよう注意して進んでください>


「・・・了解」


シドは赤い線に触れないよう、屈んだり跨いだり時には飛び越えて警備機構を潜り抜けていく。

コーディネイトのおかげで体力的には問題ないが、神経を集中させているため、精神の疲労が激しく、思うように進めなかった。そしてあと少しというところでミスを犯す。


腹部辺りの線を飛び越えようとして着地に失敗し足を滑らせた。体勢を立て直そうと手を伸ばすが、その手が赤い線に触れてしまう。


その瞬間、通路全体が赤くなりエラー音が鳴り響く。


!!!


しまった!と思ってももう遅い。迎撃装置が作動しシドを攻撃しようとする。


<シド!前です!破壊してください!!>

シドの情報器官からイデアを介し、脳に情報が送られてくる。前方の天井にマークが表示され、その場所から機銃が出現する。

「ッ!!!」

声にならない悪態をつき、シドは集中力を高め体感時間を圧縮し機銃に向かって全力で駆けた。

限界まで縮めた時間の中で機銃の銃口がシドを狙う。人が撃つ時と違って発射のタイミングが分からない。イデアのサポートで機銃の射線や回避ルートが表示される。それらをもとに床を・壁を・天井を蹴って距離を詰めるが自分の動きがひどく遅く感じられた。

ついに機銃が発砲し、通路内に無数の弾丸をばら撒く。

高速の弾丸が体の近くを通りすぎていき、着弾した壁や床を削り取っていく。旧文明の機銃は高速で動くシドを正確に捉え、照準を合わせ無限ではないかと錯覚する程の量で弾幕を張ってきた。

弾丸が通り過ぎる余波でさえ皮膚を切り裂いて肉を抉っていき、シドの体を削っていった。


ミスをすれば命はない。


もし体勢を崩せば無数の弾丸に撃ち抜かれ、ハチの巣どころか木っ端みじんになりかねない。

シドは必死に射線を掻い潜り機銃までの距離を詰め、機銃に取り付いた。

天井に足を付き、激しく発砲する機銃を抑え込むと渾身の力で天井から捥ぎ取る。

繋がっていた弾丸装填用のベルト毎機銃を引きちぎり、反動で地面へと強かに叩きつけた。


バチバチと放電音を鳴らし、機銃は完全に沈黙する。


「はぁ はぁ はぁ ・・・・・・・・・・いってぇ~~~・・・・」


体のいたる所の皮膚が破け血が流れる。


シドは他に異常が発生しないかを確認し、その場に腰を下ろした。


(ヤバい・・・今までで一番死に近かった・・・)


乱れた息を整えようとするが上手くいかず、死を間近にした緊張と恐怖から体が震えてくる。


(遺跡を舐めていた・・・・)

「ガキが一人で来るところじゃなかった・・・・」  そう呟く。

<一人ではありません。私がいます。落ち着いてください>

「イデア・・・」

<このまま奥に進んでください。施設の警備機構を停止させる必要があります。大丈夫です。このエリアの迎撃装置はあの一台だけです>


(・・・・・・・このままここに座ってるって訳にもいかないよな・・・)


気合で震える体にムチを打ち立ち上がる。


「この奥でいいんだな」

<はい、一番奥の部屋に制御室があります。そこまで行けば安全を確保できます>


(よし・・・!!絶対生きて帰ってやる!!!)


スラム街での生活でも命の危険は経験してきた。死にさえしなければ今までと変わらない。

そう無理やり自分を奮い立たせ奥へと歩をすすめる。




シドは通路の最奥まで到達し、金属製の重厚な扉の前に立った。


<左側の端末に触れてください>

シドは扉の左側にある端末に手を触れる。数秒すると扉が開き始め、中に空気が流れ込んでいった。

部屋の中に入るとそこには様々な機器とモニターが設置されている部屋だった。イデアが視界に表示させたルートを頼りに制御装置までたどり着き、指示通りの操作を行うと赤くなっていた施設の色が元に戻る。


<これでもう安全です。少し休憩しましょう。時間操作で脳にも負担がかかっているはずです>


アドレナリンが落ち着き、頭痛がし始めた頭を手で押さえシドは腰を下ろした。


「はぁ~~~・・・もう大丈夫なんだな?」

<はい。大丈夫です。しばらく休めば体の負傷も頭痛も治まります>


(そういやケガもしてたんだっけ・・・気づいたら痛くなってきたな・・・)

シドは自分の体を確認する。

いたる所から出血していて服もボロボロだった。しかし良く見てみると次第に傷が小さくなり塞がっていく。抉れていた場所も肉が盛り上がり修復され皮膚が覆っていった。


「すごいな、こんなに速く治るのか・・・ナノマシンさまさまだな」

<治療用ナノマシンがシドの細胞と同化し傷を塞いでいます。しばらくすれば、シド自身の細胞と入れ替わり完全に修復が完了します>

(旧文明の技術はすごいな・・・企業が高い金を出すわけだ・・・)

シドは旧文明の技術力の高さを実感し、その価値が高い理由を目の当たりにして、今から探す遺物の価値を想像した。


「ここの遺物もこれくらいすごいのか?」

<いいえ、ここは当時民間の警備会社だったようです。故に警備機構も単純で迎撃装置も貧弱でした。

軍用の技術と比べると数段レベルは下がります>


(あれで貧弱なのかよ・・・ま、子供がちょっと強化処置を受けた程度で掻い潜れるんだから、そんな評価になるのも仕方無いのか?)

<生活基盤をある程度整えて本格的に訓練を行いましょう。最低限あのくらいは無傷で突破できるくらいにはしたいですね>

「・・・・・・・・・よし。ケガも治ったみたいだし。行くか。何処に行けばいい?」

シドは今後行われるであろうキツイ訓練を未来の自分に放り投げ、遺物捜索に気分を切り替える。

<そこの部屋の奥になります。ルートに従って移動してください>


イデアの案内に導かれ、当時の備品が保管されていた部屋にたどり着いた。

幾つもの棚が設置されており、そこには様々な遺物が残っていた。

「よし!よし!よ~~し!大猟だ!!!!」

シドは部屋に入り早速物色し始める。旧文明製のケースは長い年月にも耐え、内容物をしっかりと保全していた。


「これは何が入ってんのかな?!こっちのは結構大きいぞ!あ!こっちのヤツはなんか高級そうだな!」

興奮しながら遺物が置かれている棚を見て回る。たいした運搬手段を持っていないことも忘れて、あれやこれやと棚から引っ張り出すシドをイデアが落ち着かせようとする。


<シド、落ち着いてください。ここには貴重度の高い物や重要物などは無いようです。恐らく、旧文明崩壊期に持ち出されたのでしょう。あまり高度な技術を用いられた物は無いようです。その中から持ち帰る品は厳選しなければいけません。私が内容物を調べますので、指定する物だけを持ち帰ってください>


「え?!こんなにあるのにか?!」

<はい、ここにあるのは日用品や簡易な回復薬、後は護身程度の武器といったところですね>

「・・・・それでも高く売れるよな?」

<はい、ワーカーオフィスに持ち込めばかなりの収入が期待できます>

「それじゃ持てるだけ持って帰って!」

<あまり高価なものを持ち帰れば、どこで見つけた物か調査が入ると思われます。その情報を持つシドも当然狙われるでしょう。常に付け狙われる生活をお望みですか?>

「・・・・・・」

そう言われ、シドは冷静になる。

自分の様な子供があまりに高額な遺物を手に入れたなどと知れ渡れば厄介ごとがダース単位を超えてやってくるのは想像に難くない。

ワーカーオフィスが本気になって調べてくることは無いだろうが、スラムの住人や組織は本気になる。

シドを締め上げて情報を吐かせれば、子供が一人で行って帰って来られる様な安全な所にある遺物(大金)が自分のものになるのだから。

実際はスラムの住人がここに来てもあの機銃で一掃され遺物など手に入らないのだが、彼らが重要視するのは子供が行って帰って来た場所というところだ。

危険は無いと安直に考え、情報を聞き出す為、我先にと襲い掛かってくることは目に見えていた。


それに機銃はシドが破壊してしまった。あの階段が発見されれば簡単にこの場所までたどり着ける。

この場所は秘密にしておきたい。今後の為にも。


「わかった。遺物を選んでくれ」

<承知しました。しばらくお待ちください>


遺物の鑑定をイデアに任せ、シドは部屋の中をウロついていた。


そしてイデアは30cmくらいのケースを一つ、長さが1m程あるケースを一つ、長細い丸型のケースを一つ選んだ。


「これだけでいいのか?」


シドは思っていた以上に少ない量に不安を覚える。


<はい、この遺物を持ち帰ればシドの生活環境を改善し、装備の拡充を行う費用を賄えるでしょう。しかし、スラム街での金銭感覚からするとシドを殺してもお釣りがくる金額になりますので、ワーカーオフィスに持ち込む際は注意が必要です>


「・・・・わかった。またその辺りはサポートしてくれ・・・」

<承知しました。お任せください>

「頼りにしてるぞ」


シドはイデアが指定するケースを開け、中に入っていた布を取り出し遺物を包んでいく。

それを背中に括り付け、無事に住処まで帰れることを願いながら部屋を出ていった。


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