布系遺物の価値
シドはドーマファミリーで遺物の換金を終わらせ、拠点に戻って来た。
ライト達3人のバックパックを持ち、リビングまで上がると、そこには3人がシドの事を待っていた。
「シドさん、どうだった?」
ライトが一番にそう聞いてくる。
「ああ、問題なく終わったぞ」
シドはそういい、それぞれのバックパックを渡していく。
「金は中に入ってるからな」
そういわれ、全員が中身を改めると、大金が入れられていた。
「おお~~」
「すごいね」
「第三区画でもある所にはあるんだね・・・・」
タカヤとユキは素直に喜び、ライトはかつて自分が所属していた組織から大金が出てきたことに驚く。
「明日、タカヤとユキはその金で装備の充実させるんだろ?俺はこの前行ったアパレルショップに布の遺物を持っていくわ」
「ん?ああ、なんか部屋の中に放り込んでたってヤツ?」
ライトが思い出しかのようにシドにいう。
「そうだな、それと今回の遺跡でもあっただろ?ぺしゃんこに圧縮されたヤツ。あれも一応取っておいた」
「あ、あれって布製の遺物だったのか」
タカヤは手あたり次第に遺物をバックパックに放り込んでいた為、何かに包まれている物が何かまでは気にしていなかったようだ。
「ああいった遺物はワーカーオフィスに納品するより、専門の店で買い取ってもらった方がいい値が付くらしいからな。覚えといた方が得するぞ」
「なるほどね。今回の遺跡探索はすごく勉強になったよ」
ユキはそういい、シドの言うところの実地訓練を振り返る。初日は初のモンスターとの戦闘・討伐、その後遠方から狙撃され危うく死にかけた。ライトのおかげで無傷だったが、遺跡は危険な所だと再認識できた。高ランクの情報収集機でしか出来ないシーカーとしての仕事も目にでき、遺物の運搬がどれほど大変かも実感した。
2日目は、異常な戦闘能力と対応力を持つシドとライトとは違い、一般的なワーカーの技術を感じる事も出来た。おそらく、自分とタカヤはビルの様な行動を取るべきなのだろう。これも非常に有益な経験だった。
養成所にいたままでは、この様な経験は得られなかったと確信できた。
「そういや、お前らの謹慎って何時までなんだ?確か2週間って言ってたよな?」
「そうだね、明後日で終わることになるかな?」
ライトは自分たちの謹慎が解ける日の事を調べ、シドに伝える。
「そういや、俺達って謹慎中なんだったな」
「謹慎って何なんだろうね・・・?」
タカヤとユキも自分達が謹慎中だったことを思い出したようだった。謹慎とは何なのか?と思うほどに濃い2週間だったことは間違いない。
「なら明日が最後の自由時間だな。ライトはどうするんだ?」
シドはライトに話を振る。
「う~ん・・・どうしようかな。ボクも防護服と情報収集機を見に行こうかな」
「それなら布売った後にミスカさん達のトラックに行ってみるか」
「そうだね、そうしようか」
「あ、それ私たちも付いていってもいい?ミスカさん達のお店も興味ある」
「そうだな、俺もいってみたい」
タカヤとユキも一緒にミスカのトラックに行きたいと言い出す。
「いいんじゃない?行商人からならランクの制限なく装備が購入できるしね。でも、他の行商人から買うのはお勧めしないよ?ぼっくられたり怪しい品を薦められたりするって話だから」
ライトが二人に忠告する。行商人はワーカーオフィスとの提携や都市に所属していない為、ランクの制限を受けずに商品を買うことが出来る。しかし、信用できる相手を見極める事が難しく、基本は誰かからの紹介でないと取引しないのが普通だった。
その点、ミスカ達はダゴラ都市を起点として商売をしている為、他の行商人たちより誠実に商売をしているのだった。
「そうなんだな、わかった」
「他に行商人相手で気を付ける所ってあるの?」
タカヤは素直に納得し、ユキは他の注意点を聞いてくる。
「遺物や遺跡のシステムデータを売ってもワーカーランクは上がらない。初期不良とかの問題が発生しても、返品交換を受け付けてない所がある、不定期で居たり居なかったりだから行商人だけをあてにすると補給に困るってところかな?あとはワーカーオフィスの融資は受けられないって事もだね」
ライトが行商人との取引のデメリットを説明していく。
「ん?行商人の場合はオフィスからの融資は受けられないのか?」
シドが知らなかった様だ。
「うん、ワーカーオフィスが融資を行う場合って、提携店から購入することが前提になるんだ。融資したワーカーが、変なモノを高額で売り付けられて死んだら大損害でしょ?」
3人がなるほどな~、と納得する。
「そうなんだ・・・今回は私たちは防壁内のお店で買う事にするよ」
「そうだな、あまり背伸びしていい装備を買っても使いこなせないと意味ないしな」
タカヤとユキはただの見学で付いてくるつもりのようだ。
「あ、そうだ。シドさん、今回の訓練の費用って今払った方がいいのかな?」
ユキが今回の訓練に掛かった費用をいつ払ったらいいのか聞いてくる。
「いや、お前らがちゃんとワーカーとして稼げるようになって、俺に払っても余裕があるって時に少しずつ振り込んでくれたらいいぞ。金額は・・・・・」
<イデア、幾らだっけ?>
<それぞれで260万コールですね>
「それぞれで260万コールだな。ほとんどは回復薬の値段だ」
シドは訓練で使用した回復薬と弾丸の金額をイデアに聞き、タカヤとユキに伝える。
二人は回復薬の値段を聞き驚きはするが、あの性能を考えるとその金額にも納得する。
本来病院送りになるような負傷もその場で回復させ、訓練続行できるほどになる回復薬なのだ。普段自分達が購入出来るような値段ではない事は容易に想像がつく。
「ありがとうございます。必ず返しますんで」
そうユキが行ってくる。
「おう、完済するまで死ぬんじゃないぞ」
シドはそう笑いながらいう。これはシドなりの激励だった。
「それじゃ、明日に備えて今日は休もうか。2日連続で遺跡に行ったから疲れも溜まってるだろうし」
そうライトが話を〆に掛かり。今日はこれでお開きとなる。各々が自分が使っている部屋に入って行き休息とった。
翌日、4人はそれぞれの組に分かれ、自分達の用事を済ませに行く。午後にワーカーオフィスの出張所で昼食を取った後、ミスカ達のトラックに向かうと打ち合わせを行い解散となった。
タカヤとユキはそれぞれの装備を購入しに行き、シドとライトは布製の遺物を持ってアパレルショップ バーミリオンに向かった。
店舗内に入ると、店内には女性客が2人いて、前回来た時に居た女性店員が接客を行っていた。
シド達が入店してきた事に気づいた男性店員が対応してくる。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
シド達は前回の様な防護服を着こんでいる訳ではなく、この店で買った服を着ていたがシドの背にはバックパックが背負われている。
「今日は遺物の買い取りをお願いに来ました」
シドはそういい、バックパックを降ろし、中から4点の遺物を取り出す。
一つは畳まれているが、剥き出しの白い布、他の3点は圧縮パックに入った物だった。
「この布は一回荷物を包むのに使いました。こっちの3つは開けてないので何が入っているかわかりません」
そういい、シドは4点の遺物を男性店員に渡す。
彼は少し驚いたような顔をして遺物を受け取り、「少々そちらにお掛けになってお待ちください」といってテーブルセットを指し、店の奥に遺物を運んでいった。
シドとライトはテーブルセットの椅子に座り、査定が終わるまで待つ。
「この店の服って着心地いいよね」
ライトがそんな風に話題を振って来る。
「ん?そうだな。まあ、スラム街で来てた服に比べたら防壁内の服ってそんなものじゃないのか?」
シドは今一つ服の質が分かっていなかった。
「そうかな?ボクが与えられてた服って高い物じゃ無いのは間違いないけど、防壁内から流れてきた物なのは間違いないと思うんだ。それと比べたら全然違うんだよね。材質と製法の違いなのかな」
ライトは組織から与えられてきた服と、この店で購入した服の違いに気づき、その着心地を気に入っているみたいだった。
「また気が向いたら買いに着たらいいんじゃないか?そんなに高い品って訳でもないし」
そんな事は無い。
数百万単位のワーカーの装備と比べたら安いが、防壁内の一般人からすれば高い分類に入る。
シドの金銭感覚は順調にワーカーに染まっている様だった。
シドは店内にいる二人の女性客が服を体に当て、色々店員と相談している風景をなんとなく眺めていると、ライトが「あっ」と何かに気づいたような声を上げ、懐から帽子を取り出し深めに被った。
<なんだ?どうした?>
なにかマズい事にでも気づいたのかとライトの方を見て念話で話しかける。
<うん・・・あの二人、養成所の訓練生だよ。今日休みだったんだ・・・>
<そうなのか?でもなんで隠すような事するんだよ>
<あの二人、ボクと模擬戦をした5人組の人たちなんだ・・・>
<ああ、なるほど。でもお前が隠れる理由があるか?>
<そりゃー、休日のショッピング中に自分をぶちのめした相手とバッティングしたくないでしょ?>
<・・・・そりゃそうだな>
ライトは二人にバレない様に顔を隠し、シドも不用意に彼女たちに関わらない様、視線を向けない様にする。
<なるほど、彼女たちが養成所の訓練生なのですね?優秀なのですか?>
イデアが念話に参戦してくる。
<うん、養成所の中ではトップクラスだよ>
ライトはそう答える。
<ふむ・・・・タカヤとユキの足元にも及びませんね。養成所の訓練が知れてしまいます>
なにかと養成所をディスるイデア。
<分かるもんなのか?>
<はい、彼女たちのバイタルや重心の置き方、気の配り方、体の動かし方で大体の実力は図れます。あれがアトラクション訓練での限界なのでしょう>
<・・・・なあ、イデアは何か養成所に恨みでもあるのか?>
<いいえ。ですが、正規の訓練所と称して、中途半端な訓練しか行えない養成所の存在意義に疑問を持っているだけです>
旧文明の軍事用として開発されたイデアはワーカー養成所に不満がある様だった。
<お前もライトが養成所に入るのは賛成したよな?>
<はい、ライトの実力は一般的なランク10のワーカーの基準を達成していましたし、ワーカーとしての一般常識や、シーカーとしての能力向上には有用であると判断しました。そして、ライトはその知識を十全に会得出来たと思います。しかし、一番重要な生存に係る部分を蔑ろにしている養成所の方針には賛同しかねます>
<別に蔑ろにしてるって訳じゃ無いと思うけど・・・>
ライトはそう小さめに反論してみる。
<ではライト。彼女たちが遺跡に探索に行き、無傷で帰って来れる・・・いいえ、生きて帰って来れると思いますか?>
イデアにそう言われ、ライトも難しいと判断する。スタンピード前のラクーンが散発的に出現する遺跡ならなんとかなるだろうが、今は複数で徘徊し、クラブキャノンまで出てくる様になった。
今のファーレン遺跡では彼女たちの実力では通用しないであろうことは予測できる。
<でも、彼女たちは天覇所属だから、遺跡に行くときは引率がつくんじゃない?>
<彼女たちはそれで構わないでしょう。しかし、タカヤとユキの場合では高確率で最初の探索で命を落とします>
イデアにそう言われ、ライトは納得するしかない。事実、ユキはクラブキャノンの狙撃を受けそうになったのだ。
<満足に遺跡の浅層すら探索出来ない者達を量産する施設を、養成所と言って良いのか疑問があります。養成所の方では今の遺跡の状況を正確に把握していないのではないかと疑ってしまいますね>
イデアの養成所批判が止まらない。これ以上話しても埒が明かないと考えたシドが止めに掛かる。
<もういいじゃん、3人が卒業したらもう関係なくなるんだし。今は布の値段とライトの装備だよ。昼飯何喰うかも大事だ>
シドがそういい、イデアも養成所批判を止める。
<そうだね、その中に昼食が入って来るのがシドさんらしいよ>
そういい、ライトが笑いを堪えたように肩を揺らす。
結構長い時間話していたようだ。奥の部屋から店員が戻ってきて、シド達に買い取り金額を表示してくる。
「お待たせしました。こちらのお値段で如何でしょうか?」
そういい、店員が見せてきた端末には1700万コールの表示がされていた。
「「!!!!」」
二人はその値段を見て驚く。ワーカーオフィスやミスカ達に売ってもせいぜい20万コール程度の値段しかつかなかったはずだ。
「ええっと・・・なんか滅茶苦茶高くないですか?」
シドがそう疑問をぶつける。
「はい、西方以外の地域ではあまり価値を認められていませんが、我々の本社がある地域では非常に価値が高くなっており、この値段でお取引させて頂いております。こちらでよろしいですか?」
店員は再度確認してくる。
「は、はい・・・問題ありません」
シドはそういい、ライセンスを渡す。店員はシドのライセンスを受け取り、決済を行った。
「本日は誠にありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」
店員にそう見送られ、シド達はバーミリオンを後にする。
シドとしてはそれほど高い金額と言う訳では無いが、今月の飯代にはなるか?程度の感覚で持ち込んだ遺物が予想外の高額取引になった。
ライトはまさに無知は罪であるという言葉を実感していた。
「・・・・・なんだか、凄い事知った気分・・・」
「ほんとにな・・・・これはあまり言いふらさない様にしよう」
「そうだね・・・」
若干の放心状態でシド達はワーカーオフィスの出張所に向けて足を動かした。
閉店後のバーミリオン
閉店処理をした店の中でユウヤとリューンが今日の話をしていた。
「リューン、今日のお客はどんな感じだった?」
ユウヤはリューンが担当し、商品を買っていった2人組の女性客の事を質問する。
「ん~、普通でしたね~。服のセンスはいいって感じでしたよ」
「常連になってくれそうか?」
「そこまでは分かりませんけど、ウチの服は気に入って貰えたみたいですよ?」
「そうか、なら大事にしないとな」
「そうですね~、今後も私が対応しますよ・・・・それで?遺物の方はどうでしたか?」
リューンがシド達が持ち込んだ遺物の質と値段を聞いてきた。
「ああ、いい品を格安で購入出来たよ」
「おお~、やりましたね!どんな品だったんですか?」
興味津々で見せろと要求するリューン。ユウヤは店の奥にしまってあると言ってリューンを連れていく。
買い取られた遺物は倉庫の奥で、保管ケースに吊るされる形で厳重に保管されていた。
「おお~~!!この布・・・は良く分からないですけど、衣服の方はいいですね!上下揃っていて保存状態も完璧!」
「そうだな、この布は防刃・防通・耐熱に優れている様だ、旧文明の防護シートの様な物だったのかもな。衣服も凄いだろう?前に見た奇抜なデザインじゃ無く、現代でも通用するデザインだ。店舗の制服の様にも見えるな」
「う~ん・・・この4点なら3000万コールってところですか?」
リューンが買い取り価格を当てようとする。
「いいや、1700万で買い取った」
ユウヤがシドから買い取った値段を言う。
「は?!ほぼ半額じゃないですか?!いやありえないでしょ!前に西方で開催されたオークション、あれに出品されたこれ服か?って布切れ一枚が2000万下らなかったんですよ?!」
「そうなんだよな~、1700から交渉して3500までで手を打ちたかったんだけど、即決でこの値段だった」
リューンがユウヤさん、それは詐欺ですよと目で語って来る。
「いや、1700万でもこっちじゃ物凄く高い金額だったみたいだぞ?これがカルチャーショックってやつかな?」
はっはっはと笑うユウヤ。
西方では高価値がつけられる遺物を、格安で購入出来ご機嫌なユウヤ。シド達も儲かって幸せ、ユウヤ達も安く仕入れられて幸せ。まさしくwinwinの関係だった。
「これからも持ち込んでくれたら嬉しいんだけどな」
「あんまり阿漕なことしてると銃担いで殴りこんできますよ?」
「大丈夫だ。この都市にウチ以上に高値で買い取る店舗は無いよ」
ユウヤはそう笑いながらリューンにいいながら倉庫から出ていく。リューンはもう一度旧文明の衣服に目を向け、流石は遺跡最前線の都市と評価をしながらユウヤに続いて倉庫を出ていくのだった。
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