タカヤとユキ 初の遺跡探索
今日の訓練は遺跡で行う。
その為、4人は車に乗り込み、ファーレン遺跡まで向かっていた。
道中、タカヤとユキは初めて荒野に出た時以上に緊張した顔をしている。初めて遺跡に足を踏み入れた時のことを思い出したライトは二人の気持ちを察しながらも、その緊張感は持っておいた方がいいと思い特に声をかけなかった。
やがて遺跡に近づいて来たとき、タカヤは緊張でこわばった体を解しながらライトに話しかける。
「なあ、ライト。お前が初めて遺跡に行った時ってどんな感じだったんだ?」
「ん~、あの時はスタンピードの前兆だったのか遺跡の外周部にもラクーンが居たよ。最初はそれと戦ったかな」
「それってどのくらい居たの?」
ユキも会話に参加してきてその時の様子を知りたがった。
「4体だよ。2体は仕留めたんだけど、1体は急所を外して仕留められなかった。あたふたしてるうちに1体に近づかれて攻撃を受けてね。シドさんが仕留めてたよ」
「そうなんだ・・・ライトでも2体だったんだね」
養成所でラクーンを撃破しまくっているライトが2体しか倒せなかったと聞きユキはさらに緊張を深める。
「その時は初めてモンスターっていうものを見たからね。すごく怖かったよ。でも二人はシミュレーターでラクーンは見慣れてるでしょ?それに、シドさんとの訓練を思い出して戦えば問題ないよ」
二人はライトが初めて戦った時より濃密な訓練を乗り越えたのだ。いまさらラクーン程度に負けるとは思えなかった。
「でも油断だけはするなよ。一応この遺跡で最弱扱いのモンスターだけどな、モンスターはモンスターだ。途中で逃げたりしないぞ、死ぬまでこっちを殺そうとしてくるからな」
シドはそういい、二人の意識が緩み過ぎない様釘をさす。
「ちゃんと実弾渡したんだから確認しとけよ。モンスター相手にゴム弾撃っても効かないからな」
そう笑いながら言う。
二人は己の持つマガジンを確認し、しっかりと通常弾が込められていることを確認した。
「もうすぐ着くよ、この車は外周部に置いてていいの?」
「ああ、シールドを張るから問題ない」
<大丈夫です。私の方でも監視しますので。万が一の際は退避させます>
そして遺跡に到着し、防壁部の外側に車を止め、シド達は遺跡の中へ入っていく。
遺跡に入って早々にシドはモンスターの気配を感知し、ライトも同じように見つけているようだった。
「ユキ、索敵はどんな感じ?」
ライトはユキにモンスターの情報をとらえているか確認する。
「まだ反応は無いかな。このまま進んでも大丈夫そう」
「・・・わかった。このまま進もう」
ユキの情報収集機は初心者用でスタンダードなものだった。ライトが使っているものとは精度から索敵範囲からして全く違う。ユキがモンスターの気配を察知できないのは当然だった。
訓練は遺跡に入った瞬間から始まっており、シドは誘導はするが本当に危険な状況に陥るまで口も手も出さない方針だった。
しばらくそのまま進み続け、モンスターとの距離が近づいてくる。このまま進むとラクーンの感知範囲に入ってしまうなとライトが考えている時、ユキがモンスターに気づいた。
「モンスター発見!距離500!左前方に2体!」
ユキがそう報告を行い、タカヤが左前方に銃を構えて警戒する。ユキとライトも銃を構え、いつでも戦闘を始められる体制に移行した。
<これなら問題なく行けそうだな>
シドはそう3人の事を評価する。
<そうですね、初心者エリアでなら彼らは十分に活動できる練度まで来ています>
イデアも冷静に彼らを評価し、問題ないと判断する。
ここからは、戦うか避けて通るかの選択を行わなければならない。
ランク9以下の場合は避けるの一択なのだが、モンスターは2体で、3人とも対モンスター用の銃を装備している。戦力的には問題なく戦える状況だった。
「一度ここで戦ってみよう。二人に任せるからキッチリ倒してね」
ライトはそういい、戦闘を行う決断をする。
二人は生唾を飲み込み、慎重にモンスターの方向に歩みを進める。
シミュレーターで幾度となく戦った相手とは言え、本物のモンスターと相対する事は初めてだ。
養成所でも初戦でワーカー人生が終わる者や、命を落とす者がいると習った事を思い出し、緊張で指が震えだす。
「大丈夫、落ち着いて。シドさんと戦う事を考えたら、絶対にあいつらの方が弱いから」
ライトがそう声をかけ、二人を落ち着かせようとする。
二人もチラっとシドの方に目を向け、それもそうだと肩の力を抜く。
3人はゆっくりとモンスターに近づいていき、目視できる所まで移動していった。
瓦礫の隙間を通り抜けようとしたときに、不安定な場所にタカヤが触れてしまった。
瓦礫の一部が崩れ、ガラガラと音を立てて落下していく。
「気づかれた!」
モンスターに察知されたことをユキが気づき、ライトは後退の指示を出す。少しでも長く射線が通る所まで下がって迎撃する為だった。
「すまん!」
モンスターに気づかれた原因のタカヤがそう謝る。
「反省は後だよ。もう少し下がって迎撃しよう」
ライトは落ち着いて指示を出す。3人は迅速に後退を済ませ、モンスターが追ってきている方向を向き銃を構える。
「ユキ、相手との距離は?」
「もうすぐ300mくらい!」
そうユキが報告すると、瓦礫の向こう側に2体のラクーンがこちらに向かって走ってきているのが見えた。
「よし、来たね。二人で倒してみて。落ち着いて攻撃したら大丈夫だから」
ライトがそういい、タカヤとユキは銃を握りしめラクーンを狙いを付ける。
射線が通った場所にラクーンが姿を現し、こちらに向かって突進してくる。
タカヤとユキはラクーン目掛けて引き金を引いた。2人が持つアサルトライフルから弾丸が吐き出され、ラクーンに命中する。対モンスター用の銃と弾丸はラクーンの頭蓋を砕き脳を粉砕して絶命させた。
走っていた勢いのままに転がり瓦礫に衝突して動きを止める。
2体とも地面に倒れ、動きが無い事を確認した後、二人は銃を降ろし構えを解く。
タカヤとユキはそれぞれ1体ずつのラクーンを倒したのだが、緊張と本物のモンスターが向かってくる恐怖が遅れてやってきており、体が震え始める。
恐る恐る倒れたラクーンに近づき、死んでいる事を確認する。
「ふ~~・・・」
ラクーンに息が無い事を確認したタカヤがようやく安堵の息を吐いた。
「お疲れ様。どう?初めての実戦は」
ライトがそう二人に質問し、ユキが答える。
「本当にシミュレーションとは違うね。迫力が全然違った・・・・」
「そうだね、シミュレーションじゃ瓦礫が崩れるなんてこともないしね」
そういい、タカヤの方を向く。
「・・・すまん・・・」
明らかにタカヤのミスで気づかれたのだ。シドとの模擬戦の時はこんなヘマはやらかさなかったのだが、初の実戦でそこまで気が回っていなかった。
「うん、次からは気を付けようか。大丈夫だよ、一回戦っておけば次はそこまで緊張しないから」
ライトはそういい、二人を先に促す。
ユキは情報収集機から送られてくる情報にさらに集中し、ライト達はシドの誘導に従って遺跡の中を進んでいく。
シドがそろそろ目的のエリアに到着すると言ってきた辺りで、またユキがモンスターの反応をキャッチした。
「この先に5体。反応からまたラクーンだと思う」
タカヤとユキは5体と聞いて少し多いと感じた。
シミュレーションでは5体くらいなんの問題もなく討伐できたが、ライトが言っていた通り不規則に動くモンスターの急所に正確に弾丸を打ち込むのは難しかった。
シドとの模擬戦では感じられなかった、近づかれれば殺されると言うプレッシャーもあり、戦闘を躊躇してしまう。
「尻込みすんな。ここでビビってたらワーカーなんかやっていけないぞ」
シドはそういい、戦闘を促してくる。ライトは二人の判断に口をはさむつもりは無いようで沈黙を貫いた。
「やろう」
タカヤがそういい、覚悟を決めた顔でユキを見る。ユキはタカヤを見返し、無言で頷いた。
その様子を見ていたライトが作戦を伝えてくる。
「よし、ならボクとタカヤが2体、ユキが1体担当しよう。両外にいるラクーンはボクがやるから、右側のラクーンはユキ、そのほかをタカヤが仕留めてね」
そういい、ラクーンの振り分けを行っていく。二人は無言で頷き、三人でラクーンの反応がする方向へ進んでいった。
シドはその後ろに付いていき、新しく購入したKARASAWA S200を抜く。
ライトはシドの動きを感知して、少し不審に思ったがライトの情報収集機にも近くの敵の影は5体だけであり、特に反応せず、ユキとタカヤの後に続いていく。
全員がラクーンを射程距離に捉え、手に持った銃で狙う。タカヤも先程のような失態は犯さず、冷静に狙えている様だった。
まずはライトが一番外側にいる2体を銃撃し、一撃で絶命させる。自分達が攻撃されている事に気づいたラクーン達はライト達の方を向き、走りながら背にある銃器で狙いを付けようとする。
そこへタカヤとユキもラクーンへの攻撃を開始する。
ユキは正確にラクーンの額を打ち抜き、タカヤも同じように1体のラクーンの額を撃ち抜いた後、素早くもう1体のラクーンも仕留める。
2人は問題なく討伐出来たと息を吐き、構えを解く、その時。
「ユキ!!!」
ライトが叫び、空中に弾丸を放った。
ライトが放った弾丸は何かを弾き飛ばしたかのように空中で衝突音を出し、どこかへ飛んでいく。
ユキは自分が何かに狙われていたのだと気づき遮蔽物に隠れ、ライトはユキを狙ったであろう存在が居る方向に目と情報収集機のセンサーを合わせる。
するとビルの隙間を超えた先、約800mくらいの距離に1体の機械系モンスターが居た。
ライトは直ぐにモンスターを狙い引き金を引く。
ライトが放った弾丸は正確にモンスターに命中し機体を陥没させた。しかし、そこは頑丈さに定評のある機械系モンスターである。MKライフルの一撃にも耐え胴体にある砲身をライトに向けて発砲してきた。
「!!!」
ライトはモンスターの放った弾丸の射線から身をずらし、弾頭をSH弾頭に変更し再度銃撃する。
再度ライトの攻撃を受けたモンスターはSH弾頭の銃撃には耐えられず木端微塵に吹き飛んでいった。
ライトは情報収集機で再度周囲の安全確認を行い、周囲にモンスターが居ないかを確認する。
(・・・・・・・この辺りにはこちらを攻撃できそうなモンスターはいなさそうだね・・・)
広範囲を索敵できる情報収集機には、幾つかの敵性反応が見られるがこちらに気づいている様子が見えるモンスターは発見できなかった。
(危なかった・・・もっとしっかりと周りのモンスターの種類を見ておかないと・・・)
ユキを狙ったモンスターは以前スタンピードの時にも討伐したクラブキャノンだった。
広い索敵範囲を持ち、精密な射撃を行ってくる厄介な存在として知られているモンスターである。
荒野での撃ち合いの経験はあったが、遮蔽物の多い遺跡での戦闘は初めてで、まさかビルの隙間を通して撃ち込んでくるとは思っていなかったのだった。
「・・・・もう大丈夫だよ」
そう、ユキとタカヤに声をかける。
「・・・・なんだったの?」
ライトが気づかなければ死んでいたであろうユキは青くなりながらライトに聞く。
「クラブキャノンだね。養成所での知識としては習ったけど危険なモンスターだな・・・」
「クラブキャノンってこんな隙間を狙ってくるのか?!」
タカヤも狙撃してくるモンスターの知識は有ったが、そこまでの精密射撃をして来るとは思っていなかったようだ。
「みたいだね、連射はしてこないみたいだけど、あまり一カ所に留まって戦うのは良くないみたいだ」
ライトはそういい、二人に直ぐにここから離れようと提案する。二人も否は無く移動を始め、比較的安全であろうビルの中に入り腰を落ち着けた。
「・・・・・・・」
危うく死にかけたユキはショックを受けている様で俯いて水を口に運んでいる。
タカヤも自分の相棒が死にかけた事にショックを受けている様だった。
ライトはシドの方を向き話しかけてくる。
「シドさんはあのクラブキャノンに気づいていたよね?」
ライトがそういい、その言葉に反応したタカヤとユキがシドの方を向く。
「ああ、気づいてたぞ。ライトも気づいてたろ?でも撃たれるとは思ってなかったみたいだけどな」
シドは5体のラクーンの他にクラブキャノンが居る事は分かっていた。3人がラクーンと戦えばヤツの索敵に引っかかるであろうことも。故にS200を抜き迎撃の準備をしていたのである。
「そうだね、確かに気づいてた。あそこまで精密射撃をしてくるとは思わなかったよ・・・・」
「良く迎撃できたな。訓練の成果は出てるって事だな」
シドは満足そうに笑った。だが、それで済まない者が居る。
「・・・ライトが迎撃出来てなかったら・・・」
タカヤがそう言った。
「ライトが気づいて相手の攻撃を防いでいなかったらユキは死んでいたんだ!!!!」
タカヤがそう大声で叫ぶ。
「なんで教えてくれなかった?!」
「ちょ!タカヤ!」
ユキが慌ててタカヤを抑えにかかった。
「無事だったんだからそれでいいじゃない」
「いいわけあるか!お前死ぬところだったんだぞ!!!」
「落ち着け。ライトが反応しない、もしくは迎撃に失敗してたら俺が防いでたよ」
シドがそういい、タカヤを見る。
「俺は致命的な危険に陥らない限り手も口も出さない。そう言ったよな?」
「でも!」
「これは訓練だ。俺が連れてきた限りは全員連れて帰る。でも、これで遺跡探索が楽勝だなんて勘違いさせる為に連れてきたんじゃない」
「・・・・・」
シドにそう言われ、タカヤの頭に上っていた血が下がって来る。
「ここは遺跡だ。俺達ワーカーを殺す為にいるモンスターがウヨウヨしてる。目に見える範囲の敵を倒したからって気を抜くな」
シドはユキに目を移し
「ユキ、俺との模擬戦の際は視覚外から攻撃されても避けようとしたよな?なんで今回は反応出来なかった?」
「・・・・ラクーンに集中しすぎて気づかなかった」
「だろうな。それにラクーンを無事に倒せて気を抜いたんだろうが、索敵外からの攻撃ってのは常に警戒するべきだ。それは戦闘中でも変わらない。相手は旧文明で作られた兵器群だ。高性能で当たり前なんだからな」
その言葉はライトにも向けられている。
「戦ってようが飯食ってようが、常に周りを警戒する。模擬戦でも あ、ヤバいなって感じる瞬間は何回もあったはずだ。その勘を鈍らせるな。その時に適切な行動を取れなかったら死ぬんだからな。それはライトでも俺でも変わらない」
シドはそう3人にアドバイスをし、しばらくここで休憩にするといい床に腰を下ろす。
全員が腰を下ろし、水を口に入れ乾いた喉を潤していく。
<シドさんはこうなる事が分かってたの?>
ライトがそう念話で聞いてきた。
<いや?でも誰かが一度は死にかけるとは思ってた>
<なんで?>
<お前もラクーンに囲まれて死にかけただろ?俺も地下の機銃とやり合ったときには死にかけた。遺跡ってのはそういう処だからな。経験させられて良かったと思ってるよ>
シドはそういい、バックパックから携帯食料を取り出して頬張る。
<彼らは養成所を出た後は二人で行動するでしょうから、早めに命の危機に触れさせた方が良いと判断しました>
<これでビビって動けなくなるならワーカーには向いてない。防壁内で仕事を探した方が絶対にいい>
<・・・そうだね>
ライトは二人に目を向け、彼らが折れてしまわないかが心配だった。二人は少し離れた所で話している様だった。
暫く休憩し、シドが立ち上がり言う。
「さて、探索を再開しようか。この辺りはあまりワーカーが来ないみたいだからな。未発見の遺物も見つかるかもしれん」
シドが再開を促すとユキとタカヤも立ち上がり、近づいて来て言う。
「そういう事なら期待できるな」
「うん、そうだね。次はさっきみたいに油断せずにいくよ」
どうやら、先程の事は二人で消化できたらしい。二人の様子に、ライトは気付かれない様に安堵の息を吐く。
養成所で一緒に訓練してきた友人がここで折れてしまうのは残念だと思っていたからだ。
「ここからもユキが索敵、タカヤが対モンスター要員、ライトが遺物の有りそうな場所を探っていくって形で行動してくれ」
「「わかった」」「はい」
3人は返事を返し、行動を開始する。
そこからの3人の動きは先程までとは違い、しっかりと周りに意識を向けて探索するようになっていた。
やはり実戦に勝る訓練は無いなとシドが思っていると。
<そろそろ遺物がある場所ですね>
イデアがシドだけに念話を飛ばしてきた。訓練の為、ライトに知られると意味がなくなるからだ。
<そうなのか?またあの警報装置みたいなのがあるかもな・・・>
<可能性はあります。その場合はシドが無力化してください>
<ん?俺がやるのか?>
<はい、ライトでもあの程度ならなんとかなるでしょうが、そこまで負荷をかける必要な無いかと>
<わかった。前みたいな物があったら俺が対応するよ>
シドとイデアが内緒話をしていると。
「ん?あのビル・・・・ちょっと調べてみてもいい?」
ライトがそういい、右手前方にあるビルを指差す。
「何か見つけたのか?」
タカヤがそういい、ライトの方を見る。ユキは索敵に集中しているのか耳だけ反応させている様だった。
「うん、データに違和感があるんだ」
そういい、ライトはそのビルに向かって歩いていく。
<ふむ、流石ですね。当たりです>
イデアが少し嬉しそうにそういった。
<また地下の隠し部屋か?>
<はい、入った所の以前はロビーだったと思われる部屋ですね。その部屋の奥に地下に通じる道が隠されているはずです>
シドはイデアに教えてもらいながら、ライト達の後に続いていく。
ビルの中に入り、ライトは情報収集機の設定を細かくいじり始める。
(音の反響・・・熱反応・・・鉱物スキャン・・違うな・・・)
それぞれの設定を細かく調整し、先程感じた違和感を確かめようとする。
(光学迷彩探知・・でもない・・・・エネルギースキャン・・あ!)
「見つけた!」
そういい、ライトは部屋の右奥の方に行き、地面を調べ始める。
他の3人もそれに続き、ライトの後ろから床を見てみる。
「・・・・なあ・・・何もないように見えるぞ?」
タカヤがそういい、不思議そうな顔をする。
「・・・・うん、私にも分からない」
ユキは自分の情報収集機を操作し、ライトが見つけたであろう何かを探ろうとしたが、なにも分からなかった。
シドだけはイデアによって視界に写された扉の様なモノが見える。ライトはその扉のコンソールの様な場所に自分の情報収集機から伸ばしたコードを当て、なにやらじっとしている。
おそらく、ハッキングを行っているのだろう。
<開けられるかな?>
<問題ありません。順調に解除コードを調べられています。養成所でのシーカーの知識は役に立ったようですね>
しばらくすると、電子音が鳴りライトが居た辺りの床が動き下に続く階段が現れる。
「「おおお~~~!!」
その光景を見ていたタカヤとユキが声を上げ、目を輝かせる。
「うん、無事に開けられた。とりあえず入って直ぐに仕掛けは無いみたいだから降りてみよう」
ライトはそういい、肩の所に付けられた照明を点灯させ、階段を下りていく。
先程は浮かれた様子だったタカヤとユキは、ライトと同じように明かりを点け、気を引き締めライトに続いて地下に降りて行った。
地下に続く階段を下りると、そこには通路があり、両側に扉が複数あった。ライトとユキは手分けして中の様子を探り、モンスターが潜んでいないかを確認してから扉を開けていく。
ほとんどは空のラックやボロボロになった机などがあるだけの部屋だったが、奥の方に電子キーでロックが掛かった部屋を発見する。
「んー・・・制御室か何かかな?」
「なんだろ?」
シーカー志望の二人が扉に張り付きあれやこれやと探り始める。
<こういうのって解除失敗したら防衛機構が作動する感じだよな?>
<そうですね、だいたいはその様な仕様になっていたはずです>
ライトが端末の蓋を開け、コードを差し込む。ユキはライトが行っている事を興味深そうに観察していた。
ライトはしばらくの間セキュリティシステムと格闘していたが、解除コードがどうしても手に入らない。自力での解除を諦め、イデアに助けを求める。
<イデア、ごめん。この扉の解除コードってどうやって手に入れるの?>
<この扉のセキュリティは網膜スキャンと声紋感知と音声パスワード入力のマッチングで解除させるようですね。この手の扉は手入力パスワードやカードキー等で解除するタイプと違い、生体情報を誤認識させる性能を持つ機器で無ければ解除できません。よって、現在の装備ではこの扉とセキュリティシステムのリンクを破壊した後、物理的に扉を破壊する必要があります>
<なるほど、今のボクじゃ開けられないって事か・・・なら、セキュリティだけ殺せばいいんだね>
<はい、その後シドに破壊してもらいましょう>
<俺か?はいよ>
ライトはまた端末に集中し、扉のセキュリティを沈黙させる事に成功する。
端末の赤いライトが点滅し、最終的には消えてしまう。
「よし、これでセキュリティは殺せたはず。シドさん、よろしく」
「ああ、わかった」
事情が呑み込めていないタカヤとユキは、なぜここでシドが出てくるのかと不思議そうな顔をする。
「二人共、扉から離れて。今からシドさんに破壊してもらうから」
ライトがそういい、扉から離れていく。その様子に二人は慌ててライトに続いた。
<頑丈そうだな。SH弾頭でいった方がいいか?>
<そうですね。通常弾頭では威力不足でしょうし、PN弾頭では下手に貫通すると中の物を傷つける可能性が有ります>
イデアと相談し、シドはS200の弾頭をSH弾頭に切り替え、扉を銃撃する。
2丁のS200から発射されたSH弾頭は、その威力を十分に発揮し、分厚い金属の壁を凹ませ大きな穴を開ける。
「よし、空いたぞ」
シドはそう3人に振り返り、中に促す。
「・・・・なんだ?あの銃・・・あの大きさで鋼鉄の扉をこじ開けたぞ・・・」
「またとんでもない物を・・・・」
「・・・・あれで撃たれたら非殺傷弾でも体に穴が開くね・・・」
S200の威力に引く3人。
「なんだ?入らないなら俺が一番乗りするぞ?」
シドにそう言われ、3人は気を取り直し扉の中に入って行く。
ライト達が部屋の中を照らし、様子を伺うとそこは旧文明の備品室の様だった。そこには様々な遺物が残されており、3人は喜びの声を上げる。
「おお~~!!遺物だ!!」
「ほんとだ!いっぱいある!!」
「すごいね!一回じゃ運びきれないよ!」
シドも久しぶりの遺物との遭遇にテンションが上がっていくが、部屋の中の遺物を見て少し顔をしかめる。
<これ、あまり保存状態が良くないか?>
<そのようですね。保管ケースに入っている物が見当たりません>
シドが最初に入った建物の地下にあった遺物はどれも保管ケースに入っており、保存状態は良好に保たれていたのだが、ここにある遺物はそのままの状態で置かれており、劣化している可能性があったのだ。
「どうする?どれを持って帰ったらいいんだ?」
「遺物の価値までは習ってないもんね」
「メカ系の遺物は高く買い取ってもらえるみたいだよ」
3人はそういいながら遺物の物色を始める。シドも自分も持って帰る物を選別する為、3人に混ざることにした。
「一回で運びきれる量じゃないからな。しっかり選んでいこう」
シドがそういい、めぼしい遺物をバックパックに詰め込んでいく。
他の3人もそれに倣い、自分のバックパックに遺物を詰め込んでいった。
タカヤとライトとシドはバックパックがパンパンになるまで詰め込み、ユキは少し少なめに入れたようだ。
「おいユキ、まだ入るだろ?そんな量でいいのかよ?」
タカヤがそうユキに問う。
「私はこれでいいよ。重すぎると動きが鈍くなるし、帰りの戦闘も考えないと」
ユキは帰りの事も考えて控え目な量にした様だった。
シドとライトは一般的なワーカーよりも身体能力が高いため、これくらいの重さなら問題にならない。
問題になるのはタカヤだった。
「タカヤはその量持って戦えるの?」
ユキがそう聞き、タカヤは少しうろたえる。自分の背負ったバックパックの重量を確かめ、少し顔をしかめた。
「ちょっと降ろすわ・・・」
そういい、バックパックを降ろし、中の遺物を取り出していく。
「欲張って怪我したら意味ないもんね」
そういい、ライトは笑ってタカヤを見ていた。
全員の準備が終わり、遺跡から撤退を開始する。地下から出てきて、先ずライトは地下への入り口を閉める。まだ遺物が残っている場所なので隠蔽を行っておこうということだ。
「全員、行きと違って帰りは荷物がある。戦闘にも違和感が出るはずだから、いつもと同じように戦おうとするなよ。最悪の場合は遺物は置いていくことになるからな」
シドがそういい、3人は否定せずに頷く。遺物を抱えて死んでは意味がないからだ。
「よし、車まで気を抜くな。モンスターだけじゃなく、成果を横取りしようとする連中も出てくることがあるからな」
そういい、今度はシドが先頭に立ち帰路に就いた。
車まで着くまでの間に、散発的にではあるがラクーンと遭遇し戦闘になった。
だいぶんモンスターとの戦闘にもなれたタカヤとユキも冷静に討伐していく。周りに対する警戒も怠っておらず、問題なく車までたどり着くことが出来た。
「よし、戻って来れたな。みんな乗り込め。都市に帰って遺物を換金するぞ!」
シドはそういい、運転席に乗り込んでいく。3人もシドに続き車に乗り込み、都市に帰るためアクセルを踏み込み車を走らせるのだった。
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