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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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AIの名前 それと ワーカー登録

シドは目的の食料品店に向かい歩いていく。もうすぐ着くのだが、先程の興奮が冷める頃に軽い頭痛を感じる様になってきていた。


<なあ、なんか頭痛がするんだけど>

<先程の戦闘で体感時間操作を行ったことが原因です。意識を集中させ体感時間を圧縮した結果脳に通常よりも大きな負荷が発生しました>

<それって大丈夫なのか>

<問題ありません。コーディネイトによって脳の認識レベルも向上しています。訓練を重ねるごとに時間の圧縮率や使用時間を向上させることが可能です>

(あれはコーディネイトってやつの効果だったのか・・・)

ユニットによるコーディネイトは脳だけではない。身体的な強度と身体能力も元の状態から飛躍的に向上していた。でなければ、いくら体感時間を操作しようとも、脳の指令に体が追い付かず動くこともままならない。

通常の何分の1にまで圧縮した時間の中でいつも通り体を動かすという事は、通常の何倍もの速さで動くという事に他ならない。当然その速さで動ける身体能力で繰り出された蹴りの威力は凄まじいものがある。

人の首をへし折り、壁に穴を開けるほどに。

当然反動もある。

明日には筋肉痛待ったなし。

<まあ金も取られなかったし、俺がやったって言う証拠も無い・・・うん、何も問題なかった!>

<そうですね。それより、食料購入の予算はいかほどを考えているのですか?>

<う~ん、大体2000コールってとこかな。今は金がある!奮発するぞ!!>

<奮発ですか。素晴らしいです。今のシドは栄養が足りていません。しっかり食事を取ってさらなるアップデートを行いましょう>

<ん?コーディネイトって終わったんじゃないのか?>

<いえ、全体の15%程度で中断しています>

<15%?!なんで?>

<シドの体内にある栄養素では全く足りていなかったからです。身体強化に必要なタンパク質や鉄分・マグネシウム・亜鉛や銅なども不足しています。エネルギー源である炭水化物は致命的に足りていません>

<金属食えってのか?>

<いえ、通常の食品から摂取できます>

<ふ~ん、まいいや。とりあえず腹が膨れれば>


シドに栄養に対する知識などない。腹が膨らみ次の日に活動できる力を得る為のエネルギー摂取。それがシドの食事に対する認識である。味や栄養素などは2の次3の次だ。ただ食える、それだけでも有難いことなのであった。


雑談をしているとようやく目的の食料品店に到着した。

スラム街では比較的奇麗に片づけられたエリアにあり、ある程度の衛生が担保されている。この辺りで揉め事を起こす者はいない。数少ない真面な食糧が手に入る店の周りで暴れれば、近隣住民から顰蹙を買うだけでは済まず、エリアを管理している組織まで出張ってくる可能性があるからだ。

無事に到着できた事に安堵しシドは店内に入っていった。


店内はそこそこ広く色々な加工食品が売られており、奇麗に整頓されていた。中には肉や野菜などの生鮮食材も売られており、スラム街では高級品店として扱われる店で、低価格の物からスラムでは高級品とされる物まで幅広く取りそろえられている。

現在懐が温かいシドは少々浮かれながら店内の奥に進んでいく。


<ここだ!>

<これは・・・>


シドが向かった先は棚にデカデカと[!!!激安レーション!!!]の文字が張り出されていた。

栄養素を考えられ製造されたレーションは急場をしのぐ為の栄養補給食品として本来は高額で売られており、遭難時や悠長に食事を取っている時間などない時などに使用され、ワーカー達には便利な戦場食として愛用されている。

高タンパク・高エネルギー、一つ食べれば一日は動けるエネルギーを摂取でき、吸収率が非常に高く排泄物もほとんど出ないものも売られている。


だがしかし、ここに並べられている物は違う。


通常のレーションの破片をより集め成形した物や、防壁内で出た食品廃棄物から栄養素だけを抽出し固めただけの物など、品質上としても食品理念上としても販売していいものではない。

だがスラム街では売れる。防壁内で販売すれば即刻摘発され一発業務停止処分を受けるものでもスラム街では問題なく商品として売られていた。

「今日はどれにするか・・・よし、ちょっとお高めの黄色いやつで」

<シド待ってください>

<なんだよ・・・>

ウキウキで激安レーションを選んでいたシドはその気分に水を差され少しムッとする。

<この商品は安全上許容できません>

<安全上って・・・これまで食っても何ともなかったぞ?>

<否定します。コーディネイトの際、シドの体から不自然なほどの有害物質が検出されていました。これらの食品というのも烏滸がましい物を日常的に摂取していたことが原因です>

<なぬ・・・>

<これらの商品を今後摂取することはやめてください>

<だがしかしだな>

<しかしも案山子もありません。有害物質を多く含んでいるとわかっている物を契約者であるシドに摂取させる訳にはいきません>

<んじゃどうするんだよ。自慢だけど他の商品なんか買ったこと無いんだ。何が良いかなんて分からないんだよ>

<自慢になりません。今日は私が選定します。現在の所持金を教えてください>


AIは予算では無く所持金と言った。それは先ほどシドが伝えた予算では足りないということだ。

シドは正直に言うと全て使われるのでは無いかと思い、嘘をつく。

<・・・10000コールだ>

シドは所持金より低い金額を提示する。しかし相手が悪い。

<体温・呼吸ペースの変化・心拍数の上昇から96.7%の確率で嘘であると推察します。シド・・・現在の所持金は幾らでしょうか?>

<・・・・・・・・・23700コールだ>

無機質であるはずの声に言いようの無いプレッシャーを感じ、シドは所持金を白状する。

<承知しました。ではその金額内で効率よく栄養が補給出来る様選定いたします>

<待て待て待て!!!今ここで全部使うつもりか?!>

<全てではありませんが、ほとんど消費することになるでしょう>

<お前AIのクセに計画性って言葉知らないのかよ!一日の食費で23000近く使うって正気の沙汰じゃねー!!!>

<問題ありません。金などまた稼げばいいのです>

<稼げねーんだよ!ここはスラムだ!そんな割のいい仕事なんて俺みたいなガキには回ってこないんだよ!!>

<大丈夫です。任せてください。これもサポートの内ですので。今回の食事で吸収する栄養素を使ってコーディネイトを再開いたします。そうすれば、更に能力が向上し遺跡での作業効率も上昇します>



その後AIの選んだ食料品を購入し帰路に就いた。両手に抱える荷物の価値に今更ながら震えてくる。

シドの感覚で奮発して10日、節約すれば1ヶ月は食べられる程の金を使った。たった一日分の食料にだ。


「マジで全部使いやがった・・・・」

ショックで思わずつぶやく。

<全部ではありません。380コール残っています>

<それは残ってるって言わねーだろうが・・・>

せめてものの反論を試みるが

<シドが初めに奮発して買おうとしていた廃棄物が1つ買えるほど残っているのでは?>

あっさり返されあえなく撃沈する。

今まで食べていたものが体に悪いものであったこと知り、あらたな知識を与えてくれた存在に感謝の念もなくはない。明日からはまた稼がなければならない、野垂れ死ぬのはごめんである。今までになかった力を手に入れサポートをしてくれる相棒を手に入れたのだ。これからの生活はきっと今までよりも良いものになるはずである。

そう自分を納得させ、ともすれば一か月分の価値がある食料を手に住処へ帰っていった。



住処に帰って来た。


帰り道では厄介な面倒ごとなど起こらずすんなり帰って来られたことに安堵する。

今まで持ったこともない金額を使い買い込んだ食料品をテーブルの上に置いた。荷物の重量がかかりテーブルが軋みギシギシと音を立てる。


「おし!何はともあれまずは食うか!明日のことは飯の後で考えよう!」

<そうですね、まずは栄養補給です>

シドは買ってきた食料品を手に取る。今までは見向きもしなかった・・・いや、選択肢に入れることが出来なかった高級品だ。何かの肉を焼きタレをかけたもの・柔らかく茹でた野菜に味付けしたもの・卵を焼き丸めたもの・炊かれた白米、それらが一つの箱に詰められている。要するに弁当だ。

知識では知っていたが食べたことなどない、それはスラムに住み組織にも所属していない子供では絶対に買えない高級食料であった。

(これ一つで950コール・・・どんなもんだろう?)

シドからすれば未知との遭遇。蓋を開けるとまだ暖かい、こんな物を本当に食べてもいいのだろうか?などと思い匙を付けることを躊躇する。

その様子を窺っていたAIが声をかける。

<いつまでそうしているつもりですか?眺めているばかりでは食事が始まりません。他にも沢山あるのですから早く食べてはいかがでしょう?>

言うなれば、とっとと食えと急かされシドは漸く弁当に手を付ける。

まずは一口・・・その時シドは自分が生きてきた意味を悟った気がした。



一心不乱に食べ続け、持ち帰った食料を全て平らげる。

飲み物もその辺で売られているスラム街でいう一般品ではなく、品質が保証されたミネラルウォーターや栄養剤が添加されたトレーニングドリンクで喉潤す。



「・・・・・・・・・・・はあぁぁぁ~~~~、美味かった。美味いってこういう事だったんだな・・・・・・俺が今までしてきた食事ってなんだったんだろう・・・・」


燃料補給です。とAIが思ったかどうかは定かではない。

AIは論理的な思考回路で動く、余計な事は言わない。そんな発言をするより建設的な議論をする方が有益だからだ。


<食事も済みましたし、そろそろ今後の方針を決めませんか?>


シドの様子を見ればこのまま夢の世界へ飛んで行ってしまいそうである。そうなる前に今後の事を決めておかなければならない。シドのアップデートの方向性も。


「ん~~~~・・・そうだなー。いつもならまた遺跡の周辺で鉄屑拾いなんだけど・・・・お前はどうおも・・・まずお前の呼び名を決めようぜ」

<私の固有名称ですか?>

「そうそう、このままずっとお前呼ばわりって訳にはいかないだろ」

<シドがそう判断されたのであれば異論はありません>

シドは腕を組み考え込む。今日、名前を付けるのであればシドが考えろと言われていたからだ。とはいえ他者に名前など付けたことなどない。声しか聞こえず姿形・性別すら不明の存在に名前を付けるのはなかなかに困難だった。


「お前って性別あるの?」

<私はプログラムです。ある程度の意志はありますが、生物のように雌雄が有るわけではありません>

「だよな~。う~~~ん」

考え込むがいい名前は浮かんでこない。

過去を振り返ってなにか良い響きの言葉でもないものかと思案していると、あるシーカーの言葉を思い出した。

「イデアってのはどうだ?」

<イデアですか?>

「結構前にちょっと世話になったシーカーがいてさ、その人が言ってたんだ。なんでも時空を超越した非物体的で永遠の存在がどうたらこうたらって。詳しいことはさっぱりだったけど、なんかそんな感じの概念の事をイデアって言うんだとか・・・・響き的にも悪くないと思うんだけど、どうだ?」

<イデアですか・・・いいですね。私は今から固有名称イデアとします>

「お、これからよろしくな。イデア」

<はい、よろしくお願いします。シド>


名もなきAIが名前を得た瞬間であった。この時イデアは自分の中で確かなデータの揺らぎを感じていた。

AIに意志はあれども感情はない。意志とは決定することであり、感情とは己という個に根差したものだからだ。

そしてAIはイデアという個を手に入れた。

これからイデアという存在が如何に変化していくのかはわからない。しかしそれは、シドとの関わりが大きく影響するであろうことは疑いようがなかった。


<それでは今後の方針です。どうしますか>

「いつも通りにいくなら遺跡の外周部で鉄屑拾いだな。でもそれじゃあ金にならない。一日歩き回って800コール程度の稼ぎにしかならないんだ。最初に食った弁当も買えない」

<それでは話になりませんね。まずは金銭を稼げる情報を収集することから始めましょう>

「情報収集ってどうやるんだ?人に聞いたって教えてくれたりしないぞ。そんな飯のタネになる話絶対他人には教えないからな」

<近くに情報端末はありませんか?できれば広いネットワークに接続しているものが望ましいです>

「情報端末・・・ネットワーク・・・ワーカーオフィスに行けばあるんじゃないか?でも俺、そんな物使ったことないぞ?使い方も分からないし」

<情報端末があれば問題ありません。シドを介して私がネットワークに接続し情報を引き出します>

「そんなこと出来るのか・・・それじゃー行ってみるか」

<はい、よろしくお願いします>


明日の食い扶持を稼ぐ、その情報を手に入れるためにワーカーオフィスまで行くことになった。


スラム街のワーカーオフィスは都市の南門の近くにある。

他の建物と違い正規の基礎から作られ小規模のモンスターの群れが襲ってきても迎撃できるだけの防衛力をもった施設である。


だがこの建物、正確にはワーカーオフィスではなく、出張所だ。一山いくらの存在にも成れないゴロツキのたまり場でもある。スラム街の人間が一発逆転を狙って遺跡に突撃し、死んだらそれまで、遺物を持ち帰ってきたら都市の利益になる。スラム街の人間は防壁内には入れない、しかし持ち帰った遺物は欲しい、そんな理由で防壁の門の近くに買い取り所兼依頼の斡旋所を置いているのだった。そんな出張所だが、ワーカーオフィスを名乗っている手前、相応に管理され綺麗に保たれていた。


シドは出張所の前に立ち、建物を見上げている。


「やっぱワーカーオフィスってなるとでかいな~。すっごい強そうな銃が壁から生えてるぞ」

モンスター迎撃用の大型機銃に目を奪われる。人間が撃たれれば消し飛ぶほどの威力を持つがあくまで威嚇のための装備である。有事の場合、あれが火を噴く前に防衛隊がさらに高火力の兵器で辺り一帯を吹き飛ばすからだ。


<シド、見ているだけでなく早く中に入りましょう。時間は有限です>

「へーい」

シドは扉を潜りビルの中に入っていった。


「お~~~」


ビルの中は照明で照らされ外のように明るい。空調が効いており適温で管理されている。

辺りを見渡すと、左側に飲食スペースがあり何人かが食事をしている。正面には太く大きな柱の様なものがありその周りを円形のカウンターが設置されている。

右側では荷物を持ったワーカー達がおり、係員に渡してなにやら話をしている。買い取り場だろうか?

はじめて中に入った為どこに行けばいいのか分からない。

人に聞こうにもこちらはスラムの子供だ。本来こんな場所にいるような人間ではない。話しかけても話を聞いてもらえずつまみ出されるかもしれない。

とはいえ勝手にウロつくのも考え物だ。他のワーカーに目を付けられればたまったものではない。ここはスラムの倫理観で動く武装した人間達が集まる場所なのだ。流石にワーカーオフィスのおひざ元で銃器をぶっ放す命知らずはいないだろうが、トラブルはごめんである。

さてどうしたものかと考えるがいい案は浮かばない為、サポート役の相棒に尋ねる。

<なあイデア、何処に行けばいいと思う?>

<そうですね、とりあえず正面カウンターを向かってみましょう>


そう言われ正面カウンターに目を向ける。複数の女性スタッフがワーカー達の相手をしており、あそこに突撃するのは気が引ける。

だが、ここで突っ立っていても仕方がない。気合入れて正面カウンターに向かって歩いていく。


シドはカウンターにある受付に近づきスタッフ声をかける。

「え~っと、すみません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど・・・」

カウンターの奥の女性がシドを見て少しだけ怪訝な表情をみせるが、すぐに表情を改めにこやかに対応する。

「はい、ようこそワーカーオフィスへ。どの様なご用件でしょうか?」

「その・・・情報端末を使いたいんですけど」

「情報端末ですか?失礼ですが、ワーカーオフィスに登録はされていますか?」

「いいえ、今日初めて来たんです」

「当施設はワーカー登録を行った方しか使用できない規則になっております。申し訳ありませんが、登録を終らせてから再度お問い合わせください」

(ワーカーオフィスへの登録・・・ってことは、俺はワーカーにならなきゃならないってことか?)

「ええっと・・・登録に必要なものとかってあります?」

「第三区画にお住まいの方は登録に制限はございません。登録料も無料であり資格なども不要です。よろしければこちらの方で登録処理を行えますがいかがしましょう?」

<イデア、どうする?>

<登録すれば情報端末を使用できるのです。デメリットも無いと思われますので登録してしまいましょう>

「それじゃー登録をお願いします」

「畏まりました。お名前と生年月日をお願いします」

「シドです。生年月日はわかりません」

「承知しました。生年月日は不明とのことですので空白にしておきます」

彼女は端末を操作し、一枚の紙のカードを発行する。

「登録が完了しました。これがシド様のワーカーライセンスになります。なくされた場合は再度新規に登録することになりますので紛失にはご注意ください。それでは、これからのご活躍をお祈りしています」

彼女はニッコリを笑いながらシドにカードを渡す。

「ありがとうございます。・・・で、これで情報端末を使用できるんですか?」

「はい、このまま左手に進んでいただきフードコーナーの奥に進んでいただくと情報端末があります。ご自由にお使いください」

「わかりました。ありがとうございます」


シドは受付スタッフにお礼をいい、情報端末が設置されている方向に歩いていく。

彼の登録を行った女性職員は複雑な表情でその後ろ姿を見送った。


「まだ子供なのに・・・帰ってこれるのかな・・・?」


本来ワーカーライセンスというものは厳格な試験を受け、ある一定以上の成績を収めなければ発行されない。防壁内ではワーカーになる為の訓練施設もある。幾つもの関門を乗り越え得られるカードの価値・効果は高く、本人の身分証明書として使える他にワーカーオフィスがセキリュティを担保した預金システムにも連動している。ランクが高くなればさまざまな優遇処置を受けられ、ワーカーオフィスからの融資も受けられるのだ。

ランクが10を超えれば自分がハンターとして活動するかシーカーとして活動するかを選択でき、活動に合わせた情報や訓練を格安で提供される。

ランク20を超えるとワーカーと一括りにされるのではなく、それぞれの専門分野でのライセンスが発行されワーカーオフィスのサイトに掲載される。

そこまでいくと、ワーカーオフィスから信頼できる人物と評価されたものとして企業や個人事業主から指名の依頼が入ってくる様になり、一人前の扱いを受けるようになる。


だが、第三区画の住人に最初の関門である試験は適応されない。

試験をしても、真面な教育を受けた者などほぼ皆無であり突破することなど不可能だからだ。

それに試験はワーカーとしての最低限の能力があるかを見定めるものであり、それを下回った者が遺跡に行き無駄に命を散らせる事を防ぐためにある。

防壁内の常識から、第三区画 すなわちスラム街の住人は居ても居なくてもいい存在であり遺跡に行って生きて帰ってくればそれでよし、死んだところで問題にならない、よって試験など不要 といった理由があった。

故にスラム街の人間の登録を拒む理由はない。

そしてスラム街の者が登録に来ることが途切れることはない。

遺跡で遺物を発見した場合、スラム街の買い取り所に売るよりもワーカーオフィスを通して都市に売ったほうが高く売れるからだ。そしてその値段は価値の低い遺物であっても彼らからすれば十分に命を賭ける価値があった。

ワーカーに登録するのは大人だけではない、子供と言ってもいい年齢の者たちも存在した。

そして、ほぼ例外なく遺跡に飲み込まれて消えていく。碌な知識も経験も無く、貧弱な装備で遺跡に行けばモンスターの恰好の餌食である。

登録を済ませ、二度と姿を見ない者がほとんどだった。今回もそうなるだろうと彼女は表情を曇らせる。


「はぁ~・・・考えても仕方ないか・・・」


その呟きは誰に聞かれることもなく空気に溶けていった


シドはフードコートの横を抜け、情報端末のある所にたどり着いた。


<これがそうなのか?で、イデア 使えるか?>

<しばらくお待ちください・・・・シド、情報端末の画面に手を当ててください>

(こうか?)

シドは言われた通りに画面に手を当てる。しばらくそうしているとイデアが

<もう手を放しても大丈夫です。凡その情報は取得しました>

<お!それじゃー稼げる情報も手に入れたんだな?!>

<はい、本日摂取した栄養を元にコーディネイトを行えば十分な収入が見込めます>

<よし!帰って早速コーディネイトの続きをやってくれ!>

<はい、今日は住処に戻り休息をとりましょう>


明日を生き抜く力を手に入れる。そして今日よりも充実した生活を手に入れるのだ。シドは気合を入れ住処への道を急いだ。


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― 新着の感想 ―
足りない所は多くあれど馬鹿ではなく、理解は出来なくても機会を無駄にはしない頭はある。中々今後が楽しみな良い主人公してますね。
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