巨大モンスターの襲来
シドが宿舎から出ると大勢のワーカー達が忙しなく迎撃準備を行っていた。
近くにいた職員に話しかけ、どうしたらいいか指示を仰ぐ。
「今は細かな指示は出せん。防壁に上がってモンスターを迎撃しろ!」
そう言われ、シドはとりあえず防壁の上に登ってみた。するとそこには高さ20mの防壁の高さにまで達するのではと思われる程の大型モンスターがこちらに向かって来ていた。その姿は生物系モンスターで大きなトカゲの様な姿をしており、背中にはその巨体に見合う大型の大砲が2門生えていた。
その周りには大小の取り巻きを引き連れており、かなりの大所帯であるのが見て取れる。
想像を超える大事にシドはスン顔でモンスター達を眺めた。
「・・・・・」
<大した刺激ですね。満足されましたか?>
<・・・・命がけの刺激は望んでません・・・>
まあ一人で戦う訳じゃないし、とシドが考えているとガンスから連絡が入る。
「はい」
『おう、シド。またえらい事になったな』
「ほんとですよ」
『そんな訳で、俺らはダゴラ都市まで避難するわ。飯の約束はそん時まで取っといてくれや』
「そうですね、向こうで会ったらご馳走してください」
『ちゃっかりしとんな。おう、わかった。美味い飯奢ったるから生きて帰って来るんやぞ』
「ええ、期待してます。ミスカさんにも宜しく言っといてください」
『おう、んじゃな』
通信が切れ、シドは情報端末を肩にあるホルスターに仕舞う。
<さて、俺はどうしたもんかね。ここからじゃまだ出来る事なんか無いしな>
<そうですね。大型モンスターは高ランクのハンターチームが討伐に向かうようです>
イデアがそういい、視界にマーカーが表示される。そこには多数のハンター達が出撃の準備を終え司令部からの連絡を待っていたのであった。
<なんだあれ?>
シドがそう呟いた理由は、ハンター達が乗り込むトラックの横に立つ複数の人型ロボットだった。
<あれは強化外装の一種ですね。大型モンスターを撃破する為の装備です。人では持てない大型の銃も装備可能で、強固なエネルギーシールドを展開できます>
<すっげーもん持ち込んでるんだな>
<ワーカーギルド 天覇の所属の様です>
<ヤシロさん達が所属してるギルドだな。あんなのもあるんだなー。生身じゃ勝てない相手に使う装備って奴か>
<操縦者の腕によりますね。強化外装の破壊だけならシドとKARASAWA A60があれば可能です>
<あんなのとやり合う予定無いからいいよ>
スピーカーから迎撃作戦の開始が告げられる。
『これよりモンスターの迎撃作戦を始める。遠距離攻撃で数を削り、大型モンスターはギルド:天覇が迎撃に向かう。こちらに向かってくるモンスターは防壁上のワーカー達が排除する事とする。以上だ』
そのアナウンスが終わると同時に、防衛拠点から多数のミサイルが飛んでいった。
<やっぱり防衛戦の開幕はこれなんだな>
<その様ですね。数を減らすには効果的です>
モンスターの群れに多数のミサイルが突き刺さり爆発を起こす。周りの取り巻きを吹き飛ばし、空へと巻き上げていった。
大型モンスターにも複数命中していたが、大したダメージを与えた様子は無く依然としてこちらに向かって来ていた。
ハンターチームは大型モンスターに向かって進撃を始め、強化外装もトラックに続き走って行った。途中の邪魔なモンスターだけ攻撃し一直線に大型モンスターに向かっていく。
すると大型モンスターの大砲がハンターチームへ向けられ、その砲門から弾丸が発射された。
ハンター達は避けようとするが、一台のトラックが避けそこない砲弾の爆風に巻き込まれる。大型のトラックではあったがその爆風に耐えることが出来ず横転する。木っ端微塵にならないだけ流石と言わざるを得なかった。
トラックより俊敏な強化外装を装備したハンター達は更に距離を詰めて攻撃を開始する。あるものは機銃で、あるものはライフルで、あるものはミサイルランチャーで攻撃を行う。生身の人間が持つことのできないサイズの銃から放たれる弾丸の威力は凄まじく、モンスターの体に次々と風穴を開けていく。
しかし、モンスターもその強靭な生命力で体を修復しながらハンターチームに襲い掛かった。
大型の大砲を撃ち放ち、その巨体を支える腕や尻尾の振り回しでハンター達を攻撃していた。トラック達はその攻撃範囲に入らない様に離れて攻撃を行い、強化外装を持つハンター達はその機動力を活かし近距離での攻撃を行っていた。
(すげーな、あれが高ランクハンターの戦いか・・・)
<シド。そろそろモンスター達がこちらの攻撃射程に入ります>
<おう、わかった>
シドは背中からスナイパーライフルを外し構える。
射程距離に入った事を確認し、シドは引き金を引いていく。シドのライフルから放たれた弾丸は正確にモンスターの弱点部位を打ち抜き、次々と討伐していった。
防壁に搭載されている大型の機銃や、防壁に配置されていたワーカー達も攻撃を開始しモンスター達を屠っていく。しかし、ミサイルで数が減っているとは言えまだまだ大量のモンスターがこちらに向かって来ていた。
<数が多すぎるな。これ、都市防衛戦の時と同じくらいいるんじゃないか?>
<流石に前回の時の方が多いようです。しかし、こちらの人数が都市の時と違い少ないのが難点ですね>
<この拠点には防衛機能もあるけど・・・結構厳しいぞ>
スナイパーライフルは連射が利く銃では無く、シドは思うようにモンスターを討伐出来ていなかった。
<これはA60の射程距離まで詰められてからが本番ですね>
<防壁の上に陣取ってるから前よりはマシか・・・>
シドは前回の戦いとは違い、しっかりとした防御力が期待できる場所で迎撃できる事に感謝し、モンスターを攻撃し続ける。
遠くの方で暴れまわる大型モンスターとハンターチームの戦闘を横目に、防壁組の戦闘も激しさを増していく。シドもすでにスナイパーライフルを背に戻しA60で応戦していた。
高威力の弾丸と連射機能をフルに活用し迫りくるモンスターを迎撃していた。シドは時間圧縮を使いながら戦っているため、実際の戦闘時間よりも長い時間戦っている感覚を覚えていた。
<クッソ!幾ら撃っても敵が減ってる気がしない!>
<モンスターの数は減ってきています。遠方から押し寄せて来ていたモンスターは途切れました。今ここに来ている敵を討伐すれば終わりです>
<その終わりが見えねーじゃねーか!>
シドはマガジンを交換しながらイデアに悪態つく。射出されたマガジンに銃を叩きつけて装填を完了する。ライトに曲芸まがいと言われた装填方法だったが、1秒でも時間が惜しい今この時には非常に活躍している。
通常弾・PN弾・SH弾、3種の弾頭を使い分けながら必死にモンスターを銃殺していくが、シドが居る場所だけ守れても意味は無い。他のワーカー達の防御が抜かれ、防壁上への侵入を許してしまう。
(クソが!この忙しいときに!)
防壁の上を伝って、横側からモンスターがシドに向かってくる。前方への射撃を疎かにする訳にもいかない、側面から襲い掛かってくるモンスターには格闘で対応を行っていく。
敵の突進を躱し、蹴りで防壁の外に蹴り出した。防壁の上からモンスターが落ちていく。この高さから落ちた程度でモンスターは死ぬことは無い。しかし、落下中の回避不能の状態でシドから銃撃を受ければ一溜まりもなく、モンスターは弱点部位に銃弾を食らい絶命する。
シドは両手の銃を使い、側面から襲い来るモンスターに体術で応戦しながらも外のモンスターに対する銃撃を止めなかった。空間把握で認識したモンスター達に銃を向け、イデアが優先順位を付けた順番に射殺していく。ハンドガンサイズでありながら高威力を誇るKARASAWA A60ならではの戦い方と言えるだろう。
旧文明基準での身体拡張を行われた体は、このレベルの高速戦闘に対応していた。しかし、人間である限り限界は存在する。空間把握と時間操作で酷使した脳と、高速戦闘による負荷が蓄積した体が悲鳴を上げ始める。
<おい!イデア!本格的にヤバいぞ!!!>
<今は堪えてください。もうすぐ、遺跡の防衛に振り分けられていたワーカー達がこちらに到着します>
<もうすぐってどれくらいだよ!>
<あと12分程で到着します>
<それまで俺の体持つかな?!>
<シドがライトに課した訓練の負荷に比べたらまだマシだと思われます>
<それなら頑張らないとな!チクショー!>
イデアにそう言われ、根性を振り絞るシド。次ライトの鍛錬に付き合うときは少し手加減しようか、と思ったとか思わなかったとか・・・
こちらに向かってくるモンスターを撃ち殺し、防壁上に上ってきたモンスターを蹴り飛ばしていく。
いい加減手足が捥げそうだと思っていると
<伏せてください!>
イデアの指示にシドはその場に伏せ身を低くする。
その瞬間。光の放流が防壁とその上部を包み込んだ。
「!!!!!」
シドの背中はその光の余波で焼け焦げていく。防壁上にいたモンスター達は例外無く蒸発してしまった。
イデアの助言に反応するのが少しでも遅ければシドも消し飛んでいたであろう威力だった。
光が収まり、シドは防壁の外を見る。
遠くにいる巨大トカゲが大口を開けていた。
限界以上に広げた口の周りにはあまりの熱量に空間が歪んで見えていた。
<あいつが撃ったのか!>
<その様です。ですが、渾身の一撃だったのでしょう。体内にため込んだエネルギーを全てあの一撃に込めたようです>
巨大トカゲの周りのハンター達がここぞとばかりに止めを刺そうと総攻撃を行っていた。
拠点に押し押せていたモンスター達は今のレーザー攻撃でほとんど蒸発してしまい、生きている物も瀕死の状態だった。しかし、防壁も広範囲にダメージを受け酷い損害を受けていた。
想像を絶する攻撃だったとこは間違いない。シドは少しの間呆然と辺りを見渡した。
<シド、今のうちに残党を排除してしまいましょう>
<・・・!そうだな>
イデアの言葉に正気に戻り攻撃を再開する。生き残っていたモンスターは極わずかで、動ける状態のモノも少なく、短時間で決着がついた。
こちらの掃討が終わるころには、巨大トカゲもハンターチームの総攻撃に耐え切れず、遂に倒れ伏した。
巨大トカゲの討伐を見届けた拠点のワーカー達は大声で勝鬨をあげる。
シドは戦い抜いた実感と生き残った安堵を込めて息をつく。
こうして、ミナギ方面防衛拠点防衛線は幕を閉じるのであった。
防衛拠点を巨大トカゲと大量のモンスターから守り抜いた。
その実感を感じながら、シドは防壁を降り自分の部屋に帰ろうとする。
ガンス達との食事がご破算になり、今日の飯はどうしようかと考えながら宿舎へと向かっていた。
そこに声が掛かる。
「やっ。君、シド君だったよね?」
シドは声のする方を見ると、そこには遺跡防衛基地で会った女性のワーカーだった。
「君も防壁側で戦ってたんだね。最後の攻撃、無事でよかったよ」
あの時はシドの中でヤシロのインパクトが強く印象に残らなかったが、彼女も非常に鍛えられたワーカーの様だった。
肌は褐色で、顔には民族由来の刺青の様な物が彫られている。細身であるが貧弱な印象は受けず、薄手のパワードスーツを着込んでおり、そこらのワーカーなら片手で捻れる実力があるのはなんとなくわかった。
「どうも、この前あの遺跡の防衛基地で会いましたよね?」
「おぉ、覚えてくれてたか。嬉しいね。私はレオナ。ヤシロとパートナーを組んでるんだ。これでもランク41のシーカーだよ」
ランク41となれば高ランクであることは間違いない。ヤシロはハンターでレオナはシーカー、理想的な組み合わせで有ることは間違いなかった。
「あ、俺はシドです。ランク11のワーカーです」
「ん~、君の事はこの前少し調べさせてもらったんだ。今、ランク調整依頼で此処にいるんでしょ?」
そう言われ、シドの警戒心が起き上がってくる。
「どうして俺を調べたんですか?」
「そりゃ~、相棒が気にしてたみたいだったからね。アイツ、ちょっと脳筋な所があってさ。妙な問題抱え込まないか監視が必要なのさ。だから、君の事も調べさせてもらったって訳。あ、ここにいる理由くらいしか調べてないよ、あんまりワーカーの事を突っついても良いことなんか出てこないからね」
そういい、レオナはおどけて見せる。
<イデア、どう思う?>
<嘘は言っていません>
<それは信用していいってことか?>
<信用する必要はありませんし、過度に警戒する必要も無いかと>
<分かった>
ほんの一瞬で脳内会議が終わり、シドはレオナに対する警戒を解いた。
「事情は分かりました。・・・・でも、ヤシロさんとパートナーならどうしてここに?あの人なら巨大トカゲの方に行ってると思ったんですけど・・・」
「あ~、そうだね。アイツはトカゲの方に行ったよ。でも私はシーカーだからね。ガチンコで巨大モンスターと殺り合う装備は持ってないんだ。向こうに行っても邪魔になるだけだから防壁側で小物退治をしてたって訳だよ」
「なるほど、シーカーってモンスターと戦うより遺跡と戦うって感じなのは聞いてました」
「遺跡と戦う・・・か。いいねその表現♪」
「それで、俺に何か用ですか?」
「ううん。たまたま見かけたから声かけてみたんだ。相棒が気になってた相手だったからね。挨拶がてらってやつさ」
「そうですか。それじゃー目的は果たせましたかね?俺、ちょっと眠くて眠くて・・・」
「おぉ~、それは失礼したね。じゃあまた、何時か機会があれば一緒に仕事しようね」
「あ、はい。その時はお願いします」
シドはそういい、自分の部屋へと帰っていく。
シドは自室で装備を外す。
防護服の背面部分は焼け焦げてしまい、シドの背中も黒く焼けている。背中に保持していたスナイパーライフルも融解し、もう撃つことはできないだろう。
装弾カートリッジが暴発しなかったのがせめてもの救いだった。
「は~~・・・」
シドは溜息をつき、これからの事を考える。
<どうしよ?これから。背中は黒焦げだし装備はA60と双剣だけになっちまったぞ・・・>
<背中は現在治療中です。しかし、このまま治安維持任務を続けるのは危険ですね。ワーカーオフィスに問い合わせてみては?>
<そうするしかないか。ミスカさん達がまだ拠点にいたら補充出来たんだろうけどな>
<彼女たちはダゴラ都市に向かってしまいましたからね>
<・・・・明日の事は明日考えよう。もう今日は飯食って風呂入って寝る!もう何もしない!>
<それが良いですね。本日はかなり体に負担を掛けました。栄養を補給してゆっくり休みましょう>
シドは本日の戦いの疲れを癒すため、宿舎に夕食の注文をだす。部屋に届けられるまでの間に風呂に入ってのんびりしようと心に決め、風呂の準備をする為浴室に向かっていくのであった。
「おーーい、レオナ。無事だったか」
「ヤシロ。うん、まあ最後のは危なかったけどね」
「あれな~、俺もたまげたぜ。ま、お互い無事で良かった良かった」
「そうだね。今回は大金星じゃない?さっきのアイツもネームドになるのは確定だろうし。天覇の中でも私たちのチームが一歩上に上がれるってもんだ」
「そうだな!雑魚がほとんど拠点に向かっていったのがデカかったけどな。かなりの量が行ったと思ったけど良く耐えられたな」
「トカゲの一発でほとんど消し飛んだってのも大きかったかな。それまでは結構苦労したよ。ワーカー達もだいぶ被害が有ったみたいだし」
「なるほどな・・・・んで?あの小僧はどうだった?」
ヤシロは少し声を落とし、レオナにシドの事を聞いてくる。
「ん。ハッキリいって異常」
レオナは情報端末をヤシロに見せる。そこには今回の防衛戦でのシドの公式戦績が表示されていた。
「は?!討伐数1853?!」
「いや~すごかったよ。あのとんでも銃を2丁持って、片っ端からモンスターを撃ち殺してたからね。他のワーカーが抜かれて側面からも襲われてたけど体術で応戦してた。外のモンスターへの攻撃も緩めてなくてさ。彼が居た所だけが防壁に取り付かれる事がなかったんだよ。戦闘能力だけなら確実に私より上」
「・・・・・」
ヤシロは無言になる。高ランクハンターが購入できる様な複合銃に特殊弾頭を装填し、湯水のごとく使えば似たような戦績は可能だ。だが、ランク11のワーカーには不可能だろう。ランク調整依頼を出される程とは言えこの戦績は異常だった。
「他にも異常な所があるんだけど・・・聞く?」
レオナはそう言い、ヤシロの反応を伺う。ヤシロは無言で頷き続きを促した。
「この動画見てみて」
ヤシロの情報端末にシドの戦闘記録を送った。レオナはシドとあまり離れていない場所で戦っており、ヤシロが気にしていたシドの戦闘データを情報収集機で記録していたのだ。
「・・・・・」
無言で動画を見ているヤシロ。
「ね?おかしいでしょ。彼、KARASAWA A60の連射機能を使って戦ってるんだけど、モンスターに合わせて一発一発弾頭の変更をしてる。しかもばら撒くんじゃ無くてしっかり狙って撃ってるね。ほとんどが一撃で仕留めてるよ。たまに小型のモンスターには通常弾で2・3発撃ち込んでるけどたぶん特殊弾の節約だね。攻撃対象の選択も完璧だった。こんな事、脳みそが2つ3つ無いと出来ないよ」
レオナはシドの戦闘を正確に把握していた。これはレオナの類まれなるシーカーとしての能力があっての事だった。
「ドーピングか?・・・いや・・・隔世遺伝者って奴か?」
「たぶんね。でも、それだけじゃない。彼には何かあるよ」
「突っついてみるべきか・・・・」
「止めといたら?敵対と取られて戦闘になったらどうするの?勝てる?」
「・・・・・・・」
ヤシロは勝てるとは言えなかった。勝てないとは言わないが、命がけになる事は間違いない。最低でも病院行きは覚悟する必要がある。シドの戦闘はそれほどの物だったのだ。
「どうする?シドの事、ギルドに報告する?」
「いや・・・やめとこう。変に勧誘してヘソ曲げられたくない。なるべく友好的に一緒に仕事が出来る間柄ってのが一番無難だ」
「そうだね。じゃ~この動画削除しとくよ?そっちのも消しといてね」
「ああ・・・」
この時、ヤシロの中でシドが重要人物の一人になった瞬間であった。
今日はこれで最後
それではまた明日~(^^)ノシ




