未発見遺跡で遭難
今回からはシド視点に戻ります
「う~~ん・・・まいったな。どうしてこんな事になるかね?」
<不測の事態でしたからね。仕方ありません>
<そりゃそ~なんだけどさ・・・どうやって脱出するか・・・>
<モンスターが居ない事がせめてもの救いですね>
今シドは遺跡の中で遭難していた。
事の起こりは2日前、シドは遊撃として出撃していた。
いつも通りモンスター駆除に精を出していたのだが、モンスターが放った榴弾砲により地面が陥没し、その崩落に巻き込まれたのだった。
シド自身は無事だったが、バイクは崩落の瓦礫に飲み込まれどこかへ行ってしまったのだった。
落ちた先は遺跡であり、どこか最初に探索した旧警備会社の通路と似ていた。
兎に角ここから脱出しなければと遺跡の探索を始め、この2日間遺跡の中をさ迷っていたのだった。
バックパックの中には高性能レーションが入っており、食料と水分にはまだまだ余裕があるが、何時までたっても出口が見つからなかった。
「どうしよ・・・」
<マッピングは行っていますが、ただの地下通路の様ですね。どこかに制御室などがあると思うのですが>
<それが見つかったら出られるんだろうけどな・・・>
情報端末は圏外になっており、防衛拠点との連絡も取れない。下手したら死亡判定を受けている可能性もある。シドはため息を押し殺し探索を続けた。
そして、数時間歩いていると、通路の様子が変わってショッピング街の様な場所に到達できた。
<お!なんか雰囲気が変わったぞ!>
<この様子なら、案内表の様な物があると思われます。探してみましょう>
シドはキョロキョロと辺りを見渡しながら進んでいく。
店にはだいたいシャッターが下りており、中の様子を窺い知ることは出来なかったが、まれにガラス張りの店があり、店舗の中には手つかずの遺物が大量に残っていた。
(こりゃすげーな、全部かっさらったら幾らになるんだろ?)
<シド、遺物の収集は出口を見つけてからでも遅くはありません>
<・・・だから思考を読むなっての>
<何を考えているか解りやすかったので>
遺物への未練を振り切り、シドは通路を進み、案内表を発見した。
<これだな!ええっと此処が現在地だから出口は~・・・>
この地下街はかなり広い作りとなっている様で、モンスターの気配も無いとなればかなりの価値があることは明白だった。
<ここを左に進んでいった所に出入口があったようですね>
<よし、行ってみるか>
シドは案内表を情報端末で記録し、案内に従って歩き出した。
しばらく通路を進んでいくと、出口と思われる場所を発見する。
<なあ、イデア。これどうやって上っていくんだ?>
<壁伝いに上っていくしかないかと>
それは恐らくエレベーターか何かの跡があったのであろう。垂直に伸びる穴が上の方に続いていた。
<これ、遺物担いで登るのはしんどいかな・・・>
<証拠品となるものを数点回収して、この場所を報告するのが現実的でしょうね>
<それしかないか>
シドはそれから、数点の遺物をバックパックに詰め、縦穴を登っていく。かなりの距離を登って来たのだが、まだ頂上にたどり着かなかった。
<これ・・・まだ続くのか?>
<落ちた距離を考えれば、現在で半分ほどと思われます>
<げ~・・・>
体力的には問題ないが、暗い地下を延々彷徨った挙句のこのロッククライミングである。シドはうんざりしながら出口を目指し登っていった。
1時間ほどかけ、ようやく一番上にまでたどり着いたのだが、出口が見当たらない。
<これ、どうやって外に出るんだ?>
<距離から考えて、まだ地下のはずです。その辺りのどこかに扉があると推察します>
シドは空間把握を使用し、どこかに通じる隙間などはないかと探してみる。
そして、わずかな空気の流れを感知し、そちらの方向に向かってみた。
そこには壁と一体型になった様な扉があり、向こう側に空間があるようだった。
<ここから出られそうですね>
<ああ、よかったよ。で?どうやって開ける?>
<右の方に操作パネルがありますので、そちらに触れてください>
シドは言われたように操作パネルに触れ、イデアの操作で扉が開き始める。
イデアは人一人分の隙間を開けて、扉を止めた。
<なんでこんな中途半端なところで止めたんだ?>
<すぐ向こうにモンスターはいませんが、外部に繋がっている為無用に招き入れることが無いように狭くしておきました>
シドはなるほどと納得し、扉を潜り外に向かって歩き出した。
外に通じている出入口は瓦礫で塞がっており、素手で撤去するのは時間が掛かりすぎる。
シドはSH弾を瓦礫に向かって撃ち、外まで瓦礫を吹き飛ばした。
2日ぶりの太陽光にシドは目を細める。
「ん~~~・・・やっぱ太陽の下って気持ちいいよな」
<そんな悠長な事を言っている場合ですか?早く防衛拠点に連絡して応援を呼びましょう>
<へ~い>
シドは情報端末を取り出し、電波が通じていることを確認して防衛拠点へと連絡をとった。
『こちらミナギ方面防衛基地。57番生きていたのか。今まで何をしていた?』
「モンスターとの戦闘中に地面が崩落し、それに巻き込まれた。未確認の遺跡に落ちてそこから脱出してきた。位置を送るから迎えと、現場保持の要員を送ってほしい」
『未確認の遺跡だと?!』
「なかには大量の遺物が手つかずで残っていた。たぶん誰も入ったことがない場所だと思う。証拠品として幾つか遺物を取って来たから、確認してほしい」
『わかった。すぐに人員を送る。その場で待機せよ』
「了解。急いでくれよ」
シドは拠点との通信を切り、その場で待機する。
<これで何とかなりそうですね>
<そうだな。遺跡の発見も評価に加わるのかな?>
<そうでしょうね。あまり重要施設といったモノではありませんでしたが、遺物の量は十分ありました。かなりの評価がくだされるのでは?>
<そう願いたいね>
1時間ほど遺跡の入り口に待機していると4台のトラックがこちらに向かって走って来た。
トラックが止まり、先頭車両から職員が下りて来た。
「57番 シドさんでよろしかったでしょうか?」
見た目は柔らかそうな雰囲気の青年だが、歩き方や体つきを見るとかなり鍛えられている人物だと分かった。
「はい、そうです」
「私は、ダゴラ都市の職員をしております。ハサンと申します。以後お見知りおきを」
ハサンと名乗る青年はワーカーオフィスでは無くダゴラ都市の職員と名乗った。
「はい、よろしくお願いします」
シドはその事に違和感を覚えたが、今いう事ではないと無視して話を進める。
「中で見つけた遺物のサンプルです」
シドはバックパックに入れていた、数点の遺物をハサンに渡す。
「ありがとうございます。・・・・・これらの遺物はどの程度ありましたか?」
「ええっと、わかりません。施設全部確認したわけでは無いので・・・あの施設の案内板の様な物を見つけたので、そのデータを渡します」
「ありがとうございます。・・・後日自分で回収に行こうとは思わなかったのですか?」
ハサンはそうシドに聞いてきた。本来遺跡を発見した場合、オフィスなどへの報告義務は無く、ワーカー達が独自で探索することが多かった。シドの様に発見直後に報告をいれてくるケースはほとんど無かったのである。
「あ~・・・それも考えたんですけど。ものすごく深いところにあって、俺一人だと遺物の回収は無理だと判断しました。それなら、報告して評価を上げたほうがいいと思ったんですけど」
「なるほど、理解しました。発見者の場合、この遺跡から発掘された遺物の売り上げの0.1%が支給されますのでその手続きも行いましょう。まずは遺跡への案内をお願いできますか?」
「わかりました。こっちです」
シドはハサンを伴い、遺跡の入り口に入っていく。
遺跡内部に入ってくる縦穴にたどり着き、説明を行った。
「ここから下に降りると、その遺跡に着きます。結構深いのでこのまま降りるのはお勧めしません」
「わかりました。昇降用のエレベーターを特急で設置して、ワーカー達に利用してもらいましょう。それと、モンスターはどうでしたか?」
「俺が徘徊していた2日間は出て来ませんでした。それが全くいない保証にはなりませんが、今のところは安全ではないかと思います」
「なるほど、この入口から侵入されない限り大丈夫そうですね。では、ここに来ているワーカー達にこの場の確保を任せましょう。シドさんはこれからどうしますか?」
「俺は一度帰還したいです。探索の準備が整ったら俺も降りたいとは思いますが」
「承知しました。それでは、帰還するトラックに乗ってください。私も報告の為に一度戻りますので」
ハサンはそういい、ここまで連れて来ていたワーカーに現場の確保を任せ、元来た道を戻っていく。
シドもそれに続き、地上へと戻っていった。
<やっと帰れるな>
<そうですね、この所、真面に休めていませんでしたし、しばらく休養でよろしいのでは?>
<そうだな、帰ったらゆっくり休ませてもらおう>
シドは帰還するトラックに乗り込み、防衛拠点へと2日ぶりに帰っていったのであった。
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