ワーカー養成所
今回はワーカー養成所でのライトの様子です。
養成所を出た後はシドと一緒に活動させていく予定なので、結構チートキャラよりにするつもりです、はい
ライト視点
ライトは養成所のカリキュラムの中で様々な事を学んでいた。
今日で基本的な座学を終え、明日から体力強化訓練と戦闘訓練が始まる。その言葉を聞き、ライトはシドとの1ヶ月間の特訓を思い出していた。
(またあれと同じような事するのかな・・・)
重たい荷物を背負い、限界が来て動けなくなるまでシドに追い掛け回された。ゴム弾で吹っ飛ばされ地面の上で伸びたとしても回復薬を飲まされ無理やり起こされる。戦闘訓練ではどれほど趣向を凝らし狙い撃っても自分の弾は当たらず、一方的に叩きのめされ、心が折れるどころか粉砕される様な思いを何度も経験した。これに食らいつていかなければ自分は死ぬしかない。そう思い、文字通り必死に訓練を行った。
あれは地獄だった。
出来る事なら二度と経験したくない。
だが、その訓練が明日からまた始まるのだ。シドと同じステージに立つためには耐えねばならない。シドから渡された回復薬を握りしめ、そう決意を新たにする。
そして翌日、体力強化訓練が始まる。同じ訓練課程にいる他のワーカー志望者と同じようにグラウンドに集まり、教官から説明を受けていた。
「本日から体力強化・戦闘訓練を行っていく。各自しっかり気を引き締めろ!油断すると大けがに繋がるからな!」
教官はまず注意から始まり、訓練生達の気の引き締めを図った。
「では全員グラウンドを10周ランニング。45分以内に完走することを目指せ!」
このグラウンドは一周1kmある。要するに10kmを45分で走り切れと教官は言っているのだった。
「それではスタート!」
教官はストップウォッチを押しスタートの合図を出す。訓練生は言われた通りに走り始め、ライトもそれに続いた。
ライトは1周2周と走るごとに、前を走っている者を抜き去っていく。6周目に入るころには全員を抜いて先頭を走っており、10周走るころにはもう一度全員を抜き去っていた。
「ライト訓練生。10周36分55秒か・・・なかなか鍛えてきていたようだな」
「え?あ、はい」
「全員がゴールするまで、しばらく待機だ」
「わかりました」
全員がゴールするまで1時間40分もの時間が掛かった。45分を切れたものはライトのみである。
次の訓練内容は障害物を突破しゴールまでたどりつくと言うもの。
これも特に難しくはない。荷物も背負わず、銃も持たず、手ぶらの状態で登れるように突起が付けられた障害物を超える事の何が難しいというのか・・・。ライトはこの訓練も規定時間内にクリアできてしまった。
さらに次の訓練は25キロの重さがあるリュックを背負い、砂場を走るというものだった。
砂という足を取られ走りにくい足場に苦戦したものの、背中の重みは大型バックパックいっぱいに詰められた瓦礫より軽い。この訓練も問題なくクリア出来た。
午前中の体力強化訓練が終わり、周りの訓練生は死屍累々であったが、ライトとしては物足りない内容になったのは言うまでもない。
(ほんとにこれでいいの?)
「ライト訓練生は体力強化訓練の合格基準をクリアしたものとする。明日からの訓練ではさらにタイムを縮める方向で努力するように」
「はい、わかりました」
昼休憩時間、養成所の食堂で昼食をとる。
そこにはライトだけでなく、座学を一緒に受けて仲良くなった者たちが一緒に食事を取っていた。
「ライト、お前すげーやつだな」
そういってきたのは、タカヤというワーカー志望の少年だった。彼は座学の時間、ライトの隣の席に座っており、何かと話す機会が多かった。
「う~ん、まあ、結構しごかれたからね」
ライトはそうしみじみと返答する。
「それでもあれは凄いよ。3種の強化訓練全部1発クリアって・・・いったいどんなことしてたの?」
もう一人はタカヤと一緒に養成所に入って来たユキという少女だった。
「ボクを鍛えてくれた人がいてさ。短時間で最大効率で鍛えられるように訓練を付けてくれたんだよ」
「どんな方法なんだ?」
二人は興味深そうに聞いて来る。
「おすすめしないよ?」
「いいじゃない、私たちも同じことをすれば貴方みたいに強くなれるんでしょ?」
ライトは言いにくそうにしているが、二人はどうしても聞きたそうにしている。仕方なくライトは訓練方法を教えてあげることにした。
「まずは大型バックパックいっぱいに瓦礫を詰めた物を背負って荒野で逃げ回るんだ」
「・・・・・・・なんて?」
タカヤは色々な疑問が浮かんでくる。
「どうして大型バックパックなの?」
「遺跡で遺物を回収したら大体それくらいの重さになるんだよ」
「な・・・なるほど。で、逃げ回るって何から逃げるんだ?」
「襲撃者。ボクの場合は、訓練を付けてくれたシドさんって人から逃げるのさ。そして射線が通ったところにボクがいるとゴム弾を撃ち込んでくるんだよ」
「・・・・・・」
「えぇ・・・」
二人はあまりの訓練内容に絶句する。だが、これはまだまだ序の口である。
「当然最初の方は避けたりなんか出来ないから、撃たれて吹っ飛ぶんだ。痛みと疲れから体が動かなくなるんだけど、口に回復薬を突っ込まれて叩き起こされるの、それを日が沈むまで延々繰り返すだけ」
「「・・・・・・・」」
二人は信じられないモノを見る目でライトを見る。
「宿に戻ったら栄養が大事だからって大量の食事を食べさせられるんだ。まあ、食事は凄く美味しかったから不満は無いけどね。そんな生活を1週間くらい続けたかな?」
「そ・・・そうか」「・・・へぇ」
二人は完全に引いていた。
「回復薬のお陰もあって、結構早く走れるようになるよ。体力もつくしね。それで、ある程度動けるようになったら戦闘訓練が始まったんだ。もちろん体力訓練も一緒にね」
「まだあんのかよ」
「あれは辛かった。本当に心が折れそうだったよ・・・」
「・・・なにやったの?」
「内容は単純だよ。お互いにゴム弾を装填した銃で撃ち合うんだ。瓦礫が多めの場所でね。お互い身を隠したりしながら戦うんだけど・・・一発も当てられなかったんだ」
「そのシドさんに?」
「そう」
「なんだ、お前射撃はヘタッピなのかよ」
タカヤはそう笑いながら言った。
「う~ん、比べる相手がシドさんしかいないからな~。その基準でいったらまだまだ命中率は低いかな」
「よっしゃ!昼からの戦闘訓練では俺が一位を取ってやるぜ!」
「タカヤ 調子に乗らないの」
「戦闘訓練って一体なにするの?」
「まずは銃を選んで的当てからって聞いたよ?」
ユキはそう言って情報端末からカリキュラムの内容を表示して見せて来た。
それを見たライトは少し気楽になる。
「ボクは自前の奴があるからそれを使わせてもらう事になるのかな?・・・・的当てか。それなら何とかなるかな?」
的当ての的は、シドみたいに避けないからだ。
「ライト自前の銃持ってるのか!どんな銃なんだ?!」
流石男の子、タカヤは銃に興味津々の様だった。
「ボクが持ってるのは、久我テック製のG-MK330だよ」
「久我テック!?東方の企業じゃない!」
「すげ~!確かMKライフルの質に定評がある企業だったよな?」
「良く買えたよね・・・400万コール以上するでしょ?」
「そうみたいだね。その時はシドさんが買ってくれてさ、一緒に遺跡まで遺物を取りに行ったんだ。あの時は本当に死ぬかと思ったよ」
「そのシドさんって何者だよ・・・」
「ワーカーなんだよね?」
「うん、最近壁越えしたワーカーでさ、今は東方にあるミナギ方面防衛拠点で治安維持依頼についてるはずだよ。僕はシドさんの紹介でこの養成所に入れたんだ」
たぶん向こうでもなにかしらやらかしてるんだろうな~と考えながらシドの事を話す。
「ま、兎に角午後の訓練だ。全部ライトにトップ取られるのも悔しいからな!」
「そうだね。私も頑張るよ」
「ボクも負けないよ。一応実戦も経験してるんだしね」
そう、茶化すように対抗するライト。もうすぐ昼休憩が終わり戦闘訓練が開始される。
訓練所に移動する為3人は席を立った。
ライト達は午後の戦闘訓練に出席する。
体力強化訓練の時より人が増え、各々装備を着用していた。
ほとんどの者は養成所からのレンタルした装備であるが、中には自前で購入した装備を付けている物たちも散見された。
ライトも情報収集機を取り付けた防護服を着こみ、G-MK330を2丁持ち込んだのだった。戦闘訓練と聞いてかなり本気で来ている。
そこにタカヤとユキがライトを見つけ、話しかけてきた。
「おう、ライト・・・お前MKライフル2丁も持ってどうすんだよ。使えるのか?」
「・・・うん、普通両手で扱う銃だよね?」
そう二人は不思議そうに聞いてきた。
「ああ、これはね。給弾方式を自動式に改造してあるから、両手が塞がってても給弾できるようになってるんだ」
「いやそうじゃなくてな?」
「反動とか大丈夫なの?」
さらに不思議そうな態度になっていく二人
「これくらいなら大丈夫だよ。結構訓練も積んだしね」
「「・・・・・」」
MKライフルは威力重視の高反動ライフルである。反動吸収機構があるとはいえ、両手でしっかり保持し構えないと射撃の際、銃身が跳ね上がってしまい真面に狙うことなどできないはずである。
それを片手で、しかも両手に持って撃つなど、それこそパワードスーツでも着ていないと不可能だろうと思われた。
しかし、ライトの近くにいた真面?なワーカーはシド一人。ライトの基準で高反動の銃というのはシドの持つKARASAWA A60の様な銃の事になっていた。
あれと比べれば、この銃はまだまだ大人しい素直な銃であった。
「おいおい、バカな格好をしたやつがいるぞ」
そこに知らない人が話しかけてくる。彼の後ろには4人の少年少女が居た。
「げ・・・」
「・・・・・」
「お前、銃もまともに選べないのか?ものを知らないヤツってのは居るもんだな。MKライフルを2丁持つヤツが居るとはな」
そう鼻で笑ってライトをバカにしてくる。後ろの者達も呆れ笑いを浮かべていた。
「・・・ええっと、君は?」
ライトは行き成りの事で面食らうが、このまま固まっている訳にも行かないので彼の事を聞いてみる。
「・・・その上礼儀まで知らないのか?人の名前を聞くときは自分から名乗るものだ」
「ああ、ごめん。ボクは・・・」
「いやいい。お前の事になど興味はない。さっさと身の程を弁えてここから出ていくことだな」
言いたい事だけをいってその少年は取り巻きを連れて歩き去ってしまった。
「・・・・・・なんだったのかな?」
「あいつら、確か天覇っていうワーカーギルドから送り込まれてる連中だよ」
「名前。なんていったっけ?カズマ・・・だった?」
「なんかそんな名前だった」
「ふ~ん・・・そんなにおかしいかな?ボクの装備・・・」
「んー・・・一般的じゃないかな・・?」
ユキは言葉を濁す。
一般的なワーカーの装備では無いのは間違いない。浪漫ハンドガンと双剣・スナイパーライフルを装備しているワーカーに比べればマシだろうが。
だが、ライトは他の銃を持つつもりは無かった。今までコレで訓練してきたのだ。他の銃に持ち替えて上手くいく保証などどこにもなかった。
「まあ、ボクはこのままやってみるよ。あまりにも成績が悪かったら考えるかな」
「そうか・・・」
「・・・頑張ってね」
戦闘訓練が始まり、名前を呼ばれた者たちがブースに立って的を狙い射撃していく。
的はドローンを使って動かされており、上下左右・円運動など様々な動き方をしていた。
訓練生たちが銃を構え、必死に的を追いかけて射撃していく。
ライト達の順番はまだ来ておらず、他の訓練生達が撃っているのを見学していた。
「みんな初めてだから結構外してるね」
「そうだな。できれば上位陣に食い込みたいところだが」
「・・・・・」
タカヤとユキは的の動きを目で追い、それを覚えようとしていた。
ライトも的の動きに集中し、その挙動を観察していた。
(・・・うん、回避運動はしていない。これなら置き弾の必要はなさそうだね)
今までライトが動く標的を撃つときは、モンスターかシドを相手にした時だけであった為、相手が避けることを念頭に撃つ必要がある。だが、今回の的は規則的に動くだけで避ける動作をしていない。比較的簡単に当てられそうだった。
ライトがそう訓練の攻略について考えていると、タカヤが話しかけてくる。
「おい、見ろよ。天覇組の連中だぞ」
タカヤが示す方を見てみると、先程からんできた人たちが射撃ブースに立って訓練を行っていた。
「・・・威張るだけあるよね・・・」
ユキがそういうのも無理はない。他の訓練生が命中率40%を切るのに対して、彼ら全員が70%以上当ててきているのだ。カズマに至っては87%を記録している。
「胸糞悪い奴らだけど、やっぱり腕はいいんだよな・・・ギルドでみっちり訓練してきたんだろうぜ」
ワーカーギルドからの紹介者は、基本的にギルドで教育を受けてから養成所に派遣される。
ランク10程度の実力はある、とギルドが判断してから養成所に送り込まれ、ワーカーライセンスを取得する為だけに半年ほどの訓練を受けに来ているのだった。
「あ、よばれた」
「俺もだな」
「私もだよ」
3人同時に名前が呼ばれ、ライト達は射撃ブースに移動し説明を受ける。
「この基礎射撃訓練は命中率65%以上で合格だ。これをクリアすればシミュレーションによるモンスターとの戦闘訓練に移行する。的を正確に撃ちぬく事に集中し、無駄玉を極力減らす事を意識しろ」
教官がそのように説明し、ライトに目を向ける。
「おいライト訓練生。まさかその銃で訓練を受けるのか?」
「え?はい。申請は通ったと聞いていますが?」
「・・・申請は通っているが・・・2丁とも使うつもりか?」
「はい、そうです」
「・・・・わかった。それでは開始する。構え!」
教官の合図に、3人は銃を構える。
「始め!」
ライトの視界には情報収集機から送られてくる、自分の射線と的の動きが正確に映し出されていた。
イデアと共に調整した機器は十全にその機能を発揮していた。
そして、ライトはイデアから教えてもらった時間圧縮の鍛錬を行い、拙いながらも時間を縮める事に成功していた。
通常の半分ほどの速さで流れる世界の中で、正確に的に照準を合わせ、両手に持つG-MKの引き金を引き絞る。カスタマイズされ、自動装填機構と連射トリガーを取り付けられた2丁のMKライフルから弾丸が発射され、次々と的を正確に撃ちぬいていく。
全ての的が撃ちぬかれ、ライトが銃をおろす。
タイムは17秒21 命中率100%をたたき出したのであった。
ダントツでトップの記録である。
「終わりですか?」
ライトは教官にそう質問する。
「・・・あ・・あぁ、ライト訓練生。訓練終了だ」
「ありがとうございました」
ライトは一礼し、ブースから離れていく。その様子を教官は呆然として眺めていた。
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