ライフカード
フィア視点
スラムバレットのシーカー、ライトがライフカードの入ったショーケースの開錠に挑戦しているのを眺める。
フィアが知る限り、ライフカードが展示されているショーケースをシーカーが開錠できたという話は聞いたことが無い。
他の遺物や、装飾品等が展示されているケースであれば例があるが、ライフカードが入ったショーケースを開けたという報告は聞いたことが無かった。
恐らく、旧文明でも重要な端末として扱われていたと思われ、厳重に管理されていたのだろう。
暫くシステムと格闘していたライトが、端末からコードを抜き声を上げた。
「・・・・ふ~~・・・・ああー!無理!これは1人じゃ無理だよ!!」
「お前でも無理なのか?」
それはそうだろう。今まで数多のシーカーが挑戦し、誰一人とも突破できなかったセキュリティだ。1年2年のルーキーに突破できるわけがない。
(やっぱりね・・・)
そう思いながら2人の様子を観察していると、ライトが解除できなかった理由を説明する。
「うんコレ、処理の速さとか手順がどうこうじゃなくて、単純に1人じゃ解除できない様になってる」
なんでも解除には2人のシーカーが必要になってくるという事らしい。
(・・・・それなら大きなクランなら開けられると思うのだけれど・・・・)
ライトが言うには1人がセキュリティを抑えている間にもう1人が解除コードを入力する必要があるとのこと。
その説明を聞いたシドがこちらを振り向きこう言った。
「なるほどね。フィア、出番だ!」
「・・・・・・・・私?」
いや待って欲しい。
そんな簡単に解除出来るなら他のギルドやクランならとっくの昔に解除方法を見つけているはずだ。もっと大掛かりなトラップがあるに決まっている。
それに触れてしまった場合、セキュリティも作動し大量のモンスターが流れ込んでくることになるだろう。
私がどうやって思いとどまらせようかと考えていると、2人の間で話が進んでいく。
「そうだね。フィアさんもランク調整依頼を掛けられるくらいのシーカーだから問題ないと思うよ」
問題ならある。
確かにシーカーとしての実績自体は積んできた。そこらのシーカーになら負けない腕はあるつもりだ。
しかし、ここまで危険度の高い旧文明のシステムに挑んだ経験などない。
「そうだよな。がんばれフィア!!」
シドとライトは期待を込めた目で私を見てくる。
・・・・・どうやって断ったものか。
「・・・そんなに簡単に解除できるものじゃないって聞いたんだけど・・・・」
もしかしたら入手した情報に誤りが?と考えるが、諜報部で入手した情報である。間違えている可能性の方が低い。
これはどうしたものかと思いラルフに視線を送ると、
「やってみればいいんじゃないですか?・・・というより、やらないとこの2人、ここから動きませんよ?」
と、肩をすくめながらそう言ってくる。
シドとライトに視線を戻すと、2人共諦めるつもりは微塵も無い様だ。
「フィアさんが解除コードを手に入れてくれるならボクが制限時間を伸ばしますよ」
「具体的にはどれくらいに伸びる?」
「そうですね・・・・・20分くらいなら抑えられるかと」
「・・・・・はぁ・・・・・・わかったわ。やってみる」
私は顔に掛かった髪をかき上げ、カウンターの向こう側に立つライトの隣に移動する。
情報収集機からコードを伸ばし、端末に接続すると、ライトと同時にアタックを開始した。
その瞬間、私の網膜に無数のコードが映し出される。
「!!」
それは今までには見たことが無い量のコードが豪雨の様に降ってきていた。
(・・・・・・・ここから解除コードを探すの?!)
無理だ。
私はその光景を見てそう思ってしまった。
チラチラと見覚えのあるコードが流れていくが、恐らくそれらもトラップの一環だろう。迂闊に触れば即座にセキュリティが作動するはずである。
だが、ここで直ぐに諦めてしまえば、ランク調整依頼を掛けられたシーカーという肩書が剥がれ落ちる事になる。そうなれば任務続行は不可能。
それに、情報戦のプロとして生きてきた自分が、ライトの様に年若いシーカーより先に投げ出すわけにもいかない。
必死にコードの雨を睨み、解除への道筋を見つけ出そうと思考を加速させていく。
すると、防壁の様に降り注いでいたコードが段々と薄くなっていく。
(これは・・・?・・・・・・・ライトか・・・・・)
チラっとライトの方に目を向ければ、彼も真剣にコードを睨みつけセキュリティを押さえつけようとしていた。
(・・・・・負けられない・・・!!)
無意識に自分の情報収集機に手を当て、手繰りながら必死に解除コードを探していく。
送られてくる情報量に頭が沸騰してくるような感覚に襲われながら文字の羅列を処理していき、ようやく解除コードにまでたどり着いた。
「見つけた」
無意識に口に出してしまったらしい。
その言葉を聞いたライトが
「入力セルを表示させます。フィアさんが手に入れた解除コードを入力してください」
その声が聞こえた瞬間。
目の前に入力セルが表示された。
私は手に入れた解除コードを入力し、開錠指示を出す。
目の前に流れていたコードが一瞬で消え、開錠の文字が映し出された。
「・・・・・・ふ~~~~」
私は目を閉じ、深い息を吐き出す。
集中し過ぎたのか目と頭が痛む。
目頭を押さえながら後ろに下がると、いつの間にか後ろに着ていたラルフが支えてくる。
「お疲れ様です」
「・・・・・・これくらいなら問題ないわ」
「そうですか?10分間、瞬きもせずに集中していらした様ですので心配しましたが・・・・流石ですね」
「・・・え?」
ラルフの言葉に思わず声を上げて見上げる。
「・・・・・かなりハードだったのでは?少々顔色も優れないようですし。少し休憩された方が良いと思いますが」
(・・・・気づかなかった・・・・・)
それほど長い間潜っていたとは思わなかった。
だが、そう指摘されると段々と頭痛が大きくなってくる。
「・・・そうね。少し休憩させてもらうわ」
なにやら騒いでいるライトとシドの声に反応するのも億劫で、私はカウンターを背に腰を下ろし回復薬を飲み込んだ
シド・ライト視点
「開いたよ!」
ライトはそう言うと、ショーケースのカバーが自動で開き、中のライフカード取り出せるようになった。
「おおーー!!やったな!!」
「うん!フィアさん、流石!」
ライトはフィアの方を見ると、彼女は目頭を押さえ座り込んでいた。
「あれ?・・・・大丈夫?」
「今、回復薬も服用されましたので問題ないでしょう」
ライトが心配そうにフィアに視線を向けていると、カウンターに取り付けられていた別の端末が起動する。
何事かとシドとライトが警戒するが、防犯装置が作動した様な気配はない。
「・・・・・なんだろこれ?」
その端末の上にはホログラムが表示され、文字が浮かび上がっていた。シドもライトの隣に行き、ホログラムを覗き込む。
「・・・・・・なんて書いてあるんだ?」
シドの目には意味不明な文字の羅列にしか見えない。
<翻訳します>
今まで黙っていたイデアが表示されている内容を翻訳して表示する。
「え~っとなになに?・・・・・・・登録?」
「市民情報の更新・・・・?・・・・・・新規登録?・・・・・あ、この端末でライフカードの登録が出来るみたいだよ?」
「・・・・登録したらどうなるんだ?」
「さぁ?」
どうしたものか、と大人コンビに目を向けるが、フィアはダウン、ラルフはなにやらフィアに話しかけている様で声をかけ辛い。
「・・・・やってみるか?5枚あるし」
「・・・そうだね。まあ、現代人が登録できるとは思えないけど・・・・ものは試しって事で」
ライトはその端末にコードを差し込み、機能を調べ始める。
「ふむふむ・・・・ここにカードを置いて・・・・・それで?・・・・・ここに手を置くと・・・・・・これでよしっと」
端末を操作すると、ライトが手を置いているスキャン装置が動き出した様で、淡い光がライトの手の上部を照らしていく。
2重3重にスキャンされた後に、ライトが 「痛!」 と小さく声を上げた。
「どうした?」
シドがそう聞くと、ライトは機器から手を放し、自分の掌を観察する。
「・・・・なんだろう?・・・・チクっと刺されたような気が・・・・・」
<恐らくDNA採取を行ったものと思われます>
<DNA?>
<はい、市民登録としては私の時代でもポピュラーな情報源でしたから。当時では本人確認において最も正確性が高いとされていました>
<<なるほど>>
そう話しているうちに登録が終わったのか、カードを置いていた場所のランプが赤から緑へと変わる。
ライトはそれを手に取り表面に印字されている内容を読み上げた。
「・・・・・カバナ州 ダルニア都市 No,3200053688 ・・・・・権限 レベル3 氏名 ライト・・・・・・・登録できたみたい・・・・」
「まじか・・・・てか、お前その字読めるのか?」
「うん、養成所の座学で習ったから」
「・・・・・そんな簡単に覚えられるモンか?」
「今の言語とか文字ってこの時代を参考に発展したみたいだよ。文字さえ覚えたら文脈とかほとんどそのままだしね」
「ふ~ん・・・・・」
<シドの場合は私が翻訳しますから安心してください>
<・・・・ありがとさん>
イデアにこれから勉強ですね、と言われずに済み、胸をなでおろすシド。
「・・・・俺も出来るかな?」
「出来ると思うよ。やってみたら?」
ライトにそう言われシドもライフカードを手に取り登録を行ってみる。
ライトが機器の操作を行い、ライトと同じようにスキャンが行われ、最後に5本の指にチクっと痛みが走った。
「・・・・たしかにちょっと痛みが走ったな」
シドは痛みが走った場所を見てみるが、特に傷がついている様には見えない。
<シドさんにちょっとでも傷をつけられるってこの機械凄くない?>
<医療機器などにみられる機能です。少量の細胞サンプルの採取や極小の穴を開ける機能があります。そうでなければ、軍人は点滴や予防接種などを受ける事が出来なくなりますので>
<なるほど>
「・・・終わったみたいだな」
シドは登録が終わったらしいライフカードを手に取り内容を確認する。
そこには、カバナ州 ダルニア都市 No,5010002237 ・・・・・権限 レベル5 氏名 シド。
この様に表示されていた。
「おお~~・・・・俺も登録できたみたいだな」
「そうだね・・・・この権限レベルが違うのはどうしてだろう?」
「さあ?」
<それはシドが軍人として認識されているからかと思われます>
<ん?><どういうこと?>
<この施設は私が生み出された時代とほぼ同じ時代の遺跡の様です。シドは軍人用のコーディネイトが施されていますので、このシステムはシドを軍人レベルの権限を付与したのでしょう。ライトは一般市民と判断されたようです>
<あ~、そういうことね。だからシドさんはレベル5でボクは3なんだ>
<でも、これ意味あるのか?>
<この都市はまだ機能が生きています。おそらくそのカードを所有している、もしくは提示すれば軍人用・市民用のサービスを受けられる可能性が高いと思われます>
<・・・・なるほど。もしかしたら中央のビルにも安全に登れる可能性もあるか?>
<恐らくは>
「・・・・ライト。これはやべーぞ」
「うん、これはやばいね」
「キクチに怒られるかな・・・・・」
「・・・怒る事はないんじゃないかな?・・・た・・・たぶんだけど」
この時2人は事の重大性に気づいていなかった。
今まで用途不明なライフカードの使用方法や、その存在目的が明らかになっただけでない。
旧文明の遺跡に正式な存在として登録できる。
この意味は果てしなく大きい。
その事について正確に認識できる大人2人は、慌て始めたシドとライトに気付きこちらに近寄ってくるところであった。




