ランク調整依頼
シド達が宿に戻ると、従業員たちも帰ってきており、食事の提供も可能な状態になっていた。
これには二人共喜び、食事の準備が出来るまでに情報収集機の調整を終わらせてしまおうと部屋に籠った。
ライトは情報収集機の調整を行いイデアとのチャンネルを開いたことで、念話の使用が可能になった。
それからは二人でアレコレ言いながら情報収集機の設定を行っている。
<イデアこの設定ってどうしたらいいと思う?>
<これはこの値に設定した方が広域の探知に向いています>
<なるほど、じゃーこの部分は?>
<これはその時々でライトが知りたい情報に焦点を合わせていくのが良いかと>
<なるほど、それじゃ~・・・>
この様な会話を繰り広げ、はじめは一緒に聞いていたが、理解できないシドはすでに夕食のメニューに思考が飛んでいた。
(何喰おうかな~。昨日は焼き肉弁当だったし、今日は魚か?いや、またトンカツ定食ってのも有りか・・・丼物も捨てがたい・・・)
シドがつらつらと考えていると、情報端末が着信を知らせてくる。
画面を見るとキクチからの着信だった。
「はい」
『おう、シド。今大丈夫か?』
「ああ、大丈夫だ」
『今日話していた補填の件が纏まったからこの後詳細を送る。まずは、お前が没収された遺物の補填金だが、5000万コールに決まった』
「5000万!」
『そうだ、これには口止め料も含まれる。後で噂が広まりその出所がお前って事になればワーカーオフィスへの敵対行為とみなされるから誰にも話すなよ』
「ああ、なるほど。わかった」
『よし。それじゃーランク調整依頼の話もしておく。お前はしばらく都市東側の街道の治安維持に協力してもらうことになる』
「治安維持?」
『まあ、いうなればモンスターの間引きだ。ダゴラ都市周辺は比較的安全だが、東方に行けば放置された遺跡から危険なモンスターが溢れてくるんだ。そいつらを見つけて討伐してもらう。移動手段はこちらで用意するから、お前はその他の準備を怠るなよ』
「わかった。例えばどんなものを準備したらいいんだ?」
『弾薬や回復薬ってのは基本として。野営用の準備だな。食料や簡易寝具なんかだな。野営任務なんかは殆ど無いだろうが念のため用意しておけ』
「・・・・車で寝るのか?」
『車が宛がわれたらいいな。バイクだったらガチの野宿だ』
「・・・・え~・・・」
『その辺は諦めろ。依頼開始は一週間後だ。ライトの養成所への入校も同じタイミングだからな。その日に二人でワーカーオフィスまで来てくれ。担当は今の所俺になってる』
「わかった。一週間後だな」
『よろしく頼むぞ』
そういってキクチは連絡を切る。
シドは野営込みでの強制依頼が始まると聞いて憂鬱になった。
スラム街で生き、無人のバラックを見つけるまでは野宿など平気だったのに、今では宿暮らしに順応してしまい随分贅沢になったなと考える。
ライトの方を見ると、すでに機器の設定・調整は終わっているらしく。こちらを伺っていた。
「補填と依頼の話?」
「ああ、それとお前の養成所の件だな。補填金は5000万だと、口止め料込みで」
「それは大金だね」
<口止め料の比率が高いと思われますね>
「黙ってるだけでこの金額が貰えるんだからな。ラッキーだったと思う事にするさ」
「そうだね。それで依頼の方は?」
「治安維持の依頼。東側街道でモンスターの間引き作業をやらされるらしい」
「へ~、条件は?」
「後で詳細送ってくれるってさ。お前の養成所への入校も同じタイミングみたいだな。一週間後だってさ」
「一週間後か。わかった。それまでにこの情報収集機をある程度使える様にしとかないとね」
二人の予定が決まりそれぞれの方向を向いて準備することになった。
そしてお待ちかねの夕食の準備が整ったという連絡がはいり、二人は勇んで食堂に向かっていった。
本日のメニューは一種類だけ。緊急避難明けに用意したモノなのだから仕方ないと言えば仕方ない。
しかし、それは肩を落とすような内容では無かった。
二人が席まで運んだ料理は、白米の上に焦げ茶色のシチューの様なモノがたっぷりかかった料理、カレーライスだった。
始めて見ると異様な見た目の料理だったが、その匂いは凄まじく食欲を刺激してくる。
一口食べると、特徴的な香り・辛味が走り、溶け込んだ野菜の甘味や肉から出た旨味も感じられた。
ともすれば濃過ぎるシチューも白米と一緒に食べればいい感じに調整ができ、米との相性は抜群だった。
二人は目を輝かせ。大盛のカレーライスを満足いくまで腹に詰め込んでいった。
「ふ~~・・・いやこれも美味かった」
「ほんとにね・・・今までで一番美味しかったかも・・・」
二人は満足そうに腹を摩りながら部屋に戻る。
「いや~二日ぶりだったけど、やっぱり美味いな。ミールさんの料理は」
「そうだね。いつもはメニューも豊富だし、一泊2万コールの価値はあるよ」
「そうだな。防壁内に拠点を持ってもここに食いに来たいな」
「それはいいね。・・・まあ、一週間後にはしばらく食べられなくなるんだけどさ・・・」
「そうだな~・・・・・ん?なんだと?」
「え?だって、シドさんは治安維持に駆り出されるし、ボクは養成所でしょ?この宿には帰って来れ無くなるじゃないか」
「え?そうなの?」
「なんで疑問形?シドさんはさっき野営の準備とか言ってたし、ボクは全寮制だから・・・」
「・・・・・ウソぉ~・・・」
「さっき軽く調べてみたけど、ボクは全寮制で食事もすべて提供されるみたい。シドさんが派遣される所って、ダゴラ都市から東に80kmくらい離れた所の防衛拠点じゃないかな?ここからそこまで通うのって無理でしょ?」
ガーーーーーンっといった表情で固まるシド。
「しかたないよ。後一週間存分に楽しもう」
「・・・・・そうだね・・・」
快適な生活を提供してくれる宿から離れなければならない事に気づいたシドは失意のまま寝床に着くのであった。
それから一週間。二人はそれぞれの予定に合わせて準備を行っていた。
シドは弾薬の補充と武器のメンテナンスキットの買い足し、野営道具に携帯食を購入。
ライトは買うものは無かったが、新たに購入した情報収集機の習熟訓練と射撃訓練を行っていた。
そして当日、二人はワーカーオフィスでキクチの説明を受けていた。
「まずはライトからだな。お前は今日この後に養成所に俺と一緒に向かってもらう」
「わかりました」
「シドはこちらで準備したバイクでミナギ方面防衛拠点に移動。そのあとは向こうの指示に従ってくれ。依頼コードの発行はもう確認したか?」
「ああ・・・確認した」
「なんだ元気がないな」
「いや・・・気にしないでくれ」
シドはライトが言っていた防衛拠点に飛ばされる事が確定し、心の中で泣いていた。間引き範囲が確定するまで、宿の食事を諦めていなかったのだ。
「・・・まあいい。シドは直ぐに移動を開始してくれ。ライトはこのまま俺について来い」
「わかった」
「わかりました」
「じゃ、ライト、頑張れよ」
「うん、シドさんもヘマしないでよ?」
「大丈夫だって」
そういい、二人は別れそれぞれの目的地に向かって移動していく。
ライト視点
「着いたぞ。ここが養成所だ」
ライトがキクチの案内で到着したのは、ワーカーオフィスからそれほど離れていない場所であった。
ワーカーの養成所という事から、近くにあった方が何かと都合がいい。そういう理由からこの場所に建設されたのだった。
「へー、立派な建物ですね」
「そうだな。中にはいろんな訓練施設になってるからな。ほれ、中に入るぞ」
「はい」
ライトはキクチの後を追い、建物の中に入って行く。
「すみません。連絡していたワーカー希望者を連れてきました」
キクチは窓口で担当者に告げる。
「はい、お待ちしておりました。希望者の名前はライト様でお間違いはありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「それでは施設の説明をさせていただきます」
担当者は、養成所の説明を始める。
ワーカー養成所は、ワーカーになる事を希望する人員を教育し、最低限の戦闘能力と知識を付けさせることが目的として設立された組織である。カリキュラムは、座学・体力強化・戦闘訓練・情報機器の取り扱い訓練等が行われる。
全行程の単位が基準以上をクリア出来れば卒業となり、ワーカーランク10のライセンスが発行される。
訓練期間は個々の能力によって前後し、最長で2年間となる。それを超えるか、いずれかの科目で著しい欠点が見られれば退学となる。
全寮制で、衣食住の保証は養成所が行ってくれる。それぞれに個室が与えられ、そこでの生活が基本となる等の説明を受けた。
「以上です。何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「では、ライト様の所属証明書と部屋の鍵をお渡しします。今後の予定は、情報端末に送られるようになりますのでご確認ください」
「はい、わかりました」
ライトは証明書というカードと部屋の鍵を渡され、移動を促される。
「俺の案内はここまでだ。ライト、頑張れよ」
「はい、キクチさんもありがとうございました」
そう別れを告げ、ライトは自分に宛がわれた部屋へと向かっていった。
シド視点
シドは支給されたバイクに乗り荒野を移動していた。
<バイクなんて初めて乗ったけど。これ面白いな>
<運転に関する知識はインストールされている方法で応用がききましたね>
<そうだな。最初は戸惑ったけど慣れればなんてことないな>
シド達の運転というのは、手でハンドルを握ってするのではなく、シドの体内に増設された情報器官とバイクのシステムをリンクさせ運転する方法である。
これによって、ハンドルを握る必要が無くなり、両手で銃を扱う事が出来るようになるのであった。
荒野を走りながら、たまに出てくるバーサクハウンドを相手に射撃訓練を行っていた。
<運転しながら銃撃つってのも結構難しいな。4発に1発は狙い通りの所に当たらないぞ>
反動が強い銃を不安定なバイクに乗った状態で、自分も相手も動いているのだ。難しくて当然である。
<仕方ありません。まだ訓練を始めたばかりですから。しかしこの依頼中、かなりの強敵を相手にする事になるはずです。それまでには十全に扱えるようになっておく必要がありますね>
そういいながら、こちらに向かってくるバーサクハウンドに狙いを付けて銃撃する。
今度は狙い違わず、標的の頭に着弾するが、弾丸の威力が強すぎて血煙となり吹き飛んでいく。
<あいつ相手にこの銃は強すぎるな。オーバーキルにも程があるぞ>
<そうですが、これ以下の銃だと東方の荒野に出現するモンスターには威力不足となります>
1時間ほど走り続け、ようやく防衛拠点に到着した。
左右に伸びる防壁はここからでは全容が分からない程に長かった。
ある程度の間隔で門があり、その付近にモンスター迎撃用の拠点が設置されていた。シドはその中の一つに配属される事になったのだ。
ミナギ方面防衛拠点
ミナギ都市方面にある防衛拠点で、ミナギ都市との交易の要所である。
此処を超えると、多数のモンスターが闊歩する荒野が広がっており、生半可な武装では踏破することは難しい。
頻繁にモンスターの襲撃も起こる為、防衛拠点として充実した機能を持たせてあった。
シドは拠点内に入る為、守衛にワーカーライセンスと依頼コードを見せる。
「ん?荒野巡回依頼?」
「ここに行けって言われました。間違ってませんよね?」
「ああ、間違ってはいないな。依頼コードも問題ない。よし、通れ」
「ありがとうございます」
シドは門をくぐり、拠点の中へ入っていった。
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