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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
229/238

独り占め・・・

唐澤重工 強化外装開発部 研究室


ここでは強化外装の開発を目的とした研究が行われている。

比較的新しい研究室であり、人体のみでは踏破困難な東方最前線で活躍するワーカー向けの新商品を研究開発している部署である。


その研究室の主任であるナギ。

彼は今、その人生で最も幸せな時間を過ごしていた。


「なるほどなるほど・・・・・内部はこうなっているのですね・・・・・ふむ、ベアリングやギアが使用されていない。電気エネルギーを力場に変換して駆動させているのか・・・・単純に見えて非常に繊細かつ高度な技術が使われていますね~」


彼はイデアのメンテナンスを請け負うという重要な仕事に取り組んでいる。


旧文明製のオートマタを独り占め。

昨日はアレコレとイデアを質問攻めにし、今日漸く機体の方に着手する。


ボディーのカバーを取り外し、内部構造にスキャンを駆けながら測定用の端子を至る所に取り付けていく。

「ではイデア君。腕を動かしてもらえるかな?」

「わかりました」

計器を覗き込みながら出される指示に、イデアは従い腕を動かす。

端子を通して計測された数値がはじき出され、それを見てナギは顎をつまみ考え込む。

「ふ~~む・・・・・」

(このボディーはかなり軽量に作られている。だが、その出力はかなりのパワーを持っているはずだ。それなのに現代のアクチュエーターで動かすエネルギーの1/20のエネルギー量で駆動している・・・か)

今まで見てきた旧文明のオートマタとは技術体系が全く違う。

ナギが研究してきたオートマタ達は、細部は違う構造になっていても基盤となるべき部分の理論は似通っていた。イデアも見た目は全く異なる形状はしていても、基礎の部分は同じであろうと予想していたのだ。

しかし、蓋を開けてみると見たことも想像したことも無い技術の塊で構成されている。


イデアに使用されている技術は、今だ現代が遭遇したことの無いものであり、旧文明を研究してテクノロジーを発展させてきた人類にとって、新たなステージへと押し上げる事は間違いない。

この技術を理解できれば今までとは比べ物にならないほど省エネで、高出力の装備も開発可能になるだろう。

しかし、今軽く調べただけではその原理が全く理解できない。


ナギは最初の一歩目から躓く事になった。



だが・・・


「・・・・ふふふ・・・・・くっくっく!!!」

その顔には未知なる技術に出会えた至福の表情が浮かび上がっていた。


「ふははははははは!!!!素晴らしい!!!この未知へと挑む感覚!!!私が考えていた以上の技術の塊!!!!今まで歩んできた道のり全てを放棄せよと投げかけてくるこの難題を私は!!!

「ちょっと邪魔よ。トリップするなら場所を開けなさいな」」


イデアの前で高笑いを上げていたナギは何者かに突き飛ばされた。


「うご!!!」

快感の極みにあったナギは突然の暴行によって、顔面から地面に突っ込む。

急いで起き上がり、鼻から垂れる液体にも気に留めず振り向くと、イデアの中を覗き込む女性が1人。

「おい!イリミネ君!!何をするのかね?!」

彼女は情報収集機を専門に開発研究しているレミリア主任であった。


彼女はイデアから視線を逸らすことなくナギへと言葉を返してくる。

「無駄に高笑いしてるアホを除けただけよ・・・んん?ねぇイデアちゃん。ここのセンサーって何を感知してるの?」

「それは空気中の成分を監視していますね。窒素・酸素・二酸化炭素のバランスや、その他の無害・有害物質の濃度を測定しています」

「へ~・・・・・効果範囲は?」

「遮蔽物が無ければ120mです」

「・・・・・ちょっと作動して貰える?」

「今も稼働しています・・・・on/offを繰り返してみますか?」

「お願い・・・・・・・う~ん・・・・ディレイト波に検知有りっと・・・・これで空気成分を測定??あ~ん、バラしたいわ~」

「元に戻せますか?」

「そこなのよね~。予備とかない?」

「ありません。複数取り付けられていますが、1つ不具合が生じると測定範囲が狭まります」

「・・・悩ましい・・・「おい!私を無視するなルミリエ君!!」」

「ちょっとうるさいわよ」

漸くイデアから視線を外しこちらに顔を向けるレミリア。


「ここは私の研究室だ!許可なく入ってくるな!!」

「何言ってるのよ。貴方だって私の研究室に入ってくるじゃない」

「私は良いのだよ!!」

「良くないわよ。1日自由にさせてあげたんだから感謝してほしいくらいだわ」

「グググ!!!!この~・・・・!!!」

ナギはレミリアをどうやって追い出そうかと頭を回転させる。

未知の技術で作られたオートマタ。この機体に齧り付きで調べたいが、この女が居ては雑音が入って集中できない。


・・・・・そう思っていると。

「イデア君。腕の武装を展開してもらってもいいかな?」

いつの間にか兵器開発部門のマクワまで勝手に入室していたようだ。

「承知しました」

マクワに言われた通り、片腕をカシャ!っとエネルギーガンへと変形させるイデア。

「ほほ~・・・・・少し内部を見させてもらうよ」

そう言いながら懐からスキャナーを取り出しスキャンしていくマクワ。

「ふむふむ・・・・エネルギーパックはこれかな?・・・・これは交換式では無く充電式か・・・・・・エネルギー量は・・・・・すごいな・・・この量をどうやって送っているのか・・・?・・・・・・接続端子はどこに?」

「剥離部分に端子があります」

「この部分か・・・・このクリスタル状の球体かな?・・・・これでエネルギー供給を行っている訳か・・・・・材質は・・・?コーラル結晶体に似ているか?」

レミリアと並んであれこれ調べ始めるマクワ。


おのれ!!!


「マグノ君!!!君まで何用か!!」

「ん?ああ、ナギ主任。お邪魔しているよ」

「邪魔している自覚があるなら出て行ってくれないか?!」

「言葉の綾のようなものだよ。お気になさらず」

「気にならないわけがないだろう!!」


このままでは私の至福の時間が!!!などと考えていると


「イデア君。キミのシールドについて質問があるのですが」

ついにはマクスウェルまで部屋に入ってきた。


先ほどまで最高の気分だったナギはとうとう怒髪天を突く。

「なんなんだ君たちは!!!!ここはワ・タ・シ!の研究室だぞ!!!!」

「うるさいわね!」「ナギ主任、お静かに」「うるさいぞナギ主任」

「な・・・・・・!!!!」

わらわらと湧いて出てきた3人に正当な文句を叩きつけると、3人同時にクレームを付けられた。

こんな理不尽がまかり通っていいのだろうか?

良いはずがない!!!

だが、人数では相手の方が上。ここは唯一の味方と言っていい人物に加勢を要求するとしよう。


「シブモリ君!!!彼らになんとか言って欲しい!!!」


イデアのメンテナンスに助手として参加していた調整部門の主任であるワカバヤシ。

代表から彼と組んで作業を行う様にと命令をだされ、シブシブ受け入れたのだが今では心強い。

なんとしてもこのお邪魔虫どもを退散させねば!!!

そう期待を込めてワカバヤシに声をかけるナギであったが、ワカバヤシは我関せずといった感じで端末のキーボードをたたき続けている。

「・・・ちょっとシブ・・・・・ん?・・・そうだ!ワカバヤシ君!!!なんとかして欲しい!!」


さらに大きな声でワカバヤシに訴えかけると、彼はため息を付きながら振り返った。


「・・・・・・なんともなりませんね」

「・・・・・・」

相棒となった男から信じられない言葉が返ってきた。

「・・・・なんだと・・?」

「というよりもですね。何故こうならないと思っていたのです?」

理解できないといった表情でナギを見つめ返すワカバヤシ。

「・・・・なに?」

「未知の技術が目の前にあるんです。貴方があの3人の立場ならじっとしていましたか?」

「するわけが無かろう」

「それが答えですよ」


素っ気ない態度でまた端末へと向き直るワカバヤシ。

「・・・・・・・」

そう言われればあの3人の行動も分からなくもない。だが、イデアのメンテナンスはナギが交渉して実現したのだ。

ならば私が優先されるのが当然ではないか?そうナギが考えるのは仕方がない事だろう。


イデアと3人の方へ振り向けば、わちゃわちゃしながらあれこれ調べまわっている。

何とかしなければ。

このままでは3人に邪魔されて技術解析が進まなくなってしまう。

ナギがあの3人を蹴散らし、イデアを独占する方法をアレコレと考えていると、端末でカチャカチャやっていたワカバヤシが声を上げる。


「よし」

その声にもう一度振り返ると、ワカバヤシは全員に振り返りこう言った。


「共同スペースを確保しました。皆さんの使用する機材も運び込む様手配しましたので、全員で第7試作場に移動しましょう」

「・・・・・・・」

相棒のとんでもない言葉を聞き、ナギは口を半開きにして呆然とする。

だが、周りの者達は歓喜の声を上げて賛同した。

「さすがワカバヤシ主任です!」

「うむ、早速移動しよう」

「助かるわー。ここ狭くて機材持ち込めないのよね。マクワさん、マクスウェルさん。イデアちゃんの移送、お願いね」

「「お任せを」」


男2人は台座に固定されていたイデアを抱え上げ、スタスタと研究室を出ていく。

その後ろをスキップしながらついていくレミリア。


その後ろ姿を見送ったナギは動くことが出来ずに立ちすくんでいた。その彼にワカバヤシは近寄り、肩をポンポンと叩くと

「独り占めなど出来る訳が無いんです。諦めて行きましょう。機材の搬送手続きは終わっていますから、すぐに着手できますよ」

そう言い残し、味方だと思っていた男も部屋から出て行ってしまう。


「・・・・・・・・・・」


ナギは力尽きたように膝から崩れ落ち、床に四つん這いになって項垂れた。

彼はワカバヤシが手配した機材搬送担当者が来るまでその場から動くことが出来なかったという・・・・


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