新装備には時間がかかる?
新しく開発された武器のプレゼンを聞き、防護服が壊れた状況の聞き取り調査が終わったシド。
それで今日は終わりです。はい、さようならとは行かないのが唐澤重工だろう。
シドは新開発された商品の性能テストを行う部屋に連れていかれ、まずは防護服が破損した状況の再現を求められていた。
「いや、あの状況を再現すると腕が・・・・・」
シドはそう言いながら自分の右腕に目を落とす。
あれからイデアの特別訓練を受け、体内発電した電気の制御能力は上がっている。しかし、完全に無傷で制御できるまでスキルが上昇したかと言われればそうでは無い。
全力で一点集中攻撃を行った場合、前回の様に黒焦げまでは行かなくとも酷い火傷を負った状態になってしまう。
ゲンハを撃退した時や、訓練の為ならば多少の痛みには耐えられる。
しかし、ただの再現の為に腕一本を負傷するというのは戸惑われた。
「いえ、放電までしなくて結構です。その時と同量程度の発電を行って頂ければ、あとは我々の方でその電圧に耐えられるスーツを作成して見せます」
そう言いながら眼鏡を光らせるマクスウェル。
どうやら体内で好きに発電できると言うシドの体の方にも興味津々の様だ。
シドはシブシブながら発電しようとすると、
「おっと、その前に・・・・これを握って頂いて、余裕があれば電気を流し込んでください」
そう言いながらコードに繋がれた金属の棒を渡してくる兵器開発チームの主任 マクワ。
「・・・なんですか?これ」
シドは手に持たされた棒を見ながら質問する。
「発生させた電気の電圧と電流を調べる装置に繋がっています。数値を正確に把握しておけば、今後の新装備開発に役立つかと思いまして」
コチラも人のよさそうな顔をしてデータを取ることに余念がない。
「あ、はい」
シドは「もうどうでもいいよ」と考えながら、あの時に行った全力発電を行った。
その瞬間、シドの体から紫電が発生し、バチバチと音を立てながら金属の棒を伝って装置に流れ込んでいく。
「ほほ~・・・・・」
興味深そうにシドに近づこうとしたマクスウェルをライトが止めた。
「危ないですよ。もし人体に流れ込んだら黒焦げどころじゃ済みませんからね」
ライトにそう言われ、ハッとした表情を浮かべたマクスウェルは足を止めた。
「・・・・そうですね。ありがとうございます・・・いやはや、私としたことが」
そういいながら頭を振るマクスウェル。
私としたことがも何も、いつもこんな感じなんだろうなと考えるライトだったが、余計なことは口にしない。
もう一人の主任であるマクワは、計測器の前に立ち興奮気味に声を上げる。
「おお~~~!!!すごい!!!3000万ボルトを超えましたよ!!!・・・・電流は・・・・・4500A前後ですか、雷級ですね・・・・・現代人が耐えられる電力ではありまんせね・・・・・・彼は隔世遺伝者?いや、発覚している隔世遺伝者でもここまでの耐電性をもった人物は・・・体組織はどうなっているのか・・・解剖・・・いや、サンプルを・・・ぶつぶつ」
あちらはあちらでトリップしている。
不穏なセリフを聞かなかった事にし、データが取れたのならもういいかと、シドは発電を止めて息を付いた。
「ふーーー・・・・・」
少しヒリ付く両掌を見ると、棒に接触していた部分が火傷を負っていた。
体内で走り回る電流には体が慣れてきたが、まだまだ放電する際のコントロールが上手くいっていないという事なのだろう。
そう考えているうちに、掌の火傷はスルスルと通常の状態へと回復していった。
<まだ制御が追い付いていませんね。訓練は続行です>
<・・・・・はいよ>
(制御訓練より耐性上げた方がいいんじゃ・・・・いや、火傷は痛いしな~)
「なるほど、これほどの電力に晒されては制御装置がヤラれてしまうのも納得です。早急に改善案を考え対策させてもらいますよ」
ふっふっふと怪しい笑みを浮かべながらマクスウェルが近づいて来た。
「それでは、私はこれで・・・・・マクワ主任。そのデータは私の端末にも送っておいてください」
「承知しましたよ。また後でご相談に伺うかもしれませんが」
「ええ、協力して最高の作品を仕上げましょう・・・・・・・それでは」
マクスウェルはそう言うと足早にテスト部屋を出て行ってしまった。
「シド様。あなた様に開発した新しい銃なのですが、少々改良を施したいと思いまして。試射はまた後日という事でもよろしいでしょうか?」
顔面にワクワクといった表情を浮かべたマクワがそう言ってくる。
「え・・・ええ。大丈夫です」
「そうですか!また後日・・・・ラルフ殿を通して連絡を入れさせていただきます。それでは!」
マクワも言いたいことだけ言ってさっさと部屋を出て行ってしまう。
その様子を見送った4人は、研究者とはこういう生き物なのだろうか?と首をかしげていた。
研究に一直線な彼らはそれでも良いかもしれないが、それでは済まない職種の人間もいる。
「この度は弊社の開発陣の者たちが・・・・本当に申し訳ありません」
そう、営業担当のシブサワである。
直角に腰を折り、深々と頭を下げて謝罪する姿は必死さを表していた。
もしここで、スラムバレットの不興を買えば、彼らを広告塔としてダゴラ都市で売りさばいている兵器群の大売り出しも支障がが出てくる。
作る者たちは物が作れれば満足なのだろうが、売る者たちはそうは行かない。
この2人の性格から考えてヘソを曲げる可能性は低いが、少しでもあるのならば頭を下げる事に戸惑いなどない。今後も売り上げに貢献してくれるであろうスラムバレットとのパイプをつなぐ為ならば、幾らでもヘコヘコする所存である。
「ああ、大丈夫ですよ。いい装備を作ってくれるなら」
苦笑いを浮かべながらシブサワに答えるシド。
「・・・・・それは必ず。ご満足いただける商品を提供させていただきます」
「よろしくお願いします・・・あ、それとですね。新しい防護服が出来るまでの繋ぎに、何かいい商品ありませんか?このままワーカーとして活動するわけにもいかないんで」
シドは、今自分が着ているトレーニングウェアを引っ張りながらシブサワに尋ねる。
「・・・・・承知しました。ご用意いたしますのでお待ちいただけますか?」
「よろしくお願いします」
シド達は応接室へと戻り、しばらく待っているとケースを持ったシブサワが戻ってくる。
「お待たせしました。少し型落ちとなってしまいますが、こちらの防護服を無料でお渡しさせて頂きます」
そういってシブサワが差し出したケースから出てきたのは、軽量型の防護服であった。
色はダークブルーで、DMDシリーズとは違い金属光沢がある。
スラッとしたフォルムをしており、DMDと比べれば物理防御力としては劣りそうな見た目だ。
「超硬チタン合金を使用した防護服です。高出力なエネルギーシールドを発生させることが出来、身体追従機能もありますのでDMD SV5と同様の感覚でお使いいただけるかと。しかし、物理的な防御力は低下しますのでその点はご注意を」
要するに壊れてしまったDMD SV5の下位互換のような防護服らしい。それならそれで避ければいいかと考えるシド。
「ああ、ありが「それって確か・・・・シールド操作が完全マニュアルよね?シド、大丈夫なの?」」
シブサワが準備した防護服に対し、フィアが口をはさんでくる。
通常の防護服が発生させるシールドとは違い、この防護服は着用者がシールドを発生させる場所を細かく決めなければならないという欠点があった。
「ああ、大丈夫。前着てたのもそうだったから。生体シールドを張るのと同じ感覚だし」
だがその欠点も自在にシールドを操れる者からすれば長所となる。
シドもライト程とは言わないがシールドの操作には自信があった。特に気負う事もなく、渡された防護服を身に着けていくシドであった。
フィア視点
「・・・・・そう。ならいいけど」
フィアは興味深そうに防護服を着るシドを見つめる。
ゴリゴリのハンターであるシドが、繊細さを要求されるシールドのマニュアル操作を身に着けている事が意外なのだ。
シールド操作というものは、シーカーが得意とすることが多い。
情報収集機を扱う事が多く、データ的な操作を行う必要がある装備はシーカーが着用しているのが普通だ。
身体的な活動が多いハンターはその辺りの細々とした操作を苦手としている事が多い。
シドとライトからすれば、このままずっと一緒に活動する事になったラルフとは違い、一時的な同行者という立場のフィアに自分たちの技術をベラベラと話すつもりは無く、フィアも指令元であるアドルフからそこまで詳細な情報が送られてきている訳では無い。
フィアの任務は、シド達のそういった戦闘能力や技術の調査を行う事も含まれている。
スラムバレットの戦闘能力の高さはここに来るまでの道中でも確認できた。
次はもっと深い情報を手に入れる為、今後も観察は怠れない。
それに・・・・・
「それで、イデアのメンテナンスはどうなってます?」
今は唐澤重工の研究者に案内されて姿を消しているオートマタ。
「ああ~・・・・ナギ主任とワカバヤシ主任が責任を持って行うとの事です。まずは彼?の構造やシステム関係を調べると言っておりましたが・・・・」
「ふーん、結構時間掛かりそうだな~」
「ええ・・・・・まあ、恐らくは・・・・・」
あの様な一点ものといっていいオートマタを簡単に手放す事も不思議で仕方がない。
確かにメカである限りメンテナンスは必須だろう。
だが、こんな一地方の中堅企業に預ける理由が分からない。確かに技術力という一点においては優れているだろうが、ゴンダバヤシ取締役と繋がりがあるのなら、喜多野マテリアルの研究部門に預けるのが普通という物だ。しかし、シドはこの唐澤重工に預けるという決定を下した。
「まあ、俺たちはこの辺りの遺跡にでも潜りながら待つことにします」
それに、強力な“装備”の一つをメンテナンスに出しているというのに、遺跡に潜るつもりである。
他のワーカー達ならこの選択もあり得ないだろう。
金なら十分すぎる程にあるのだ。メンテナンスが終わるまでの間、ホームでゆっくりするのがワーカーというモノではないか?とフィアは考える。
(この2人は異質だ)
最初に外部から手に入る情報を見たときからそう考えていたが、この短期間一緒に行動するだけでも普通とは違うと分かる。
シドの戦闘能力の高さとライトの索敵範囲の広さ、射撃能力の高さには驚きもした。だが、その行動原理もその他のワーカー達とは全く違う。
今までフィアが見てきたワーカー達はもっと刹那的だ。
ただ突っ走って直ぐに死ぬ様な低級のワーカーも、高ランクに上がり、最前線に躍り出ているワーカー達も基本的には同じ。
遺跡に潜り、遺物を手に入れ生き残れたならば、明日を謳歌する。生きるために、自分の生に価値を積み上げる為にワーカーは遺跡へと潜るのだ。
だが、彼らは違う気がする。
ただ行きたいから。
遺跡にあるであろう未知のモノを見たい。
ただ、それだけの様な気がしてしまう。
(・・・・・・一体、どんな生き方をすればこうなるのかしら?)
この印象が当たっているかどうかまでは分からない。しかし、フィアの興味はだんだんと膨らんでいく。
彼女もこれから彼らと共に遺跡へと潜る。
分かっていることは1つ。
前担当職員を過労死寸前にまで追い込んだ2人についていけば、退屈する事だけは無いという事だ。




