唐澤重工の苦労人
ワカバヤシ視点
「ちょっと!!待ちなさいナギ主任!!」
私はユニークオートマタのメンテナンスを行うと言い出し、彼らから出された条件を勝手に丸呑みして準備を始めると宣ったナギを追いかける。
だが、彼は見た目に寄らず健脚で私が一つ目の角を曲がった時にはすでに姿が見えなくなってしまっていた。
「・・・・あああぁぁぁぁ!!!クソ!!!」
見えなくなったナギの背中に向けて悪態を付きながら頭を掻きむしる。
このまま彼の研究室に突撃しても突っぱねられて話にならないのは間違いない。
私も研究者のはしくれだ。
目の前に自身の夢の体現が姿を現せば、ああなってしまうのは理解できる。
理解は出来るが、実際に行動を起こすかどうかは話が別だ。我々は一企業の研究者として存在しているのだ。会社に大きな損害を与える可能性を無視して自分の利益に飛びついていい訳がない。
「・・・・・上に報告だ・・・・・専務・・・・いや、この場合は代表に取り次いでもらうのがもっとも確実ですか・・・・・」
私は端末を取り出すと、代表秘書に通信を飛ばした。
このワカバヤシと言う男。
元は別企業でクレーム対策部署に所属していた。
開発部や営業部、生産部のやらかしたポカの火消しに走り回る日々を送っていたのだが、彼が担当していた商品で特大リコールが発生。
原因を調査していくと、彼が一度、部品強度が足りない為に再設計案件として突き返した設計図が、上司の一存によって合格処理が行われていたことが分かった。
本来ならばその上司が責任を取るはずだったのだが、その男は幹部のコネでそのポジションに座っており、彼が責任を取ると言う事は、彼をそのポジションにつけた幹部も同時に責任を取らなければならないほどの大きな問題が発生していた。
上司と共に責任を取らされる事を嫌ったその幹部は、書類を改ざんし全ての責任をワカバヤシへと押し付けたのだった。
当然彼は反論したのだが、一切の弁明も通らず会社を放逐されることになった。
呆然としている彼の家に企業から送られて来た通知書は、「損失の請求だけは勘弁してやるから感謝しろ」という内容の紙切れ一枚のみ。
絶望し、命を絶とうかとも考えていた所に、唐澤重工からのオファーが舞い込んでくる。
当時の唐澤重工は自社の開発陣のコントロールが出来ておらず、商品をリリースしても悪評が蔓延りほんの一握りの物好きしか手に取ってもらえない状況になっていた。
元々唐澤重工は、『旧文明の技術を超える』の理念の元、技術者達が寄り集まって出来た企業である。
結成時から現在までその理念は変わっていない。
どんな些細な遺物も収集し、自分達でワーカーを雇って遺跡探索も行って来た。集めた遺物を弄りまわし、そこに込められた技術は全て吸い上げてきたのだ。
だが、その技術を使って作り出された装備品達は現代人には使用不可な物が大半である。
いくら性能が優れていても使い手がいなけれゴミと同じ。売れる物を作ろうにも理想と自分達の知的欲求心に取り付かれた技術者達には経営陣の悲鳴は届かなかった。
このままでは企業として立ちいかなくなる。
もっとユーザー受けする商品を開発しようにも、開発部の変態共が普通の商品を作る訳がない。問題児達を全員首にしてしまえば、開発陣は入社したてのペーペーしか残らないという、悪夢の様な状態に陥っていた。
そこで唐澤重工の経営陣が考え付いた方法が、
「ウチの商品をもっと使いやすく改造してくれる技術者がいればいいんじゃないか?」
という案である。
情報屋に報酬を渡し、方々探し回った結果、唐澤重工が見つけたのがワカバヤシだったと言う訳だ。
ワカバヤシは、自分が得意とする分野を必要としてくれる唐澤重工の話に一・二も無く飛びついた。
途方に暮れていた自分を拾ってくれた唐澤重工に恩を返そうと、彼は自分の能力全てをつぎ込んで仕事に邁進することになる。
そこから彼は開発部から上がって来るふざけた商品の数々を調整して世に送り出していった。
大型機械系モンスターの装甲も貫くが、使用すると使用者の腕ごと吹き飛ばす威力のパイルバンカー。
旧文明の頑丈な防壁を焼き切れるが、放射熱で使用者まで火傷を起こす熱線兵器。
強力なシールドを発生させるが、使用限度時間以上シールドを発生させると、小型ジェネレータ―から発生する電磁波で着用者がボイルされてしまう防護服。
起動させた瞬間、脳を破壊する程の情報量を収集してしまう情報収集機。
その他数々の装備品を調整し、唐澤重工が潰れない程度の売り上げを叩き出してきたのだ。
まさに作りたいものだけを作る技術者のみで構成された唐澤重工の救世主であった。
故に唐澤重工はワカバヤシの存在をもっとも大切にしており、代表との面会も電話一本で叶う待遇を与えていた。
秘書に連絡を取ると、代表は直ぐに会うとの事である。
私はその足で代表室に向かう。
「失礼します」
唐澤重工の代表室は質素なものだ。仕事に必要なもの以外は何も置かれておらず、高価な机やソファー等も置かれていない。
企業外の者達と応対し、企業として持て成す為の装飾品等は全て応接室に集約されている。
安物の机と機能性のみを考えられたワークチェアに腰掛け、端末の前で仕事をする代表の前まで歩いていき、今来社しているスラムバレットと、彼らが所有しているオートマタの件。それとナギ主任の暴走を代表に伝える。
「・・・・・なるほど。そんな事に・・・・・」
私の話を聞いた代表は、僅かに眉間にしわを寄せ考えを巡らせる。
私は彼の思考がまとまるのを静かに見守った。
「・・・・ふむ。ナギ主任は強化外装開発の主任だろう?オートマタ好きなのは知っていたが、ワーカーの所有物に飛びつくほどだったのか?」
「私も驚いています。強化外装の開発に旧文明のオートマタの技術が非常に役立つとは聞いていましたが、まさか世界にたった一つと言っても過言ではないモノに手を付けようと考えるとは・・・・」
「そうだな・・・・だが、やらせてみてもいいんじゃないか?」
「・・・・・・は?」
代表の思わぬ言葉に私は気の抜けた言葉を返してしまう。
「ナギ主任は自信があるのだろう?なら、やらせてみればいい」
「あ!・・・・いや・・・・・いくら自信があるとは言ってもユニークオートマタですよ!!!その価値は天文学的なモノになります!もし起動不良でもおこしたら・・・・!!!」
「それに関しては彼らから補填案が出ているじゃないか。もしも機能低下や再起動が不可能だった場合、スラムバレットに対する装備提供や弾薬補給を無償で行う・・・・だったね?」
「はい!!彼らが今後どのような活動を行うかわかりませんが、無期限となるとどれほどの損失となるか計り知れません!!」
「私はそう考えてはいない。スラムバレットというワーカーチームの事は私も報告を受けている。シブサワ君がダゴラ都市で見つけた優秀なワーカーチームだとか。シブサワ君はスラムバレットの2人を広告塔にしてダゴラ都市で大きな商機をつかんだという事だね」
「・・・・!!確かにそうですが・・・・それとこれとでは話が・・・・」
代表もスラムバレットの事を知っていたようだ。
まあ、それはそうなのだろう。彼らを広告塔にしてから、我が社の商品が飛ぶように売れているのだから(今までの出荷実績と比べて)。
だが、それでも商品の無償提供を行う事とは話が違う。
「ナギ主任が失敗すれば、補填という尤もな理由で彼らに装備を提供できる。それはランク50以上のワーカーに無償で新開発された商品のテストプレイヤーになってもらえると捉えられないかな?」
「いや・・・・それは・・・・・・」
「彼らは今までそのランクでは考えられないような偉業を多数行っている。そんな現在進行形でランク詐欺の様な状態のワーカーが我が社の装備で活動し、さらに躍進すれば我が社の商品が大々的に宣伝されるというものじゃないかな?」
「・・・・・・まぁ・・・・そうですね」
「弾薬の供給という点でも問題ない。いくら撃ちまくった所でたった2人・・・・今は3人かな?そんな少人数の弾薬費等、旧文明の生けるオートマタを調べさせてもらう事と比べたら無料にも等しいだろう?」
「・・・はぁ・・・・そう考えれば・・・・・」
「だから、私としてはナギ主任を後押しするよ・・・・・・だが、なんの首輪もつけずに行動させるのも心配だから、ワカバヤシ君。君もそのオートマタのメンテナンスチームに参加しなさい」
と、思ってもいなかった事を言われる。
「え?!私もですか?!」
「そうだ。ナギ主任の暴走を抑えめにして、旧文明の技術を吸収するいい機会だ」
「ですが!私には商品の調整という仕事が!!」
「それは大丈夫だろう。最近新開発された商品は少ない。それに、どうせ他部署からもワラワラとそのメンテナンスに首を突っ込んでくるだろうから、君に新しい仕事が回ってくる事もないはずだ」
代表にそう言われ、他の主任連中の事が頭に浮かんだ。
奴等の事だ。川に落ちた牛に群がるピラニアの如く、ナギ主任の研究室に群がってくるだろう。そして、奴等が起こす無茶苦茶の調整をする自分の姿までハッキリと浮かべてしまった。
「・・・・・・・・・」
「そちらの調整を頼んだよ」
ふっくらとした恵比須顔にニッコリとした微笑みを浮かべ、一番やりたくない部類の仕事を任されてしまった。
「・・・・・・かしこまりました」
私はガックリと項垂れ、代表に肯定の言葉を返す。
「うん!ボーナスと長期休暇を期待してくれ。たまには家族サービスもしないとね」
(家族・・・・か・・・・・頑張ろう・・・・・)
私は唐澤重工に拾われてから出会った、最愛の妻と可愛い子供たちの顔を浮かべながら代表室を出ていくのであった。




