防壁内へ ライトの情報収集機購入
防壁内へ続く門の前にたどり着く。
ここから先が本当のダゴラ都市なのであった。
二人は本来なら遠くから眺めるしかなく、噂にしか聞いたことが無い都市の中へ踏み入れようとしていた。
「ついにだな」
「そうだね」
時間で言えば3か月程度なのだが、非常に濃い日々を過ごしてきたため感慨深さを感じていた。
二人は門の中に入る為、守衛の待機所に向かった。
「すいません」
シドは守衛に声をかける。
「はい、なんでしょうか?」
「中に入りたいんですけど。これ、ワーカーライセンスです」
シドは守衛にライセンスを渡し、入門の許可を求める。
「はい、確認がとれました。そちらの方は?」
守衛はライトの方を見て問いかけてくる。
「コイツは俺の紹介でワーカーの養成所に入る予定なんです」
「なるほど、わかりました。万が一中で問題を起こされた場合、その責任は貴方にかかってきます。問題はありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「わかりました。ライセンスの登録が完了しましたので、次回ここを通る時はあちらの端末をご利用ください」
守衛が門の反対側を指さし、そこに設置されている端末を示す。
「ワーカーライセンスを翳していただければ問題なく通行できます」
「わかりました。ありがとうございます」
「はい、ようこそダゴラ都市へ」
こうして二人は防壁の内部に入っていく。
防壁の内側は非常に清潔で建物も洗練されたものばかりだった。
ひび割れ一つない家やビル・整備され歪みがない道路・それらを飾る街路樹などが二人の目に飛び込んでくる。
第三区画とは比べ物にならない世界がそこには有った。
「・・・・すげ~な」
「・・・・すごいね」
「なんか、防壁内の人間がスラムの事を馬鹿にする気持ちがわかっちまったよ・・・」
「・・・・全然違うもんね・・・」
門から防壁内に初めて入った者は、入口を出てすぐの所で防壁内のルールなどの説明を受ける事になっている。それを聞かずに中で問題を起こしたりしたら、言い訳も許されずブタ箱行となるので、必ず受ける様にと守衛に言われていた。
シド達がパネルの前に立つと、音声ガイダンスが始まる。
法律に関する内容は、基本スラムと変わらない。だが全く違ったのは、違反した場合の対応にあった。
防壁内では、盗みや暴行等を行えば即座に治安維持部隊が動き逮捕されること、殺人等重罪を犯せば生死問わずの対応をされる。逮捕されれば刑務所という専門の施設に収容され、法に基づき罰が下される。
この事実に二人は驚愕したのであった。
スラムでは盗み等を行った場合、店の店主に追い掛け回される程度で終わる。暴行等は日常茶飯事で、痛めつけた相手の仲間が復讐に来るかどうか程度の心配しかしない。殺しについても組織の構成員を殺さない限り基本放置が普通だった。
そして一番の驚きが、法律に規定されている量以上の罰則を受けないという点である。スラムなら肩がぶつかっただけで生き死にの話になるのは珍しくない。どの罪でも投降し逮捕されれば、裁判を受けられることが出来、罪の重さに規定された罰が下るというのが驚きを禁じ得ない。
「これ、ほんとかな?」
「本当なんだろうね・・・スラムじゃ考えられない」
「俺、ドーマファミリーの構成員の前を横切ったってだけで半殺しにされたことあるぞ・・・」
「・・・・・それについてはノーコメントで・・・・」
元ドーマファミリー所属のライトには反応し辛い話をつぶやくシドであった。
「んで、ワーカーオフィスの本部ってどこにあるんだっけ?」
「このまま真っすぐ歩けば着くみたいだよ」
「んじゃ、適当に行ってみるか」
二人は道なりに進み、ワーカーオフィスの本部を目指す。
まさしくお上りさん状態の二人はキョロキョロ街並みを見物しながら道を進んでいった。一般人も多く、非常に綺麗に着飾っている者もいれば、仕事着の様な者もいる。稀にワーカーなのであろう。自分たちと同じように防護服と銃器を装備した者たちも歩いていた。
ビルには様々な店舗が入っていて、数か月前の二人なら目が飛び出る様な高級品が並んでいる。
本当に異世界に来たような気分になり、頭が罅れるような錯覚を覚える。
<二人とも、あまりキョロキョロするのは感心しません>
<あ、悪い>
「すいません」
<ライト、プライベートスペース以外では私に返答は要りません。周りの者たちに不審に思われます>
「・・・・」
ライトは思念受信体が無く、念話を使えない為イデアとの会話をするためにはバイザーと音声による方法しかなかった。
<なあイデア、ライトもお前と声以外で話せる方法無いのか?>
<あります。思念受信体の作成は今の段階では困難ですが、使用者の脳波を検知して操作可能な情報収集機を使えば念話と類似したコミュニケーションが可能となります>
「!」
<それはいいな。俺達でも買えるかな?>
<都市防衛戦での報酬とワーカーオフィスからの補填を使えば問題ないと推察します>
「おし ライト。金が入ったら情報収集機を探しに行こう」
「うん!ありがとう!」
しばらく防壁内の街並みを堪能しながら歩いていくとワーカーオフィスの本部にたどり着く。
そのビルは第三区画にある出張所とは比べ物にならない程大きく、機能性にあふれた建造物だった。
二人はビルの中に入り驚きで目を見開く。
そこには多くのワーカー達がおり、防護服ではなくパワードスーツやサイバネティックパーツを取り付けた者、中には完全にサイボーグ化した者たちで溢れかえっていた。確かにここの者たちと比べれば出張所にいるワーカーは半端者と評価されても仕方がない空気を纏った者達だった。
<二人とも、安心してください。貴方達も彼らに劣る実力ではありません。自信を持ってください>
イデアにそう言われ我に返り、受付へと向かった。
「すいません。ワーカーコードの登録をお願いします」
「かしこまりました。ライセンスの提示と情報端末のコードをお願いします」
受付には女性職員がおり、シドの対応を行う。シドはライセンスと情報端末の連絡コードを職員に渡した。
「登録が完了いたしました」
そういって職員はライセンスを返却してくる。
「ありがとうございます」
「他にご用件はありませんか?」
「・・・あ、情報収集機を扱っているお店を紹介して欲しいです」
「承りました。そちらの店舗情報はシド様の情報端末に転送させていただきます」
「はい、ありがとうございます」
「他にご用件はありませんか?」
「ありません」
「はい、本日はワーカーオフィスのご利用ありがとうございました」
シド達はワーカーオフィスを後にし、これからの事を相談する。
「なんか、結構あっけなく用事が終わったな」
「そうだね。やる事って言ってもワーカーコードの登録だけだったし。でも、高ランクワーカーを見れただけでも収穫じゃない?ボク達もあんな感じを目指せばいいんだし」
<この後はどうしますか?報酬が入るまで暫く時間が掛かると思います>
<そうだな・・・情報収集機の下見ってのは?>
「さっき教えてもらったお店を見に行こうよ。いろいろな機材が売ってるだろうし、見学するだけでも時間つぶしにはなるんじゃない?」
「そうだな、行ってみるか」
シド達は、ワーカーオフィスから提供された店舗の情報を検索し、その店まで移動することとなった。
そこは、情報系の機材を専門に扱っている店舗で、情報端末から情報収集機、敵性体の発見に特化した索敵装置、またはそれはを妨害するジャミング装置等が置かれていた。
「ふぉぉぉーーー!」
珍しくライトの興奮値がリミットオーバーする。
「なんか、ライトがこんな感じになるの初めて見た」
<普段は冷静な方ですからね。どちらかと言えばこの反応はシドの役目かと>
<やかましいわ>
「シドさん!この情報収集機凄いよ!各種ジャミングに細かに対応できるみたいだよ!こっちのは神経伝達式で考えただけで設定をいじれるみたいだ!その分値段も高いけど。これは!音の反響や振動、熱反射にも対応してるんだ!光学迷彩の相手にも惑わされないなんて!」
「そ・・・そうか良かったな」
「うん!ずっと居られる!ボクここに」
<イデア、ライトが何言ってるのか分からない>
<情報収集機の性能を見比べている様です>
<いや、そうなんだけどそうじゃない>
「ジャミング装置か~。熟練者が使ったらすごいことになるんだろうな・・・」
<なあ、イデア。遺跡のシステムデータを取得する端末ってどれになるんだ?>
ライトのテンションに付いていけなくなったシドは、今後の利益になりそうな機材を探し始める。
<基本的には情報収集機があれば取得できます。あとは相手の端末によってはセキリュティを突破する技量が必要になったりしますが、その辺りは機材に左右されることは少ないです。本人との通信速度の相性が良いものを選べば問題ないかと>
<あ、情報収集機でいいんだ・・・ライトが好きなやつを選んでもらおうか>
<・・・シドはライトが仲間になってよかったですね。ソロで活動するなら必要な知識ですよ?>
シドはライトの加入を決断した自分を褒め、何か面白い物が無いか店内を物色する。
<シド、昨日の報酬が振り込まれました>
<お!>
急いで情報端末を確認し、金額を見る。報酬額2400万コール、常時討伐依頼の報酬では過去最高額であった。
<2400万か~。あのデカブツと戦った事を考えるとこんなもんかな?>
<そうですね。シドもこの程度の金額では驚かなくなりましたね。少し前は2万3000コール程度でアタフタしていたというのに>
<・・・そうだな。これも成長の一つと考えるか>
<はい、それではライトと合流しましょう>
<了解だ>
ライトと合流し、いいのが有ったか質問する。
「気に入ったのあったか?」
「はい。いや~色々目移りしちゃって困りましたけど、大体の目星は付きましたよ」
「そうか、予算はどれくらい見るべきかな?」
<報酬額から換算して800万コール如何に抑えるべきかと。弾薬の補充もしなければなりませんし>
「800万か、結構使うな・・・ま、補填とやらに期待するか」
「ほんとに800万以内で考えていいの?じゃーボクはこれが良いと思う」
ライトが選んだのは、スターレックインダストリー製の情報収集機で広範囲を把握でき、音波や振動・熱反射などを捉えることが出来、光学迷彩を含む幅広い迷彩機能に対応できるようになっていた。
操作方法は脳波を検知する、思考調整式が採用されており、簡易ではあるが生体改造を必要とする為かなり高額設定になっている。
「・・・・おい、これ・・・頭に送受信用の装置を埋め込むって書いてあるぞ?」
「そうだね。外部パーツじゃない分故障の心配が要らないみたいだよ。ナノマシンによる自動メンテナンスだって、生体部品だから拒絶反応の心配も少ないみたいだし。マッチテストをクリアしたら問題ないみたい」
「・・・頭に何か埋め込むって・・・お前勇気あるな・・・」
<全身を弄っているシドがいうセリフではありませんね>
<いやそうだけどさ・・・>
<しかし、この機器であればライトも私たちと念話に参加できます>
<それはいいな。一人だけ口頭会話って結構めんどくさいし>
「これ買ってもいいかな?」
「お前がいいならいいんじゃないか?店員に話を聞きに行こう」
ライトは店員を呼び、この情報収集機の説明を受けた。内容に問題が無い事を確認し、さっそくマッチテストを受ける。
10分後に結果が判明し、全ての項目で問題なしの判定を受け、装着手術を受ける運びとなった。
料金を支払い、ライトは手術着に着替え施術室の中に入って行く。
「じゃ、行ってくるね」
「お・・おう、いってらっしゃい・・・」
<なぜシドの方が緊張しているのですか?>
<しかたないだろ、頭開くんだぞ?>
<開く訳ではありません。極小の生体マイクロチップを脳に定着させる手術です。技術的に確立されており危険はほとんどありません>
<・・・でもなんか恐ろしい>
30分後、休眠カプセルに入った状態のライトが施術者と共に出てきた。
「で、どんな感じですか?」
シドはライトの施術が成功したのか気が気ではなかった。
「はい、問題なく終了しました。このまま生体マイクロチップが定着するまで安静にして頂きます」
「はい、わかりました」
・・・・・・・・
2時間後、ライトは休眠カプセルから出てくる。
「おはよ、どんな感じだ?」
「特になにも問題ないかな。後は本体と連携させてどうなるかってところだね」
そういい、ライトは情報収集機の本体を起動する。
するとライトの動きが止まり、一点に視線が固定された。
<・・・これ大丈夫なのか?>
<恐らく、初期設定が始まったのかと、数分で終わりますので心配はいりません>
<検査したり手術したり固まったり・・・情報収集機って大変だな>
<シドのコーディネイトはこれ以上の工程を踏んでいますよ?睡眠中に行っている為、活動に支障はきたしませんが>
<あ~、そうか。俺のコーディネイトってどれくらい終わってるんだ?>
<現在の進捗は89%です。急激な肉体の成長に合わせて調整しています>
<そんなに成長してるか?>
<本日の入浴中にでも確認してみてください>
<ふ~ん>
「終わったよシドさん」
「お、どんな感じだ?」
「今は視界にマップを表示させて認識してるって感じかな。慣れたらいろいろできそう」
<一旦宿に戻ってチューニングを行いましょう。私もお手伝いいたします>
「んじゃ、用事も終わったし、帰るか」
「そうだね。今日は宿でご飯食べられるかな」
「さあな」
シド達は防壁内での用事を終わらせ宿に帰って行った。
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