ラルフ 初モンスター戦
地下から何かがこちらに向かってくる。
正確な姿形はわからないが、中型クラスのモンスターの様だ。
地中を掘り進めながら向かって来ており、スピードそのものはそれほど速くは無い。無視したまま全力で走り抜ければ戦闘は避けられそうだが・・・・
「倒しとこうか。下手に追いかけられても面倒だし」
「そうだね。ミナギ都市は今バイオハザードで忙しいだろうから、余計なモンスターまで連れて行ったらまたキクチさんに怒られそう」
シドとライトは戦闘に前向きな様子だ。
「・・・それで、私はどうしたらいいんです?」
ラルフもこの1ヶ月、セントラルの訓練を受けある程度の戦闘は出来るようになっている。
だが、車に乗ったまま戦闘を行う訓練などはやってはいない。ここは大人しく2人の指示に従おうと声を掛ける。
「ん?ラルフか・・・・ナビシートから銃ぶっ放してたら良いんじゃないか?」
「そうだね・・・・あ、車の運転は出来ますよね?ボクは車上で戦うので運転お願いできますか?」
出来る事なら何もせず荷台で大人しくしていろという指示を期待していたのだが、2人は当然の様に戦闘に参加させるつもりのようだ。
「・・・・運転は出来ますが、私の運転でいいんですか?戦闘機動なんて出来ませんよ?たぶん・・・・」
「何もモンスターに突っ込んでいけって訳じゃありません。攻撃が当たらないように逃げ回ってくれればいいです。車載兵器やシールドの操作はボクがやりますから」
「・・・・・・そういう事でしたらやらせていただきます」
今回の戦闘はラルフがT6の運転をすることで決定した。
「じゃ、俺はバイクで・・・・・ってガタが来てたんだったな・・・・・・仕方ない、走るか・・・・」
シドの発言は普通なら頭がおかしいと思われるだろう。
だがシドの場合、本気で走ればバイクより速く走れてしまうのがなんとも言えない所だ。
「ボクは車上に出てようかな。運転よろしくお願いしますね」
ライトはそう言うと窓から車上へと上がって行ってしまった。シドもそれに続き、車の外へ出て行ってしまう。
「・・・・・・・・」
残されたラルフは運転席へと座りハンドルを握りしめる。
モンスターとの初戦闘。
バーチャルでは散々戦って来たとは言え、現実のモンスターとの戦闘はこれが初めてである。頑丈な荒野車の中に居るとは言え怖いものは怖い。
ラルフはハンドルを握る手が震えるのを感じた。
「私は残っていましょうか?」
そんなラルフにふよふよと近づいてきたイデアがそう声を掛ける。
「・・・・・・お願いします」
ラルフはスラムバレットの随行員となった事でイデアの事も教えてもらっている。
武蔵野皇国製のボディを三ツ星重工製のAIが動かしている、現状で確認されている最も高性能なオートマタであると。
始めは得体が知れないと警戒していたが、この1ヶ月でラルフもイデアに慣れて来た。
イデアも初戦闘を前に緊張しているラルフを気遣ってくれているのだろうと思うと有難くて仕方がない。
弱気になっていた心を奮い立たせ、来るなら来い!と前を睨み付けるのだった。
シド・ライト視点
「なんでハンドル握らせたんだ?お前なら遠隔操作で十分運転できるだろ?」
ライトがT6の操縦を対モンスター戦闘初心者であるラルフに任せたことを不思議そうに尋ねるシド。
「初戦闘は緊張でミスするものでしょ?だったらフォロー出来る状況で経験させた方が良いかなって思ってさ。座ってるだけだと戦ったって自信もつかないと思うし」
車の運転だけなら万が一の時はライトがフォロー出来る。
ここはファーレン遺跡の浅層ではなく、ミナギ都市周辺の荒野だ。
近づいて来るモンスターがシドとライトから見て雑魚であったとしても、ラルフからすれば十分以上に強敵のはずである。銃を撃って戦うより車を運転させた方がまだパニックにならないかと考えたのである。
「なるほどね、まあそれでいいよ。サクっと片付けてキクチの手伝いに行ってやるか」
「そうだね」
2人はモンスターが向かってくる方向に目を向ける。
シドは自前の感覚器で。ライトはEX80による索敵で相手の動きは完璧に補足できている。
モンスターは地中から真っすぐに向かってくるかと思われたが、途中で進行方向を上に変更し地上に出ようとしているようだった。
「ん?不意打ちするつもりじゃないみたいだな」
「そうだね・・・・・ラルフさん、モンスターが地上に出ようとしてるみた・・・・い・・・・・・」
ライトは地上に近づいて来るモンスターの様子が変化している事に気が付く。
ラルフ視点
ラルフはT6を運転しながら車に取り付けられたディスプレイに移るモンスターの影を確認する。
この情報はライトが使用している情報収集機から送られてきているらしくで、地中のモンスターの様子も正確に映し出していた。
『ラルフさんモンスターが地上に出ようとしてるみた・・・・い・・・・・・』
ライトから通信が入り再度モンスターの様子を確認すると、モンスターの反応が地上に近づくにつれて大きく膨らんでいく。
(・・・なんですか?この反応は?)
ラルフもある程度なら情報収集機の性質は知っている。
地中深くに潜伏していて小さく映っていたとかそういう反応の変化ではない。
(まさか・・・・!地上に近づくにつれて大きくなっている?!)
慌てて反応が示す方向に視線を向けると、視線を向けたと同時に地面を突き破り大型のモンスターが姿を現した。
そのモンスターは全身を金属で覆われており、頭部には大きく開かれた口が見える。
あの口で岩盤を嚙み砕いて進んでいたのだろう。
分類は蛇型かワーム型に見える。
胴体の表面には触手の様な物が生えておりそれらがウネウネと動いているのが遠目で確認できた。
その姿を見て、ラルフは絶句してしまう。
(・・・・対モンスターデビュー戦で大型モンスター・・・・?)
どう見ても初戦闘で相手にするモンスターでは無い。幾ら自分で銃を撃って戦う訳では無いとは言っても・・・・・
そして気付く。
ミナギ都市周辺に出現するモンスターのどれにも当てはまらない事を。
長年ミナギ都市のワーカーオフィスに勤めていたのだ。この辺りに出現するモンスターの情報など端末でいちいち調べなくても把握している。
そのラルフが知らないモンスターと言う事は、該当する案件は1つだけである。
(キクチーーーー!!!都市外に逃げられてんじゃねーーーかーーーー!!!!!)
モンスターは大口を開けてこちらに向かって突進してくる。
ここからラルフは、ありったけの呪詛をキクチに向かって念じながら車の運転をすることになるのだった。
シド・ライト視点
「おお~・・・・・また気持ち悪いのが出て来たな」
「ホントにね・・・・中型だと思ったのに、地上に出る前に巨大化したよ?」
<恐らくミナギ都市で発生しているモンスターの内の1体でしょう。この辺りに出没するモンスターのどれとも合致しません>
<それって地下を掘り進んで逃げて来たってことか?>
<そう考えられます。カウンターナノマシンを嫌がって逃走を計った個体かと>
<なら、キチンと処理しとかないとね>
<おう、戦闘開始だ>
まずは自分が一当て、とシドは電光石火を発動させ、足元に発生させたシールドを蹴る。
コチラに向かってくるモンスターまで一息で距離を詰めると、刀を引き抜き通りすがりながらの一閃を叩きこんだ。
尾佐舟刀工製の刃は、巨大蛇の装甲をモノともせずに切り裂き、内部にまで刀身を届かせる。
巨大蛇は切り裂かれた個所から体液をまき散らし、思わぬ激痛に体をくねらせる。
その様な隙を見逃すほどこのチームは甘くは無い。
装甲が切り裂かれた傷口に、ライトが追加の弾丸を放り込む。
ライトが手にしているハンター5から放たれた専用弾が傷口から体内に飛び込み爆発。
爆圧と高温の炎が体内を駆け巡り、逃げ道となっていた傷口と口から吹き出したのだった。




