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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
210/214

もう直ぐ到着

荒野を走りミナギ都市へと向かっていく3人と1体。


あと数時間も走ればミナギ都市の防壁が見えてくる所まで近づいていた。

「・・・・・随分長い間離れていた様な気がしますね」


あの逃亡劇から早1ヶ月。なにやら感慨深げにそう呟くラルフ。

「そんなに時間たってないだろ?」

「まだ1ヶ月程度だよ。懐かしむほど?」

ラルフの呟きを拾い突っ込みを入れるシドとライト。

彼らの言う通りそれほど時間が経っているわけでは無い。しかし、ラルフはスラムバレットの随行員として共に行動を共に出来るようにセントラルから集中訓練を受けていた。


栄養補給と僅かな睡眠時間以外ほぼ休憩なしで訓練を施され、今では一端のワーカーを名乗れるほどに鍛えられている。

幾らセントラルが施した強化改造があるとはいえ、たった1ヶ月でそこまで実力を上げるにはシドがダゴラ都市で行ったブートキャンプ以上の強度であったのは間違いない。逃げる事も出来ず、泣き言を言おうがお構いなしに進められるプログラムに心の体も壊れそうになることもあった。


だが、その度にメディカルルームに強制搬送され元の状態に復元されてしまう。

あの時ほどこの2人の担当に名乗りを上げた事を後悔したことは無かった。


ラルフからすると1ヶ月どころか半年以上缶詰にされたかのような体感時間を感じていた。


「その1ヶ月が濃厚過ぎたんです。何度血反吐をぶちまけた事か・・・・」

恨みがまし気にシドを睨むラルフ。

「それは仕方ないな。避けられないラルフが悪い」

訓練の後半、ラルフは近距離戦闘訓練という名目でシドと模擬戦を行った。

その度にボコボコにされ、カプセルに放り込まれてはまた訓練、と言う日々を送ることになったのだ。


ワーカー達から聞いた話では、過度な攻撃を綺麗に食らうと痛みを感じることも無く気絶してしまうという話は多くあった。

しかし、絶妙な手加減がなされたシドの拳はひたすらに苦痛を与えてくるのみ。

筋を痛め、骨を折り、時には内臓まで傷つくこともあった。


それでもなんだかんだと、この1ヶ月を乗り越えたラルフは立派と言えるだろう。


「・・・はぁ・・・・もういいです。ミナギ都市はどうなっていますかね?キクチは上手くやっているでしょうか?」

「どうだろうな?キクチなら問題ないと思うし、おっちゃんもいるから大丈夫だろ」

「イデア、その辺どうなの?何か聞いてない?」

「カウンターナノマシンを作成して送ったという情報以外は聞いていませんね。私もダーマの訓練とドンガの指導で忙しかったですし」

「この辺りなら通信も繋がるでしょう。私が問い合わせてみます。それと一段落ついたらもう少しハイレベルの通信契約を行う事をお勧めします。ランク50にもなって安価な短電波通信契約しかしていないとは思いませんでしたよ」

ラルフは使用の端末を取り出してキクチとの通信を試みながらそう苦言を呈する。

「いやだってさ・・・・ダゴラ都市にいたらあれで十分だったんだって。ラルフだって一般用だろ?」

「私は一般人ですので」

「通信環境の事までは考えてなかったよね」


この大陸では様々な通信手段がある。

都市周辺地域のみに対応した短電波通信や、都市間で通信が可能になる長距離電波通信。

大企業が使用する様な高速で大容量のデータをやりとりできる粒子通信などがある。

通信容量や距離などで様々なプランが存在するが、シドとライトが契約していたプランは短電波通信の一番安いプランであった。

元々スラム街の人間であり、長距離通信の必要性が無かったというのが理由である。


だが、今は都市間を横断するワーカーとなったのだからそれに相応しい通信環境を整備するべきだとラルフは言う。


「その辺りはラルフが考えてくれよ。俺達は良く分からないからさ」

「ええ、お任せください」


シドはラルフが随行員としてこのチームに同行する事が決まったと聞いてから、ラルフに対する言葉遣いを変えていた。

それ以前はオフィスの職員に対するモノだったが、随行員と言う事はこれからも一緒に行動していくことになる。

なら、もう仲間として扱うべきだと考えた。

ラルフは丁寧な言葉遣いが癖づいている為、それを改めるつもりは無い様だが、シドとライトはフランクに接する事に決めたのだ。

これについてはラルフも承諾している。

これから長い時を一緒に過ごしていく相手に畏まるのは堅苦しいという考えからだった。


「さてさて、キクチは上手くやっていますかね?」







キクチ視点


急ピッチで製造配備されたカウンターナノマシンの散布が開始された。


地下構造内に解き放たれた散布ロボット達が所狭しと走り回り、カウンターナノマシンを散布していく。

その間も地下に潜るワーカーや防衛隊たちは酸素マスクを着け戦闘を続けていた。


散布されたカウンターナノマシンは吸引してしまうと人体にも悪影響が示唆されている。

マスクを着用しても長時間地下で活動するのは難しい。


制限時間を設け、その時間内で少しずつでも駆除を続けていた。


「モンスターの出現量は減少しています。このまま続ければ事態の収束は時間の問題かと」

職員からの報告を聞きながらも険しい表情を崩さないキクチ。


確かにモンスターの出現量自体は減少している。

高温兵器が使用可能になりヤツ等の栄養源を根絶させているのも大きいだろう。

だが、モンスターの出現量の減少がやけに大きい事が引っかかる。


カウンター散布前は小型のモンスターがウジャウジャ出て来ていたというのに今ではその数も鳴りを潜めていた。


(・・・・・・・・・なぜここまで急に数が減った?カウンターの効果が出ているとは言っても数が減る要因にはならないはず・・・・)


「避難地区へのモンスターの侵入は確認されていないか?」

「はい、侵入された形跡はありません。念のために調査に入っているワーカーからもモンスターの発見報告は皆無です」

「わかった。有機物処理施設への侵入も無いな?」

「はい、問題ありません」


キクチは懸念事項を1つずつ潰していき、現状の確認を行っていく。

(あと懸念すべきはあの大型蛇位なものか・・・・)

まだ生死判定が出ていない大型モンスターの行方が分かっていない。


あれほどの大型モンスターが何処へ行ったのかと頭を悩ませるが、分からない事を考えても仕方がない。

調査だけは継続させ、今は地下構造内の駆除を重点的に行うべきだと考える。


(あの蛇もカウンターの効果で弱体化しているはずだ。次に出て来た時に確実に駆除すればいい)

そう考えていると、地下シェルターからこちらに向かっているラルフから通信が入る。


あの問題児2人のチームに随行員として同行する事になったラルフ。

地下シェルターで戦闘訓練を受けていたはずだが、この1ヶ月で訓練は終了したらしい。


あの2人と1体について行けるだけの実力にまで成長できたのだろうか?

ならば、過酷な1ヶ月を過ごしてきたのだろう、と考えながら通信を繋げる。

『どうも、お久しぶりですね。キクチ』

「ようラルフ。訓練はどうだった?」


この1ヶ月。

ひたすらにモンスター対策に明け暮れたキクチは、久しぶりの戦友との会話を軽口から始めることにした。

背もたれに体を預け、その表情はすこし笑みが浮かんでいる。

『酷いモノですよ。よくもあんな環境に置き去りにしてくれましたね?』

顔を顰めながらそう苦情を言ってくるラルフ。

「そういうなよ。俺もかなり苦労したんだぞ?」

ラルフの様子に苦笑いを浮かべながら返答するキクチだった。

キクチも僅かな睡眠時間以外、対モンスター対策の為に奮闘してきたのだ。漸く終わりが見えて来た今、キクチにも僅かなりとも余裕が見える。

『ええ、そうでしょうね。あなたが安穏としていたら迷わず銃弾をぶち込むところですよ』

以前なら言うはずのないセリフを吐くラルフ。その変化に笑いを深めてしまうキクチであった。

「ははは、大変だったみたいだな。それで、コッチに向かって来てるんだろ?手伝ってくれるって聞いたが?」

『ああ、セントラルですか。ええ、まだ駆除が終わっていないなら手伝うと言っていますよ。シドとライトが』

(シドとライト・・・ね)

ラルフの口調から彼らとの関係性も唯の担当から変化があったとみて間違いないな、と考えるキクチ。

「ああ、頼むよ・・・・まあ、これ以上のトラブルは勘弁して欲しい処だがな」

『後2時間くらいでそちらに着きます。合流した後彼らには地下に潜って貰って・・『ああ~、ラルフさん』』

ラルフが合流後の予定を話そうとした時ライトの声が話に割り込んできた。


『どうしました?』

『地下から何か来ます。たぶん戦闘になると思うんで気を付けてください』

『・・・・わかりました。キクチ、後でまた連絡します』

「・・・・・ああ、わかった。気を付けてな」



通信が切れ、何も移さなくなった端末に目を落としたままキクチは息を吐く。

ただの職員として出世の道を探っていたラルフが随分と逞しくなっている。

以前は同僚として。

そして今は同じスラムバレットに関わる戦友としてその変化は非常に頼もしいものとしてキクチは受け入れたのであった。


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― 新着の感想 ―
あんだけスラムバレットが来るのを注意してたのに、地下からの接近で察しなかった辺りにキクチの疲労度が窺えますね。
デカ蛇はシド達の方向に行っちゃったかな
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