動く2人
崩落があった場所を防衛隊と喜多野マテリアルの部隊で包囲し、モンスターがまた地上に現れないか警戒を続けている。
この数日で小型と中型の数体が地表に出て来ようとし、迎撃に成功したと報告を受けていた。
地下での戦闘は様相が様変わりしてきている。
以前までは中型クラスまで成長・膨張したモンスターが主流だったのだが、小型の中でもさらに小さいサイズのモンスターが群れを成して出現するようになってきていた。
狭い地下構造内では中型1体が襲い掛かって来るより、小型10体が襲ってくる方が迎撃は難しいらしく、中には通路を埋め尽くして襲い掛かって来た場合もあったようだ。
都市側にとっての朗報は、地下構造に張り巡らされていた可燃ガス供給パイプから全ての可燃ガスを抜くことに成功した点だろう。
今までは誘爆を恐れて爆発系や火炎放射器等を使用する事が出来なかったが、ライフラインの停止と引き換えに都市が地面から一気に吹き飛ぶ可能性を排除することが出来、広範囲に高温攻撃を行う事が可能になったのである。
そのお陰で地下上層部分での駆除が捗り、避難地区や第2防壁内への侵入は防止出来ている。
そして第一優先防衛地点である有機物処理施設への攻撃も完全にシャットアウトすることが出来、ある程度余裕をもって対応できる様になっている。
それと、セントラルから送られて来たカウンターナノマシンの有効性が確認された。
有効性を発揮するにはそれなりの量が必要になってくるが、変異ナノマシンの増殖を完全にストップさせてしまう効果だけでなく、肉体の修復スピードも著しく低下させる効果もあり、これが散布されれば事態収束は一気に早まることになるだろう。
ゴンダバヤシは直ぐにカウンターナノマシン増産の号令を発し、ドルファンド社内にあるナノマシン製造ライン全てを使って生産を開始している。
その連絡を受けたキクチはワーカー達に無理な戦闘を避けさせ戦力の低下を抑え、防衛重視の作戦を取ることにしたのだった。
「・・・ふ~・・・・取りあえずは落ち着いたか・・・・・・」
流石のキクチの顔にも疲労の跡が見える。
この3週間近く、ほとんど眠ることなく状況を把握し続け、対処を行ってきたのだ。
健康な体になったキクチでもキツイものがある。
少し仮眠でも取ろうかと考えていたキクチに、バークから通信が入る。
『キクチ代行。カウンターを地下全域に送り届ける手筈は整った。後はカウンターの有効用量が確保できるまで耐えるだけだ』
「そうですか!ありがとうございます」
バークからの連絡は、カウンターナノマシンを地下構造全てに送り届ける準備が整ったと言う事だ。
その方法は球体の自動ロボにナノマシンを詰め込み、地下構造内を移動しながら噴射すると言う方法だった。
この自動ロボは、第2防壁内での消毒薬散布用の機械なのだが、都市に配備されていた全てのロボットを掻き集め、地下構造内を隈なく駆け回るように再設定が行われていた。
『地下構造全てのマップを登録してある。カウンターの生産スピードにもよるだろうが、最短38時間で全てのエリアに散布できるはずだ』
「わかりました」
『ロボットはドルファンド本社に送った。カウンターが完成次第詰め込み作業が開始される・・・・・・もう暫くの間堪えてくれ』
「はい、最後まで気を抜く事はしません」
『・・・よろしく頼む』
モンスターへの大反撃の準備は着々と進んで行く。
ここで大きな問題が発生しなければ事態を収束させることが出来る。
(ミナギ都市を消し飛ばすなんて事には絶対させんぞ)
仮眠を中断したキクチは、目に強い力を湛え上がって来る複数の報告を同時に読み解いていく。
些細な見落としが取り返しのつかない事態に発展してしまう可能性も有るのだ。
今気になる事と言えば、先日地表に飛び出した蛇の様な大型モンスターの行方が分からない事だ。崩落に巻き込まれて地下に落ちて行ったと報告があるが、その後姿を見せていない。
死んでいるのなら問題無いが、今まで出現したモンスターの生命力や特性を考えれば生きていると考えるべきだろう。
あの付近は構造が脆くなっている為、地下に降りて調査する事も危険だ。
下であのモンスターを発見し、戦闘にでもなれば、今度はさらに大きな災害に発展する危険もある。詳しい調査はカウンターの散布が完了した後で行うしかない。
大型モンスターの動向が分からないことに一抹の不安を感じながらも、今の戦況は悪くない。
高温兵器を使用できるようになったお陰で、変異ナノマシンの増殖ペースを落とすことに成功しているのだろう。
なんとかこのまま抑え込まなければ・・・・・・
『キクチ。状況はどうだ?』
「・・・・セントラル?」
いきなり通信が繋がり、目の前に現れたのはセントラルの顔だった。
「今のところは順調だ。届いたカンターナノマシンの有効性は確認され、今量産体制を確立させている所だな。もう2・3日で散布を開始できると聞いている」
『そうか、それは良かった。今回の通信はあの2人がそちらに向かったという連絡だ』
「・・・・・・・ん?」
『シドとライトだ。ああ、ラルフもだな。私としては満足の行くレベルまで鍛えることは出来なかったが。まあ、最低レベルくらいには仕上げることが出来た』
「・・・え?あの2人を解放したの?」
うそ?今このタイミングで?
『今日の朝に出発した。3・4日でそっちに到着するはずだ。まだ駆除が終わっていないなら手伝うぞ と言付けを頼まれたのでな』
「・・・・・・はぁぁぁぁぁ?」
キクチは予定外の事態に何も言えなくなる。
『ではな、健闘を祈る』
超問題児がこちらに向かっている。
その連絡を入れたセントラルは通信を切ってしまう。
あの2人がミナギ都市に到着すれば確かに心強い戦力となるだろう。
だが、それ以上に何か面倒事を引き起こすのでは?という心配の方が大きい。
「・・・・・・・・・」
キクチはゴンダバヤシに連絡を取る。
「・・・・・・・・ゴンダバヤシ様。カウンターナノマシンの量産を急がせてください」
『・・おう、いきなりどうした?もちろん急がせているが・・・・』
「シドとライトがこちらに向かっています。出来る事なら明後日には散布を開始したいと考えております」
『・・・・あの2人がか?今?』
「はい、今日の朝に出発したようです」
『・・・・・進捗を確認して急がせるか・・・・・・あいつらが到着する前に変異ナノマシンの増殖だけでも止めておきたいな・・・・』
「はい、よろしくお願いします」
『わかった』
キクチは通信を切ると両手で顔を抑える。
(今じゃないんだよ!!!もうちょっと大人しくしててくれよ!!!)
何度も言うがあの2人が悪い訳ではない。
ただ少し、他の人よりトラブルに愛されているだけだ。
(神様は俺の事が嫌いですか?!)




