ゴンダバヤシ キレる
ゴンダバヤシ達が地下シェルターを出発し、荒野を走り抜けミナギ都市が見える所まで近づいていた。
全周が壁に覆われ、鉄壁の守りが敷かれているミナギ都市だったが、今では防壁内で多段モンスター発生の危険を抱えた酷く危険な防壁都市と化してしまっている。
ミナギ都市は3社の企業が管理する都市であったが、その筆頭企業であるドルファンドの失墜により他の2社が音頭をとって問題解決に向けての準備に奔走している。
そしてつい先ほど、暫定的にではあるが管理企業の代表となったアースネットの代表 バーク・ドゥエルから対象区域からの住民の避難が完了したとの連絡が入った。
「なかなか手際が良いな」
「そうですね、すぐにでも焼却作業に入れます」
「ああ、許可する」
ゴンダバヤシの許可が出るとほぼ時間を空けずに、防壁内から業火が立ち上るのが見えた。
対象区域内から生物が外に出ない様、外周部から一気に燃やし尽くす。
この方法がもっとも効率的にナノマシンの流出を抑えられると考えられた手法だった。
「あれで終わってくれれば簡単なんだがな・・・・」
「・・・・それは難しいと思います。ネズミ等の小動物は地下に隠れてしまう可能性が高いかと。感染源であるゲンハの肉片を燃やした後は地下構造体の調査を行う必要があるかと・・・・」
キクチは自分で言っておきながらその困難さに顔を顰める。
指定区域のみの調査であれば今回ゴンダバヤシが集めた兵隊達だけで短時間に終わらせることが出来る。
しかし、ミナギ都市レベルの地下構造体を隈なく調査するには兵隊達だけでは足りない。
彼等には地上部分を制圧してもらい、ミナギ都市の防衛隊とワーカー達を動員して調査に乗り出さなければならないだろう。
だがここで問題になるのがミナギ都市に滞在しているワーカーの質だった。
今のミナギ都市には、低ランクの割合が高くなってしまっている。理由はダゴラ都市が抱えるファーレン遺跡とキョウグチ地下街遺跡に対処する為、キクチ自身が高ランクワーカー達をダゴラ都市に招集してしまっている為だ。
ミナギ都市に高ランクワーカーが全くいないわけでは無いが、以前の1/5に減ってしまっている。
(クソ!完全に裏目に出た!!!)
あの時、ダゴラ都市に高ランクワーカーを招集するという判断は間違っていはいない。
急激に難易度が上昇したファーレン遺跡の対応や、強力なオートマタが徘徊している可能性があるキョウグチ地下街遺跡への調査には彼らの力が必要不可欠だったのだから。
まさかあの時の判断に首を絞められる事になろうとは、キクチには予測する事など出来る訳がない。
(どれくらいのペースでモンスター化するのかが不明だ。流石に本体と同じレベルのパワーや治癒能力を持っているとは思えないが・・・・)
今回のバイオハザードは、セントラルの予測でしかない。
実際にモンスター化した動物が発見されたわけではない為、サイズ、強さ、数。この全てが不明な状態だった。
全くの事前情報が無い生物災害に対応するなど無茶ぶりもいいところである。
せめて小動物サイズのまま、ただ凶暴化している程度の事であれば低ランクワーカーでも十分対応可能だ。
そうなる事を願うしかない。
(・・・・・・・いや、これはあの2人が持ち込んだ案件だ。最悪の遥か上を想定して動くべきだ)
しかし、キクチは今までの経験から、楽観する事無く最大限の警戒を持って事に当たることを決める。
下手に甘く見積もって、摂食進化型モンスターの大量発生など決して起こしてはならない。
(拍子抜けで終わればそれでいい・・・・・・・最悪の想定は・・・)
それは既に無数のモンスターが地下で発生しており、オリジナルばりの再生力を持ったモンスターが地下空洞を食い散らかしながら増殖していく事だった。
キクチは身震いをし、信じても居ない神に祈りたくなる。
「キクチ、お前はどう動くつもりだ?」
声の方を振り向けば、ゴンダバヤシがこちらに視線を向けている。
「・・・・まずはワーカー達を招集し、地下掃討戦の準備をさせます。その後はアースネットに地下構造のマップを公開してもらい、複数の場所から囲い込み殲滅作戦を取るのが最適かと。喜多野マテリアルの兵達は地上の制圧をお願いしたく。住民たちにも直ぐに情報は伝播するでしょう。その時に喜多野マテリアルの兵団が守っていると知れば、彼らの動揺も小さくて済みます」
「なるほどな。地下の作戦には参加し無くても良いのか?」
「地下はワーカー達と防衛隊に当たってもらうつもりです。その際に少々装備の提供をお願いします」
「・・・・高温兵器と防護服か。酸素マスクも必要になるな」
「はい、お願いできますか?」
「問題ない。なら兵団を都市に展開した後、俺達はドルファンドのドグソ野郎共の所に乗り込むことにする」
「承知いたしました。よろしくお願いします」
一通りの打ち合わせを終える頃、車の列は防壁にまでたどり着き都市内部へと走り込んで行った。
ミナギ都市の中に入ると、そこにはミナギ都市防衛隊が布陣しており隔離地区を封鎖していた。
ゴンダバヤシの指示の元、喜多野マテリアルの部隊は隔離地域の封鎖と周辺地区の治安維持に入る。
周辺地区の住民は避難が終わっていると連絡は入っているが、こういう場合避難指示に従わない者たちが一定数出てくるのが当たり前であった。
そういう者たちを発見した場合は、直ぐに避難を促し万が一指示に従わない場合は力ずくで収容する手筈になっている。
接触進化型モンスターが多発的に発生するという状況においては、当然の処置であろう。
ゴンダバヤシ達が乗る車は、そのまま走り抜け第2防壁門を超え、ミナギ都市の中心地へと入ってく。
防壁を超えると、そこにはアースネットとケミックス・アロイの私兵たちが展開しており、その中にバークとトウドウの姿もあった。
こちらの車を止め、ゴンダバヤシとキクチは車を降りる。
彼らの姿を認めたバークとトウドウは前に出てきて頭を下げて声を上げる。
「この度は誠に申し訳ありません」
「この都市の管理を預かる者として謝罪申し上げます」
ミナギ都市を管理している企業達は、喜多野マテリアルから管理を委託されているのである。
都市内での自治権を持ってはいるが、その統治に問題があった場合はその権限を剥奪され、企業自体が取り潰される可能性すらあった。
この2人が出てくるのも当然と言える。
「その事は後回しだ。この都市の状況は伝えた通り危険な状況である可能性が高い。まずはその件に対処する必要がある」
「「は!」」
「バーク・ドゥエル。この都市の地下構造の提示を要求する」
「はい、既に準備は整っております」
「そうか。では、このキクチ。ミナギ都市ワーカーオフィス統括代行と協議を行い、ミナギ都市地下の洗い出しを頼む。トウドウは俺と一緒にドルファンドへ向かってもらう。アイツ等の確保は終わっているな?」
「はい、彼らの拘束は終わっております・・・しかし、隔離作業の為ドルファンド本社の包囲が薄くなっています。急いだほうが良いかと」
「・・・・・わかった。デンベ、兵隊を3部隊こちらに回せ。今から向かう」
「承知しました」
「キクチ、地下の事は任せた」
「承知しました」
「よし、行くぞ」
ゴンダバヤシはそう采配を下すと、再度車に乗り込みドルファンド本社へと向かっていく。トウドウも自分の部隊を引き連れゴンダバヤシの後へと続いていった。
その場に残ったキクチは、バークの前に立ち自己紹介を行う。
「キクチと申します。ゴンダバヤシ様の命により、ミナギ都市ワーカーオフィス統括代行の任についております。今後の調整を行いたいのですが、如何しましょう?」
「アースネット代表 バーク・ドゥエルだ。調整を行うならワーカーオフィスが妥当だろう。私の部隊や防衛隊との連絡も取りやすいと考える」
「わかりました。では、直ぐに向かいましょう」
キクチはこの状況に対応する為、行動を開始する。
トウドウ視点
「まさか喜多野マテリアルの取締役と面を合わせることになるとはね・・・・」
いつも飄々としている彼でも、ゴンダバヤシの前では緊張を隠せなかった。
エリア管理企業の重役とはそれほどまでに重い役職なのである。都市管理企業の代表と言えど、そう簡単に会える人物ではない。
これが唯の視察であったのならもっと余裕を持って迎え入れることが出来たであろうが、今回は管理側の失態。
それもミナギ都市が消えるかもしれない程の大失態となればトウドウの顔も険しくなろうというものだ。
「・・・はぁ~・・・・まさか都市の一部を焼却しなければならない事態にまで発展するとは・・・・バーク殿の心中を察してしまうね」
バークが代表を務めるアースネットは3社の管理企業の中でもっとも古い歴史を誇る。
この都市がまだ開拓都市だった頃から、都市の発展に心血を注ぎ、建物を建て壁を築き、ミナギ都市の礎を築いてきたのだ。
彼が代表になる少し前から、この都市も歴史ではなく金をいかに効率的に稼ぐかが評価され、ドルファンドの台頭を許してしまっていた。
それだけでも憤慨は避けられなかったというのに、事もあろうにドルファンドは人身売買という大罪に手を染め、今ミナギ都市を存続の危機に叩き落としている。
バークからしたら、自分の手で罰を与えてやりたいと考えていても可笑しくはない。それでも、彼は住人の命を優先して事に当たっている。
ならば、自分はその意気を酌み、ドルファンドへ鉄槌が下るのを見届けるべきだと考えていた。
もうすぐドルファンド本社へと到着するという所で、トウドウが掌握している防衛隊の隊長から通信が入って来た。
「どうかしたのかな?」
トウドウが通信を繋ぐと、隊長は慌てた様子で捲し立てる。
『ワーカーの襲撃を受けギール・ロペスとその他取締役を奪還されました!ヤツ等は北門を目指して逃走中です!』
「ワーカーの襲撃?!どういう事ですか?!」
『ドルファンドと繋がりの深いワーカーが救出作戦に出たようです!薄くなった包囲を突かれ逃げられました!車に発信機を取り付けには成功しましたので追跡を開始しています!!』
高ランクワーカー達の中にはドルファンドと懇意にしている者たちが居るのは知っている。
彼らに隙を突かれれば、防衛隊と言えど突破を許す可能性は考えられた。
だからトウドウは都市中に噂を撒き、この様な事が起こらない様に手を尽くしたのだが・・・
(クソ!大罪を犯した連中に手を貸すワーカーが出てくるとは思わなかった!・・・・まさか、そのワーカーも人身売買に関わっていたのか・・・?)
だが、その事を今考えていても仕方がない。人手が足りず、包囲が薄くなっている今、ギール達に第1防壁を超えられてしまえば追う事は難しくなってしまう。
(・・・・・仕方がない。こういう時は素直に報告するに限る!)
トウドウは通信機を手にしゴンダバヤシの車に通信を飛ばした。
ゴンダバヤシ視点
もう少しでドルファンド本社へ着くかという所で、デンベが異変を感知する。
「ゴンダバヤシ様、なにやら様子がおかしいです」
「ん?どうした?」
「向かっている先で部隊が妙に慌てている様で、部隊の1部が北方に向けて移動を開始しています」
「・・・・・・・」
まだ視界にすら入っていない場所の様子が何故わかるのだろうか?
と考えなくもないが、デンベの存在自体が不思議存在の為、ゴンダバヤシはその事については何も聞かない。
部隊とはドルファンドを包囲している防衛隊たちの事なのだろう。彼らが慌ただしくなる理由として考えられるのは、モンスターの出現か、確保していた者たちが逃げ出したかのどちらしかない。
嫌な予感に眉を顰めた時、トウドウから通信が入り予感が確信へと分かった。
『申し訳ありません。ワーカーの襲撃を受けてギール・ロペスを含む取締役達に逃げられたようです!今防衛隊が追跡していますが追いつけるかどうか・・・!!』
その言葉を聞いた瞬間。ゴンダバヤシは今の今まで抑えていた怒りが爆発する。
「デンベ!!!」
「は!」
「俺の護衛を連れて全員捕まえてこい!!」
「・・・それでは御身が危うくなりますが」
「これだけ兵に囲まれてたら問題ない!必ず捕まえろ!」
「・・・・・承知しました」
「いいか、殺すなよ?全員生きたまま俺の前に連れてこい」
「承知しました」
デンベはゴンダバヤシに頭を下げると、地下シェルターで行動を共にしていた部下たちと共に姿を消す。
「ふざけやがって・・・・!!!!楽に死ねると思うな!!!!!!」
これだけの事を引き起こし、責任も取らずに逃亡しようとするギールを筆頭としたドルファンドの幹部達に怒りを向けるゴンダバヤシであった。




