少年シド
2話目です。
今日はもう1話投稿します。
ダゴラ都市
ファーレン遺跡の攻略前線基地として多くの企業とワーカー達が拠点として滞在し、それらを相手に商売を目論む商売人達が集まって出来た街であった。
遺跡から発掘される遺物やシステムデータが多く売り買いされ多大な金を生み出し続けた結果、大陸の南側で有数の都市へと成長を遂げる。
2重の防壁で囲まれており、1層目の防壁内が一般階層の住民が住む第二区画、2層目の防壁内が上級階層の住民が住む第一区画、中心部にあるビル群に都市の支配階層が住む運営区で構成されている。
防壁には東西南北に門が設置されており、資格を有する者か上位の者から許可を得た者しか通ることはできない。
この都市では、経済力が全てであり法を犯さない限りは金を持つ者、金を動かす者こそが上位者として君臨する。
その為、遺跡から価値のある遺物を見つけ持ち帰って来るワーカー達は貴重な都市の収入源、かつ労働力として優遇されており、遺跡から見つかった遺物やシステムデータを解析しその成果を中央部に送る事で中央からの評価も高く人類支配地域の中でも比較的重要度が高い都市として評価を受けている。
金がある所には人が集まる。
人が多くなればその分チャンスも増えていく。そのチャンスを掴み大成するものも居ればそこそこで落ち着く者もいる、失敗し奈落へ落ちる者もいる。
そして、ろくなチャンスすら与えられず居ない者として扱われる者たちも存在する。
そんな者たちが暮らすのは防壁の外、便宜上第三区画と呼ばれる所謂スラムに住む者たちの事である。
防壁内に暮らす者たちが当然として受けられる権利は無く、治安維持の為の組織も存在しない。水道や電気などのライフラインは料金を払えば提供されるが、支払いが滞れば猶予期間などなく即時ストップされてしまう。
都市から見れば居なくてもいい、居てくれれば偶に襲ってくるモンスターの弾避けになり適度に自動反撃してくれる便利な肉壁、強力なモンスターが来れば防衛隊が展開するまでの餌であり一緒に吹き飛ばしても問題ない存在として扱われる。
そんな安全?なにそれおいしいの?状態のスラムでも完全な無法地帯と言う訳でもない。人が暮らすには衣食住が要る、衣食住を得るには仕事が要る、仕事を成り立たせるには契約が要る、契約を守らせるには秩序が必要になる。
そのスラムの秩序を守る為に集団を作り各々が自分たちのエリアの秩序を担当している。
その集団が組織として纏まり外敵から身を守る為に団結していた。
その組織の一つが運営するジャンク屋に一人の少年が入って来る。
「いらっしゃ・・・・なんだギド、えれ~男前になってんじゃねーか」
「シドだ耄碌爺。いい加減名前くらい覚えろよ」
それはファーレン遺跡の外周部で屑鉄拾いをしていた少年だった。
「あ~シドだったか、んで?なんでそんな恰好してんだ?」
「仕事中にハンターとモンスターに襲われたんだよ」
「お前良く生きてたな。しかしなんでそんな事になるんだ?遺跡の中まで入ったのか?」
「実際死ぬ一歩手前だったっての・・・遺跡の外周部までハンターがモンスターを連れてきやがったんだよ」
シドは遺跡で起こったことを話した。熊の様なモンスターに追われたハンターの事。そのハンターに殺されかけた事。そのハンターがモンスターに殺されそうになり、自分も食われる前に銃で撃ちまくった事。なぜかいきなりモンスターが爆発して自分は助かった事を全て店主に話した。
「がはははは!そりゃ災難だったな。んで?その死にかけた成果がその大荷物か?」
シドは自分が運んできた荷物に目を向ける。そこには拾った鉄くずでは無くハンター達の装備とモンスターに生えていた砲身が1つあった。
「ハンター4人分の装備と熊モンスターに付いてた大砲だよ。これならいつものガラクタよりも値がつくだろ?」
あの後シドは死んだハンターの銃とマガジン等の使えそうな装備を剥ぎ取って帰路についたのだが、その途中で3人のハンターの死体と2体のモンスターの死体を見つけていた。3人の装備も剥ぎ取り、モンスターから取れて転がっていた砲身を1つ持って帰って来たのだった。
「苦労したんだぞ?重いし嵩張るし持ちにくいし・・・で?幾らになる???」
少し・・いやかなり期待して本日の成果を聞く。
対モンスター用の武器は高い。どれくらい高いかというと第二区画の住人が「よっしゃ自衛用に買っとくか!」なんて考えないくらいには高い。スラムの屑鉄拾いの子供が10年働いても手が届かないくらい高い。
それがハンター崩れが持っていた武器だとしてもだ。
故に期待に胸が大きく膨らむ、目も、ついでに鼻も。
「・・・おめぇ、バックパックはどうした?」店主が目を細めてそう聞く。
「・・・・・・・・モンスターと一緒に吹っ飛んだよ・・・・・」気まずそうにそう言うシド。バックパックは借り物だった。
シドの目と鼻はしぼんだ。
だが胸はしぼまない。4人分の装備、ボロボロのバックパック程度、屁でもないはず!
「・・・はぁ~~、まぁ しゃーない、おら見せてみろ、査定してやる」
シドは店主に荷物を渡す。店主は荷物をカウンターの上に広げ一つ一つ吟味していく。
待ち時間の間、シドは齧り付きでその様子を見守った。やがて全ての品の吟味を終わらせた店主は
「ま、全部で2万5000コールってとこだな」
「やった~!過去最高収入だ!って言うとでも思ってんのか!!!ふざけんなよ!モンスターにも通用する銃4丁と汚れてるとは言え4人分の防護服!モンスターの大砲1門と後マガジンも5~6個あっただろうが!!!!バックパックの弁償引いてももっと高くないとおかしいだろう!」
「ドアホ。これは荒野用の銃で対モンスター用の銃じゃねー。それにどれも銃身が曲がってたり亀裂が入ってたりしてんだよ。それにこれおめーが撃ちまくった銃だろ?手入れもしてねー状態でフルバーストで乱射してる、銃身が焼きついてて使い物にならねーんだよ。マガジンも中身はほぼ空だ。防護服なんぞズタボロでどうしろってんだよ」
「う・・・うぉ・・・・・」あまりの事に言葉が出ないシド。
「ぇ・・・・ぁ・・・・・た、大砲はどうなんだよ!モンスターの体も結構な金になるって聞いたぞ!!」
「防壁内の企業やワーカーオフィスに持ち込みゃ~な、スラムのジャンク屋に持ってきたら鉄屑の値段にしかならん」
あまりの事に言葉が出ない。丸一日歩き回り、九死に一生を経て持ち帰った成果がたかが2万5000コール、シドは勘違いしているが、彼らはランク10にもなれない、所謂ワーカーモドキと言われている者たちだった。
その装備がそれほど高額なる訳がない。
しかし、スラムの子供からすれば大金だ。
贅沢しても10日は十分に食べていける。だがしかし、想像していた価値とは程遠い査定結果を聞いては納得がいかない。
「いや・・・・でもさ、修理すればまた使えるんだろ?」
諦めきれずに店主に問うと 「まあな」と返事が返ってくる。
「じゃー修理すれば!」
「おめえが修理するのか?パーツ幾らすると思ってる?ていうか銃の構造すら分からねーのにどうするつもりだ?」
「んぐ・・・・・」
「あきらめな、なんならこのまま持って帰るか?使えねーけどな、使えたとしても弾薬がなけりゃただの鉄の塊だぞ?」
「・・・・・・・わかった。その値段でいい・・・・」
シドはガックリと肩を落とし溜息を吐いた。
「ちゃんとした値段だったとしても、そんな大金持ち歩いてみろ。1時間もしねーうちに身包み剝がされてあの世行きだろうが」
そうなのである。ここはスラム、防壁の内側ではない。最低限の秩序があるとは言え、それはどこまで行っても最低限なのだ。ガキが一人殺されたところで誰も気にしない。ここはそういう場所なのだ。2万5000コールでも危ない。
「ほれ、パクられんなよ。あぁ それとこれも持ってけ。値が付かん」
店主は金と手の平に収まるくらいのサイズの四角い物体を渡してきた。
「なんだこれ?」
「防護服のポーチに入ってた。あいつらが遺跡から持って帰ってきたモンだろう」
「遺物か?ならなんで値がつかないんだ?」
「これが何なのか解らんからだ。金属でも無さそうだしな、ウチじゃー査定もできん。ほれ用が済んだらとっとと帰れ、こっちにも仕事があるんだからな」
シドはジャンク屋を後にし、自分の寝床に帰った。
帰宅途中にある食料店で買い込んだ食料でさっさと食事を済ませ布団替わりのマットレスの上に寝転んだ。
(過去一濃い一日だったな。まさか殺されかけて銃ぶっ放してモンスター殺して・・・)
今日一日の事を思い出しよく生きて帰ったものだと思う。
(あの装備、もっと金になると思ったんだけどな~、まあ爺のいう通りそんな大金持ってたらおちおち出歩けないんだけどな・・・・・はぁ)
軽くため息を吐きながら寝返りを打つ。
「イテッ」
ズボンの中に何か入っている、手を入れて中のものを取り出すとそれはジャンク屋から返却された物体だった。
「なんなんだろこれ?」
うっすらと青い灰色で質感はセラミックに近いが重さはほとんど感じない。
クルクルと回しながら見てみるが蓋のようなものは無く何かを差し込むような穴もない。
「こんな訳わかんないモン持っててもな~・・・」
特に興味を惹かれるわけでもなく何の変哲もない四角い箱のようなもの、眺めていても仕方ないと自作のガタついたテーブルの上に放り投げ目を閉じる。
散々歩き回った上に殺し合いまで経験したのだ、もう寝てしばらくは体を休めよう、少しの間なら働かなくても食っていけるだけの金なら手に入れた。
疲労のピークに達した身体は急速に眠りに落ちていった。
テーブルの上、治療のために血を拭った布の上に落ちた箱が表面に回路の様な模様を浮かべ目まぐるしく模様を変えているのに気づかないまま。
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