ダゴラ都市 防衛戦
シド達が東門の自由市にたどり着いた時、商人たちは撤収準備を始めていた。
ワーカーオフィスからの緊急連絡が行き渡り、危険な都市から撤退の判断を下したと言う事なのだろう。
ミスカ達のトラックまでたどり着いた時、ミスカ達も撤収作業を終わらせ後は逃げるだけの状態になっていた。
「ミスカさん!」
「シド!悪いけどウチらは逃げさせてもらうで!」
「はい!その前に弾薬を売ってもらえませんか?!今日、結構使ってしまって!」
「!!・・・わかった、入ってき!!」
そういい、ミスカはトラック後部の入り口を開く。二人はトラックに駆け込んだ。
中で待っていたのはガンスだった。
「はいよ、お前らの銃の弾薬や。MK用の弾薬3種とシドのAPC用の弾薬やな。量はこんなもんで十分やろ」
「はい、ありがとうございます」
シドはライセンスを出し決済を行う。
「まいどあり・・・ちゃんと生き残るんやぞ。最悪逃げたらええんや。生き残ってなんぼなんやさかいな」
「はい、またダゴラ都市に来られた時はお世話になります」
「おう、期待してるで!」
ビーーーーーっと情報端末から警告音が鳴り緊急アラートが発生した事を伝える。
「シドさん!モンスターがこっちに向かって来てる!!!」
「!!!わかった!!!ガンスさん達もお元気で!!」
「おう!死ぬなよ!」
そういい、シド達はトラックから駆け出していく。それを見送り、ガンスはトラックの扉を閉めミスカの元に向かった。
「・・・あの二人は行ったんやな・・・」
「おう、俺たちもとっととズラかるぞ」
「・・・・・そうやな」
ミスカはトラックを発進させ、東を目指す。
「・・・・・・」
「大丈夫やって。見た目はガキやけど、あいつ等やったら生き残れるだけの力は持っとるはずや」
「そうやな。東の方であの二人に合いそうな装備たんまり仕入れてきたろ!元手の遺物もたんまりなんやさかい!」
「そりゃいいな!俺も気合いれて選んだるわ!」
こうして、二人は荒野を東へと進んでいく。
モンスターの到着予想地点に向かいながら二人での予定を確認する。
「とりあえず防衛線でモンスターを食い止める。最初は二人一緒に攻撃して、モンスターが近寄ってきたら俺は近距離戦闘に切り替える。ライトは距離を取りながら俺に向かって来そうな敵を攻撃してくれ」
「わかった。でもそれじゃー他のワーカー達からも撃たれるんじゃない?」
「避けるからいい」
さらっと人外なセリフを吐くシド。
「・・・わかった」
「防衛線が突破されると判断したら各々で撤退。防壁の近くまで行けば防衛隊の攻撃に巻き込まれる可能性は低くなるからな。こんな感じでいいか?」
「了解。連絡は密に取ろう。情報端末のスピーカーはMaxにしておいてよ?」
「近距離戦に切り替えるときはそうするよ」
<大丈夫です。ライトとの会話は私を経由して直接シドに伝えますので、これで聞き漏らす事はありません>
<ああ、頼む>
<はい、サポートはお任せください>
目的地に到着すると、そこには防壁内に住んでいるワーカー達も出てきており防衛線を構築していた。
近くにはワーカーオフィスの職員が指揮を執っており、ワーカー達を采配していた。
その職員は二人に目を向け、指示をだそうとするが言葉が止まる。
それは二人の年齢と装備だった。
高く見積もっても10代半ば、常識的に考えればスラム街の住人だが、装備はしっかりとしたものを持っていた。
しかし、よく見るとかなりのキワモノ装備であることがわかる。
一人はMKライフルの2丁持ちで、バックパックと情報収集機対応のバイザーを付けている。防護服の質もいいものだろう。戦闘にも積極的に参加するシーカーと言われれば納得できる装備だった。
問題はもう一人、防護服とバックパックは同じものだが所持している武器に問題がある。
超キワモノ武器として有名なKARASAWA A60を2丁、剣を二振り、そして背にはスナイパーライフルを装備しているのだ。
戦闘スタイルとして、近距離向けなのか遠距離向けなのかはっきりしろと言いたくなるような装備を持つ子供に、どう指示を出したらいいのか迷う。
「・・・ええっと、お前たちはどこに配属されたい?」
普通はこんな事は聞かない。ここに行けと指令を出すのが一般的だ。だが、シドの装備がここに行けと言う根拠を霧散させてしまう。
「俺は、最初は遠距離攻撃に参加して、モンスターが近づいてきたら近距離で戦おうと考えてきました」
「ボクは終始モンスターから1kmほど離れたところから攻撃しようと思います」
二人はそう自分の考えを職員に伝えた。
「・・・・・・・・ならここから少し西にいったあそこの建物の上だ。予測進路から300m程度離れてるからどちらにも対応できるだろう」
「「わかりました。ありがとうございます」」
二人は言われた場所に移動しようとする。
「おい、ちゃんと常時討伐依頼は受けておけよ。じゃないと散々戦って無報酬って事になるからな」
と、職員がアドバイスを送ってくれる。
「はい、わかりました」
シドは返事を返し、今度こそ指定された建物に向かった。
言われた場所に到着し、バックパックを降ろす。
給弾用カートリッジをバックパックから取り外し、腰の辺りに取り付ける。これで嵩張るバックパックを降ろしていても残弾数を気にする必要はない。
シドは背中のスナイパーライフルを手に持ち、マガジンに弾が入っているかを確認する。
<しかしシド、しっかりフラグを回収しましたね>
<なんのことだ?>
<それを使う状況です。荒野の向こうからモンスターが駆けてくる。この状況にピッタリです>
<いやあれはこんなつもりで言ったんじゃないんだって!>
イデアに茶々を入れられながらも、シドは準備を終わらせ、ライトの方を見るとこちらも準備を終わらせていた。
「ていうか、ワーカーじゃないライトが来る必要なかったんじゃないか?」
「それはそうなんだけどさ。どの道、この防衛線が突破されたらボクも防衛隊に吹っ飛ばされるんだよ?出来ることはしたいじゃないか」
「なるほどな。お互い頑張ろうぜ」
「うん。ちゃんと常時討伐依頼受けておいてよ?頑張って報酬0とかいやだからね」
「分かってるよ。ちゃんと受けました」
「ボクの討伐分はシドさんに回すように情報収集機からデータ送っておくからね」
「これが終わったら俺もランク10になれるかもな。そうなったらいよいよ壁越えワーカーだ!」
シドはそういい、気合を入れていく。
ライトはそもそもシドのランクがまだ一桁なのがおかしいと考えている為、少々気の抜けた返事を返した。
「そうなったらいいね。そうすりゃボクもシドさんの紹介でワーカー登録できるからさ」
「おう、気合いれてこうぜ!」
しばらく待機していると、モンスターの動向が知らされてくる。
『後5分で都市防衛隊の遠距離攻撃範囲に入る。各自戦闘準備を整え待機。各自の射程距離に収めた者から攻撃を開始せよ』
「・・・一応防衛隊も攻撃に参加するんだな」
「流石に至近距離に来るまで何もしませんって訳にはいかないんじゃない?」
「スタンピードか・・・どれくらいの量がくるんだろうな?」
「想像できないね。話だけなら遺跡のモンスター全部吐き出されたんじゃないかってくらいの量だって聞いたけど・・・」
「それが嵩増しされた話であることを祈るよ・・・」
すると、遠くの方に小さくモンスターが見え始める。ついに来たか!と二人は緊張を高めるが、段々と近づいてくるにつれてモンスターの姿がはっきり見えるようになってきた。
今まで二人が見た事が無い種類も多く含まれており、先陣は生物系モンスターが多く走ってきている様だった。それに続く様に機械系モンスター達も続々と現れており。荒野を埋め尽くすと言わんばかりの量だった。
「まじか~・・・」
「・・・これ・・・ほんとに迎撃できるの?」
先程の聞いた話に一切の誇張が無かった事に二人は唖然とする。
『防衛隊の遠距離攻撃開始。各自戦闘開始』
その通信と共に、防壁から大量のミサイルが飛翔していった。ものの数秒でモンスターまでたどり着き、その威力を解放する。
轟音と爆炎・衝撃波をまき散らし、周囲のモンスターを吹き飛ばした。まばらに着弾したミサイルだが、一度の攻撃で向かってくるモンスターの4割を削っていた。
「すっげ~~・・・」
「これ、全部防衛隊だけでいいんじゃないの?」
だが、モンスターは続々と遺跡からやって来る。さらに近づいてきた先頭集団に向かって防壁に設置してある大型レーザーキャノンが発射された。
射線上のモンスターを全て焼き払い、着弾地点で大きく爆発する。遅れてこちらまで爆風が届いてきた。
それでも被害を免れたモンスターはこちらに向かってくる。なるほど、ワーカー達が相手にするのは防衛隊の撃ち漏らしかと考えていると、そろそろシドの射程にモンスターが入る。
初めてモンスターに使用するスナイパーライフルを構え、シドは意識を集中させた。
<シド、視界に弾道を表示します。モンスターの弱点部位に合わせて発射してください>
<わかった。サポートありがとさん>
脳内でイデアと会話し、シドは引き金を引いた。高速で飛んでいく弾丸は狙い違わずモンスターに着弾する。弱点部位を破壊されたモンスターは転倒し後方のモンスターに踏みつぶされる。
(焼け石に水ってこういう事なんだろうか?)
シドはそう思いながらも次々に撃破していった。
その様子をライトは情報収集機から送られてくるデータで観察していた。
(この距離で全弾命中・・・すごいって表現を通り越してる。シドさんはただの身体拡張者って訳じゃないね・・・才能とかそういうものとは別次元の何かがある・・・)
これが歴戦のハンターなら納得できる。が、シドはこの数カ月前までスラムで鉄屑拾いをしていたのだ。
そんな短時間でここまでの技量を得るのは本来不可能なはずである。
だが、実際シドはその不可能な現象を引き起こしている。何か現文明では再現できない物の力を使っているとライトは考えた。
(シドさんは隔世遺伝者?いや、何か遺物の力を使っているのかもしれない。そう考えれば身体拡張者としても異常な身体能力も説明がつくかな?)
ライトはほぼ正解にまでたどり着く。
(これは、落ち着いたらシドさんに聞いてみようかな。答えてくれたらうれしいけど)
「おいライトそろそろ先頭がお前の射程にはいるぞ。準備しとけよ」
「あ、そうだね」
ライトは一旦考えるのを止め銃を構える。
「これだけいるなら適当に撃っても当たるだろうけど、しっかり狙えよ」
「当然だよ。実践に勝る訓練は無し だもんね」
「そういうこった」
お互いに笑い、モンスターに銃撃を行う。
ライトは銃を両手に持ち同時に撃ち込んでいく。銃と情報収集機をリンクさせ、バイザーに射線を表示し手あたり次第に攻撃していった。
シドの様に一撃で討伐とはいかないが、確実にモンスターにダメージを与え討伐していく。
長射程の銃を持たないワーカー達も攻撃に加わり始め、戦場には弾幕の嵐が吹き荒れた。
それでもモンスターはその強靭な肉体と生命力で弾幕を突破してくる。
戦線が600mを切り、シドはスナイパーライフルを背中に収め、A60を抜いた。
メーカーの夢と浪漫を詰め込まれ、旧文明製に匹敵する銃が火を噴く。
銃の持つ連射機能と小型拡張マガジンの性能をフルに使用し射出された弾丸は確実にモンスターの命を吹き飛ばしていく。
欠陥品扱いを受ける強力な反動を完全に抑え込み、マガジン内の弾丸全て持っていけと、シドはモンスターを狙い続けた。
ライトは全身に降りかかる銃撃の反動による負荷を回復薬で誤魔化しながら攻撃していた。
モンスターは真っすぐに都市を狙い。こちらは進行方向から少しズレている為モンスターからの攻撃は散発的だった。バイザーに表示される敵の弾道を認識し避けながら反撃を行う。油断は出来ないが緊張に押しつぶされる事もなく、落ち着いて攻撃を加えることが出来ていた。
「なんとかなりそうかな?」
「そうだな、このままなら弾切れ前には全滅させられそうだ」
戦闘開始から1時間、後方からのモンスターが途切れ今見えているモンスターで打ち止めの様だった。
だが、まだまだ夥しい量のモンスターがこちらに向かって来ている。
二人は会話をしながらも、手を休めることなく打ち続けていた。
「あ、弾切れ」
ライトは一旦銃撃を止め手早くマガジンを交換する。
「ライトはマガジンを交換する時いちいち手を止めないとダメなのが良くないよな。近距離戦だと危ないぞ」
「シドさんの曲芸紛いの再装填は真似できないでしょ」
シドは、空になったマガジンを銃に着けたまま補助アームに持たせ取り外し、弾丸の入ったマガジンがカートリッジから射出され、それを手で持たず銃を振って装填するという方法を取っていた。
昔、組織の構成員に器用な者がおり、そうやって遊んでいたのを目撃したことが有った。
やってみると手間が少なく、銃撃を止める時間も少ないためこの方法での再装填を行っていた。
時間圧縮ができるシドならそう難しい技でもない。
「そんなことねーよ。俺だって結構練習したんだぞ。お前も試してみたらいいじゃないか」
「この戦闘が終わったら考えてみるよ」
「そうしろ・・・ん?おい、あの辺りのモンスターこっちに向かって来てないか?」
「・・・そうだね。大型種や機械系もまじってる・・・」
後方のモンスターの一部が群れから離れ、シド達が居る建物の方向に向かって来ていた。
「ん~、俺は前に出て迎撃するか。ライト、援護よろしくな」
「そういう予定だったもんね。了解。気を付けて」
「俺に当てんなよ?」
「ちゃんと避けてよ?」
二人して軽口を言い合う。
シドは最初からモンスター達に接近戦で戦ってきた慣れから、ライトは初戦で50匹近いモンスターの群れの中を駆け回った経験から、これくらいならなんとかなる。そう思って行動する。
ライトは射程に入ったモンスターを攻撃し、シドは建物から飛び降りる。
ライトは上からモンスターを俯瞰し、横に広がって行きそうな個体を優先して射撃した。
周りに配置されていたワーカー達もこちらに向かってくるモンスターに気づき攻撃に加わり、モンスターを削っていった。
しかし、後方のモンスターだった為か、機械系のモンスターが多く、その装甲に生半可な火力では弾かれてしまう。主戦力から外されていたこの辺りのワーカー達の銃では機械系モンスターを倒すには時間が掛かった。
ついに距離が600mを切り、2丁の銃を持つシドも攻撃に加わる。
選んだ弾種はPN弾頭、貫通に特化し硬装甲を貫通させ内部にダメージを与えられる弾頭だった。
シドの放ったPN弾頭は確実に機械系モンスターの装甲を貫き、内部機構をズタズタに破壊した。
加速度的にモンスターの数は減っているが、何分量が多い上にモンスターも反撃してくる。
今までこちらに向かって飛んで来る攻撃は少なかったが、モンスターの銃器がこちらを向き一斉に発砲してきた。シドは飛んで来る弾丸を躱し、瓦礫を盾にする事で攻撃をやり過ごす。限界まで圧縮された時間の中でモンスターを狙い、確実に倒せるポイントに銃弾を撃ちこんでいった。
ライトの方では、情報収集機の設定を細かく調整し、相手の射線をバイザーに表示させ、そこから上手く退避することによって被弾を免れる。
再装填の際は物陰に隠れ攻撃をやり過ごしていた。回復薬の効果が切れかかり、急いで追加の回復薬を口に含む、本来なら万が一の為の取って置きといった価格の回復薬を湯水のごとく消費して戦い続ける。
ライトの持つ銃と弾丸では機械系モンスターを一撃で仕留めることは出来ない。故にライトはモンスターの行動力・もしくは攻撃力を削ることに集中した。
機銃部分を破壊し、銃器を保持するアームを吹き飛ばし、足の関節をへし折った。
ワーカーになりたての新人が行えることではないのだが、対人訓練と称し、シドと撃ちあうことを考えれば随分と当てやすい。相手は弾丸を視認してから避けるという理不尽な存在ではないのだから。
ライトは、キル判定は取れずとも、確実にモンスターの戦力を削っていった。
そしてこの群れのボス格と言える大型の機械系モンスターが接近してくる。
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