ゲンハ やっと討伐
完全にモンスターと化したゲンハを追いかけ、道に飛び出すと無人のバイクが走って来るのが見えた。
ライトがこの都市から脱出する際、置いて行ってくれたバイクをイデアが操作しここまで走らせたのだろう。
<この距離なら走った方が速いぞ?>
<移動手段では無く攻撃手段です。今のゲンハであればS200や双刀よりガトリングの方が有効かと>
<なるほどね>
甲高い走行音を立てながら高速で走って来るバイク。
シドはその速度に合わせて走り出し、隣に来たタイミングで飛び乗った。
「おっし!!今度こそとどめ刺してやんよ!!!」
バイクのハンドルを握りしめ、全速力でゲンハを追いかけるシドであった。
防衛隊視点
ミナギ都市管理企業であるドルファンドから、第1防壁内で賞金首に設定されたワーカーが暴れていると通報があり、出撃命令が出された。
たった1人のワーカーに防衛隊に出動命令が出されるのは異例と言っていい。
しかし、命令を受けたのなら出動し無い訳にも行かないと部下たちを引き連れて出撃した。
市街戦になるだろうから、炸裂系の武器は控え、連射力の高い実弾銃を装備し現場に急行していたのだが・・・
この兵装の選択は間違いであったと今は感じている。
もうすぐ現場に辿り着くかといったタイミングで、建物の壁を突き破り、見た事も無いモンスターが襲い掛かって来たのだ。
索敵機に不自然な反応がこちらに向かっているとの報告が有ったため警戒は怠っておらず、直ぐに反撃を開始したが、幾ら弾丸を撃ち込んでも怯むことなく高速で突っ込んでくる。
そのモンスターは、部隊員が乗っている荒野車の1台に体当たりを食らわせると、そのまま覆いかぶさり胴体にあるデカい口で齧りついた。
頑丈な荒野車の装甲がベキベキと音を立てて噛み砕かれ、中に乗っている隊員達諸共飲み込んで行く。
僅か10秒ほどで1台の車がヤツに飲み込まれ、後部扉から何とか脱出できた隊員はわずか4名。
逃げ遅れた11名は荒野車と一緒にモンスターの腹の中へと消えて行った。
「全員展開後全力攻撃!!!!」
躊躇なく全力攻撃が指示を出し、部下達全員が荒野車から飛び降りると、準備が出来た隊員達から銃撃が開始された。
嵐の様な弾丸をその身に受け、体中を穴だらけにするモンスターだったが、身をよじるだけで絶命する気配が無い。このモンスターはなんなのだ?と余計な事を考えていると、モンスターの胴体から1本の触手が生え部下達を薙ぎ払う。
パワードスーツを着用しているというのに、シールドを叩き割り攻撃範囲内に居た全員を吹き飛ばした。
(なんてパワーだ!)
荒野に出現する大型モンスターに匹敵する力を見せつけられ、簡単に片付く相手では無いと判断し、銃を持つ手に力が入る。
「触手の攻撃範囲から距離を取れ!遠距離から集中砲火で討伐する!」
そう指示を出すが
『待ってください!1人捉えられています!!』
との通信が入り、ヤツの触手の先に目を向けると、触手の先が手の様に変形しており、そこには1人の隊員が握りしめられていた。
「うわああああああああ!!!」
彼は悲鳴を上げ何とか片手で持っていたアサルトライフルをモンスターに向け撃ち放つ。
だが、その銃撃にたいして脅威を感じていない様で、そのまま隊員を口の中に放り込みボリボリと食らってしまう。
「撃てーーーーー!!!」
命令を叫びながら自分で持っていた銃を撃ち放つ。
しかし、ヤツの体は弾丸を受け体液を流しながらも高速で動き次々と隊員たちを捕らえて行く。
そして1人1人食らっていくにつれ体から触手が増えて行き、表面の色が青黒く変色していった。すると、今までヤツの体を傷つけていた弾丸が弾かれ始めた。
『隊長!通常の弾丸では効きません!特殊弾頭と炸裂系兵器の使用許可を!!』
都市内での戦闘でそれらの兵器使用には管理企業の許可が必要になる。しかし、今そんな事を言っている場合では無かった。
「許可する!」
私が許可を出すと、全員が弾丸を切り替え銃撃を開始した。
PN弾SH弾が入り乱れ、ヤツの体を傷つけて行くが一向に倒れる気配が無い。
「何なんだコイツ!!!」
あまりに理不尽な存在に恐怖がせり上がって来た。
そうしている間にもヤツの体からベキベキと音が鳴り変形していく。
「ロケランを使え!!」
こうなれば炸裂弾で吹き飛ばすしかないと指示を出す。
部下が荒野車からロケットランチャーを引っ張り出し、照準を合わせると、ヤツはその部下に向かって突進していった。
「あああああああああ!!!!!」
部下は悲鳴を上げながらロケットランチャーの引き金を引く。
しかし、奴は大口を開けながら飛び出てロケットと共に部下に食らいついた。口に収まりきらなかった体の一部が飛び散り、追加攻撃の指示を出そうとすると、ヤツの体内でロケットが爆発。
ヤツの内部に爆圧が広がり、体が膨れ上がった。所々が破け、その隙間から衝撃と爆炎が漏れ出てくる。
「続けて撃て!!!攻撃を緩めるな!!!!」
私の指示で複数のロケットがヤツに撃ち込まれる。
携帯用の小型ロケットだが、中型種でも一撃で仕留められる威力がある。これだけ叩き込めばバラバラになっているだろう。
炎と煙がヤツを覆い隠し、しばらく様子を伺った。
しばらくは煙が晴れることは無さそうだと思った瞬間。煙を突き破って無数の触手が飛び出てきた。
「!!!」
私は横に飛び、向かって来た触手を間一髪で避ける。
しかし、避けられなかった複数の隊員たちが触手に絡めとられ煙の中に引きずり込まれていく。
私は起き上がるより先に指示を送る。
「ロケット次弾装填!!!全員攻撃の手を緩めるな!!!」
再度の全力攻撃が行われるが、煙の中から聞こえてくるのは肉を打つ弾丸の音ではなく。硬質な装甲車にでも弾が弾かれているかのような音が響き渡った。
(私たちは一体何と戦っているんだ?!)
荒野の果て。
ミナギ都市が抱えている高難易度遺跡から漏れ出てきたモンスターでもここまで強力なモンスターはいない。
さらに追加でロケットが撃ち込まれるが、あれで倒せているとは到底思えなかった。
案の定、煙の中のモンスターは無事で、巨大な体を変形させながら煙から出てくる。
その姿は先程とは全く違うモノになっていた。
異常に発達した両腕と6本の脚。胴体には3つの眼球が不規則に発生しており、背中からは人の手に似た触手が複数生えていた。
全身には先程なかった装甲板が体を歪に覆っている。
胴体の正面には大きく開かれた口があり、その中からは舌なのだろうか?無数の細い触手がゆらゆらと揺れていた。
これなら、まだ遺跡内でのモンスターの方が生物らしい姿をしている。
コイツは本当に生物なのだろうか?
持ってきた装備は悉く効果が認められない。効いたとしても直ぐに修復されているのだろうと予想が付く。
大きな目玉がぎょろぎょろと動き、辺りを見回している。
おそらく我々を餌と認識し、どう攻めれば逃がさずに捉えられるかを考えているのだろう。
撤退の命令を出すべきだ。
しかし、ここは防壁内。撤退した所で仕切り直す時間などない。
我々が撤退すればヤツはこの第1防壁内の住人を食い散らかす為に動き出す。それに、このまま逃げても見逃してくれるとも思えない。
私は生存を諦め、職務を全うする為に銃を持つ手に力を籠める。
「増援要請を出せ!危険度A以上のモンスターだ!!高火力で一気に殲滅する様本部に伝えろ!!」
どうせ逃げられないのなら私が最初に死ぬべきだ。
部下に通信の指示を出し、モンスターへと銃撃を加える。
せめて弱点であって欲しいと、大きな眼球に弾丸を撃ち込むも、瞼を閉じられてしまえば効果は認められなかった。
奴は大口を広げ、私を食おうと脚に力を込めて体を沈めた。
奴が飛び掛かろうとした瞬間。
私たちの後方から猛烈な銃撃が行われ、ヤツの装甲板の隙間に飛び込んで行く。
高威力の弾丸で体を傷つけられ、叫び声を上げ身をよじるモンスター。弾丸の雨が装甲板に当たるとけたたましい音と火花を散らしながら装甲板が変形していく。
攻撃が放たれた方向を見ると、両脇から覗いているガトリング砲でモンスターを打ち据えながら、両手にハンドガンを構えた男がこちらに向かって高速で突っ込んでくる。
男が構えたハンドガンから弾丸が放たれ、モンスターに命中すると、まるで大型ライフルにでも撃たれたかのように体がはじけ飛ぶ。
装甲板に穴が開き、一部が千切れ飛ぶと、男は走って来た速度のままバイクで体当たりを行い。モンスターを吹き飛ばしたのだった。
シド視点
シドはバイクに跨り、ゲンハが居る方向へと走って行く。
あの巨体が通ったであろう残骸が辺りに散らばり、追いかけるのに苦労はしない。それに、あのサイズのターゲットをこの距離で見失うと言う事も無かった。
道を辿り走っていると、ゲンハと防衛隊が戦っているのが見えてくる。
が、ゲンハの見た目が先程と大きく変わっていた。
<なんじゃありゃ?>
<防衛隊を捕食したのでしょう。表面に浮かんでいる装甲板は防衛隊の車に取り付けられていた物のようですね。体を強化する素材と栄養を補給してしまったようです>
<めんどくさ~・・・・何回変身すりゃ気が済むんだ?>
<早く倒さなければどんどん手を付けられなくなりますよ>
<わかってるよ>
シドはさらにバイクを加速させ、両脇に装備しているガトリングをゲンハに向かって撃ち放つ。
大投射量で放たれる徹甲弾はゲンハの装甲板の隙間に飛び込み、肉を抉り飛ばした。
痛みからか体をよじるゲンハだったが、シドはそのまま撃ち続け距離を詰めて行く。ガトリングから放たれる徹甲弾が装甲板を削り穴を開けて行く。
そして、ゲンハが体をこちらに向けた瞬間。S200から有りっ丈のSH弾を撃ち込んだ。
装甲板に命中したSH弾はゲンハの体中に衝撃を撒き散らし弾き飛ばした。
弾丸の衝撃でよろけたゲンハに向かって、シドはバイクで体当たりを行った。
バイクと自分をシールドで包み込み、走って来た勢いのままゲンハを跳ね飛ばす。
地面に衝突し、そのまま転がるゲンハを睨みつけ、シドはバイクを飛び降りると双刀を抜き切りかかる。
先程よりさらに反応速度が遅くなっている触手を切り払い、ゲンハの胴体を深々と切り裂いた。だが、その手ごたえはゲンハの命に届いたとは言い辛い。
何度か斬り付けてみるが、直ぐにグジグジと再生してしまう。
<これどうやったら死ぬんだ?>
<わかりません。ゲンハの脳を収めていたパーツがあるはずです。それを破壊すれば機能を停止させることが出来ると思いますが>
とりあえず全身なます切りにしてやろうと思っていると、防衛隊からも攻撃が再開された。
シドはその射線からズレ、少し距離を開ける。
<俺ごと攻撃すんのかよ>
<シドは今賞金首です。共に攻撃されても可笑しくありません>
理不尽な!と思わなくも無いが、今考えても仕方がない。とにかくゲンハの息の根を止めなければ。
そう考えていると、シドが切り裂き再生途中だった傷にロケット弾が命中。
周りの肉を吹き飛ばし、爆炎で周囲を焦がした。
不快な臭いが立ち込め、シドは顔を顰めながらどうしたものかと考えていると、
<シド、ロケットで焼かれた部分を見て下さい>
イデアにそう言われ、先程ロケット弾で抉られた場所に目を向ける。
<焼けただれた場所の再生が遅れています。無事な細胞が焼けた部分を排除し盛り上がる為再生している様に見えますが、高温で焼かれた細胞は再生できない様ですね>
<なるほど、了解!!>
シドはゲンハへの攻撃は一旦防衛隊に任せ、防護服の両腕の部分を露出させる。
そして、体内発電を限界まで発動し、電気を両腕に集中していく。
すると、腕がバチバチと紫電を放ち始め、だんだんと激しさを増し青白い光を放ち始めた。
生存本能を刺激されたのか、防衛隊の攻撃に晒されながらもシドに視線を向けるゲンハ。
「――――――――!!!!」
辺りを揺るがすほどの絶叫を上げ、背中から生えた触手を伸ばしシドを薙ぎ払おうとする。
シドは全力で地面を蹴り、一瞬でゲンハに肉薄し、両拳でゲンハ殴りつける。
「うらああああああ!!!!」
拳の一発一発から高圧電流が流れ、ゲンハの肉を焼き切りながら消し飛ばしていく。
ゲンハも削れていく肉体を再生しながらシドを振り払おうと両腕を振り回してきた。
だが、シドはその両腕も殴り飛ばし、体積が減ったゲンハの体の奥に核と思える装置を感知した。
「これで消し飛べクソ野郎がああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
両腕に込めていた電気を右腕に全て集中。
溜め込まれた膨大な電力が一気にゲンハの核へと叩き込んだ。
膨大なエネルギーが解放され、辺りには激しい光と雷鳴が轟く。
高エネルギーによって空気が膨張し、周りの物を衝撃で吹き飛ばしていった。
銃撃を行っていた防衛隊も例外ではなく、道路に止められていた荒野車も横転して滑って行いった。
光が収まると、黒焦げになりボロボロと崩れるゲンハだった物の一部と、炭化した右腕から煙を上げたシドが立っているのみであった。




