会議
ミナギ都市 中央会議室
バーク視点
ミナギ都市の執政を執り行う中で、もっとも重要な会議が行われる会議室。
そこには管理企業の代表とその補佐として認められた2人までしか立ち入ることが出来ない、非常にセキュリティの高い会議室である。
その中に、今6人の人物が集合し、今回発生した都市への反逆行為に対する会議が行われていた。だが、実際に会議での発言を行うのは3人のみ。他の3人は唯の書記として参加しか認められていない。
「今回の第1防壁街での無法行為に対して、我が社は断固たる対応を取ることを決定した。ミナギ都市の安全と秩序を保つため、ドルファンド単体では無く、ミナギ都市としてスラムバレットへの制裁に乗り出すことを提案する」
ドルファンドの代表 ギール・ロペスはそう切り出す。
その言葉はもっともらしい物だったが、今回の襲撃と戦闘行為に対する情報を掴んでいるアースネットの代表 バーク・ドゥエルは冷ややかな表情を浮かべて聞いていた。
「なるほど、都市の秩序を保つためと言う事であればやぶさかでは無いですが・・・・このスラムバレットというチーム、そこまで危険視するワーカーなのですか?」
そうギールに質問したのは、都市管理企業の最後の一社、ケミックス・アロイの代表 トウドウであった。
「どういう意味でしょうか?」
「いえ、私も賞金首となった者たちの事は調べています。最近ダゴラ都市からこの都市へと移って来たワーカーコンビで、ランクは50と45。年齢は推定16・7歳と若く。義体者では無いか?との噂すらあるようですね。確かに、この年齢が本当であるならば才能の塊と言えるでしょう・・・・・しかし、ランク50と45のワーカーコンビに5億の懸賞金は破格と言えます。この値段を付けた理由を教えて頂きたいのです」
このトウドウと言う男。利に聡く、儲けに対して非常に鼻が利く。企業人というよりは商人を地でいく様な男だった。
ドルファンドと提携し、共同で強化外装の開発を行っているかと思いきや、ドルファンドとは政敵関係にあるアースネットとも商売の話を持ち掛けてくる様な男だ。
彼曰く、
『都市の発展に敵味方では無く、何がもっとも効果的かを考えるべきでは?』
だそうだ。
バークとしてもその意見に反対するわけでは無いが、このトウドウと言う男は胡散臭くて仕方がない。
中立では無く日和見。
正しく蝙蝠という表現が相応しいとバークは考えていた。
「彼らはワーカーになってから日が浅い。が、その戦闘能力は非常に高いと評価している。故に、彼らに制裁を科すにはこの値段を付けたと言う訳だ」
「ええ、ええ。そうなのでしょう。ですが、肝心な部分を話されていませんよ?その戦闘能力に対する評価はどこから出て来たのですか?それを教えて頂きたいのです」
ニコニコと笑いながらギールに質問するトウドウ。
その表情がバークの神経を逆立てていく。この会話も彼らの中で決まっていた物なのか、それとも根回しなど無く素で行われているのかが判断できない。
その理由がトウドウの存在だった。
「・・・・・短期間でランクを上昇させるには相応の戦闘能力が必要になる。それでは根拠として薄いと?」
「そうですね。確かにハンターであるシドにとって戦闘能力は必須でしょう。しかし、シーカーであるライトに高い戦闘能力があるかと言われれば疑問です。そもそも、ワーカーランクと戦闘能力が完全に一致するとは限りません。あのランクは偏に信用を現しているのです。依頼を完遂する能力があるかどうか。という、信用があるとワーカーオフィスが認めているだけに過ぎません」
「・・・・・では何が問題だというのですか?」
「ええ。それだけオフィスから信用されているワーカーが、何の理由もなしに街中で戦闘行為を行うでしょうか?」
「これはスラム組織との戦闘だ。理由などただ肩が当たった程度でも発生する」
「それで喧嘩を売るのはスラム組織の方でしょう?なぜワーカーに懸賞金を掛けるのです?」
「街中で銃撃事件を起こし建物まで倒壊させたのだ!ランクを考えても危険な存在であることは明白だろう!」
「確かに無秩序に暴れられれば看過できませんね。しかし、正当防衛の可能性もあるのでは?」
「それでも近隣住民への危害を加える可能性のある攻撃は糾弾されてしかるべきだ!」
「なら、何故あなたがこの議題を提案するのです?」
「・・・・・・どういう意味だ?」
「建物が倒壊した戦闘は第7区画で行われました。それならば貴方では無く、バーク殿が問題提起を行うはずです。管轄外の貴方が声を上げるのはなぜです?」
この話の流れが分からない。
私はこの会議でギールとトウドウが結託し、スラムバレットの2人に高額の懸賞金をかけ人身売買の件をうやむやにする為の会議だと思っていた。
最悪の場合、形だけでもこの決議に反対し、ドルファンドの大罪が正式に暴かれた場合はそれを盾にしようと考えていたのだ。
だが、蓋を開けてみれば結託しているハズの彼らが言い合いを始めている。
この流れを作っているのはトウドウなのは間違いない。
しかし、この男の思惑が全く見えてこなかった。
「どうなのですか?バーク殿?」
相変わらずのにこやかな表情で私に視線を向けてくるトウドウ。
「・・・建造物の倒壊の件は聞いていた。しかし、スラムバレットとあの辺りを管理している組織との間で和解が成立している。私が首を突っ込む必要は無いと判断した」
「おお、そうだったのですね。ギール殿、バーク殿はこう申しておりますが」
「その様な態度だからバカ共がつけ上がるのだろう。地区の管理をスラムのゴロツキに任せている時点で管理者失格だ」
お前は自分の管理地区の管理すらしていないだろうが!と頭に血が上り始める。
だが、それを言っても意味が無い事はこの十数年でハッキリしていた。
「・・・・・スラムバレットは君の管理区域を縄張りにしている組織と揉めたようだな?」
「・・・・だから何だと言うのだ?」
「いや、最近アンダースネイクと言う組織が人身売買に関わってるという情報が入ってね。君の区域の組織だろう?」
「スラムの組織名など一々把握していない。だが、人身売買など私は聞いたことが無い」
「管理区域を仕切っている組織の名前も知らないのか?それこそが怠慢だろう。私でも掴める情報すら把握していないのだからな」
「その情報が正しい物とは限るまい」
「だが、人身売買だ。6大企業から固く禁じられた行為がこの都市で行われているかもしれん。それは由々しき事態だ」
私はギールの表情から情報を読み取ろうとヤツの顔を注視する。
「なるほど。確かにおっしゃる通りだ」
そういい、ヤツはばつの悪そうな笑みを浮かべ引き下がった。
だが、いつもと違い表情に余裕が無い。これはもしかするか?
「人身売買とは穏やかでは無いね。万が一にでも喜多野マテリアルに知られたら監査どころの話では済まないよ?」
この話には流石に軽薄な態度をとれなかったトウドウが顔を引き締めて発言する。
「調査はしよう・・・・・話がそれた。本題に戻り、スラムバレットの賞金首に対する返答を聞こう」
無理やりに話を戻そうとするギール。
これはシドが言っていた内容が現実味を帯びて来た。
「私は反対だ。確かに法を犯したかもしれないが、ちゃんと責任はとっていると判断する。都市として敵対認定には反対だ」
「私も都市としての懸賞金の供出には反対させてもらおう。払う金額以上のメリットが思いつかない」
「・・・・・そうか。では次の議題に進もう」
こうして会議が進もうとした時、部屋の中に飛び込んでくる者が居た。
この都市の防衛隊を纏めている男である。
「失礼します!!第1防壁内にモンスターが出現しました!!」
と、あの防壁が完成して以来、初めての言葉を私は聞いたのであった。




