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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
181/213

襲撃

シドが玉藻組に呼び出されている間のイデアは・・・・


「う~んっと・・・・これでよし!ええ感じやで、イデアちゃん」

「ありがとうございます、ママ」

「キャッキャ!」ぺしぺし


イデアはママからエミルを背負う為の抱っこ紐を装着してもらっていた。

これはママが若い頃自分の子供を背負う為に使っていた物らしい。イデアは完全な人型という訳ではない為、そのまま取り付けることは出来なかったのだが、ママはささっと手直ししてイデアが着けてもズレたりしない様に調整してくれたのだ。

「うん、このメーカーのは頑丈やな~。まだまだしっかりしてるやん」

「・・・・それ30年くらい前のやつやろ?まだ置いとったんか?」

「そうやで、勿体ないやん」

物持ちが良いにも程があるだろう。だが、稀にこういうタイプの人もいると思う。

「強度的にも問題ありません。これでエミルを運ぶ時も安心ですね」

「キャッキャ!」ぺしぺし

運ぶ時はイデアがシールドで包んで運べばそれでいいはずだ。

だがイデアはこの抱っこ紐を気に入り素直に受け入れたのだ。

後ろに背負われたエミルも嬉しそうに笑いながらイデアの頭部をぺしぺししている。

「短い間やったけど楽しかったよ。またいつでもおいでね」

「はい、お世話になりました。この都市に来たときには必ず伺わせていただきます」

ママとマスターに挨拶を行い、そろそろライトの準備も終わった頃だろうという時、この店に向かってくる複数の反応をイデアのセンサーが感知する。


イデアは機体に搭載されている3Dセンサーを発動させ、その者達を正確に感知すると、全員が銃器を持ちこちらに向かっている。

数は25人。イデアの迎撃能力を考えれば多いとは言えないが、ママとマスターを巻き込んでしまうと考え、まずは2人を退避させることにした。

「お2人共。此処にむかって複数の武装した人間が向かって来ています。すぐに避難を」

「「え?!」」



ライト視点


ライトはまず弾薬の買い込み、食料の調達を終わらせイデアを回収するために車に乗り込もうとしていた。

その時、背後から声を掛けられる。

「ライト様、少々よろしいでしょうか?」

振り返ると、そこに居たのはラルフだった。

「え?あ、ラルフさん?」

ライトは何故こんなところに?という顔をする。

「少々この辺りに用がありまして。偶然お見掛けしたものですからお声がけさせていただきました」

「そうなんですね」

「はい、今日も随分とご活躍だったそうで・・・・随分と買い込んでいらっしゃいましたが何処かへ遠征ですか?」

「ええっと、ちょっと野暮用でミナギ都市から離れる予定でして・・・・」

「ほう?遺跡探索ですか?」

「・・・まだどこかは決めてないんですけど、ちょっと遠出しようかと・・・」

とラルフと話していると、ライトの情報収集機がこちらに向かって走ってくる大型の車を感知する。

ん?と思っていると、車に取り付けられている機銃が動きこちらに照準を合わせてきた。

「!」

「頑張ってくださいね。それでは私はこれでぇ!」

まだ話していたラルフの胸倉を掴み自分の後ろに庇うと全力でシールドを展開する。


その瞬間、相手の車は機銃を発射。

ライトの展開したシールドに弾丸が当たり弾き返す。

「!!な・・・なんですか?!」

「襲撃です!車の中に!!」

ラルフはオフィスの職員で戦闘員という訳ではない。この場に置いていけば確実に殺されてしまう。

ライトはT6のドアを開きラルフを押し込むと、自分は車の上に飛び乗り車を発車させる。

機銃の弾丸がT6の装甲板に当たり甲高い音を立てて弾かれてた。

ライトも車を走らせながら両手のハンター5で反撃を行うが、向こうの装甲も硬く弾丸を通さない。流石に街中で専用弾やミサイルを撃つわけにはいかないし、複合銃でも戸惑う。

まずは機銃を排除するべきと判断したライトは弾丸を機銃に集め、根元から吹き飛ばした。


敵の攻撃が止んだ隙に車の中に滑り込み、運転席に座ると車の中に放り込まれたラルフが混乱の極みに有った。

「何が!!何が起こってるんです?!」

「恐らくアンダースネイクという組織の襲撃です。この場合どこまで反撃は許されますか?」

ライトの問いに、混乱しているとはいえ優秀な職員であるラルフは正確に答える。

「正当防衛が適応されますが広範囲への被害が発生する爆発系の攻撃は控えてください!相手の生死は不問です!」

「わかりました」


敵は窓から頭を出し、手に持った銃で攻撃を再開してきた。

T6のシールド発生器を動かしシールドを発生させると、車上の複合銃で相手の車のタイヤを狙い攻撃。タイヤを吹き飛ばし横転させることに成功した。

しかし、別の方向からも複数の車が接近してきており、すぐにここを離れなければさらに激化する事になるだろう。


<ライト、敵襲です。すぐに合流してください>

<イデア!ボクも装甲車で攻撃を受けてる!そっちは大丈夫?!>

<こちらは歩兵のみですのでなんとかなります。ライトはシドとダーマと合流しこちらと合流してください。私の位置は常時送ります>

<わかった!>

シド達がいる玉藻組の位置はエリアの反対側。先ほど転がした車の方向だった。

ライトはT6を反転させ、フルスロットルで走り出した。

「ちょ!!何処にいくんですか!?降ろしてください!!」

「今降りると死にますよ!もう直ぐ敵の増援が着ます!」

ライトが言うや否や、弾丸の嵐に包まれる。

シールドが弾丸を弾く音が車内に響き渡り、ライトの反撃の振動が車を揺らす。

「うああぁぁぁ!!!」

ラルフはこの様な鉄火場には無縁のオフィス職員。

死の恐怖に怯えながらも、ただシートにしがみついているだけでは危険なことが分かる程度には頭が回った。

必死にシートに座り、シートベルトを締めようと左肩の所に手をやる。


しかし、そこには何もなかった。

「あの!!!シートベルトは?!?!」

「ありません!!!」

この車に乗るのはシドとライトだ。

事故でのケガの心配より車の爆発より先に脱出する時の一手間を省く方を優先した結果、この車にはシートベルトは付いていなかった。

「なんでええぇぇぇぇ~~~~?!」

車内に響き渡るラルフの絶叫すら置き去りにし、T6は猛スピードでシド達のいるポイントへと走っていった。


シド達視点


シドとダーマは玉藻組での会談が終わり、ホームを出てクラブ88に戻ろうと歩いていた。


「特に何事もなく終わって良かったよな~」

シドは呑気にそう宣うが、ダーマの心は穏やかでは無かった。

シドはああ言ったが、万が一アースネットがエミルの情報をドルファンドへと流せば今すぐにでも襲ってくるだろう。

「・・・・本当に大丈夫なのか?」

「あのバークって人の事か?」

「そうだ」

「大丈夫だと思うぞ。万が一今すぐ襲われてもアイツは関わってない」

「・・・・・もう一度聞くが何故言い切れる?」

「俺の勘・・・・・と、バークやミンの心音やら体温やら呼吸音を総合しての判断だ。あいつらにエミルの事を言っても動揺は見られなかった。だからアイツ等は人売りとは関係ないって判断したんだよ」

「・・・・・」

シドが唯の勘以外の根拠を示したことでダーマは一応の納得を見せる。

しかし、シドの身体拡張の質が高すぎる事にも新たな疑問が湧いて来るが、ここでその事を突く必要は無い。

今はエミルを連れてダゴラ都市まで移動する事を最優先とするべきだとダーマは考える。


「そろそろライトの買い出しも終わるだろ。今日は車で寝て、明日の早朝に・・・・・・・・」

「・・・どうした?」

急に黙ったシドの様子に疑問を感じたダーマはシドの方を見る。

すると、シドが顔を向けている先に一人の男が上から降りて来た。



シドは高速で近づいて来る存在に気付き言葉を止め、警戒を強める。

スピードから考えてあのデンベに近い物があるとシドは感じた。

すると、30m程離れた場所に男が着地し、立ち上がるとシド達に向かって歩いて来る。


男の背は高く190cmくらいはありそうだ。オレンジ色の逆立てた髪に右耳には無数のピアスを嵌めており、どう見てもワーカーという感じでは無い。

上は薄手の派手なシャツだけを着こみ、シャツの全面ははだけられており鍛え抜かれた肉体が覗いている。下は黒のズボンを履いており、武装らしきものは身に着けていない。

パッと見はその辺りのチンピラだが、その体から立ち上るプレッシャーは喜多野マテリアルの上級兵すら超えるだろう。

シドは一挙手一投足も見逃すまいと男に注目し、警戒心を高めていった。


「よお、お前がシドって奴か?」

男は10mほどにまで近づいて来るとニヤニヤと笑いながらシドの話しかけてくる。

「・・・そうだ」

「俺のボスがさ、お前に話があるんだとよ」

男はそう言うとズボンのポケットから通信端末を取り出すとシドに投げ渡す。

投げられた端末を受け取り、画面に目を向けると、直ぐに男の顔が映し出された。

『チームスラムバレットのシドだな。私はドルファンドの代表 ギール・ロペスという。今日は君と商談がしたくてね』

映し出された男はドルファンドの代表だと名乗る。

商談とは間違いなくエミルの事だろう。

『君たちが我が社で保護しようとしていた少女を匿っているとの情報が入ってね。直ぐに引き渡してもらいたい』

「断る」

シドは考える余地すらなくギールの要求を突っぱねた。

『・・・・もちろんタダでとは言わない。スラムのゴロツキから受けた損害を含めて十分な額を用意しよう。この都市でも最上級の待遇を持って受け入れる。他にも要求があるなら言って欲しい』

「お前等、エミルの眼が欲しいだけだろ?それを保護とか・・・・ふざけんなよ」

『・・・・・・・何か誤解があるようだが、我々はあのゴロツキと何ら関わりは無い』

「そうなのか?なら俺が捕まえたアンダースネイクの構成員を引き取ったのはどういうことだ?」

シドはイデアに頼んであの構成員のその後を調べてもらっていた。

それはラルフが信じられなかったという事では無く、この都市の事を信用していなかったという事である。

ダゴラ都市で不正が蔓延っていたのだから、大きな都市では同様な状況になっていても可笑しくは無いと考えていた。シドの意見にイデアも賛成し、ボディーをこの都市においていたイデアは都市のネットワークにアクセスし色々調べまわっていたのである。

これは必要以上に高性能な武蔵野皇国製のボディーがあって初めて出来た事であった。

『あれは我が社の管理区域の組織で犯罪に関わっている男が逮捕されたとの情報が入ったからだ。我々が調べるのは当然だと思うが?』

「今回は動きが早いよな?お前が保護対象だと言った子供は1週間以上前に母親を殺されて攫われたらしいぞ?保護対象ならなぜすぐに助けようとしなかった?エミルを助けた男が町から脱出しようとした際、運び屋も現れなかった。それもお前らが消したんじゃないのか?」

『運び屋?・・・・何のことかは分からないが・・・・少女の救出に時間が掛かったのは安全に作戦に移るタイミングを見計らっていただけだ。少々手違いはあったのは認めるが、我々が彼女を救出しようとしていた事は嘘では無い』

ギールの言葉に矛盾は無い。

しかし、シドの眼は完全に詐欺師を見る目になっていた。

『もう一度言う。少女を引き渡してもらおう』

「・・・・断る」

『・・・・・・・・何故だ?我々は都市の管理企業だ。我々の保護以上に安全なセキリュティなどないはずだ』

「俺さ、こっちを騙そうとするヤツを見分けるのが得意なんだよ」

『・・・・・・・・最後だ。少女を引き渡せ。さもなくば我が社への明確な敵対と判断する』

ギールが険しい表情を見せシドに最後通牒を突き付けて来た。

シドはそのギールの眼を見て確信する。

コイツの眼はダーマの様にエミルを助けたいと思っているヤツの眼では無く、得物を横取りされたスラムのゴロツキと同じ眼をしていた。

シドは不敵な笑みを浮かべてこう言い放つ。

「お断りだクソッタレ」

『・・・・・そうか・・・・話は終わりだ』

通信が切れ、何も映さなくなった通信端末をシドは握りつぶす。


「お~~~い、それ俺のなんだが?・・・ボスとの話はついたのか?」

「・・・お前なら聞こえてたろ?」

「・・・・ああ、そうだな。良かったよ。お前が断ってくれて。俺もやっと仕事が出来るってもんだ」

会話が終わると、辺りには濃厚な殺気が立ち込め始める。

男は今もニヤニヤと笑みを顔に張り付けているが、その目は得物を見定めた者のそれであった。

「ダーマ。すぐにライトと合流してエミルを迎えに行け。その後は俺を待たずに町を出ろ」

「・・・何?」

「いいから早くしろ。お前が死んでエミルだけ町を出ても意味が無い」

シドにそう言われ、ダーマは地面を蹴り走り出す。

その背中を見て男は笑った。

「ハハハハハハ!!!・・・・行かせる訳ねーだろカスが!!!!」

ダーマを見据え地面を蹴り、一瞬で追いつく男。ダーマの頭に手を伸ばし、その頭蓋を砕こうとする。


その横に男以上の速度でシドが現れ、男の脇腹を全力で蹴り飛ばした。

ドン!!と衝撃が周りに走り抜け、吹き飛んだ男は数棟のビルを突き破って飛んでいき、一際頑丈なビルの壁に突き刺さった。


男の口から血が噴き出し、胃の中からせり上がってくる血を全て吐き出し顔を上げる。


そこには両手でS200を男に向けたシドが立っていた。

「それは俺のセリフだクソ野郎が」


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― 新着の感想 ―
デンベさんとの訓練があって良かったな…
ラルフがいたのはイレギュラーなんだろうけどオフィスの職員ごと襲撃するとは無茶するなぁ
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