エミルの眼
イデアはエミルの目の特異性を突き止めたらしい。
それが原因で人売り達に狙われているのだろうと予測したようだ。
「目が赤いって事だったけど。色以外に何かあるの?」
ライトがそう問うと、イデアが説明し始めた。
「はい、エミルの目は現代人と比べて非常に性能が高いと思われます。通常の視力もそうですが、動体視力も高いと思われます。それ以上に特異なのが、可視光線以外の赤外線や紫外線まで捉えている点です」
「!!!」
イデアが説明した内容にダーマは驚きを隠せなかった。
「どうしてそんな事が分かったの?」
「はい、今日の午前中。エミルと遊んでいた時なのですが・・・」
イデアが言うには、エミルと遊んでいた時、イデアは手を浮遊させて遊んでいたらしい。
それをエミルが視線で追いかけ、捕まえようとしていたようだ。それだけ聞くとなんて事の無い遊びだが、イデアが腕の速度を上げて行くとその視線はしっかりとイデアの腕を追いかけていたと言うのだ。
イデアはどこまで追えるかと考え、速度を上げていったのだが、まだ生まれて1年程度では考えられない速度までしっかりと動きを認識していたらしい。
他にも赤外線や紫外線を照射してみると、同じように反応を示したと言う。
人間の目は波長が380~780nm以内の光しか捉える事は出来ない。しかし、エミルの目はその範囲から外れた光も捉えることができると言うのだ。
「へ~・・・それって凄いのか?」
意味が分かっていないシドは首を傾げてそう言う。
「シドの様に特殊な身体拡張を行ったのなら可能になります。しかしエミルはその様な拡張は行っていませんよね?」
「・・・・ああ、その様な処置をしたとは聞いていない」
「生まれ持った性質と言う事なら、これは驚異的と言えるでしょう。この目を調べる事でさらなる技術が生まれる可能性も出てきます。それに、眼で捉えていてもそれを情報として処理する脳の機能が無ければ意味がありません。そういう意味でもエミルは特異な性質を持っていると言えます」
「・・・・・」
ダーマは深刻な顔をして黙り込む。
「・・・なら、エミルの売り先って企業の可能性も出てきたってことだね・・・・」
「なるほどな・・・そういや、この都市に身体拡張で稼いでる企業が無かったか?」
「ドルファンドですね。この都市の管理企業です」
この都市の管理企業ならスラムの組織を使い人を攫ってももみ消すことは難しくない。
これはかなりヤバい話になって来たと2人は感じた。
「これ、ワーカーオフィスに伝えた方が良いんじゃないか?」
「う~ん、それはどうだろ?」
シドはワーカーオフィスに伝えてエミルの保護を強化する必要があると考えたようだが、ライトは消極的なようで、ダーマの拒否の声を上げる。
「ダメだ。ワーカーオフィスが信用できないというより、必ず企業とオフィス間で情報共有がされているはずだ。この都市の管理企業が黒幕の可能性が出てきたなら、エミルの所在をワーカーオフィスに知られるわけには行かない」
「・・・企業ってそんな事するのか?」
「まあ、考えてみたら当然なのかな?」
ダゴラ都市の場合、都市が喜多野マテリアル直属の都市であり、ワーカーオフィスは6大企業が管理している団体だ。
どちらも6大企業に属している為、ワーカーオフィスに監視を入れる必要性は低い。
しかしミナギ都市の場合は3つの企業が合議制で運営している都市であり、その都市に独自の運用方法を持つ武装組織がある状態なのだ。都市議会側から何かしらの情報提供協定が結ばれているのが普通であり、都市に取って不都合な情報を隠していないかを探る間諜を潜り込ませる事はどの都市でも行われている。
治安維持の為やスタンピードに関する情報などは速やかに共有される為に情報網があり、それ以外でも情報のやり取りがあっても可笑しくはない。
それに、ワーカーが別の都市へと移動する情報を都市へと提供すると言う事は通常の契約の内である。
ダーマの言う通り、ダーマがエミルを保護し、この都市から移動しようとしている事をオフィスが知れば、都市側へと筒抜けになってしまうのである。
ダーマに移動の脚があり、直ぐに行動できるのなら問題は無い。しかし今はドンガの到着待ちであり、直ぐに行動に移せないのならオフィスにもエミルの存在は隠さなくてはならなかった。
「・・・なあ、もう俺達がダーマとエミルを運んだ方が良いんじゃないか?」
「ん?」
「なに?」
ライトとダーマはシドへと顔を向ける。
「ただのスラム組織が相手ならなんとでもなるけどさ、都市の管理企業が黒幕って事なら話が変わって来るだろ?企業なら適当な理由を付けて街を一斉捜索とか出来そうだし、そうなったら脱出も難しくなると思うんだよな。ここ、防壁でガッチリ囲まれてるし」
「・・・そうだね。その方がいいかも」
シドの意見にライトも賛成の様だ。
「・・・いいのか?お前達はここに何か理由が有って移って来たんだろ?」
「構わないよ。別に直ぐに何かしないといけない訳じゃないし。セントラルの所にはキクチもいるんだからアイツに事情を話したら上手く収めてくれるはずだ」
「そうだね、ゴンダバヤシ様にも話が出来たら調査してくれるかも」
話がまとまりかけた時、店の方からママが呼ぶ声がした。
「おーい、ダーマ君とシド君!玉藻組の人達が来てるんやけど」
3人がこの店に来ている事が玉藻組に伝わったらしい。2人がバックレない様にわざわざ迎えに来たのだろう。
「・・・・そういや玉藻組の事もあったな・・・ライト、悪いけど出発準備だけしといてくれ。弾丸の補給と食料と水」
「分かった。明日の朝出発かな?」
「ああ、それで行こう。ダーマもそれでいいよな?」
「・・・ああ、ありがとう」
ダーマはシドとライトに頭を下げて礼を述べる。
「いいって。ほら、玉藻組に行くぞ」
「わかった」
シドとダーマは玉藻組の組員の者達についていき、ライトは補給の為に車へ戻って行く。
イデアはエミルを抱きながら?ママたちに準備が整い次第此処を去ることを伝えるのだった。




