エミルが狙われる理由
メタルアントに追われていた荒野車の援護に向かったシドは、全力で暴れまわりメタルアントを全滅させた。
追いかけられていた荒野車にはワーカーチームが乗っていたらしく、彼らも懸命に攻撃をしていた。
そこにシドが参戦し次々とメタルアントを撃破していった。
「お疲れ様」
「おう」
メタルアントを全滅させたシドはT6へと戻りナビシートに腰かける。
「大変そうだったね」
「妙に頑丈なんだよな~。S200なら一発なんだがガトリングじゃなかなか倒せないからな。それにしつこい!最後の1匹まで向かってきやがって・・・・」
群れのほとんどはあの亀裂の中に消えていったというのに、まだあれ程の数がいたとは驚きだ。
ライトが即撤退の判断をしたことは正しかったと言える。
「これで懸念も消えたんだし、良かったんじゃない?」
「・・・・そう思う事にするよ」
2人が話していると巡回車から通信が入る。
『スラムバレット。ご苦労だった。この分も報酬に上乗せしておく』
「よろしくお願いします」
『ミナギ都市までもう少しだ。最後まで気を抜かないで欲しい』
「わかった」
『以上だ』
巡回車との通信が切れ、しばらく走っているとミナギ都市の第1防壁が見えてくる。
「ようやく帰って来れたね。なんだか長い1日だったな~」
「そうだな。まあ、成果は上がったんだ。上々だったんじゃないか?」
「そうだね・・・・あの遺跡の中で戦った隠密モンスターなんだけどさ。ボクが貰ってもいい?」
「ん?構わないけど。どうするんだ?」
「ボクも唐澤重工に送ってEX80の強化をしてもらおうと思って」
「・・・なるほどな。いいんじゃないか?ライトの生命線だしな、情報収集機は」
「ありがと」
<そろそろ都市に着きますが、お知らせがあります>
<なんだ?><なに?>
<玉藻組からホームに来るよう要請が入っています。先日彼らの縄張りで戦闘を行った詳しい話が知りたいようですね>
イデアの言葉にシドは眉を顰める。
あの話は穏便に決着がついたのでは無かったのか?と考えたからだ。
<あの戦闘後、玉藻組の縄張りであの組織の構成員が目撃されている様です。縄張りが歓楽街の為、遊びに来ていると言われればそれ以上深追いでき無い様で、あの戦闘の発生理由を詳しく聞きたいようですね>
<・・・・なるほど>
<シドと同じようにダーマにも声が掛かるようです。もう一度玉藻組まで出向く必要があると考えます>
<何故だ?>
<発端はダーマとエミルをあの組織から助けたことに起因します。彼らはまだエミルの確保を諦めていないと考えられ、ちゃんと説明すれば玉藻組のバックアップが受けられる可能性があります>
<んー、でも玉藻組からすれば関係が無い話でしょ?逆にエミルを引き渡せ!って話にならない?>
<それはないかと。ネットワーク上やクラブ88に訪れる客の話を精査した結果、彼らは非常に倫理観を大事にしているようです。人売りに関わっている組織を糾弾することはあれど、加担する事はないと判断できます>
<なるほどな。ならワーカーオフィスの後に行ってみるか>
3人で話している間にミナギ都市の第1防壁にたどり着く。
あの物々しい門を潜り、ワーカーオフィスへ続く道を走り抜けるのだった。
ミナギ都市南部の門から都市へと入り、ワーカーオフィス出張所へと到着する。
巡回車に乗っていたワーカー達と、荒野車に乗っていたワーカー達と共に出張所へと入って行く2人。
各々が目的のカウンターへと移動しようとしていた時、ライトが見知った人物を見つける。
「あ、ダーマさん。巡回任務を受けてたんですか?」
巡回車に乗っていたワーカー達の中にダーマの姿を見つけたのだった。
声を掛けられたダーマはライトへ振り返り、少し息をつくと2人に近づいて来る。
「・・・・救援要請に応じてくれて助かった。礼を言う」
そういい2人に頭を下げるダーマ。
「いや、いいよ。依頼なんだからな、報酬もでるし」
「そうそう」
「だが、お前たちのお陰で命が助かったのは事実だ。感謝している」
「そうか」
「生きてて良かったです」
感謝されて不快な思いになる訳がない。それが依頼であったとしてもだ。
「本来なら直ぐに礼をするべきだったんだが・・・・アイツ等の前で声をかけづらかったんだ」
そういいダーマは後ろで興味津々でこちらを見ているワーカー達を見る。
20人くらいのワーカー達だったが、一様に若くこちらを見ながらコソコソとなにやら話している様だ。
「アイツ等がどうしたんだ?」
「彼らは低ランクの駆け出しだ。俺と同じでな。皆ハンター志望の様で、今日のお前たちの戦闘を見て憧れを抱いたらしい」
「憧れ・・・」「なんと・・・」
憧れと言われてなんと表現していいのか分からない感情が沸いて来る2人。
「そんな訳だ。また後で話そう」
そういい、カウンターへと向かっていくダーマだった。
ダーマと別れ、買取用カウンターへと向かっていくシドとライト。
カウンターの上に今日収集してきた遺物を積み上げ、職員に買取を頼む。この辺りでは中々見ない量の遺物を見た職員は目を丸くしながらこの遺物の出所を聞いて来る。
「あの・・・失礼ですがこの遺物はどこで・・・?」
そう言われ、イザワとのやり取りでトラウマを刺激されたシドは口を開けなかった。
あの時遺物を没収された事を思い出し、彼がそんなつもりで言っていない事は分かっているが口が動かなかった。
「これは亀裂の中にある遺跡で取ってきました」
口ごもっていたシドに代わりライトが職員の問いに答える。
「え?!あの遺跡で取って来たんですか?!」
あの遺跡の厄介さはこの都市では有名だ。一番浅いところにある入り口でも60mは降りなければならない。それにあの辺りの地盤はかなり脆く、アンカーを設置しようが崩れ落ちてしまう。
それに谷底から吹き出てくる強烈な熱風が探索をさらに危険なものにし、あそこの探索を行おうとするワーカー等ほとんどいないのが
現状だったのだ。
「はい、一番上の階層だと何もなかったんで、さらに下に降りました。そこにはまだまだ遺物は残ってたんですけどモンスターの襲撃に遭って途中で探索を辞めて戻ってきました」
ライトがそう報告すると、職員がモンスターの事も聞いて来る。
「どの様な種類のモンスターが出ましたか?」
「ん~、羽が生えたヤツと情報収集機に全く映らないモンスターの2種類しか確認していません」
「なるほど・・・・少量でもいいのでサンプルはお持ちですか?あの場所はスカベンジャー達に回収をお願いする事も難しいのでほとんどわかっていないんです」
諸君はそういい、2人にサンプルを持っていないかと聞いて来る。
「羽が生えた奴なら渡せる」
シドはそう言うとツールボックスから布に包んだトンボに似た野生生物説のあるモンスターを取り出した。
比較的状態が良い物を選んでおり、研究するには十分な状態だろうと思われる。
「・・・これは・・・・・」
職員も初めて見るのか目を見開いていた。
直ぐにスタッフを集めると、遺物と一緒に査定すると奥の部屋へと運んでいく。
暫く待っていると、職員が戻って来る。
「お待たせしました。まず遺物の買い取り価格から」
そういい職員はタブレットを見せてくる。
そこには800万コールの金額が表示されており、それを見た二人は
「こんなもんか?」
「まあ、こんなモノでしょ」
と、すげない感想を言い合う。
その様子に職員は驚きの表情を見せた。この辺りで活動しているワーカーでもたった1日でここまで稼ぐモノはいない。
もっと大きなチームなら話は別だが、そういうチームは企業からの依頼を受けるものだ。
2人の様に遺跡に潜って遺物収集を行い、それを売る事で手に入る金額としてはかなり大きいはずだった。
この辺りでは遺物の収集よりモンスター討伐の方が実入りが良くなる為、遺跡に潜るワーカーの方が少ない。
もっと大きなチームならば、企業からの依頼で南方の遺跡にまで遠征し探索をする事もあるが、ミナギ都市では日帰りで行ける距離の遺跡は探索され尽くされ遺物等残っていないと言うのが定説だった。
今日、シドとライトが向かった遺跡を除いては。
「ええっと・・・こちらの金額でよろしかったでしょうか?」
「はい、これで結構です。設定の通り振り込んでください」
シドがいう設定とは、スラムバレットの稼いだ金は3当分され、1/3づつチーム口座、シド・ライトの個人口座に振り込まれる設定になっている。
「承知しました。それで、あのモンスターなのですが。完全な新種と判明いたしまして、研究機関へと渡されることになります。お支払いする金額は研究機関との協議の結果、決まり次第お振込みとなります。それでもよろしいでしょうか?」
「はい、問題ありません」
「承知しました。またのご利用をお待ちしております」
2人は買い取りも終わり、救援依頼の報酬も振り込んでもらうとワーカーオフィスから出て行こうとする。
すると、手続きが終わったのかダーマがオフィスの入り口辺りで誰かと通話していた。
「・・・・ああ、わかった」
ダーマは通信機を仕舞うと、2人に気が付いたのか声を掛けてくる。
「玉藻組から呼び出しがかかったと連絡が入った。確かシドも呼び出されていると聞いたが?」
「ああ、俺も聞いたよ。行くなら一緒の方がいいか?」
「そうだな。まずは88に寄ってから行こう・・・・あいつの様子も見ておきたいからな」
「わかった」
その後は一緒に車に乗り、歓楽街の方へと向かって行った。
クラブ88に到着すると、まだ店はオープンしていない。
ダーマはcloseのカンバン等無視して店の中に入って行く。
2人もダーマに続き店の扉を潜っていった。
店の中には来客を知らせるベルが響き、カウンターの奥で開店準備をしているママが現れる。
「あら?お帰りダーマ君。今日も無事に終わったんやね」
「・・・ああ、なんとかな」
あれを無事と言っていいのか疑問が残るが、取りあえず生きて稼ぐことが出来た。細かい事は気にしない。
「そら良かった。シド君とライト君もお帰り~」
「あ、はい」「ありがとうございます」
ママは2人にも同じように声を掛けてくれる。
「ママ、エミルはどうだ?」
「ん?イデアちゃんが面倒見てくれてるよ。今は寝てるんと違うかな?」
「そうか。少し顔を見てから玉藻組に向かう」
「はいよ」
ダーマは奥の部屋へと向かって行き、シドとライトもそれに続いた。扉を開けると、フカフカのタオルでおくるみの様に包まれたエミルとそれをシールドで支えゆらゆらと揺らしながら寝かせているイデアの姿があった。
「おかえりなさい。シド、ライト、ダーマ」
部屋には行ってきた3人を見てそう言うイデア。中々子守の腕が上がっているらしい。
「エミルの様子は?」
「問題ありません。体調も万全です」
「そうか」
ダーマは、すやすやと眠っているエミルの顔を覗き込み、少し表情を緩めた。
「それじゃ、玉藻組の所にいくか」
「そうだな」
シドとダーマが玉藻組に向かおうとすると、それをイデアが止める。
「その前に、少しエミルについてお話があります」
「ん?」「なんの話だ?」
2人は振り返りイデアへと問いかける。
「エミルの眼についてです。ダーマの予想した様に、この眼が原因でエミルは狙われていると思われます」




