救援要請
愛車であるT6に乗り、この戦場までやって来たライトが、車に搭載されているハイドラプターでメタルアントの巣を攻撃した。
一度に発射できる最大投射量の24発が、イデアが計算した構造的弱点部分に正確に命中する。中には大口径の穴から飛び込み、巣の支えになっている箇所を爆破したミサイルもあった。
小型ミサイルとは言え、対大型モンスター用に開発されている為、攻撃力は十分である。
広範囲に破壊を撒き散らされた巣は、ミサイル攻撃の数秒後にボロボロと崩れ始める。
<シド、今のうちに上に上がってください。巻き込まれます>
<巻き込まれる?>
<はい、この辺りの地盤は非常に脆いのです。今の攻撃で地上部分のみならず、地下にある巣にもダメージを与えました。よって、メタルアントの巣そのものが崩壊を始めます>
その言葉でシドは崖の方に目を向けると、地上構造部が崩れ落ちた衝撃で崖の至る所にひび割れが発生していた。
(やば!!)
シドは急いで地上よりも高い位置に駆け上がる。
メタルアントも自分達の巣が崩れそうになっている事に慌てているのか、シドを攻撃する手を止めていた。
<ライトは後方へ退避しています。今のうちに合流しましょう>
<わかった>
シドは崩れて行く巣を飛び越え、ライトいる方向へと駆けていく。
シドの足元では、土台の部分から崩れ、高く積み上げられていたメタルアントの巣が谷底に倒れ落ちて行くのだった。
<谷間に居たままだったら巻き込まれてたな・・・>
<そうですね>
地面に降り、ライトと合流する為に走るシドの頭上を、また多数のミサイルが飛び越えて行く。
恐らくライトが放ったミサイルだろう。
<?・・・まだ攻撃するのか?>
<はい、今の攻撃で上層部分は破壊できましたが地中部分は完全に破壊出来ていません。この後2人を追いかけてくるメタルアントの数を減らす為にも追撃は必須です>
<・・・・追って来るのか?>
<必ず来ますよ>
これは早めに合流した方が良いなと考えていると、足元から振動が伝わって来た。ライトが放ったミサイルが着弾したらしい。
走りながら後ろを振り返ると、シドのすぐ後ろまでひび割れが到達しドン!という衝撃と共にあっという間に崩れ去って行った。
その光景を見ながら、随分危険な場所で探索を行っていたのだなと実感する事になるシドであった。
<シドさん。ボクはもう都市に向かって走り始めてるから全力で追いついて>
と、ライトから念話が送られてくる。
なんとアイツは相棒の俺を置いてとっととズラかる積りらしい。
<俺を置いていく気か?!>
<シドさんの全力ならすぐに追いつくでしょ?メタルアントの大群に追われる可能性は少しでも下げたいの!>
ライトの言う事はごもっともである。弾薬費の高いハイドラプターまで使用したのだ。これ以上の交戦は避けたいと考えるのは当然だった。
シドは電光石火を使用し、ライトが運転するT6まで全力で駆けるのだった。
「ふ~・・・いや~危なかったな。助かったぞライト」
T6まで無事に追いつけたシドはナビシートに腰を下ろす。
「どういたしまして。まさか突風の事を考えずに飛び出すとは思ってなかったよ・・・」
「・・・ごめんなさい」
シドは自分のミスで大事になってしまい、素直に謝る。
「はぁ~・・・で?怪我とか大丈夫?」
メタルアントとの戦闘で、ミサイルの直撃自体は防いだもののマジンガンタイプやライフルタイプの攻撃は複数被弾していた。しかし、新装備のDMD SV5のおかげで深刻な負傷は避けることが出来ていた。
「ああ、打ち身程度ですんだよ。もう治ったし」
「それは良かった・・・・・これ、逃げ切れるかな?」
<わかりません。シドはメタルアントとかなり接近しました。高濃度のフェロモンを浴びていると推察します>
「ん?どういうことだ?」
「メタルアントってフェロモンを分泌して敵対者にマーキングするらしいんだ。それが結構遠くまで届くらしいんだよね。だから出来るだけ距離を取りたかったんだけど・・・」
<T6に乗り込んだことで現在車外へと拡散されることはありませんが、ある程度の距離までは追跡されるでしょう。このままミナギ都市へと撤退すれば、メタルアントを都市へと案内する事になり兼ねません>
メタルアントはしつこい事で有名なモンスターだ。ただ距離を取っただけで逃げ切れればそこまで有名にはなっていないだろう。
ライトは追跡されている事を考慮し、ミナギ都市とはズレた方向へとT6を走らせる。
今の所索敵機にもシドの感覚にも追跡されている様子は無い。今のうちに先程の戦闘で消費したエネルギーと弾薬を補給しておくことにする2人。
荷台の方へ移動し弾薬庫から拡張弾倉を取り出しツールボックスに突っ込んで行く。
ちなみに弾薬補給用の拡張カートリッジはツールボックスの登場によりお役御免となり、車に積みっぱなしにされている。
2人は運転室に戻り、車の中に買い込んでいた弁当を食べながらこの後どうするかを考える。
普通の荒野車とは違い、唐澤重工の手によってかなりの気密性を持ったT6ならばシドの付着したフェロモンは外には漏れないだろう。
今の時点で巣があった場所からは20km以上離れている。普通に考えればもう追っては来ないと思われたが、念のために後1時間程このまま走り、何も無ければ都市に帰ろうと言う事で話がまとまった。
「でもさ、此処辺りで1時間も走ってればモンスターと遭遇しない訳ないよな」
「そうだよね~」
「その場合、俺が外に出ても良いのか?」
「・・・・」
<ダメですね。シドが野外に出ればフェロモンが拡散します。有効範囲が分からない以上、都市に戻って洗浄するまでは車外へ出ないでください>
「・・・・ならボクだけで相手する必要があるわけだね・・・この車の装備があったら何とかなると思うけど」
「・・・マジゴメン・・・・」
「もういいよ。次・・があるか分からないけど気を付けてよ?」
「・・・はい」
シドはライトに負担を掛ける事を申し訳なく思う。訓練を付けていた時は「油断すれば死ぬ」と口酸っぱく言ってきたと言うのにこの体たらくだ。
最近強くなったと言う自信が過信に変わってきているのでは無いか?まだ装備も整っていない頃の自分ならば、あんな軽率な行動は取らなかったはずだと自分を戒める。
眉間に皺を寄せそう考えていると、T6の通信機に救援要請が送られてくる。
『だれ・・・・か・・・・・・か!・・・・・・・・こちらミナギ・・・・・オフィ・・・・・・巡回部隊!!!モ・・・ターのたい・・・・・・いる!!!』
通信状況が悪いのか言葉は途切れ途切れだが、声から切羽詰まっていることは容易に察せられた。
シドは直ぐに通信をオープンにし返答を返す。
「こちらチームスラムバレット。現在地を送れ」
『・・・・・た!!すぐに・・・る!!』
相手の返答があった直後、彼らの現在地と走行予定ルートが送られてくる。
「ちょっと遠いね。全力で飛ばして10分くらいかな」
「よし、向かおう・・・・スラムバレット了解。10分で到着する」
『わかった!!はや・・・・・くれ!!』
「ライト、飛ばしてくれ」
「了解!」
ライトはT6のスピードを上げ、救援要請ポイントまで急いで向かうのだった。




