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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
171/214

久しぶりの探索 1

翌日、日も昇らぬ内から車の中で目を覚ましたシドとライト。

車に大量に積まれている食料で腹を満たし、今日の予定を話し合っていた。

「今日はどうする?」

「うーん、巡回依頼くらいしかないんだよね~。遺跡に行くにも日帰りは難しいみたいだし」

「そうなのか?近場にも点在してただろ?」

「そうなんだけど、大体は漁り尽くされてて真面な遺物は残ってないか、環境が悪くて探索には向かない所みたいだよ?ただモンスターを狩って常時討伐依頼で稼ぐなら巡回依頼の方が実入りがいいし」

「う~ん、実入りはどうでもいいじゃん・・・いや多いことに越したことないけどさ、最近戦闘ばっかりで探検してないだろ?俺は冒険したい!!」

「冒険ね~・・・・」


シドはダゴラ都市での襲撃事件以降、遺跡探索をやっていないのが不満な様だ。

地下シェルターも探索というより戦闘よりの内容だった為カウントしていない様子。

ライトはシドの希望を汲み取り、近場で探索できそうな遺跡を調べる。

「ここなんてどう?」

ライトが情報サイトをシドの視界に表示させ、遺跡の内容を見せてくる。シドは内容を一読すると笑顔で頷いた。


弁当の空箱などをダストボックスに片づけ、車を走らせ荒野へと飛び出していった。



クラブ88


この店は午前0時あたりから客が増え、常連達が最後の〆目的や他の店のキャストを連れてやってくるのだ。一応の閉店時間は午前2時となっているのだが、客がいる限り店を開け続ける為、他所の店で飲んだ宵っ張り共が小腹を満たそうとやってくる。

スナックと言い張っているが店の稼ぎ方が最早食堂である。

そして後1時間もすれば日が昇るという頃、最後の客が帰っていく。


「ふ~、今日もこれで終わりやな~」

「そうやな。片付けてさ帰ろか」

「その前にエミルちゃんの様子見てくるわ。結構騒がしくしてたからなぁ」

ママはそう言い、奥の部屋へと入っていく。

マスターはその間に洗い物などを済ませようと自動洗浄機にグラスや食器を放り込んでいった。


「イデアちゃん、あの子ちゃんと寝てるか?」

奥の部屋に入ったママは小声でイデアに話しかける。

「はい、問題ありません」

「良かった。結構騒がしくしてたから気になってたんよ」

流石に赤子が居るからお静かにとは言えない。

そんな事を言えば、なぜ夜の店に赤子が居るんだという事になってしまう。

この部屋は従業員用である程度の防音が施されているが完璧とまでは言えない為気になっていたのだった。

「はい、私の方で防音シールドを張っておりますのでエミルが起きる事はありません」

「・・・ほんまに高性能やな~。ウチにも1人欲しいくらいやわ」

「私はこの大陸でもトップクラスの性能を誇っていると自負しております」

ママの言葉に自慢げに胸を逸らすイデア。

その様子を見て少し笑ったママはシド達の事を考える。

最初に見たときは登録したての新人ワーカーだと思った。特にシドは安物の防護服を着用していたため、ランク50のワーカーライセンスを見せられた時は偽造を疑ってしまったくらいだ。

しかし、今日店に現れたシドの格好はガラリと変わっていた。

安物の防護服から今まで見たことが無い高価そうな防護服になっており、話の流れで値段を聞いてみると7500万コールだったという。

一般人ではお目にかかれない大金に、ママは口に含んだビールを吹き出しそうになったのだ。


目の前のイデアもそこら辺のお手伝いロボットとは全くの別物だろう。

ここまでスムーズに会話ができ、子守を完璧に行えるロボットが存在していた事すら知らなかった。

(イデアちゃんもめっちゃ高いんやろな~)

そう値段を想像するママ。

イデアは旧文明 三ツ星重工の軍用AIと武蔵野皇国製ボディーのハイブリッドだ。まさしく世界にただ一つのワンオフ機なのは間違いない。

値段を考えるだけ無駄という物だろう。


「ママ。もうお店は閉店ですか?」

「ん?そうやで」

「この店に複数の生体反応が近づいています。周りの店舗の状況から目的はこの店で間違いないと思われますが、いかがいたしましょう?」

「・・・」

幾ら宵っ張りの店とはいえ、この時間から来客があるなどとは考えにくい。何か面倒事でも発生したか?とママは考える。

「・・・・イデアちゃんはエミルちゃんと一緒に隠れといて。私らが対応するから」

「承知しました。お気をつけて」


ママが店舗の方へ戻ると、入り口から数人の男たちが入ってきてマスターが対応していた。

「すみません、もう閉店なんです」

「ああ、今日は客として来たわけじゃない。俺たちは玉藻組のモンだ。少し聞きたいことがあってな」

「玉藻組?それはそれは・・・・それで聞きたい事とは?」

「この店にダーマってワーカーが出入りしてるだろう?それと若い駆け出しみたいな恰好をしたワーカーもな」

「・・・・・お客さんの事はあまり話す訳にはいかんのですが・・・・」

「それはそうだろうな。だが、この町で店を構える時のルールは知っているだろう?俺達に対する情報提供の義務がある」

「・・・・・・」

マスターは顔をしかめて黙り込む。

確かにこの歓楽街で店を構えるには玉藻組の許可が必要だ。その条件の中に先ほど男が告げた内容も含まれている。怪しい雰囲気がある人物の情報提供なら治安維持のために協力する事に抵抗は無いが、常連とその連れとなれば話は変わってくる。

それに今のダーマは面倒事を抱えている。

万が一エミルに危害が加わる様なことになればダーマにもシド達にも顔向けできない。

マスターが黙ったままでいると、男は少し表情を緩め事情を話し始めた。

「そんなに警戒しなくてもいい。この前あのガキのワーカーが俺達の縄張りの中で揉めたって話の延長だ。あのガキがぶっ飛ばしたヤツ等が北側を縄張りにしてるアンダースネイクって組織の連中みたいでな。それからこの地区でもウロチョロしてる構成員が目撃されてる。声をかけても遊びに来てると言われるとコッチもそれ以上何もいえね~。なんで、直接関わりのある連中から話を聞きたいだけだ」

「・・・その話にダーマも関わっていると?」

「ああ、調べたところ、最初にアンダースネイクの連中と揉めてたのがダーマだったらしい。殺られそうになっていた所を助けたのがあのガキだったみたいだな」

その件もダーマとシドから聞いた話と一致している。

流石は歓楽街を支配している組織だ。かなり良く聞こえる耳を持っているようだ。

「ワーカーオフィスに行こうにも俺達じゃあいつらの連絡コードを教えてもらえねーだろう。だからあいつ等が溜まり場にしている店に頼もうと思ってな」

「・・・そういう事ですか。シド君達の連絡先はわかりませんが、ダーマとは連絡が取れます。そちらに伺うように伝えておきます」

「ああ、助かる。そのシド?ってヤツにも伝えておいて欲しい」

「承知しました」

マスターはそう言うと深く頭を下げて男たちを見送る。

扉に鍵をかけ、振り返るとイデアが奥の部屋から出てきており、ママの隣で浮いていた。

「シドには私の方から連絡しておきます。マスターとママはそろそろお休みください」

「そうしてくれるか?片付けも終わったし、私等は寝かせてもらうわ」

「はい、おやすみなさい」


2人がプライベートスペースに上がっていくのを見届け、イデアはシドとライトに念話を送るのだった。





スラムバレット視点


2人は荒野を駆け抜け、ライトが調べた遺跡のポイントにまでやって来た。

資料には比較的近くにある遺跡だが、環境が厳しく危険が多い割に遺物の発見例が少ない為ワーカーの調査がほとんど行われていない遺跡と記載されていた。


「う~ん、地下にあるって情報は読んだけど・・・・まさかこうなってるとはな」

「映像資料も無かったからね。ここをワイヤーを使って降りて行くのは骨だろうなー・・・」


2人は地下遺跡と言う事で、キョウグチ地下街遺跡のような感じを想像していたのだが、この遺跡は違っていた。


地面に大きな亀裂が生じており、一番広い所の対岸との距離は200mはあるだろう。

この亀裂は捻じ曲がりながら10kmほど続いているらしく、崩落の危険もある為他のワーカー達はほとんど近寄らないポイントになっているようだ。

そして、件の遺跡はその亀裂の中にあった。


下を覗き込むと、60mほど下の部分に地割れが発生した際に引きちぎられたのだろう。施設の連絡通路のような物とへしゃげて今にも崩れ落ちそうになっている建造物の残骸が見える。

シドは強化された目でよく見てみると、今見えていた遺跡の下にも同じような建造物が見受けられ、かなり階層が連なっていることが分かる。

「結構深いな」

「そうだね」

ライトは亀裂の角を手で握り力を籠める。

長期間風にさらされた地面はカラカラに乾燥しており、簡単に毟り取ることが出来た。ライトはそのままグッと握りしめると、拳の中で粉々に砕け散ってしまう。

「これはアンカーを撃ち込んだりしてもすぐに崩れるね。車に繋いで降りていこうにも周囲100m以内の駐車は危険・・・っと」

ライトは亀裂が不自然に広がっている箇所に目を向ける。

この辺りの地面は非常に脆くなっており、重量のある車両や機材を亀裂の近くに設置すると崩落を起こす危険が高い。

その為、100m以内に車を止めることは推奨されていない。

と、ワーカーオフィスの追加情報に書かれていた。


それと、この遺跡が嫌厭される理由がもう一つ。

今まで下を覗き込んでいたシドが起き上がりライトと一緒に後ろに下がった。すると、亀裂の中からかなりの勢いで突風が吹きあがって来る。

「・・・・・・・俺の体重くらいだったら飛ばされるな・・・これ」

「そうだね・・・・それに、温度も異常に高いよ?計測したら78℃ってなってる」

「下にマグマでも溜まってんのか?」

<マグマかどうかはわかりません。しかし、高温のエネルギー源があることは間違いないでしょう>

「「・・・・」」


高低差60m地点にある遺跡、脆い地面、不定期に噴き上げる高温の突風。

この3点に加え、遺跡の発見率が低い。

誰もこの遺跡に潜らないのも納得である。

「どうする?」

「まあ、行くだけ行ってみようか。突風も高さも俺達にはあんまり関係ないし」

シドはそう言うと亀裂の中に飛び込んで行く。

ライトもシドの後に続き地面を蹴った。


亀裂の内部に落ちて行きながらシドは遺跡の様子を観察した。

遺跡の最上階に当たるであろう部分は1つの階層を真っ二つに千切った様な感じになっているが、その下は所々千切られた通路の様な物が見えるだけで、露出している所は少ない。

点々と四角い壁が見えるだけで侵入できる場所は一番上の部分が最も多そうだと感じた。


目的の高さまで降りてくると、シドは足元にシールドを発生させて着地。

ドン!と周りの空気を振動させ、シールドはシドの体重を完全に支えることに成功する。

<この防護服、ほんとにいいな>

<前までの物では今の衝撃に耐えるにはもっとエネルギーが必要でしたからね>

シドはシールドの上に立ち上がり、上を見上げる。

すると、ライトは器用にシールドの上を滑る様にやってきてシドの隣で静止した。

「お前ほんとに器用な事するよな」

「地下シェルターのロードベアリングで思いついたんだ」

ライトはセントラルが管理する地下シェルターの移動装置を参考にエネルギーシールドでの移動方法を独自に編み出していた。

2枚のシールドを至近距離で発生させるとお互いに反発する現象を利用し、体の動きと関係なく高速で移動する事が可能になっていた。

人体が動く前の筋肉の強張りや予備動作が発生しない為、この移動方法を使われるとライトの動きが非常に読みづらくなる。

地下シェルターで行ったデンベの部下達との模擬戦で、ライトはこの技術を使い高い勝率を得ることに成功する。

彼らがこの技術に慣れてくると簡単に勝つことは出来なくなったのだが、喜多野マテリアルの上級兵に勝率6割を叩き出した時点でこの技術の厄介さが分かる。

シドも正直今のライトと戦うのは勘弁願いたいところだ。



「・・・・何もないな」

「そうだね~」

遺跡の最上階と思われる場所に入り込んだ2人。

取りあえず探索してみたものの、目ぼしい物は何もなかった。

「他のワーカーが根こそぎ持ち出したんだろうな」

「下に繋がってそうな階段もないよ」

遺跡の内部は真っ暗になっており常人では1m先も見通すことは出来ない。しかし、シドは強化された目と感覚器官で、ライトは情報収集によって周りの情報は把握していた。

所々天井や壁が崩れ落ち、土砂で埋まっている通路があり探索できる範囲はそれほど広くは無い。

下にも建造物が見えた事から下に繋がる場所があるのでは?と探しているのだがそれすら見つけられなかった。

「そりゃ~誰も来ねーよな・・・これじゃ~」

「下を探索するなら外から降りるしかないね」



元来た道を戻って行き、最初の入り口まで戻って来る。

閉じられていた扉を開き、外に繋がる部屋へ出た瞬間。あの突風が部屋の中へ吹き込んでくる。

2人は急いでシールドを展開し風をやり過ごそうとするが、部屋の中を豪風がかき回しシド達の体を吹き飛ばそうとしてくる。

シドはシールドを張ったまま床に指をめり込ませしがみ付き、ライトは身を低くしてシールドの反発を利用し体を床に押さえつける。

20秒ほどその状態で耐えると風が段々と弱まり立ち上がる事が出来るようになった。

「確かにこれは難所だよな」

「うん」

この部屋に一切物が無かった理由はあの豪風の影響なのだろう。

人を引き飛ばす程の風が吹き荒れるのだからそれも当然と言える。


風も完全に収まり、もう大丈夫かと考えていると2人は岩壁伝いに近づいて来る気配を感じ取った。

壁から何から全て吹き飛ばされ、向こう側の岩壁が見える出口に目を向けると1体のモンスターが部屋の中に這い上がって来た。


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