表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
168/212

シドの新しい防護服

シブサワを追いかけ、ワーカーオフィスの倉庫にたどり着く。

その奥へと進んで行くと、カバーが内側から破壊されたケースに収められたオートマタが保管されており、その前にはあの奇行男の姿があった。

男はオートマタに向けてサーチを行っているらしく、こちらが接近しても意に介さず作業を進めていた。


「ナギさん、少し宜しいですか?」

シブサワが声を掛けるも、ナギと呼ばれた男は意に介さず作業を進める。

「ナギさん!よろしいでしょうか!」

少し大きな声で再度シブサワが声をかけると、ナギと呼ばれた男はうっそりと振り返った。

「なんですか?ええ~っと営業の人。私は今忙しいのです」

荒野で見た時と同じように、白髪交じりのボサボサ髪と無精ひげを生やした男だ。顔にはゴーグルをつけており面長の顔立ちをしている。

しかし、意外に身長は高く、体つきもしっかりしていた。

「・・・私はシブサワです。いい加減覚えていただきたいですね。それと、紹介したい方がいます」

「そうそう、シブサワさんでしたね。それで?紹介とは?」

「こちらの2人です」

シブサワはシドとライトを手のひらで差し、ナギに紹介する。

「シド様、ライト様、彼は我が社の研究開発部のチームリーダーをしているナギと申します。ナギさん、彼らが例の銃を弊社に送ってくださったワーカーですよ。お礼をしたいと言っていたでしょう?」

「・・・・・・・・・・?・・・・・ああ!!!あのエネルギーガンの!」

最初は何のことか?と言った顔をしていたナギだったが、エネルギーガンの事を引き合いに出され輝くような笑顔をシド達に向けてきた。

「始めまして。私はナギと言います。この前は素晴らしい物を弊社にお任せいただき誠に感謝しておりますよ」

そう言うとツカツカとシドに近寄り、手を握るとブンブンと振る。意外に握力も強い。

「あ、はい、どうも・・・・」

「いや~中々興味深い遺物でした。経営層からの邪魔さえ入らなければもっと早く解析が終わっていたと言うのに・・・・今は解析した技術を使って新しい兵器の開発に乗り出している所ですよ」

「ああ、そうなんですね・・・・」

「全く・・・若手が数人倒れただけで研究資材を取り上げようなどと、科学の発展への妨害以外の何物でもないと言うのに・・・・」

年齢も数も関係ない。

倒れた事が問題なのだ。管理側からすればブレーキを掛けるのが当然という物だろう。しかし、彼らは経営陣に対して裁判まで行っていたと聞いている。

シブサワの名前も覚えていない所を見ると、研究以外の事などどうでも良いと考えている口だろう。

「ええっと、研究者って言う割には結構力強いですね」

シドは疑問に思った事を聞いてみる。

シドの印象では研究者と名の付く者達はひょろひょろのイメージがあった。

「研究も体力勝負ですからね。資材を運んだり持ち上げたりするにはどうしても腕力は必要になりますし体力は必須条件ですよ」

そう言われるとそうなのだろうかと思えてくる。

しかし、中央崇拝者のアジトでみた研究者達はもっとぺらっぺらな体をしていた様な?とシドは内心首を傾げた。

「それは弊社基準での話です。採用試験に頭脳や知識だけでなく体力試験もありますので」

シブサワは苦笑い気味に説明を行ってくれた。

「さて、挨拶も終わらせましたし、買い取り交渉も上手くいったのでしょう?そろそろ搬出を開始しましょうか。シブガキさん。車をここへ」

「シブサワです・・・はぁ~、わかりました」

シブサワは端末を操作すると、唐澤重工の車が倉庫の奥からやってくる。

後部扉が開くと、数人の男たちが下りてきてオートマタが入ったケースを抱え上げ車の中に入っていった。

「それでは、我々は先にお暇させていただきます。2人共、また何か面白そうなモノが手に入ればよろしくお願いします」

ナギは自分の話したい事だけを離すとそそくさと車に乗り込み、颯爽と倉庫から出て行ってしまった。

その様子を呆然と見送るシドとライト。

その2人にシブサワは頭を下げて謝罪をしてくる。

「本当に申し訳ありません。私としてはあまり気が進まなかったのですが、エネルギーガンの事でお礼がしたいと頻りに頼まれていたもので・・・・・・なんでも、荒野でもお二人にご無礼な振る舞いを行ったとか・・・・重ねて謝罪いたします」

「ああ、いいですよ。別に気にしてませんので」

「たぶん、ボク達と荒野で会ったことも覚えてないんじゃないかな?」

「そうだろうな。初めましてって言ってたし・・・・」

2人の様子にシブサワは更に腰を曲げて頭を深く下げる。

「誠に申し訳ありません。後できつく言っておきますので」

「いえ、いいですよ。いい装備を作ってくれれば」

「そうですね、ボクもそれでいいです」

シブサワの態度に2人は更に申し訳なくなってくるが、これ以上謝罪するのも2人の気分を害する恐れがある。

「そうですか、それではお言葉に甘えさせていただきます・・・・・・ところで」

上半身を戻したシブサワは、また営業スマイルを浮かべてシドを見る。

今度はなんだと身構えるシド。

「シド様。防護服はどうされたのでしょう?先の戦闘でもその簡易防護服で行っていた様ですが?」


シドは地下シェルターで大型オートマタとの戦闘で防護服を失ったままだったのだ。キクチに頼んで取り寄せてもらった簡易防護服を着こみ、今まで過ごしていたのである。

シド自身の戦闘能力と防御力が桁外れに高いため、あまり気にしていなかったのだが、ずっとこのままと言うのも問題がある。

今の見た目では、安物の防護服にハンドガン2丁と双刀という、装備選びに失敗した新人ワーカーにしか見えなかった。

「あ~・・・DMDはミナギ都市に来る前に壊れちゃって・・・」

「なんと・・・・弊社の防護服に何か不具合が生じましたか?」

眉を寄せながらそう聞いてくるシブサワ。

「いえ、DMDが無かったら死んでたと思います。ありがとうございました」

確かにDMDの防御力とエネルギーシールドが無ければ、あの大型オートマタの砲撃で取り返しのつかないダメージを負っていただろう。その事を思い出し、シドはシブサワに礼を言う。


その言葉を聞いたシブサワは、ほっとした表情を浮かべ、


「そうでしたか。お役に立て嬉しく思います・・・・そこで、今シド様にオススメしたい防護服があるのですが如何でしょうか?」


と、商談を持ち掛けてきたのである。





まさかこのタイミングで商品を進めてくるとは思っていなかったシドとライトは呆気にとられる。

しかし、シブサワは直ぐに指示を飛ばし、商品が積んである車を倉庫に呼び寄せる。車の中から一つのケースを持った社員が下りてきてシブサワに渡した。

「こちらが今回オススメします。DMD 335 RBの後継になりますDMD SV5です」

シブサワは端末でホロを表示させ、DMD SV5の説明を行っていく。

前バージョンに比べて更にスリムな形状になり、神経伝達情報の読み取り速度と即応性も向上、炭素繊維と合金繊維を組み合わせ物理防御力はそのまま軽量化を実現。

シールド発生装置複数を埋め込み多様なシールドを展開できるようになったとの事。

物理防御力を兼ね備えたシールドスーツといっていい防護服であった。

「先の戦闘を観させていただいた所、この防護服であればシド様の動きを阻害する事無く、防御力を高められるはずです」

と、にこやかな営業スマイルでプレゼンを終了するシブサワ。

「・・・ありがたいですけど・・・準備が良すぎません?」

「どうしてココにそんなおあつらえ向きな防護服が?」

シドとライトもシブサワの準備の良さに不審そうな表情を浮かべる。

「実は私たちはダゴラ都市に商品のプレゼンに向かう最中だったのですよ」

なぜ今シブサワが防護服を持っているのかと言う事を説明し始める。

何でも、今ダゴラ都市では中央崇拝者のあぶり出しの真っ最中との事。喜多野マテリアルから多額の報奨金が出され、周辺都市の高ランクワーカー達がこぞって参加しているらしい。

そちらにある程度の目途が立てば、ダゴラ都市周辺の高難易度遺跡の攻略に乗り出すと予想されている。

ダゴラ都市は喜多野マテリアルが直接管理する事になり、探索報酬や遺物の買い取りなどの不安も無い為、装備の交換も早まるであろうと予測される。

この商機に乗り遅れまいとシブサワは営業マンチームを率いてダゴラ都市に向かっている最中だった様だ。

「なるほど。でも、ここでその防護服売ってしまっていいんですか?プレゼン用なんですよね?」

ライトがそう聞くと、シブサワはさも当たり前の様に良いのだと答える。

「大丈夫です。複数持ってきておりますし、本当に必要とされる方に着用してもらった方が防護服も本望でしょうから」

何の問題もないと言い切り、「どうです?」と薦めてくるシブサワ。

「そういうことなら・・・値段はどのくらいになりますか?」

「おっと、私としたことが。DMD SV5はケースも含めて7500万コールとなります。最前線とまでは行きませんが、マグダラクオリティーズ社の管理区域の中域までなら十分に通用しますよ」

マグダラクオリティーズ社とは喜多野マテリアルの東方に管理区域を持つ6大企業の一つだ。

東方最前線の一部を担っており、特に大型兵器の製造に力を入れている企業である。

「・・・・・・試着してみてもいいですか?」

「はい、もちろんです」

此処にはガンスみたいにアドバイスをしてくれる者もいない。試着もせずに唐澤重工製の商品を買うのは流石にリスキーだと判断した。

シドは来ていた簡易防護服を脱ぎ、展開されたケースの前に自立するDMD SV5の前に立つ。

着用方法はDMD 335 RBと変わらないらしい。

前の物は金属パーツがパカっと開いていたのに対して、こちらは布が開くように前面が開き、シドを受け入れようとする。

シドがその中に入ると、自動で開放部が閉じシドの体に密着する。

体を動かしてみると何処にも違和感は無い。シールドを発生させてみてもスムーズに展開でき、シド自身の生体シールド以上の強度を持っている様だ。

「どんな感じ?」

様子を見ていたライトがシドに聞いてくる。

「うん、凄く体に馴染むな。重さも全く感じないし、動きも阻害しない。前の奴は全力で動くと挙動がちょっと遅れ気味だったけど、これなら大丈夫そうだ」

シドは試しに生体電気を使用し、倉庫の中を走ってみる。

この狭い空間の中で全力で動く訳にも行かないが、ある程度の性能はつかめるだろう。

シブサワの目にはいきなりシドが消えた様に見えた。

何処に消えたのかと少し慌てながら辺りを見回すが、何処にもシドの姿は見つけられない。少し空気の揺れを感じ視線を戻すと、シドは元の場所に立っており、嬉しそうにはしゃいでいた。

「良いなコレ!軽いし薄いからか空気を避けるのも楽だ!シールドを体の表面で発生させると圧迫感があるけど、これくらいなら問題ない」

「それって空気の流れに沿って動くっていう技術?」

「そうそう!前のヤツだとどうしても引っかかりがあったんだよ!うん!気に入った!」

シブサワからすれば2人の会話がなんだったのか理解できなかった。しかし、自社の製品が満足されたということだけはハッキリとわかる。

「ご満足いただけて何よりです」

そう営業スマイルを湛え、シドからライセンスを受け取り、決済を終わらせる。


「その脱着機能いいな~。ボクのは一々脱ぎ着しないとダメなんだよね」

ライトは自分のシールドスーツを引っ張りながらそういう。

ライトのシールドスーツは体にぴったりと張り付くタイプの物だ。解除スイッチを押せば緩むのだが、DMDの様に勝手に開いたり閉じたりはしてくれない。

そのボヤキを拾ったシブサワは更なる商機を目を光らせる。

「もう少しお待ちいただけましたらライト様にピッタリのシールドスーツをご用意できますよ」

「え?」

まさか聞かれているとは思ってなかったライトがシブサワに目を向ける。

「現在新しく開発されたナノ技術を使用したシールドスーツで着用感もさることながら、物理防御力も保持しシールド発生能力も飛躍的に高めた物が開発されています。」

「開発中って・・・結構時間かかるんじゃないんですか?」

シドはそう質問するが、

「いえ、基本技術は出来上がっており、着用中の安全性も確保しております・・・・ただ、今の段階ですと戦闘中に制御部が破損した場合自動的にパージされてしまうので・・・・流石にこのままリリースは出来ないと開発部に突き返したのです」

開発部はそのままリリースするつもりだったらしい。

ライトも戦闘中に素っ裸になるのはごめんである。

「その問題も解決策は確保できているとの事です。それほどお時間はかかりません。ご検討を頂きたく」

「あ、はい・・・・ま~、データを頂ければ・・・」

「承知しました。完成次第、直ぐに送らせていただきます」

シブサワは腰を深くおりお辞儀をする。

「それじゃー、俺達はもう行きますね」

「はい、これからのご活躍もお祈りさせていただきます」

未だ頭を下げっぱなしのシブサワに背を向け倉庫から出て行く2人。


この後はクラブ88に行ってイデアとエミルの様子を確認し、ダーマにドンガがこちらに向かって来る事を伝えなければならない。

何事も無く4日が過ぎれば、彼らを都市の外に見送り、なんの憂いも無くワーカー活動に邁進できるというものだ。

そう考え、拠点を何処にするやら内装はどうする等を話し合いながらワーカーオフィスを去っていくシドとライトであった。





シブサワ視点


「良かったんですか?プレゼン用のSV5を売ってしまって・・・」

車の中、シブサワの部下である社員がそう尋ねてくる。

「もちろんです。スラムバレットのシド様が着用している。その事実こそが最も有効なアピールポイントになるのですよ」

上機嫌で部下の質問に答えるシブサワ。

ダゴラ都市にはA60の件からシドに対抗心を持っているワーカーは意外に多い。

原因は間違いなくシブサワだ。

低ランクのワーカーが使いこなしていたと盛大に煽り倒してワーカー達のプライドを刺激し、今までほとんど売れなかったA60を買わせたのだから。

今回の防護服も同じようにすれば間違いなく売れる。

ブルーキャッスルと中央崇拝者の襲撃事件を宣伝材料に営業を掛けた所、今までほとんど売れていなかったダゴラ都市から注文が入って来るようになったのだ。

その上、ライトのシールドスーツも手掛けることが出来ればさらに注文を取れる可能性が広がるだろう。

シブサワは2つの端末を使いながら、今回のプレゼン内容の修正と、シールドスーツ開発陣へ問題解決を急ぐように注文を付けて行く。

(スラムバレット様様です。これからも大いに活躍を期待していますよ)


現在、動乱の真っただ中にあるダゴラ都市に、シブサワは商戦と言う名の戦いに挑む為、全力を尽くすのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
イデアとは絶対に会わせてはいけない人物ですね
商売もまた実弾(現金)が飛び交う戦場と。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ