身代わり候補現る?
ダーマの口から、以前一緒に遺跡探索を行ったワーカーの名が飛び出てくる。
彼・・・・彼女はヤシロ達と行動を共にしていたフリーのワーカーであるドンガだった。
「ん?・・・・ドリーさんの事か?」
「・・・・・え?・・・・妹?」
シドとライトの反応を見て、ダーマは2人がドンガと面識があるのだと理解した。
「ああ、妹と言わないとキれる。アイツとは面識があったんだな」
「まあな」
シドは以前キョウグチ地下街遺跡の調査チームに入り、一緒に探索を行った事をダーマに教えた。
「そうか。まさかランク50を相手にワーカーの心得を教えられるくらいになっているとはな」
「いや・・・あの時は30くらいだったし。先輩だからな・・・・とにかく、明日ワーカーオフィスに行って連絡取ってみるよ」
「よろしく頼む」
3人はクラブ88を後にし、車内で睡眠をとる。
翌朝目が覚め、全員それぞれ行動を起こすことにした。
「俺は少し欺瞞工作をしてから巡回任務で稼ぐことにする」
ダーマはシド達から貰った銃と弾丸が入ったバックパックを担いでいた。
「おう、気を付けろよ」
「ああ。このバックパック、本当に貰っても良いのか?かなり高い品の様だが・・・」
「俺達はもう使わないからな。中古で売るよりも知り合いに重宝された方が俺達はありがたいからな」
「そうか、また何かあったら連絡させてもらう」
ダーマはそういうと、昨日の賑わいが嘘の様に静まり返った繁華街の奥へと消えていった。
「んじゃ、ライトも頼んだぞ」
「うん、シドさんも気を付けてね」
「わかった」
シドとライトはここで別れ、シドは第2防壁の中へ、ライトはガンショップへ弾薬の補充に向かう。
シド視点
シドは門へたどり着き、昨日と同じやり取りを行う。
今日は1人の為、すんなりと通行が許可され門の内側へと入ることが出来た。
第2防壁を越えると、外のスラムとは違い、整えられ非常に清潔感のある街並みになっている。
「こういう所はどの都市でも同じなんだろうな」
シドはそう呟きながら上を見上げる。
周囲には防壁と同じくらいの高さまで延ばされた建物が立ち並び、その隙間からしか空を仰ぐことが出来ない。
「なんか、ちょっと息苦しいか?」
何処か圧迫感を与えてくる街並みに、シドは少し顔を顰めワーカーオフィスに向けて歩き出す。
ライト視点
ライトが買い物を終わらせガンショップから出てくる。
幸いにもミナギ都市のスラムでは通常兵器の弾丸は全てそろえる事が出来た。ここは他都市から移動してきたワーカー達が弾薬を補給する場所として重宝されており様々な銃器や兵器の弾種にも対応しているようである。
ライトはこれ幸いにと、今後何があるか分からないという事で店の在庫を全て買い漁るくらいの勢いで弾丸を買い込み、自分のツールボックス内や腰に付けた拡張カートリッジにも弾薬を満タンに補給したのである。
店員も驚くほどの量を買い込み、車に取り付けられている兵器の分もタンマリ買い込んだのであった。
「流石にELシューターの弾は売ってないか~・・・・まあ仕方ないよね」
流石に唐澤重工の変態兵器の弾丸までは売っていなかったようだ。
しかし、撃った弾数はまだ1発だけ。まだまだ在庫には余裕がある。
「あれを撃ちまくる状況にだけはなりたくないな~」
独り言をボヤキながら店員が車に弾薬を補充している風景を眺めていたライトに声を掛けてくる者が居た。
「ずいぶん景気が良いな小僧」
その声にライトは振り返る。そこにはニヤニヤと笑いながら立っている人相の悪い男たちが4人、ライトと車を眺めながら立っていた。
ライトは瞬時に相手の戦力を計算する。装備や立ち振る舞いなどを換算すれば、自分1人でも制圧できるレベルだと判断した。
「まあね。ここに来るまでに結構使っちゃったから補充しとこうかと思って」
ライトの言葉に男たちは全員がライトの方へ視線を固定する。
「ふむ・・・隙がねーな。これなら大丈夫だろう」
男の表情がにやけ面から真剣な表情へと変わる。
「何か用?」
「まあな。お前、この都市に来たばっかりだろう?」
「そうだよ」
「この都市の第3区画・・・・あの大通りを超えた区画辺りには行かねーこった。実力的には問題無さそうだが、ヤベー連中がウヨウヨしてやがるぜ。面倒事に巻き込まれたくなかったらあっちには行かない方が良い」
「・・・・そうなんだ。ご忠告有難く受け取っておくよ」
「おう、初めてのヤツがここに来て最初にやらかす失敗だからな。この町で見かけねー奴を見つけたら忠告してるんだよ。もし仲間がいるなら教えてやってくれ」
「・・・わかった。ありがとう」
「ん。じゃーな、良き探索を」
男たちはそう言うとガンショップの中へと消えていった。
その後ろ姿を見送ったライトは少しポカンとした表情を浮かべていた。
<いい人だったね>
<予想外ですね。今度はライトが暴れる番かと思いましたが>
<・・・・そんなことしないよ?>
<相手の戦闘能力を計っていませんでしたか?>
<・・・・・・・積み込みまだ終わらないかな?>
<大量に買い込みましたからね。充填作業はもうしばらくかかるでしょう>
シド視点
シドはイデアに表示してもらっているマップを見ながら街道を歩き、ワーカーオフィスにまで到着した。
シドの目に飛び込んできた建物は、ダゴラ都市にあったワーカーオフィスと変わらない様式の様である。
<デザインは一緒か?>
<その様ですね。まあ、機能や役目が同じなら殊更建築様式を変更する意味もありません>
シドはオフィスの中に足を踏み入れると、内部の構造もダゴラ都市の物と同じである事が見て取れる。
シドは中央の総合受付まで行くと、女性職員が声を掛けてくる。
「ようこそ、ミナギ都市 ワーカーオフィスへ。どの様なご用件でしょうか?」
「スラムバレットのシドです。昨日ミナギ都市に到着しました」
シドは自分の所属と名前を明かし、ライセンスを提示する。
彼女は少し驚いた表情を浮かべ、シドからライセンスを受け取り端末へ挿入し内容を確認し始める。
「ええっと、ダゴラ都市に所属してる・・・「少々お待ちください!直ぐに担当の者に変わりますので!」」
シドはドンガと連絡が取れないか確認しようとするが、焦った様子の女性職員はシドの言葉を遮り、カウンターの奥へと駆けこんでしまった。
<・・・・なんだ?>
<わかりません>
シドは大人しくカウンターの前で待っていると、中央の柱の陰から1人の男がこちらに歩いてくる。
「始めまして。私はミナギ都市ワーカーオフィス所属のラルフ・ローレンスと申します。お見知りおきを」
男は柔らかい笑顔を浮かべシドにお辞儀をする。
「スラムバレットのシドです。どうもよろしくお願いします」
シドも釣られて頭を下げた。
「ふふ、キクチからはかなりの問題児だと聞いていましたが、少し安心しました」
笑顔のままそう言うラルフ。
「ん?キクチ?問題児?」
「はい、私は元ダゴラ都市所属でしてね。元々キクチと一緒に仕事をしていたのですよ。あなた方がこの都市に移動することになった際キクチからかなりの問題児だから注意しろと忠告を受けておりまして。私は3年前にこちらに配属になりましてね。あなた方スラムバレットがこの都市に滞在する間の担当という形になります」
(キクチの野郎・・・・なんてことを)
今までキクチをジャイアントスイングばりに振り回してきたのだから、そう言われても仕方がない。
「そうなんですか。他都市にいってもキクチが担当のままだと聞いてたんですけど」
「ええ、本来の在り方とは少々異なる対応がなされるはずだったのですが、彼は今かなり忙しいようでして私が変わることになったのですよ」
「ふ~ん・・・まあ、そうだよな」
シドはキクチに放り投げてきた案件の大きさを考え、さもありなんと考える。
「これが私のコードです。依頼の確認や質問等は私の方へお願いしますよ」
「わかりました。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
「早速なんですけど、ダゴラ都市所属のドンガっていうワーカーと連絡が取りたいんです。ワーカーコードが分からないので取次ぎをお願いしても良いですか?」
「なるほど、あちらのコードをお渡しする事はできません。ですが、シド様のコードをドンガ様に送り、連絡を取っていただくよう通知する事は可能です」
「なるほど、それでお願いします」
「承知しました」
ラルフは端末操作し、直ぐに手配を終わらせてくれた。
その手際の良さから、キクチと一緒に働いていたというのは本当なのだろう。
「他に何かございますか?」
「ん~、特には。一応キクチに俺達がミナギ都市に着いたって事だけ伝えておいてもらえますか?」
「・・・・承知しました」
「それじゃーお願いします。又何か聞きたいことができたら連絡しますんで」
シドはそう言うと、ラルフに一礼をしてワーカーオフィスを後にする。
ラルフ視点
ラルフは礼をして去っていくシドの背中を見送り、キクチから忠告を受けた内容を思い出していた。
(・・・・・問題児とは言うが普通のワーカーの様だが?確かにあの年齢でランク50とは破格に過ぎるが・・・・・)
ラルフはダゴラ都市に所属していた時、キクチとはライバルの様な関係だった。
仲が良かったのかと聞かれれば違うと言えるし、険悪な関係であったかと言われればそうでもない。お互いを意識し合う関係といった所だ。2人は同じ部署に所属し、互いに実績を積み上げ昇進を重ねていき、キクチは総務へ所属、ラルフはミナギ都市へと移籍しさらに高ランクのワーカーを担当するという道を辿ったのだ。
キクチはどうだったか分からないが、ラルフはキクチを意識していたのは間違いない。
そして、今後もさらに重要都市への移転を目論んでいた。
有能なワーカーチームを担当し、彼らに引っ張られ高ランク帯の都市へと移っていく。それを狙ってスラムバレットの担当へと名乗りを上げたのだ。
スラムバレットがこのミナギ都市に移動が決定した際、ダゴラ都市のオフィスからこのオフィスへ連絡が入った。少数であるが高ランクワーカーチームがミナギ都市へ拠点を移すことになったと。
その情報が耳に入ってすぐラルフはスラムバレットの情報収集を開始する。
オフィスの公式情報から巷の噂までだ。
公式の情報で目に触れたのは戦闘用オートマタの撃破と新たな遺跡を発見したという2点のみ。
商人などの噂では、ある行商人と懇意にしており、あの唐澤重工の装備で身を固めているというキワモノっぷりの情報を手に入れる。
年齢から考えればかなりのじゃじゃ馬に見えるが、これを乗りこなせば更なるステージに登れるのではないかと期待したのだ。
しかし、彼らの担当はダゴラ都市ワーカーオフィスに新規で立ち上げられた、イレギュラー対策部の部長に就任したキクチがそのまま継続されるとの事であり、ラルフはそこに不満を抱く。
なんとかこの状況を変えられないかと情報を漁っている途中、キクチが新規で発見された遺跡の対応中であるという情報を手に入れることになる。
ラルフは直ぐにキクチとコンタクトを取り、スラムバレットがミナギ都市にいる間は自分が彼らを担当してもいいと話を持ち掛けたのだ。
通信を繋げた時はあの手この手で交渉しようと考えていたのだが、キクチはすんなりとスラムバレット担当の座をラルフに明け渡した。
それも手続きはキクチ自ら行うと言われ、さらには感謝の言葉まで寄越してきた。
普通は優秀なワーカーチームの担当を奪われると警戒の一つもするものだが、その様な素振りすらない。
少し違和感を持ったラルフだったが、こちらの思惑通りに話が進んだのだからと深く気にしなかった。
そして通信の終わり際に、スラムバレットの行動には注視しろと、何をやらかすか分からないトラブル体質だからと忠告を受けたのである。
少し不安に思いながら彼らの到着を待っていたのだが、今しがた本人と面会を果たすことが出来た。
印象としては問題児だといわれている割には普通そうだ。
まだ少年っぽさが抜けない容姿と、ワーカーにしては小柄な体格。彼が本当にランク50のワーカーなのか?と考えたがライセンスは本物だ。
受け答えも普通であったし、問題児というのは大袈裟に言っていたのだろうと自分を納得させるラルフ。
最近は大きな事件も無く、この都市からすると平穏な日々が続いている。
ここらで一発大きな騒動でも起こってくれれば。
それに完璧に対応出来れば自分の出世は間違いない。
ラルフはそう考えながらシドの背中を笑顔で見送るのだった。
キクチ 解放