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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
16/201

ライトの訓練

次の日、シドはミスカ達の所にライトを迎えに行った。


「おはようございます。ライトはどうしてますか?」

「あ~おはよ、シド。ちょっと待っといてや~、今呼んでくるさかい」

ミスカは軽くシドに返事を返し、トラックの中へライトは呼びにいった。

しばらく待っていると

「シドさん!無事だったんですね!」

とライトがトラックから出てきた。

「おはよ、ライト。昨日の疲れは抜けたか?」

「はい、おかげさまで。ミスカさんとガンスさんには非常に良くしていただきました」

ライトは昨日、ミスカとガンスのトラックに泊めてもらっていた。渡した回復薬を服用し、昨日の疲労も完全に抜けているようだった。

「それにしてもシド。昨日はびっくりしたで。いきなり子供預かれやねんて・・」

「すみません。昨日のうちに片づけとかないとマズいと思ったんで」

「ふ~ん。ほんで、片付いたんやな?」

「はい、200万で手をうってきました」

「200万?!」

ライトは思いもよらない金額に目を剝く。

「昨日は色々あってな。おかげで宿の晩飯に間に合わなかったんだよ・・・」

昨日、ドーマファミリーとのいざこざのお陰で、シドが宿に帰ったときは食事の提供時間を過ぎており、一日最後のお楽しみを味わえなかったのだった。

よって、今日はほんのり機嫌が悪い。

「そんな訳で、お前には200万コール分以上の働きをしてもらうぞ」

「・・・・・ゴク・・・」

ライトは200万コール分の仕事と言われ生唾を飲み込む。

そんな大金見たこともない。だが、昨日ミスカ達にシドが稼いだ金額を大まかに聞かされ、それがハッタリだとは思っていなかった。

「が・・・頑張ります!」 やりきるしかない。そう意気を込めて返事をする。

シドは頷き

「よし、今日からお前の強化訓練を始める。泣き叫んでも引きずり回してやるから覚悟してろよ」

そういい。シドはミスカに向き直る。

「ミスカさん、ライトのことありがとうございました。それで、料金の方は・・・」

「ええよ、シドには儲けさせてもらってるさかい。また、ウチからなんか買っていってや♪」

ミスカは、遺物を売りに来いとは言わなかった。昨日持ち込まれた遺物の捌き先にお腹いっぱいだったのである。なぜかシドからお礼の品を持ち込まれそうな匂いを感じ、先手を打っておいたのだ。

「あ、それなら。コイツの防護服をお願いできますか?それと、モンスター用の銃で、一番反動が弱い奴も」

シドは、ライトの装備を頼む。

「え?ボクの?」

ライトはいきなり装備を買ってもらえるとは思っておらず少し嬉しそうにする。

「流石に今すぐ遺跡には連れて行かないぞ?装備をした状態で動けなくなるまで訓練するんだよ」

それがクリアできないと遺跡では生き残れない。そうシドは言った。

ライトは、自分が受けるであろう訓練の過酷さを想像し青くなる。

「安心しろ。宿までは俺が運んでやるから」

なんの慰めにもならないが、荒野基準では非常に優しい言葉をかけるシド。同じ過酷なスラムで生きてきた者でも、組織に所属していた者と、していなかった者との認識の差が浮き彫りになった。

怯えているライトを置いてシドとミスカは装備の相談をする。今はガンスが防壁内にいっており、とりあえずコレを装備すれば問題ないレベルの物を用意してもらった。


「よし、とりあえずの準備は整った。荒野に行くぞ」

「は、はい!」

ライトは今しがた購入された装備を身に着け、見てくれは駆け出しのワーカーに見えるようになっていた。

荒野に到着し、シドは訓練の説明を行う。内容は、昨日の夜イデアと相談し、最短でライトを遺跡まで連れていき、生還させられる程度まで鍛え上げるメニューだった。

岩場の多いこの場所で、装備を手放さず午前中ずっとシドから逃げ続ける。ただそれだけだった。

単純明快の内容にライトは少し拍子抜けする。だが、この訓練。内容は単純だが非常にきつい内容だった。初めて会った時、ライトは離れた瓦礫の中に隠れていたのに、シドに正確に発見された事を忘れていたのだった。

「そんな感じで、俺がお前に追いついたら攻撃する。だいたいラクーンと同じ速さで追いかけるからな。この速さに追いつかれてるようじゃ、遺跡で生き残るのは無理だと思えよ」

「はい、わかりました!」

「んじゃ10分後に始める。隠れろ」

シドはそういい、カウントダウンを始める。ライトは見つからないであろう距離まで離れ、シドの様子は伺える場所に身をひそめる。

そしてカウントダウンが終わった。


「いくぞ~」

シドはそう宣言し、地獄の隠れんぼ&鬼ごっこが開始される。

ライトは岩場の影からシドの様子を伺っていたが、シドは正確に此方に向かって走って来た。

(!!!なんで?!)

ライトは慌てて逃げ始める。

(そういえば、最初に合ったときもボクの居た位置が分かってた様だった!)

出会った時のことを思い出し、ライトは懸命に岩場を走り抜けていく。すると背後から銃声が聞こえ、背中に複数の衝撃を受け転がった。

「!!・・・・グ!!」

転がった拍子に手に持っていた銃を手放してしまい遠くに転がって行ってしまった。

「はい、一回目アウト」

ライトが振り返るとアサルトライフルを持ったシドが立っていた。

本日シドが持っているのは、ワッカから奪ったクソザコ銃にゴム弾を装填したモノだった。

「ほれ、渡した回復薬を飲んでもう一回だ」

「シドさん。銃も使うんですか?・・・・いきなりそれは・・・・」

「ラクーンはこれより強力な武装を持ってるぞ。最低でも威力は3倍、数は2倍以上だ。これでいちいちやられてたら話にならないんだよ」

そういい、ライトに回復薬を飲ませ立たせる。

「ラクーンは鼻もいいし音にも敏感だ。さっきライトが隠れていた距離なら確実に見つかる。逃げる時もドタバタと足音を立ててたら確実に追跡されるんだ。行き成り全部は出来ないだろうけど意識しろ」


ほら行け、とシドに追い立てられライトはまた隠れに行く。

今度はまず見つからない様、自分からもシドが視認できない場所に隠れやり過ごそうとするが何度もシドに見つけられ4時間ノンストップで走りまわされたのだった。


太陽が真上に到着し、一旦休憩となる。シドから渡された携帯食を口に入れるが疲労が酷く胃が受け付けない。それでも食えと言われ水で流し込み、少しでも体力を回復させようと大の字で転がった。

「回復薬も飲んでおけよ。体力自体は回復しないけど、筋肉とか内臓の負荷は治してくれるからな」

「はい。シドさんもこんなことやったんですか?」

「いや、俺は身体拡張者だからな。はじめからある程度動けたんだよ。それでも遺跡にいったら死にかけた」

「そうですか・・・ボクもワーカーの登録した方がいいんですかね?」

「お前の年齢じゃどうだろうな。俺でもかなり舐められるからな。せっかく集めた遺物を取り上げられた事もある。俺がワーカーランク10になるまでしない方がいいんじゃないか?」

「そんな事もあるんですね・・・ワーカーオフィスって公平な印象がありましたけど・・・」

「表向きってやつだろ。あそこにいる連中も防壁内の人間だ。俺たちスラム街出身の奴らなんか人だと思ってねーんだろうよ」

「・・・・・」

「でも、金さえ稼げば生きていける。ワーカーランクが上がれば防壁内に入れる。何時かは人並みに生きていけるだろう。それまでは死なないように鍛えといて損はないよ」

「・・・・そうですね。防壁の内側に・・・かぁ~。考えたこともなかったな・・・」

「現実味は出てきたんだぞ。俺、今ランク8だしな」

ライトは起き上がり、シドを見た。

「もうすぐですね。やっぱり、遺物収集ですか?でも、ミスカさん達に納品してるんですよね?」

「常時討伐依頼ってのがあるんだよ。何時何処でモンスターを討伐したって情報を提出すると評価と報酬がもらえるんだ。それでちょこちょこ上がってるんだよ」

「なるほど~・・・ボクも出来ますかね・・・?」

「これくらいでヘバってる様じゃ先は長いな。モンスターに効く武器も持たないとだしな」

「そうですか・・・がんばります」

「おう、がんばれ。んじゃ続きやるぞ」


ライトの訓練は日が沈むまで行われた。散々にボテクリ回され、身動きが取れない程疲労し白目をむいている。

宿までシドに担いで運ばれ、風呂に入れと脱衣所に放り込まれた。

ライトはワーカー御用達の風呂につかり、食事の時間まで湯船で伸びあがっていたのだった。


<イデア、ライトの調子、どんなもんかな?>

<そうですね、思っていたより順調であると判断します>

<そうなのか?まあ、最初みたいに銃を放り出すって事は無くなったけど>

<シドから逃げ回って撃墜されるまでの時間が少しづつ伸びています。このまま一週間ほど続ければ、体力的なところは十分及第点に届くかと>

<そのあとは射撃訓練だよな・・・あれ、結構難しいぞ?>

<シドの様に正確な射撃が必要になる訳では有りません。最初は牽制程度で十分です。ゆくゆくはかなりの戦力になると予想します>

<ふ~ん、大体一ケ月位を目途にするんだったか?でもまさか、ライトが隔世遺伝者だったとはね>

<正確に調べた訳ではありませんが、今日のトレーニングでの伸び率を見ても可能性は高いですね>


隔世遺伝者とは、旧文明の遺伝子が発現した者たちの事をそう呼んでいる。

強靭な身体能力を持っていたり、生まれながらに思念電波の受信体を持っていたり、大容量の記憶力を持つ副脳を持っていたりと、現代人とは違い様々な能力を持って生まれる者たちの事である。


ライトは通常の人間より身体能力が高く、情報処理に長けた副脳を持っていると推測された。

訓練次第では、並列思考も行えるようになると思われる。

複数の能力を持って生まれる隔世遺伝者は稀で、非常に貴重な存在を仲間に出来たということになる。

ライトともっと信頼関係を築けたなら、イデアの事を話し、さまざまな訓練を行ってアップデートをしていこうと考えていた。


ちなみにシドも隔世遺伝者である。

あまり目立たない能力だが、思考スピードが速く、身体操作に特化した能力を所持していた。その為コーディネイト直後であっても、時間圧縮や身体機能の調整などを直ぐに行えたのだった。

スラムの生活では日の目を見ることはなかったが、イデアと契約してその能力は顕著な効果を発揮していた。

<明日も追いかけっこか・・・もうちょい趣向をこらすのもいいかな>

<なかなかに逃げ方が巧妙になってきましたからね。このまま成長していけば二人で遺跡の奥に行くことは難しくないと思います>


宿から食事の準備が出来たと連絡があり、シドは風呂場で伸びきっているライトをたたき起こす。

二人で食堂に行き、本日の消費したエネルギーを補充する為、食事を堪能するのであった。


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