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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
153/214

ミナギ都市 到着

シド達がセントラルが管理するシェルターを出発して3日。


交互に車を運転し、昼夜問わず走り抜けて漸くミナギ都市が見える所までやってきていた。

「いや~、都市間の移動って大変なんだな」

今はシドが運転する番であったため、運転席に腰かけ遠くにぼんやりと見えるミナギ都市を眺めながらそう呟くシド。

「・・・・そうだね。初日の夜の事が無かったらもっと楽だったと思うけど」

「シドが荒野でBBQなどしようとするからです」

「悪かったよ!!でもライトだって乗り気だっただろうが!」

「まさかあそこまでの数が来るとは思わなかったよ・・・・・・」


シェルターを出発した初日の夜。シドは夕食をBBQにしようと言い出し、車の外でサバイバルセットを広げたのだった。

最初はコンロに火を点け、都市近郊では見られない満天の星の下で焼き肉を楽しんでいたのだが、その匂いに釣られたモンスターがわんさかと押し寄せてきたのだ。

2人は急いで車に戻り、ミナギ都市に向けて逃げ出すシド達だったが、モンスターはしつこく追い回してきたのである。

シドはバイクで出撃し、ライトも車の装備で迎撃を行ったのだが、夜間で活発化したモンスター達はその数を増やしていき、捌き切れなかった大量のモンスター達に丸一日追い掛け回されたのである。

このまま続けば弾薬が尽きてしまうのでは?と懸念を抱くほどの量のモンスターに追い掛け回され、巨大ワニが出現した間引き任務以上に危険な逃走劇になったのである。

追い掛けてくるモンスターを粗方蹴散らし、足の遅いモンスターを振り切った後でも車を止める気にはならず、運転を交代しながらミナギ都市までの道を駆け抜けたのだった。


「サバイバルセットも回収できなかったしよ・・・・」

「あれは仕方ないよ。それに回収できても使い道なかったでしょ?拠点が手に入ったら普通にキッチンで料理するんだからさ」

「いやそうだけども!」

「あのサバイバルセットはダゴラ都市周辺でしか使用できませんね。どうしても調理したての料理が食べたければこの車を再度改造するしかありません」

折角購入し、使う事を楽しみにしていたサバイバルセットは、使用回数がたったの一回でモンスター達に踏み荒らされてしまった。今後購入許可が下りる事も無いだろう。



ダゴラ都市を出発し、そこそこ(シド達にとっては)のトラブルに見舞わられたものの、無事にミナギ都市に到着できたのだ。細かい事は気にしないでおこうとシドは考える。


段々と近づいてくるミナギ都市の姿は、ダゴラ都市とはだいぶ違っていた。

ダゴラ都市は防壁の外にスラム街がぐるりと囲んでおり、門の所に自由市が開ける広場があったのだが、ミナギ都市は都市全体を強固な防壁で囲っている様だ。

ダゴラ都市とは違い、荒野にも危険なモンスターがうろついている為、防壁外に簡易な建物を建てても直ぐに破壊されてしまうのだろう。

防壁の上には大型の兵器が設置され、厳重に警戒されている事が見て取れる。この辺りはこれくらい備えなければモンスターの脅威に対抗できないという事なのだろう。

ミナギ都市の様相に、より難易度が高い地域に来たのだとヒシヒシと感じるシドとライトであった。

「頑丈そうな防壁だな。門も重厚に作られてるぞ」

「大型のモンスターも出てくるんだろうね。気を引き締めて行かないと」


ワーカーとして成り上がる為、腕を磨くに相応しい地に来たのだと気を引き締める二人。

漸く門の所までたどり着くと、防壁に取り付けられていたスピーカーから声が流れてくる。

『入門を希望するのであれば所属と名前を明らかにしてもらおう』

「あ、はい。ワーカーチーム スラムバレットです」

『・・・・・・照合する。門を潜る全員分のライセンスの提示を求む』

スピーカーから流れてくる声がそう言うと、壁の一部が開き、中から認証用の端末が飛び出してきてシド達の所まで寄って来る。2人は自分のライセンスを端末に読み込ませると、認証が完了したのか端末は元の場所まで自動で帰って行った。

『・・・・・確認が取れた。ようこそ、ミナギ都市へ』


金属製の扉が重たい音を立ててスライドしていくと、かなり広い通路が現れた。

シドは車を走らせ、その通路を潜り抜けて行く。

「・・・・・・物々しい通路だよな」

「そうだね・・・・」

「万が一モンスターに門を破られても迎撃できるようにしているのでしょう」


通路の壁や天井には無数の穴が開いており、その奥には銃口がこちらに向けられていた。

この様子であれば、床にも機雷が設置されている事だろう。

「撃たれないと分かっててもこれは落ち着かないな~」

「仕方ありません。この地で生きるのであればこれ程の備えをしなくてはならないという事なのでしょうから」


200m程の金属の通路を通り抜けると、漸く都市内部の様子が目に飛び込んできた。

「・・・・・・・これは」

「何と言いますか・・・・・・」

「ボロボロですね」


シド達を迎えたのはダゴラ都市の防壁内の様な、整えられた街並みでは無かった。

今走っている通路は綺麗に整えられているが、周りにある建築物は無造作に並べられ、無理やり縦に増築された様な歪な建物が乱立していたのである。

至る所に光源用のラインが張られ、ネオンカラーの掲示板が設置されているが、そのほとんどは点滅したり破損した部分からショートしたバチバチといった音が漏れ聞こえてくる。

「これってスラムだよな?」

「うん・・・・どっちかっていうとダゴラ都市の方がマシ?・・・・かな?」

「スタンピードの際にモンスター毎攻撃される心配がない分、こちらの方が安全でしょうか?しかし、地震でも来れば倒壊は免れませんね」

もっと発展した都市をイメージしていた2人は、期待を裏切られた様で少し不満顔だ。

「このまま進めばいいのか?」

「たぶん?ワーカーオフィスって何処だろ?」

そもそも車が通れる道幅が確保されている道は、今走っている道以外には無い。後は建物同士の僅かな隙間しかなく、人ひとりが通れるか?というような路地しか存在しない。

これ程建物をギチギチに詰め込まなくても良いのでは無いか?と思えてしまう。

「強固な防壁で囲った弊害ですね。住居スペースが限られてしまい拡張性が限定されているのでしょう。故に不安定でも上にスペースを求めるしかなかったのだと思います」

イデアは不自然に歪な街並みが形成された理由を考察する。

「防壁で囲うってのも良し悪しなんだな」

「人口が増えても、その面積で養えるキャパが増えないって事だね。出て行こうにも周りにはモンスターがうろついてるし、移動と自衛手段が無いとこうでもしないと生きていけないって事かな」

「なるほどな~・・・・・・・・ライト、運転頼む」

「ん?・・・ああ、わかったよ」

シドはライトに車の運転を託すと、運転席の窓枠を掴み逆上がりで車上へと上がっていく。

すると、車の前方の影から誰かが飛び出してきた。

ボロボロの布で体を隠しており、その腕には何かが抱えられている様で、両腕で荷物を包み込む様に持ち、道の反対側へと駆けこもうとしている。


しかし、足を怪我でもしているのか、左足を引きずっており、道の半ば辺りで転倒してしまう。

<ライト、助けるけどいいな?>

<了解。穏便にね?>

<ああ、わかってる>



道路に倒れた人物は、腕の中の物を大事そうに抱えながら必死に起き上がろうとしていた。

しかし、追われていたのであろう。その者が飛び出してきた通路から複数の男たちが現れ銃を向ける。そしてその中の1人が倒れた人物に怒声を浴びせながら手を伸ばし、掴みかかろうとした。


男の手が倒れた者に触れようとした瞬間。


シドの飛び蹴りが男の顔面に叩き込まれたのであった。


穏便って言葉知ってる?

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― 新着の感想 ―
まぁ武器は使ってないからセーフって事で。その蹴りが凶器である事はほら…目を瞑っておこう!
シドに穏便は難しいよね
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